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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2009.9
- 出版社: 講談社
- サイズ:19cm/357p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-06-214865-8
紙の本
戦場の掟
【ピューリッツァー賞(国際報道部門)(2008年度)】イラク戦争で大きな存在となった、正規軍ではない「民間警備会社」。「おれたちのことはおれたちで決める」という暗黙のルー...
戦場の掟
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商品説明
【ピューリッツァー賞(国際報道部門)(2008年度)】イラク戦争で大きな存在となった、正規軍ではない「民間警備会社」。「おれたちのことはおれたちで決める」という暗黙のルールのもとで、イラク国民の怨嗟を引き起こした彼らの蛮行を描き、戦争の真実を伝える。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
スティーヴ・ファイナル
- 略歴
- 〈スティーヴ・ファイナル〉『ボストン・グローブ』紙記者を経て、『ワシントン・ポスト』紙記者。「戦場の掟」がピューリッツァー賞(国際報道部門)を受賞。
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紙の本
民間軍事会社の実態。イラクにおけるその無法。
2010/05/26 00:16
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:風紋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
イラク戦争(第二次湾岸戦争)は、2003年3月20日にはじまり、戦闘は2003年中にいちおう終了した。しかし、その後もイラク国内の治安はおさまらず、戦闘はたびたび勃発した。
駐留した軍隊の後方支援は、アウトソーシングされた。「外注」によって、公表される戦死者の数値も軍事費も減る。議会に対して説明しやすい。かくて、イラクで民間軍事会社(本書では「民間警備会社」)が雨後の筍のように出現し(百を超える)、急成長をとげる。イタリア軍ほか、正規軍さえ民間軍事会社に警備された。日本の自衛隊もまた、民間軍事会社に警備された。2007年末までに、「ブラックウォーター」社(訳者あとがきによれば2009年2月以降は「Xe]社)は、イラク戦争により10億ドルを得ていた。
本書は、イラクで活動した民間軍事会社の業務のうち、コンボイ輸送を中心に取材したルポタージュである。
すぐれたルポタージュはいずれもそうだが、ピュリッツァー賞を受賞した本書も人間を描く。
戦争に惹きつけられるとしか言いようのない人がいるらしい。
プロローグから一貫して著者の関心のまととなっているジョン・コーテもその一人である。陸軍を満期除隊後、フロリダ大学で会計学を学ぶのだが、うまく適応できない。人付き合いのよい好男子で、彼を慕う異性もいるのだが、アフガニスタンとイラクの従軍体験が脳裡から消えない。かつての戦友の勧誘にのって民間警備会社「クレセント・セキュリティ・グループ」の社員となり、イラクにもどって墓掘り人夫のように陽気にすごすのだ。
コーテの相棒ジョシュア・マンズも、海兵隊退役後に就いた仕事に死にそうになるくらい退屈し、「全身全霊にショックをあたえて、まだ自分が生きているんだと実感する必要があった」から、この仕事に転職した。
二人をふくむチームのリーダー、ジョン・ヤングは、ふつうの勤め人の生活をしたいのだが、できない。「人生のふつうのことを味わいたい。でも、おれはふつうじゃない」、イラクを離れることはできない、という。
民間軍事会社が提供する報酬は高額である。ことに優秀な軍歴保持者には。
学費を稼ぐつもりのコーテは、退役時点で軍曹として月給1,967ドル70セントが支給されていた。しかるに、ふたたびイラクで銃を手にした報酬は7千ドルであった。米軍の准将の月給に相当する。それでも、この産業の水準からすると安いほうなのだ。
「トリプル・キャノピー」社のチーム・リーダー、J-ダブことジェイク・ウォッシュバーンは日給6百ドル、月に2万ドルちかくを稼いだ。他の「エキスパート」の日給は5百ドルである。
高額の報酬は、業務上の危険の対価である。のみならず、死傷後の保障がない代償である。
それどころではない。社員には、ジュネーヴ条約やハーグ陸戦条約の定める捕虜の権利は適用されない。
2006年11月15日、クレセントの車輌縦隊37台および護衛車5台が襲撃され、コーテ、マンズ、ヤングほか2名が拉致された。コーテの遺体がみつかり、その死をFBIが家族に公式に告げたのは、2008年4月24日である。他の4名も遺体となって発見された。拉致から死亡宣告までの間の家族の苦悩が本書のひとつの肝所である。「コーテは死んだわけでもなければ消滅したわけでもない。いまなおどこかにいる。それがもっともおぞましいことだった」
著者は、取材中にガンで逝去した父親に対する思いをコーテたちの家族の思いと重ねている。
民間軍事会社もまた、戦時国際法を無視する。いや、米国の法規のみならずイラクの法規も無視する。
たとえば、前述のJ-ダブは、「きょうはだれかを殺したい」と遊び半分でイラク市民に発砲するのだ。J-ダブは、事件を報告した同僚ともども解雇され、同僚は起訴したため、事件が明るみにでた。
闇から闇にまつられた事件は数知れないらしく、本書はそのいくつかを探しあて、報告する。イラク市民に対する賠償金をねぎる米軍当局のうごきも伝える。
無辜の民を殺害しても、お咎めなしの法的根拠は、連合国暫定当局が最後に発行した CPA(連合国暫定当局)指令(Order)第17号である。民間軍事会社はイラクの法律に従う必要がない、とされた。あらゆる免責特権が認められ、完全に治外法権化された。そして、米国政府には民間軍事会社を規制する政府機関も法的根拠もなかった。
「ビッグ・ボーイ・ルール」(本書の原題)すなわち「法の空白」が現地のルールとなった。民間軍事会社は、傍若無人にふるまい、イラク人の怨嗟の的となる。
イラク在住の傭兵の正確な数は、ついに不明のままだ。国防省の推定によれば2万5千人、会計検査院の推定ではその倍の4万8千人、と本書は伝える。
2007年2月、デービッド・ペトレイアスがイラク駐留米軍の司令官に就任し、状況に変化が生じた。派兵兵員が増強され、治安維持が強化された。
ペトレイアス司令官は、民間軍事会社をイラクから締め出す。
しかし、国務省とつながの深い「ブラックウォーター」社は、依然として健在であった。
ところが、2007年9月16日、「ブラックウォーター」社の輸送チームは、イラク民間人17人を殺害し、24人を負傷させる事件をおこした。
本書に記されていないが、これを契機にイラク政府はついに厳しい措置をとる。2009年1月1日付けでCPA指令第17号の無効を宣言し、民間軍事会社から免責特権を剥奪したのだ。 この結果、民間軍事会社はイラクの国内法に従う義務が生じ、会社はイラクから撤収していく。