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イトウの恋 イトウの恋
つきこ/昔、昔、ヨコハマのお話
タイトルが表す通り、イトウという人物の恋の顛末を綴った物語です。ですが、恋バナに終始するお話でもありません。物語の始まりは現代の横浜から。冴えない私立中学教師久保耕平が、屋根裏の旅行鞄の中で眠っていた古い手記を発見し、廃部寸前の郷土部の活動を盛り上げようと画策したことから始まります。続いて登場するのが元モデルにして人気劇画「ビースト海峡」の原作者田中シゲル、イトウの孫の娘です。ところで明治維新後間もない日本で、通訳として活躍した青年イトウの恋の相手は英国人旅行家I・B。「日本奥地紀行」を著したイザベラ・バードに想を得た人物です。耕平とシゲル、イトウとI・Bという時代を違えた二組の男女を登場させ…  全文読む 評価する

ハローサマー、グッドバイ ハローサマー、グッドバイ
つきこ/ビッグサプライズをありがとう
青い空を背景に表紙を飾る、とても可愛らしい女の子がきっと本書のヒロイン・ブラウンアイズ。海辺の街パラークシに住む純真で可憐な彼女と恋に落ちるのは、首都から避暑のためにやって来た政府高官の息子ドローヴ。身分違いの恋です。おまけに国は戦時下という非常時にあり、年若い恋人達をどんな結末が待ち受けるのか。瑞々しく微笑ましく、ひと夏の恋よ永遠に続けとばかりに物語が進む一方で、”これは恋愛小説であり、戦争小説であり、SF小説であり、さらにもっとほかの多くのものでもある”との著者の言葉が表すように、恋愛にまつわり、戦争にまつわり、そこに関わる多くの人を通じて、一歩進んで二歩下がるがごとき少年の成長を描きます…  全文読む 評価する

贖罪 贖罪
つきこ/物語がそこにあること
女の子がひとり。裕福に育ち、早熟で聡明。彼女はある脚本を書き上げた。誉めてほしくて。だがその脚本をもとにした、彼女の素晴らしさを知らしめるはずの家庭劇は結局上演されずに終わる。代わりに起こった事件のせいで、ようやく互いの愛に自覚め、引き裂かれた恋人が一組。それが全ての始まり。長い序章が終わり、時は流れる。誰が主人公なのか?見失いそうになりながらも物語は進む。不変の愛を描きたいのか、罪を暴きたいのか。運命に翻弄される人々を描きたいのか。引き裂かれた恋人たちを描きつつ、作者は別の企みを忍ばせる。時代は第二次大戦を経て現代へ。賞賛を求めていたかつての少女は多くを学ぶ。そうして迎える終章。ああ作者は小…  全文読む 評価する

誰よりも美しい妻 誰よりも美しい妻
つきこ/誰よりも美しい妻はどんな妻か
誰よりも美しい妻がいるのに浮気ばかりの夫。思春期の息子の初恋も同時進行させ、愛と恋はやっぱり別物もしくは別腹と思わせる。夫は成功した音楽家、妻は容姿端麗にしてお料理上手というスタイリッシュでセレブな夫婦の日常を描いたこの物語。醒め切っているわけでもなく、激しい愛憎に身を置くわけでもなく。浮気相手・前妻・息子がほのかな恋心を寄せる少女の母親など多彩な人物に彩られ、恬淡としながらもどこか間抜けで微苦笑を誘います。極めて軽やかな語り口ながら、結構怖いこと書いてます。浮気する夫、浮気の兆候に気付きながらも平静で、夫の要望通りに振る舞う妻。掌の上で転がされているのは果たしてどちらか。美しい妻が心から愛す…  全文読む 評価する

怪魚ウモッカ格闘記 怪魚ウモッカ格闘記
つきこ/インドへの道は遠く遥かなり
いい年をした大人がはるばるインドまで、UMA(未確認不思議動物)を求めて旅に出る。なんて下らない。けれどその下らなさが堪らなく楽しい。辺境作家高野秀行がUMAハンターとなる今回のミッションで、探索するのはUMA愛好家が勝手にそう名付けた怪魚ウモッカ。本当にこんな魚が実在するの???その奇怪な詳細は本書にゆずるとして、全力をあげて下らないUMA探索行に没頭する、可笑しくも真面目な日々にたっぷり笑わせてもらいましょう。実用性や有用性が何よりも尊ばれ、下らないことがますますやり難くくなる世の中。下らないことに全力をあげる姿はいっそ清々しく、神々しくもあります。なので、川口浩探検隊も真っ青な顛末に文句…  全文読む 評価する

飛驒の怪談 飛驒の怪談
つきこ/京極夏彦の香りもほのかに漂う、時系列的にはこちらの方が遥か昔に誕生した怪奇小説です。
岡本綺堂。とっくの昔にお亡くなりになった方です。本書はそんな綺堂の幻の長編小説と、単行本未収録の珍しい戯曲および怪談実話をまとめたアンソロジーです。表題作も初出は昔むかし、なんと大正二年です。にもかかわらず、文章がとても読みやすい。時の試練に耐える文章とはこういうものかと目が覚めるようでした。言葉遣いは当然古いのですが、その古さがかえって新鮮。「怪物」に「えてもの」なんてルビを振られると、かえってワクワクします。日本語はこんなにも豊かだったのかと思う、平凡な人生を歩んでいたら絶対に出逢うことのない非常用漢字のオンパレード(注:ルビ有り)に目が眩みます。九十年前の人に向けて書かれた怪談話。さて現…  全文読む 評価する

希望−行動する人々 希望−行動する人々
つきこ/まともな年長者でありたい。
「あきらめないで、最後まで希望は捨てちゃだめ」地にめり込みそうな絶望に打ちひしがれた時、こんな言葉ほど虚しく響くものはない。けれど違う、希望は捨てたり拾ったりするものじゃない。その人の身の内から湧き出てくるものだ。そう実感させてくれるのが本書です。口述歴史家とも呼ばれるスタッズ・ターケルが、9・11後を憂い、90を超える老体をおしてインタビューし本にまとめた、恐らく彼の最後の書。多くの人の肉声を通じて浮かび上がってくる事にこそ、耳を傾ける価値があるとする彼のスタイルがとても好きです。本書では様々な形で逆境を乗り越えた人達が登場します。ホームレスに医療を出前する医師、自分が通う大学職員の地位向上…  全文読む 評価する

エヴリブレス エヴリブレス
つきこ/テクノロジーの先にもロマンスがある。そう教えてくれる著者は、相当のロマンチストと見た。
理系うんちく満載かと思ったら肩すかし。セカンドライフの提灯もち小説かと思いきや、さにあらず。当初寂寥としていた仮想空間「BREATH」で立ち竦んでいた主人公の分身・アバターは、後に喋り、歌いだす。その姿はむしろニコニコ動画の初音ミクか。伝わらないと知りながらも、懸命に相対性理論のすごさを伝えようとした教師の言葉に影響された主人公京子は物理を学び、金融工学の専門家としてキャリアを踏み出した。そんな京子の一生と共に、変化し続ける仮想空間を描きます。生命とは何か、未来を定義するとはどういうことか。淡々とした筆致で描かれるのは、時間や生命の定義にまで踏み込んだ壮大なロマンス。理系的要素は著者の大変魅力…  全文読む 評価する

輝くもの天より墜ち 輝くもの天より墜ち
つきこ/美しいこと。おぞましいこと。
美しいタイトルを裏切って内容は衝撃的です。宇宙の辺縁にある惑星ダミエム。翼を持つ美しい妖精のようなダミエム人を保護する名目で、連邦から派遣された保護官が常駐するその星に一団の観光客がやってくる。観光客の目的は特異な自然現象”ザ・スター”。超新星爆発によるオーロラを思わせる現象とともに、彼らは驚くべき事件に遭遇する。何か美しいもの。きれいなもの。そんなものに対する無知や鈍感さが招く、おぞましい災厄を描いたこの物語、「たったひとつの冴えたやり方」でキュートな女の子に過酷な運命を選び取らせたように甘さを許しません。ユニークで魅力的なキャラで煙幕を張ろうと、本書は主人公が大人であるだけにもっと容赦があ…  全文読む 評価する

悪人 悪人
つきこ/善人なほもて往生をとぐ、いはんや悪人をや
寂しいとはそういうことなのだろうが、誰かに何かをして欲しい登場人物がいっぱいで、どうしてそんなに寂しいのだろうと本当に寂しく思う。何かをして欲しい人がいっぱいのなか、明確にその期待に応えた人物がたどる運命がとても哀しい。本書は出会い系サイトがきっかけで起こる殺人を描いた群像劇。多数の人の証言から浮かび上がる、家族もあり、仕事もあり、決して周囲と断絶しているとも言えないにもかかわらず、堕ちてゆく人の姿がやるせない。読了後、誰もが善と悪とに思いを馳せるようなこの物語、「悪人」という題名がとても意味深だ。この小説には悪人が登場しないという評を読んだが、そうだろうか。自分を省みることも高めることもなく…  全文読む 評価する

ゲイ・マネーが英国経済を支える!? ゲイ・マネーが英国経済を支える!?
つきこ/どうせ転ぶなら、もっと大きなお金に転ぼう
面白おかしく同性愛を取り上げるものが増えた。それは社会の多様性や寛容さの表れというよりは、多くの人間が”金に転んだ”証左だろう。でもいいのかな?そんな風におもちゃにしてると、もっと大きなマネー取り逃がしちゃうよ。お金好きなんじゃないの?敢えて下品に言えば本書の中身はこんな感じ。”寛容”な地で”繁栄”を謳歌し、英国消費者ヒエラルキーのトップに君臨する、知られざるピンクポンドパワーをとくとご紹介。ピンクポンドとは、ゲイ達が使うお金・そんな彼らのお金が流れ込むマーケットのこと。その巨大さにびっくりです。本書の設定レートは今となっては高すぎですが、多く見積もればなんと年間700億ポンド!18兆円超とは…  全文読む 評価する

ABCDJ ABCDJ
つきこ/きれいごとを書き続ける意味
ボブ・グリーン。その名に魅惑の響きを感じるあなたは恐らくもう若くはない。「アメリカン・ビート」に「チーズバーガーズ」。80年代半ば日本の書店をも席巻したアメリカの人気コラムニストがとびきりの友情を引っさげて再び登場した。アレン、ボブ、チャック、ダン、ジャック。彼のコラムでもお馴染みの親友五人組ABCDJがジャックの死病をきっかけに再び集い、彼が最後の日を迎えるまでを、中西部の風景とともに感動的に描きます。―泣きながら読んだ。―今すぐ一番の親友に電話しなきゃ。帯にはお涙頂戴の美辞麗句が並びます。死にゆく友人を常に励まし、慰め、共にある。のみならず、彼がどんなに素晴らしい人物であったか、友情だった…  全文読む 評価する

銀河ヒッチハイク・ガイド 銀河ヒッチハイク・ガイド
つきこ/笑えない現実は、もう笑うしかない
主人公の前にはお先真っ暗の現実が待っていた。何といってもある日突然、地球が消滅してしまうのですから。そして主人公は真空の宇宙へと投げ出される。地球人と信じていた宇宙人と、「銀河ヒッチハイク・ガイド」という本とともに。さあそこから宇宙ヒッチハイクの旅の始まりです。笑えます。目の覚めるような馬鹿馬鹿しさに、思いっきり脱力します。だが深い。解説によるとSF界では古典的傑作とされる、シュールでブラックなドタバタSFコメディ。原書はもう四半世紀以上も前にイギリスで出版され、今でもカルト的な人気を誇るシリーズ第一作です。SF特有の難解な世界観とは無縁なので、SF嫌いの人でもとっつきやすいはずです。あらすじ…  全文読む 評価する

最高の子 最高の子
つきこ/子どもは周りから受け入れられて育つと、世界中が愛であふれていることを知る
大人だって誰かから褒められたら嬉しい。大してカッコいいわけでも何ができるわけでもない、14歳のちっぽけな町に住む少年にとって賞賛の言葉は宝物となった。これは”子どもは周りから受け入れられて育つと世界中が愛であふれていることを知る”物語。64頭の牛の世話とクロスカントリーの練習に忙しい平凡な少年・クーパー。祖父と二人、ニューハンプシャーの酪農夫らしくつましく心穏やかに暮らしていた。だが祖父の急死後、彼の前に大統領予備選出馬を表明している上院議員が現れ、彼は政争に巻き込まれ……というYA本です。舞台であるニューハンプシャー州のモットーはLive free or die 自由に生きよ、死からずんば死…  全文読む 評価する

ご臨終メディア ご臨終メディア
つきこ/我々が恐れるべき唯一のものは、恐れることそのものだ
空気の読めなさ具合を競わせたら当代無比のふたりによるメディア論。実はこの日本は悪の秘密結社、例えば13人委員会に牛耳られているのだ!……なんてオチがあった方がどれだけ救いがあるか。恐怖の大王を生み出しているのは何なのか。日本のメディアと社会に巣食う、救い難さが満載です。森巣のような一介の博打打がなぜそんなことを憂慮せねばならないのか。そして森のようなテレビ出身の中途半端なライター兼ディレクターが、なぜこんな批評家もどきの発言をせねばならないのか。本書の意義と面白さはまさにそこにつきます。ギョーカイから距離を置いた人(弾かれたとも言う)ゆえの直言が爽快であり、痛快であり、悲しくもなります。プロロ…  全文読む 評価する

心臓と左手 心臓と左手
つきこ/芸だってまだまだ捨てたもんじゃない
想像力の欠如がもたらすオソロシサ、というものをちくちくちくちく皮肉たっぷり、警鐘たっぷりで読ませてくれます。本書を著者の言葉を借りて紹介すれば、警察官がとある事件で知り合った民間人に終わった事件の話をし、話を聞いた民間人が事件の真相を解き明かすという「安楽椅子探偵」ものです。全七編からなる連作短編集、「月の扉」の座間味くんが再登場。その変遷に月日の流れを思います。連続性はないので「月の扉」を読んでなくても大丈夫です。情動に流されることなく、”常識”に足元をすくわれることなく。論理的な思考を積み上げた末に導き出される推理に、目からウロコが落ちるか背筋が寒くなるか。独特な題材の選び方と、それと密接…  全文読む 評価する

ホルモー六景 ホルモー六景
つきこ/鴨川ホルモー外伝、次回は是非長編を
初期設定に成功すると、柳の下には二匹も三匹もドジョウが居るという好例。ほめてます。「鴨川ホルモー」続編、というよりは外伝とでもいった趣でしょうか。「六景」のタイトルが示す通り今度は全六編から成る短編集です。短編ということで、前作のホルモーって何さと一心に頁を繰るような爆発力には欠けます。けれど、ここまで大風呂敷広げちゃったよとホルモーワールドをこれでもかと掘り下げてくれます。凡ちゃんに”イカキョー”高村君と京大青竜会の面々はもとより、京産大玄武組に龍谷大朱雀団、立命館大白虎隊におまけに同志社大黄竜陣と京都ホルモー界のオールスター(?)を揃えての恋模様。恋愛よりホルモー合戦を読ませろという気がし…  全文読む 評価する

望みは何と訊かれたら 望みは何と訊かれたら
つきこ/愛という言葉をふりかざすなら、このくらいでないとおよびじゃない
胸のボタンを余分に開けて、政治集会で集めたカンパを遊び金に使う。”政治の季節”のそんな女子学生像を教えてくれたのは小池真理子だった。お日様に当たりもせず、お腹いっぱい食べもせず。酒ばっかりかっ食らって破滅に向かう某女子学生よりは余程共感できた。ここにはアブノーマルな性愛を描き尽くしながらも最後は可愛いお嫁さん、などという夢が透けて見える輩には到底辿りつくことのできない異形の愛と人生が描かれます。物を書くということ、少なくとも愛という言葉をふりかざすなら、このくらいでないとおよびじゃないのよと無伴奏の著者としての貫禄を示してくれます。同時代に生きないとその空気は決して知ることもできない、1970…  全文読む 評価する

タタド タタド
つきこ/タイトルの意味や話の筋さえどうでもいいかもしれない
作中に夏みかんが出てくる。甘い果物全盛の中、すっかり人気の廃れた果物だ。文章を追うだけでその強烈な酸味が甦って口の中は酸っぱくなり、爽やかな芳香を鼻先にかいだような気がした。そしてこんな風に五感を呼び覚ますような文章には、近頃すっかりご無沙汰だった。読んでる本が悪いと言われればそれまでだ。筋というべき筋もないような全三篇からなる短編小説集。個人的には官能の香りさえご愛嬌。ただ厳選された”ぴたり、ぴたりと石を置いていくように、言葉が胸に落ちていく”感覚をじっくりと味わい、吟味された一文一文を追う楽しみに、心ゆくまで浸りました。最低限の言葉で深い余韻を残す、そういう意味では詩人の小説だなぁとつくづ…  全文読む 評価する

武士道シックスティーン 武士道シックスティーン
つきこ/いずれ武蔵か小次郎か。少女剣士ふたりの戦いがまぶしくも清々しい
武道はスポーツではないと思っている。けれど勝ち負けはある。そして勝ち負けだけが全てでもない。何なのそのわかりにくさ???なのである。白黒つけることだけに慣れた未熟な人間には限りなく奥が深い。本書は著者初の”人が一人も死なない”エンターテイメントだそうです。そして主人公は未熟ここに極まれりというふたりの少女剣士。不敵な笑みが似合う兵法者を気取る女子高生・香織は太平の世に甦った剣鬼のごとく。その人物像がもうたまらなく変で滅茶苦茶楽しい。いずれ武蔵か小次郎か。彼女の前に立ち塞がる思いもよらぬ敵・早苗。貴様を斬る。だが斬れない。あらら一体いつになったら斬れるのだろう。この、勝負は簡単につかないという辺…  全文読む 評価する

飛ぶ教室 飛ぶ教室
つきこ/子どもの領域を飛び出して、大人に迫り来るもの
言わずと知れた傑作児童文学の改訳版です。二十年前のヒット曲などを聴くと、そのあまりにもゆっくりとしたメロディーに調子が狂ってしまうのですが、本書はその逆です。スピード感溢れる畳み掛けるような文章が、慣れ親しんだ物語とはいえ新鮮でした。何かにつけ気忙しい現代人にあわせた超訳かと思ったら、こっちがケストナーの地の文章だそうです。文科省推薦図書がラノベ風になって再登場とでもいいましょうか。児童文学はちょっと、という大人にも読みやすくなってます。が、トリヤーの挿絵はありません(泣)ケストナーといえばトリヤー。その作品にさらなる魅力を与えていた挿絵がないのは正直悲しい。そして高橋健二訳のケストナーに慣れ…  全文読む 評価する

深川駕籠 深川駕籠
つきこ/江戸時代最高
義理・人情、そしてプライド大好き。本書に溢れる江戸の職人気質が心地いい。水谷豊と寺脇康文の刑事ドラマを持ち出すでもなく、相棒は意外な組み合わせの方がいい。時代ものには欠かせない存在の駕籠引きですが、駕籠は一人では背負えません。二人必要です。というわけで”男の友情”的に読むのもよし、江戸の人情物として読むのもよし。知られざる職業ものとして読むのもよし。と色々な美味しさが詰まった一冊でした。駕籠引きの驚異的な能力を知らしめる「菱あられ」から始まる全7編からなる連作短編集。大団円を飾る駆け較べに、昭和の香り漂う昔、町内の花形イベントであった町対抗ご近所さん運動会やソフトボール大会を思い出し、ほのぼの…  全文読む 評価する

きっと君は泣く きっと君は泣く
つきこ/鏡の中の自分を直視するのはいつだって勇気がいる
「美貌に生まれた女に怖いものはない」との内容説明に思わず目が止まった。先進国に生まれた美人でついでにお金持ちだったりすると人生無敵っぽい。そしてそんな溜飲を下げるべく「美人だって泣きを見る物語」を読んでみました。主人公は美貌を鼻にかけ同性に嫌われる女、椿。きれいでも可愛くもない女の子に嫌われようと一向に平気。ちやほやする男には不自由しない。そして何より彼女には人生の目標とする美しき祖母がいた。けれどその祖母がボケはじめた辺りからその歯車は狂い始めていく。人の美しさとは何だろう。読後ますますその問いが頭を離れません。誰が一番”美しい人”なのか。身内が老いや病気に直面した時こそ、その人の本性が最も…  全文読む 評価する

羽田浦地図 羽田浦地図
つきこ/得意話はもう聞き飽きた、自慢話はもうこりごりだ。こんな話を待っていた。
ネットで他人の書評をもとに良書に出会う事など夢のようだった昔、私が知らないすごい本に出会う最も手っ取り早い方法は、信頼する作家のお薦めに頼ることだった。この本もそうして知った本のひとつ。夭折した作家・鷺沢萠(さぎさわめぐむ)が感動のあまり全文をノートに書き写したという表題作を、二十一年ぶりに復刻となったおかげで初めて読む事ができた。世の中にはどう頑張ろうとどうにもならない事もある。今は羽田空港として知られるその場所に、48時間以内に退去という占領軍命令で忽然と姿を消した三つの町があった事など、恐らく今多くの人は知らない。本書はそんな羽田を舞台にした表題作他三編からなる、ノンフィクション作家でも…  全文読む 評価する

彼のことがわからない 彼のことがわからない
つきこ/こういう事をすれば彼女に嫌われます。彼氏にも嫌われるかもしれません。
正直言ってとても書評の書きにくい本だった。目を覆うばかりの不甲斐無さに、ついもの申さずにはいられないと憤りを覚えるが、それは多分彼らにとっては大きなお世話だろう。○○が元気だという言葉は危うい。それは何をしても許される響きを孕んでいるように聞えるからだ。女性が元気になった反面、20代後半から30代前半男性の影が薄くなったらしい。けれど頑張ればいいというものでも、元気があればいいというものでもない。石を投げればレスで性欲減退した男性に当たりそうな今の時代の空気を反映した、後味の悪さが尾を引く本でした。両者の言い分を等分に取り上げた、著者のフェアであろうとした目線を捉えた時、見えてくるものは多く憂…  全文読む 評価する

京都の平熱 京都の平熱
つきこ/ミーツ・リージョナルからとんがった部分を削り、アカデミックさを強化したような京都本
つんと澄まし「うちらこんなええとこ住んどるんどっせ」と京都中華主義を炸裂させた従来の京都本とは一線を画した京都本。モノクロの写真に貧乏クサと思うか人情を感じるか、その辺が好悪の分かれ目です。京都の貧しさに踏み込んだ点が画期的。 京都駅から今熊野、祇園・岡崎・百万遍、高野・下鴨・紫野、西陣・二条と来て四条大宮・島原経由で再び京都駅。東へ北へ西へ南へ。字面に過ぎ行く車窓の風景を容易に思い浮かべることができる人の郷愁を誘います。市バス206番の旅、始まりはたかばしから。 B級グルメに奇人にけったいなもの。現在の「汚のなった」京都を見つつその視線は過去に遡る。それはアートか単なる汚屋敷か、古道具で飾り…  全文読む 評価する

顔のない敵 顔のない敵
つきこ/もの凄く真面目にミステリーと地雷問題に取り組んだ、著者の良心が感じられる作品。
このミス大賞に選ばれるのは必ずしもミステリー的に優れた作品というわけではない。書きたい物語にミステリーを添えた、そんな作品が上位を飾ることも珍しくない。「これ無理してミステリーにすることないんじゃない?」近頃ミステリーを手に取ることが少なくなったのは、そういう傾向を敬遠してのことだ。中途半端はよくない。そんななか石持浅海の作品は、ミステリーを描くことが第一でその他は二の次という姿勢が鮮明で、その立ち位置を好ましく思っていた。で、本書は「世界初の対人地雷ミステリー短編集」だそうです。なんじゃそりゃと思いながら読み進み、こういうやり方もありなのか、と目からウロコが落ちる思いでした。以下著者のことば…  全文読む 評価する

銀漢の賦 銀漢の賦
つきこ/銀漢とは天の川の事、そして美しく年を重ねた男もまた銀漢なり
五十を過ぎても俺達ちょいワルとばかりに枯れないオジサンが増えた。けれど逆立ちしたってセクシーさではラテン男に敵わない。日本男子は”もののふ”たれ。プリンシパルのある生き様こそがセクシー。髪に白いものが目立つお年頃、オヤジ二人の友誼と義の物語に萌えました。 人は死を思う時、その生を思う。袂を分かったかつての友人に、死期が近い事を打ち明ける所から物語は始まります。白皙の美少年は権力の座を登りつめ、飄々とした精悍な若者は小役人に留まった。違う人生を歩んだ二人。けれど一方に死期が迫った時、藩の命運を巻き込んで、二人の人生は再び交差する。友人は合わせ鏡のようなもの。存分に生きたか悔いは無かったか。その生…  全文読む 評価する

うなぎ丸の航海 うなぎ丸の航海
つきこ/うなぎはえらい。うなぎを追う人もえらい。
うなぎ。これ以上はないほど身近にして神秘に満ちた魚。どのくらい神秘かというと、ちょこっとその生態が明らかになっただけで、ネイチャー誌に論文が載る事3度。えっうなぎで?驚きです。本書はネイチャーハットトリックを成し遂げた東大海洋研究所塚本教授のもと、ニホンウナギの産卵場特定という使命を帯び、荒海へと漕ぎ出した調査船白鳳丸に密着した海洋冒険ドキュメント。胸が躍ります。ナビゲーターは無頼の作家。ただ船に乗りたかったという理由で調査船に乗り込んだ、ウナギにはずぶの素人で呑んべ。べらんめぇ調で知られざるウナギ生態研究の最前線を語り尽くす。真摯に時にはワイルドに、世紀の大発見に挑む研究者の姿に、無頼の作家…  全文読む 評価する

きみはポラリス きみはポラリス
つきこ/食わず嫌いは良くない事を痛感
 ”いとしさの王国へ”という、女性作家による影響を受けた少女漫画論みたいな本の目次を立ち読みしていた時、三浦しをんが飽食への警句をカニバリズムと絡めて描いた清水玲子の”22XX”を挙げているのに度肝を抜かれた。大島弓子や岩館真理子などいかにもな作品が並ぶなか、異彩を放ちまくると共に「三浦しをん侮れず」。彼女に対する見方を改めるきっかけとなった。 で、本書です。さくさく読める11編からなる短編集なのですが、これ最早恋愛じゃないでしょう。”ただならぬ恋愛小説の登場!”というコピーでは真価を伝えず気に入らないけれど、他にどう言いようがあったのか、出版社も悩むところだよなと同情を覚えます。世間で良しと…  全文読む 評価する

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