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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2003.11
- 出版社: 実業之日本社
- サイズ:20cm/379p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-408-53449-8
紙の本
誰か (杉村三郎シリーズ)
著者 宮部 みゆき (著)
財閥会長の運転手・梶田が事故死した。遺された娘の相談役に指名され、ひょんなことから彼の過去を探ることになった会長の婿・三郎は、姉妹の相反する思いに動かされるように、梶田の...
誰か (杉村三郎シリーズ)
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商品説明
財閥会長の運転手・梶田が事故死した。遺された娘の相談役に指名され、ひょんなことから彼の過去を探ることになった会長の婿・三郎は、姉妹の相反する思いに動かされるように、梶田の人生をたどり直すが…。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
宮部 みゆき
- 略歴
- 〈宮部みゆき〉1960年東京都生まれ。87年「我らが隣人の犯罪」でオール読物推理小説新人賞受賞。「理由」で第120回直木賞受賞。その他の作品に「初ものがたり」「模倣犯」等。
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著者/著名人のレビュー
事件は小さいけれど、...
ジュンク堂
事件は小さいけれど、悩みは深い。思わぬことから事件にひきずりこまれた主人公の右往左往を、御存知宮部調で暖かく物語ります。
紙の本
暗いと思うから暗いんだ。
2010/03/23 23:35
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:野棘かな - この投稿者のレビュー一覧を見る
「あれは偶然に起こった轢き逃げなんかじゃなくて
父は狙われてた。
そして殺されたんじゃないかと思うんです」
財閥会長の個人運転手を長年務めてきた梶田信夫が自転車に轢き逃げされて命を落とした。広報室で働く杉村三郎は義父である会長から遺された娘二人の相談相手に指名される。妹の梨子が父親の思い出を本にして、犯人を見つけるきっかけにしたいというのだ。しかし、姉の聡美は出版に反対している。聡美は三郎に、幼い頃の誘拐事件と、父の死に対する疑念を打ち明けるが、妹には内緒にしてほしいと訴えた。姉妹の相反する思いに突き動かされるように梶田の人生をたどり直す三郎だったが・・・。(帯の文章)
この本の主人公杉村三郎は、いまどき珍しいバランスのとれた真面目な普通の男性だ。
生まれ、育ちは別として、財閥の娘婿にふさわしい品格があると思う。
妻である菜穂子も、愛人の娘ではあるけれど、素直で素敵な普通の女性だ。
表裏なくまっすぐな二人が基準となると、他の登場人物の身勝手さや複雑な裏の顔に驚く。
「事件は小さいけれど、悩みは深い」というアピール文の通りだ。
長年真面目に務めてきた梶田の過去は酷いものだった。
運が悪いのか、でもそれだって彼自身が引き寄せたものだ。
一見、感じのよい美人姉妹だって、裏を返せば、あきれた男を取り合うどろどろしそうな三角関係状態。
たとえ梶田の暗い時代の申し子姉の聡美と人生を変えようとした明るい時代の申し子妹の梨子だとしても普通の父親なら、姉妹に愛情の差をつけたりはしないだろう。
思いこみが不幸をよぶ典型的なパターンになっている。
でも本当に人間ってどうしようもないおバカさんですね。
それを言っちゃあおしまいでしょ、と言いたくなるような失礼を平気でする。
逆切れするのは簡単だけど、その前に自分の内面を見なさいと言いたくなる。
最後、三郎がつかんだ真実は、最終的にはきちんとこの姉妹に伝えた方が本当はいいのだろう。
けれど話してわかる人間と誠実に話をしてもわからない人間がいることも事実だ。
最後の電話のやり取りを読むと、聡美も梨子も後者だ。
自分の曖昧な記憶に執着し続け、マイナス思考でマイナスをひきつける。
姉の大事なものをほしがり、当然と思う妹の歪んだ思い。
人の記憶なんて勝手なものだから、きちんと再確認は必要だという一般論にも耳をかさない。
暗いから暗いのよ!と叫ぶだけに違いない。
そんな状況でも、静かに今を見つめ、その感性でのりきっていく三郎に好感が持てる。
私の中では、まだ宮部みゆきさんの作品イメージが固まっていないので、この現代ミステリー「誰か」の「三郎」でシリーズ化するのもいいのではないかと思った。
品のいいまともな大人の三郎が、現実的な人間模様を静かに切り分け(仕訳)する
という三郎仕訳シリーズなんてね。
ドロドロ、どん底、最低、どうしようもない人間模様を三郎はどう感じて
どう対応するのか、宮部みゆきさんのお手並み拝見です。
紙の本
お金持ちであることは、少しも悪いものではない。むしろ、わたしはそれを羨むのではなく、嫉妬し貶めようとする周囲の方が、遙かに嫌いだ
2004/01/31 23:02
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
今、カバーイラストを描かせたら、この人。杉田比呂美。柔らかな雰囲気の、それでいて手ごたえのある装丁は鈴木正道。
冒頭を飾るのは、西条八十の詩集『砂金』からの引用で
「 誰か
暗い、暗い、と云ひながら
誰か窓下を通る。
室内には瓦斯が灯り、
戸外はまだ明るい筈だのに
暗い、暗い、と云ひながら
誰か窓下を通る。」
という一節。そうか、『誰か』はここにあったか、である。
小説の主人公は、35歳の杉村三郎、会社の広報室勤務に勤務する社員である。妻の菜穂子は29歳。化粧をすると31歳に見えるけれど、素顔だと20歳に見えることが多い。ま、愛する夫の言葉だから、割り引いて考えてもいい。でも、そのまま受け取っておこう。心臓肥大症のせいで、体は弱い。視力が両目とも裸眼で1.5、わざわざこう書いてあるから伏線かな、と思う必要はない。ただし、物流業を核とした今田コンツェルンの会長の娘という点は重要だ。子供は一人、4歳になる桃子である。財界の重鎮でもある義父は今田嘉親79歳、健康ではあるけれど老いは隠せない。
ほかに、よく出てくるのが、嘉親の第一秘書で“氷の女王”と、三郎の上司で入社28年目の広報室長の園田瑛子、アルバイト社員で現役女子大生の椎名嬢こと、シーナちゃん、身長がなんと百七十五センチという容姿不明の性格がいい娘である。
で、元出版社勤務の三郎が嘉親から命じられたのが、義父の私的な運転手で、8/15日、自転車に跳ねられて脳挫傷で死亡した梶田信夫の、二人の遺児たちに協力することだった。22歳のフリーターである梶田梨子は、10歳年の離れた、結婚を間近に控えた姉の聡美の反対を押し切って、本を書いて、轢き逃げ犯人の逮捕に役立てたいという。
単純に犯人探しか、というと、いかにも宮部らしく、菜穂子の出生や、彼女が嘉親50歳の時の子供であり、正妻の子ではないことや、銀座の画廊の経営者であった母は15歳の時に亡くなり、そのとき、父の下に引き取られたことが丁寧に描かれる。突然、美しい妹が現れ、普通であれば他の話に発展するだろう年の離れた腹違いの兄二人とのことも、読者を安心させるように設定されている。ともかく、無用な気遣いをせずに読んで、少しも心配は要らない。
で、やっぱり可愛いのは4歳の桃子だろう。ちょっと、4歳というのは違うかなと思いはするけれど、彼女の問いかけは、いかにも子供らしくて楽しい。それから、身長以外は殆ど容姿に触れられることのないシーナちゃんが、いい。私などは、彼女と桃子が話したら、どんなに楽しいかと思ってしまう。
で、だ。やはり、泣いてしまった。ラストの一頁、人によってはさらりと流すかもしれない、でも私の涙腺を刺激する。いい話である。それは、三郎、菜穂子、桃子の杉村家族が、裕福ではあるものの、それを誇示することもなく、いつもひっそりと、暮らしている、そんな設定にあるのかもしれない。三郎だって、義父の庇護の下である意味、何不自由なく暮らしながら、それにただ反発するのでも、或は、当然として甘受するのでもなく、ただ、優しい妻出会った事と愛らしい子供を授かったことを、なにより大切に思う、その素直さがいい。
個人的には、宮部みゆきの時代小説以外で、最近、ここまで納得してしまったものはない。途中で伏線の存在がわかってしまうことは、少しも欠点ではない。むしろ、残酷な犯罪、現代人の不気味な心理などを描くことが多くなってきた宮部だけれど、初期の頃の、小さな犯罪、あるいは日常生活の陰を描く穏やかな作品のほうが、読むものの心を安心させてくれる、そう思うのは、私だけではないらしい。今この本を読んでいる中三長女は「あれ、面白い!」と小さな目を輝かせていた。どうかね、明智くん?
紙の本
目の奥にコツン。もてなしの心、安定感。人を出す老舗の味。
2003/11/15 19:58
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:3307 - この投稿者のレビュー一覧を見る
■ 言われるまでもなく、心では知っていた。それでも、誰かの口から
■ そう言ってほしかったのだ。
■ わたしたちはみんなそうじゃないか? 自分で知っているだけでは
■ 足りない。だから、人は一人では生きていけない。どうしようも
■ ないほどに、自分以外の誰かが必要なのだ。
■(——P332)
杉村三郎。ただの35歳のサラリーマン。元、児童書の編集者。
本業は、読みとること。
本書は、100%「現代ミステリ」。だから、魔法もアイテムもなし。
でも、『児童書』を巧みに使って、軽々と飛躍するリズムは魔法。
そんな、読み聞かせで、すくすくと育つ、一人娘は4歳。
その上、才色兼備な妻は少し病弱。日々惚れ直す、あてられる読者。
年収をはたいてもソファ一つ買えない、豪奢な調度品に囲まれる、
マスオさんとしての「わたし」。奥さんは、財閥の一人娘。逆玉の輿。
そこには、初期の「何か欠けた家庭」の宮部さんはいない。
しかし、宮部さんの独壇場の「お達者」は、とびきりの品揃え。
日本自体が一つの大企業だった時期から30年、お達者は語る。
病院通いの人、癌で亡くなった人、自転車事故で亡くなった人、
楽隠居を楽しむ人、一線で半ば公人として戦う人。その風格に心酔。
本書の魅力は、この「まっとう」なキャラクター。お達者はもちろん、
誠実な刑事や一癖ある大お局様まで、どんな脇役も、それこそ
名前さえない人達でさえ、じっと耳を傾けたい厚みがある。
それぞれの役柄を、確かに重ねてきた手応えがある。
派手さはないし、驚天動地の事件もない。
けれど、行き着くところまで行き着いて、ふたたび中庸に立った
宮部さんの、底知れない安定感は格別。安心して、ただただ「人」を
読みとっていく物語は、ここでしか口にできない老舗の味。
そんなキャラクターの中に混じる、卑しい人が数名。宮部さんは、
物語の外で「卑しさ」を断罪する。読者の誰一人同情できない形で。
くどいほど甘々なホームドラマは、物語の地下水脈「嫉妬」の輝く影。
幸せを求めて、幸せに怯えた人達。ただの、
普通の暮らしが、こんなにも、悲しくてあったかい一冊。
紙の本
不条理な人生
2004/05/31 08:53
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:紫月 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ミステリー小説として扱うにはあまりにも小さな事件。
物語が進むにつれて深まる謎も小さなものばかりで、題材だけ見れば少々物足りないような感もありますし、実際、『理由』や『火車』と比べると本書から受けた感銘も小さかった、と言わざるを得ません。
でも、それだけの(といっては失礼ですが)話なのに巧みな、そしてしっかりとした文体で最後まで飽きることなく読ませる筆力はやはりさすが、というべきでしょう。
細部までしっかりとした骨組みに支えられた物語はやはり宮部ワールドです。
美空ひばりさんの歌や西条八十の詩集『砂金』からの引用、果ては金妻のテーマソング「恋に落ちて」等が効果的に使われている辺りはとても上手いな、と思ってしまう。
読後、『砂金』を読み返して改めて意味合いを考えてしまうのもまた楽しい作業です。
しかしいくつもの謎が最後に次々と解き明かされ、『ドリームバスター』のように綺麗にまとめられるのかと思っていると、苦味が残った最後はいつもの著者の作品には似つかわしくないものでした。
これは著者の言い回しを真似すれば『人生なんて所詮は不条理なことばかり。苦い思いをすることなんて山ほどあるんだよ』ということなのかもしれません。
紙の本
愛の迷路の出口は?
2004/06/20 23:19
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:luke - この投稿者のレビュー一覧を見る
宮部みゆきの書き下ろし「誰か」です。探偵役は大財閥の娘を娶った一介のサラーリーマン。被害者はその大財閥の会長の運転手。被害者は地縁のない場所で自転車との衝突で運悪く死亡してしまった。名乗り出てこない犯人への怒りと捜査の遅さに業を煮やした被害者の娘二人が、亡き父の本を出版する事で犯人を刺激しようと会長に相談、広報部に籍を置く娘婿にその手伝いを命じる。その過程で被害者の過去を探る事になるのだが…。娘の一人、長女は幼児の頃に誘拐された過去を持つと告白をする。闇に閉ざされた過去と自転車事故は結びつくのか? 何故、誘拐を?
警察でも認定された自転車事故、その事故に隠された秘密があるのか? まさに、この一点で物語は進行していきます。娘のおぼろげな記憶の誘拐事件もひと味添えているのですが、これを含めて実に引っ張るのですね。ミステリーファンなら言わずも伏線らしきものには目が光り、作者がどこへ落とそうとしているのか無意識にも探してしまうもの。巧みに張り巡らされた本当の伏線に伏線らしきもの、そして伏線じゃないものによって最終章まで目が離せません。迷路を抜け出た行き着く先に待っているものに満足できるかはあなた次第、そんな本です。探偵役の設定が真新しいですね。財閥の娘と結婚していながら、その財を目当てに結婚した訳じゃない探偵役のサラリーマンは自分の身分に後ろめたさまで持つ、本当にごく普通の男性です。ある意味、愛って?の1つの回答でもあるのかもしれません。
紙の本
「現代ミステリー」って「2時間ドラマ」のことでしょ?
2003/11/24 18:34
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:スズリュー - この投稿者のレビュー一覧を見る
「野村芳太郎監督の撮った松本清張原作の映画のワンシーンに紛れ込んでしまったような気がした」。姉妹からの出版の依頼を聞き、事件を調査中の城東警察署に足を踏み入れたとき、ふと杉原は考える。
本書は、テレビや映画のサスペンスドラマを意識したような表現が随所に散りばめられているが、裏を返せば宮部さんは「2時間ドラマ」を作ったと解釈してもいいだろう。それもシリーズになりそうなものを…。
火曜サスペンス、土曜ワイドの「2時間ドラマ」で名作シリーズになっているものの推理自体は、はっきり言ってつまらない。または10時半ぐらいで何となく犯人が分かってしまう。もしくはキャストで犯人を当てられる。 それは本書の推理にも言えることで、姉妹の登場シーンで、2人の性格が対比されたところから「こうなんだろうなぁー…」と言う雰囲気を漂わせていた。受け手に結末を「予感」させない推理小説はたくさん存在するが、映像化するのは難しい。更に言えばシリーズ化はもっと難しい。受け手にとって見せてほしい「2時間ドラマ」とは、2時間丸々面白いドラマであり、結末だけが面白いドラマではない。そうでなければ2時間の間にチャンネルがえが何回起こるか分からない。
つまり、「2時間ドラマ」は推理自体を見るものでない。事件と、日常の往復の中で、右往左往している主人公の行動を見るもの、と言うことだ。本書の場合、主人公の日常の幸福さと、事件にまとわりついてくるものの醜さが対比されて事件の結末のひどさは強調されているけれども、日常に還ったときの主人公の将来の夢や3人家族の楽しいひと時(絶対エンディングの歌に使われるんだろうなぁ…)も強調し、最終的には不幸を覆い隠しているのである。ここにも視聴者に対して安心感を与える「2時間ドラマ」ならではの手法が存在する。
そんなわけで早くテレビ版が見てみたい、とも思う作品であるが、残念だと思うことは少しばかり「違和感」を感じたところである。あの2人の携帯電話の着信音が、「恋に落ちて」なのは例のドラマを見ていない僕にはピンと来ないし、梨子と同い年のはずの僕はかなりビビった。90年代(バブル期)の話だと納得することもできたが、着信音が選択できるという設定は97年6月にアステル東京が「着信メロディ呼び出しサービス」を創めてからのことだから、例のドラマをリアルタイムで見ていた世代とは、梨子はギリギリかぶらないはず。相手が好んであの曲選ぶわけないし…。再放送で見れるけど禁断の恋だったら他にもあるしなぁ代表的なの。
少し「違和感」が残るがそれ以外は面白い作品であるわけだし、見ることを絶対にオススメする。
紙の本
帯に“事件は小さいけれど、悩みは深い。”とある。読者にとっては“宮部さんだから作品評価をするにあたって悩みはきっと深い”のであろう…
2004/02/01 14:19
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:トラキチ - この投稿者のレビュー一覧を見る
久々の現代物で期待して読んだのですが、残念ながら決して読後感のいい作品ではなかった。
やはり、かなりの社会派作品でなければ時代小説の方が、今の彼女には合っているのだろうか?
どうしても“ありきたり”というレベルの作品で落ち着きそうですね本作は…
最近読んだ羽田圭介さんの『黒冷水』は男性兄弟の確執を描いていたが、本作は逆バージョンである。
ただ大人の女性同志なので(年齢が高い)、あんまり共感出来なかったのも確かかな。
女性読者が読まれたら宮部さんの『夢にも思わない』と同じようなタイプの教訓を与えられるのかもしれません。
主人公の“逆玉”の三郎が初めは少し情けないような気もしたが、菜穂子と知り合ったいきさつなんかを知るにつれて、意志の強さが感じられた点は評価したく思う。
あと、愛娘の桃子ちゃんが癒してくれる存在だったのは助かった気がした。
ラストあたりの展開はちょっと意外で面白いと言えば面白いのだが、心暖まるものが少なかったような気がする。
でも人間の心情は描き切ってる点も見逃せないかな。
作品全体としては適度なユーモアをまじえた、読みやすい文章は過去のどの宮部作品と比べても負けないであろう。
特に美空ひばりや“金妻”の歌などはとっても印象深い。
事件は小さいが、加害者側の気持ちもまじえて描いてる点はさすがである。
ここからが本音です(笑)
ちょっと姉の聡美が気の毒すぎてスッキリとした気分で本を閉じれなかったのが残念だ。
彼女は裏の主人公とも言えそうで、きっと三郎より彼女の方の印象度の方が強いであろう点は、どうしてもこの作品をいつもの宮部さんの“ハートウォーミング溢れる作風”からかけ離している証拠ともなっている。
でもそれがきっと宮部さんの読者にわかって欲しい“良識”なんでしょう。
そういう点では“女性読者向けの作品”とも言えそうです。
“男性選びは慎重に!”ということでしょうか?(笑)
トラキチのブックレビュー
紙の本
ミステリーであるからあまり詳述できないが著者の過去の作品と比較してみると
2012/05/19 00:33
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
宮部みゆきは多方面のジャンルで優れた作品がありますが私は現代の経済社会に直結した風俗をとらえ、社会との関わりの中で犯罪に巻き込まれていく一般庶民を丁寧に描く作品が彼女の真骨頂だと思います。
『火車』がそうでした。日本経済の爛熟期終末において「家計」がこうむった影響の重要な一面を経済の構造から説明してその悲劇と女性の自立がなす犯罪を活写した傑作との印象をもったものです。。
『理由』もそうでした。高層マンションを舞台にした、一家4人殺人事件。戦後の貧しさを引きずっている人・新しい感覚の若者の登場。複雑にしかしリアル感を持った絡み合いに中から殺されたもの殺したものの理由が浮かび上がってきます
『模倣犯』もマスコミに操られる大衆心理の怖さを描いていました。
私たちは常に社会との接点を深く広く持っているものです。その重みの中で生きていくことの難しさに私達は直面します。その時何が正義であり何が不正義なのかその分別さえ混迷しそれでも生きていくものです。それが宮部みゆきの描く現代人でした。
しかし、今回の作品はこの人間の背負う十字架というべき「社会性」がまるで欠落した仕上がりになっています。
主人公の男性はコンツェルンのオーナーの娘と結婚し、家族共々淡い水彩画ような透明な暮らしに満足しています。オーナーの仕事ぶり、日常生活は述べられませんがともかくお金持ちの好々爺です。オーナーの雇った実直な運転手が自転車にぶつけられ死亡する事件が発生します。運転手には二人の年頃の娘がいて、妹から父の思い出を本にしたいと依頼された主人公は事件の真相究明に乗り出すことになります。もしかしたら殺人かもしれない。父の過去になにか暗いものがありそうだと姉はこの出版には乗り気がありません………。
著者はあえて「社会性」を捨象したのでしょうが、そのため、実感できるストーリー展開もなければ、魅力的な「人間性」も登場しない結果となりました。
後半になってこの姉妹がクローズアップされますが、我が家にも同じ年頃の二人のじゃじゃ馬娘がいるものですから、比べてしまいます。こういう自己喪失の女性が今でも存在するのだろうか、居たとしても読者として共感するところはないし………。『火車』に登場した主人公と比較すれば、同じ作者の描いた女性像とはとても思えません。古くさいタイプに退行しているのです。篠田節子の描くしたたかな女性たち(『女たちのジハード』、『コンタクトゾーン』)、桐野夏生『グロテスク』の常軌を逸した性格の姉妹にむしろ生き生きした血の通いを感じます。
ミステリーには社会性や人間性を描くことに重点をおかず、ただ鮮やかに読者の予想を裏切ること、その一本勝負の名作がたくさんあります。この分野でも著者には傑作がありました。『R・P・G』では本格のどんでん返しを楽しむことができたのです。
その意味ではどっちつかずであって、待望した「二年ぶりの現代ミステリー」としては期待を裏切られた思いが残りました。
書評集「よっちゃんの書斎」はこちらです
紙の本
後味の悪さ
2004/01/15 11:44
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かまいたち - この投稿者のレビュー一覧を見る
宮部みゆきさんの作品はほとんど読んでいますが、これほど読後感の悪さを感じた作品は初めてです。確かに、読み始めたら一気に読めてしまうし、つまらないわけではない。
何故でしょう。私は、これまでの宮部作品には悲惨な人生を歩んでいる主人公がいて、苦労していて切なくて、夢さえも見ることを忘れているような。でも、それでも、人生捨てたものじゃない! みんな、精一杯生きていいんだよ。って言ってくれる、感じてくれる、そんな人達が絶対に居て、絶望感を必ず払拭してくれていたから、陰惨な感じがしないさわやかなミステリーになっていた。でも、誰かには、そんな魅力的な人物が描かれていない。今回は、主人公こそがその役回りを果たすべきだったのではないでしょうか? ミステリーとしての展開の良し悪しは別として、何となく、救いの無い話だな。という思いが抜けきらない、それが原因だと思うのです。(救いようの無いくらい嫌な姉妹を誰かが改心させなきゃ!)でも、でも、この作品からも、日常の些細な出来事にこそドラマがある。今までもその思いを伝えてきたし、必ず名作とともに、これからも伝えてくれるであろう宮部みゆきさんの思いはしっかりと感じられます。常に面白い作品を書き続けてきた作者であるからこそ、こんなにしっかりとした作品でさえ、不満を感じてしまう。そんな気がします。
紙の本
あらすじ
2003/10/17 13:31
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:実業之日本社 - この投稿者のレビュー一覧を見る
杉村三郎35歳、妻子持ちのサラリーマン。妻の父親は大財閥「今多コンツェルン」会長の今多嘉親で、三郎は会長室直属のグループ広報室で記者兼編集者として働いている。すでに他界した妻の実母は嘉親の正妻ではなく、三郎も後継者として婿入りしたわけではないが、「逆玉の輿」であることに変わりはなかった。
ある日三郎は義父から妙な依頼を受ける。嘉親の個人運転手を長年務めてきた梶田信夫が自転車に轢き逃げされて命を落とし、遺された二人の娘が父親の思い出を本にしたがっているので、編集者として相談に乗ってやってほしいというのだ。姉妹に会うと、妹の梨子は本を出すことによって、犯人を見つけるきっかけにしたいと意気込んでいるが、結婚を間近に控えて父を喪った姉の聡美は、そう上手くいくはずがない、と出版に反対しており、結婚の延期も考えていることがわかる。
ところが、聡美が反対する真の理由は別にあった。彼女は、妹には内緒という条件で、三郎に真の反対理由を打ち明けた──運転手になる前の父は職を転々とし、良くない仲間とも付き合いがあったらしい。玩具会社に就職してようやく生活が安定した、聡美が4歳の時、彼女は「父に恨みがある」という人物に“誘拐”され、怖い思いを味わった。そのあと一家は玩具会社を辞め、縁あって今多の運転手として雇われるまで、再び不安定な暮らしを余儀なくされた。そんな父の人生を梨子に知られたくない──と。さらに聡美は、父親の過去の悪い縁がいまも切れておらず、「あれは偶然に起こった轢き逃げなんかじゃなくて、父は狙われてた。そして殺されたんじゃないかと思うんです」と訴えるのだった。三郎は、姉妹のそんな相反する思いに突き動かされるように、梶田の人生をたどり直し始めた……。