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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2011.2
- 出版社: 朝日新聞出版
- サイズ:19cm/217p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-02-250837-9
紙の本
蛇と月と蛙
著者 田口 ランディ (著)
これは現代のアニミズムの物語!影を見る。蟲と話す。獣と契る。蛇を抱く。人と動物と月は今もかかわりあっているのです。6つのふしぎ小説集。【「BOOK」データベースの商品解説...
蛇と月と蛙
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商品説明
これは現代のアニミズムの物語!影を見る。蟲と話す。獣と契る。蛇を抱く。人と動物と月は今もかかわりあっているのです。6つのふしぎ小説集。【「BOOK」データベースの商品解説】
小学校の遠足で見た3つの影と母の死の予感、新月の晩に動き出す味噌の麴…。人と動植物と月がからみあう、6つのふしぎな小説集。『小説トリッパー』掲載を改稿して単行本化。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
影のはなし | 5−29 | |
---|---|---|
むしがいる | 31−61 | |
4ケ月、3週と2日 | 63−107 |
著者紹介
田口 ランディ
- 略歴
- 〈田口ランディ〉1959年生まれ。作家、エッセイスト。「コンセント」「できればムカつかずに生きたい」で婦人公論文芸賞を受賞。ほかの著書に「アンテナ」「キュア」など。
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紙の本
生と死の不思議と疑問と問題提起をむしとひとで描く『蛇と月と蛙』
2011/03/27 12:47
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:惠。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
田口作品は10年ほど前に貪るように読んだ。しかしいつからかぷつりと読むのを止めてしまった。数年前にブログで読書感想文を綴るようになってから記録のために再読をして記事をアップしたら、盗作騒ぎのあった作品だと指摘を受け、盗作騒ぎのあるなしに関わらず田口作品全般の、再読する気が落ちてしまった。
そんな中でひょんなことから出会った本書。感想をひとことで言うと、
「あぁやっぱり田口ランディだな」
田口ランディを色々読まれたことのある方にはこのひとことで伝わると思う。
本書に収められているのは、『小説トリッパー』に掲載された短編小説およびエッセイ。作品紹介には「6つのふしぎな小説集」と謳われていてすべてフィクションということになっているようだけれど、フィクションとノンフィクションがないまぜになっている。そしてその順番が実に巧妙。
本書全体を通して田口氏が訴えているのは、生と死の不思議。そこから派生して、社会や人間に対する問題提起と疑問の投げかけ。彼女は(おそらくいつも)悩んでいて、その悩みや疑問の答えを探すために文章をつづっているように感じる。
その精神構造はとても興味深く、共感できるものが多い。そして、はっとさせられることも多い。
普段の生活でもやもや~と違和感を覚えるものを、彼女の小説ははっきりとした「文章」で教えてくれる。たぶんわたしは、彼女の考え方に類似した何かを持っている。そしてそれに共鳴している。それが、わたしが田口作品に魅かれる理由だろう。
何が正しくて何が間違っているのか。譲るべきではないモノはなにか。人生は複雑だけれど、その根本はとてもシンプル。彼女はその根本を描いている(ようにわたしには思える)。そして感覚的に或いは直感的にわたしは彼女のシンプルさに魅かれている。
残念ながら、この「感覚」をうまく説明できる「ことば」をわたしは持ち合わせていない。どうにか表現できないかと悩んでみたけれど、ダメだった。
だから…わたしの考える田口ランディ「らしい」文章をいくつか引用することにする。以下で引用する文章は、各作品の根幹であると思う。しかし、それだけではネタばれに繋がらないので、ご安心を。
***
人間は生きるべきだと思っている強い信仰が、闇を深めていることを知った。(略)母の回復を願わない自分を責めている。「死」を忌み嫌う習慣にすっかり染まっているせいだった。母が死ぬのを私はちっとも悲しくないが、悲しまない自分を悪人のように感じてしまう。常識というのはまことに恐ろしい。それに従えないと、まず自分が自分を裁くのだ。(略)
―――『影のはなし』―――
***
なんでも買えて好きなことができるはずの日本にいながら、この映画(注:ルーマニア映画『4ヶ月、3週と2日』)の緊張感や閉塞感に共鳴する自分がいる。父はこの国で充分な年金をもらい、住む家もあり、健康であったのに、アルコール依存症になった。(略)受け入れてくれる病院はなかった。病院関係者や役所の人たちの高圧的で攻撃的な態度に逆らえず、ひたすら最悪のなかで最良のことをなそうとしていた(略)。私は無力だった。助けてくれる友達はいたが、社会のシステムの前で誰もがほんとうに無力だった。父が死んでから私は自分の無力さを忘れたいと願った。だから、新聞すら読まなくなった。そんな私が映画のなかにいた。自分の入っている檻は見えないのかもしれない。(略)
――『4ヶ月、3週と2日』――
***
「足がないって、どんな気持ち?」って彼女は言った。足をなくしてから初めて、足のない気持ちを聞かれたんだよね。驚きだった。他の人は僕の気持ちを聞かない。「辛いだろうね」とか「本当に苦しいと思うよ」とか、わかったふうなことを言うんだ。わかるわけないのにね。(略)だから、率直に「どんな気持ち?」って聞かれた時はなんだかうれしかった。
(略)
「ねえ、あなたは蛇には足がないと思っているでしょう? でも違うのよ。蛇はね、最初はトカゲだったの。だけど、ある時、神様にお願いして足を取り上げてもらったのよ」
――『蛇と月と蛙』――
本当は、一番引用したいのは表題作『蛇と月と蛙』のラストの1ページ(本書としてもラストの1ページである)。だけど、抜き出したいエッセンスがいっぱいありすぎて、うまく引用できないので諦めた。
超ピンポイントでエッセンスを抜き出すとしたら、ラスト二行のこれ。
***
(略)人間は虫のことを忘れてはだめです。
小さな生き物のことを思えるようでなければ、いつか滅んでしまう気がします。
――『蛇と月と蛙』――
だけど、この二行を読み解くためには、その前の1ページが必要になってくる。土葬から火葬に変わり、汚いもの見なくて済む時代になって、人間は余計に哀れで可笑しくなったのかもしれない、という田口氏の指摘と疑問。
***
(略)人間は人間として生まれて、蛆虫に比べたら頭もいい。感情もあります。優れた存在です。だけど、その優れた頭で原子爆弾を作って、それを人間を殺すために使うわけです。同じ人間同士が殺し合って、そして被爆して、火傷して、腐った肉を蛆虫に食われている。私は妹にたかっている弱い生き物を毎日必死で箸でつまんで殺し続けている。なんだか、滑稽じゃありませんか。
――『蛇と月と蛙』――
『蛇と月と蛙』収録作品
・影のはなし
・むしがいる
・4ヶ月、3週と2日
・河童と遭う
・月夜の晩に
・蛇と月と蛙