紙の本
山崎豊子の作品はいつごろからか、新刊が出るたびに読むようになっていたから、この作品も内容はまったく知らないまま手に取った。
2009/06/07 00:38
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和46年、毎朝新聞政治部、外務省詰キャップ・弓成亮太。今でもそうだろうが新聞社では出世街道をトップで走る役職である。それだけの実績を上げている敏腕記者。昼となく夜となく、ゴルフだ宴席だ。相手の自宅で懇親の酒を酌み交わす。彼の仕事ぶりが綿密に描かれる。個人的に親密になるため、世間から見たら胡散臭いやり方で官僚の上層部へ食い込み、特定の政治家の懐に飛び込み、都合よく情報を両者に橋渡しすることで彼らから頼られ、、また世論を一定の方向へ持っていける力量が買われている。新聞社のいちばんの課題は販売部数であるから、とにかく他社の一足先をいく大ニュースの連打が何よりも価値がある。自信まんまんとして社内での態度もでかいのだが、このようなやりくちでスクープをものにできるところ、彼の傲慢振りに口を出すものはいない。
10年ぶりの山崎豊子。
2000年初頭までの新聞記者は本当にこんな存在であったと、つきあいの多かった何人かの記者を思い浮かべ、懐かしさがこみ上げてきた。最近はどうか、世間をアッと言わせて朝刊トップを飾るスクープが影を潜めてしまって久しいと気づけば、あのころは旧きよき時代だったのかもしれない。
『華麗なる一族』、サラリーマンになって間もないころ、銀行ってところは裏でこんなことをしているんだぞって細々と指摘されなるほどと、週刊新潮を毎号読んでいた。サラリーマンはみんな読んでいた。
『不毛地帯』、総合商社のえげつないビジネス戦争もロッキード事件の同時進行もあってかひどく刺激的だった。
『白い巨塔』も医療界の内幕を暴いてくれて、まるで知らなかったなぁとそのインモラルな内部事情に驚かされたものだ。
政官財の癒着を暴露した面白さがあって、しかも単なる企業暴露小説でないところは、夢を追う男たち、というよりも野心をギラギラさせた男たちの戦いぶり。その栄光とか挫折を描いて、多くのサラリーマンはその人間ドラマを身近に感じ、魅了されたのだと思う。
松本清張の場合は政官財のこの構図を告発する姿勢が鮮明であって、最後まで一貫していたが、同じ新聞記者出身でも山崎豊子は告発する立場ではなく、むしろ過酷なリアリティをそのまま受け入れ、それをバックグラウンドにして燃焼する男たちにスポットを当てていた。
当時、政治経済の深層にあるインフォーマルなコミュニケーションは矛盾を露呈することなく、いやその構図によるところがかなりあって、GNPは世界に冠たる日本へと押し上がっていった、そんな時代だったのかもしれない。
もはや、遠い過ぎ去った時代である。だから懐かしさを感じたものの『運命の人』、昭和46年の新聞記者を主人公とするこれは、いささか時代遅れの素材なのではないだろうか。第一巻の印象がこれだった。
それとも現代のわれわれが共感するメッセージはこれから明らかにされるのだろうか。期待して読んでいこう。
それにしても著者は84歳である。このエネルギッシュな創作活動には頭が下がる。
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購入後、数日寝かせておいたのですが^^;読み始めたら一気。
クソ忙しいこの時期に睡眠時間を削られまくりです。
この作品の元ネタを知らないので、ウィキ辺りで元ネタを
調べたい欲望に駆られながら・・・。
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新聞記者はペン一本で政局を操る事も世論を自分の思う方向に導く事も出来るのだ。
毎朝新聞記者の弓成亮太の心にそんな驕りがあったのか。
スクープを生み続け、政界に太いパイプを持ち、自分の仕事に誇りと絶対的自信を感じる彼が、沖縄返還を巡る日本と米国の密約に関する極秘情報を手に入れた時から運命の歯車は動き出した。
第一巻は導入編なので、出だしは説明が多いが、次第に展開が気になり最後は一気に読んだ。
早く第二巻も読まねば!
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昭和47年の沖縄返還。アメリカとの密約。国家機密漏洩。
あの頃の事情がわかったきた。
当たり前だけど、マスコミも国家も初めは恣意的に動くんですね。
山崎豊子って人は骨太ですね。
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1〜3まで読み終えた。前半、これまでの本のような気概みたいなのを感じず、中途半端な気がしていたのだが、それは白い巨塔や大地の子のように、明らかな被害者=弱い一市民という簡単な構図ではなく、弓成も三木も新聞も外務省も、誰もがどこかしら黒いから、作者として攻めあぐねていたのかもしれないし、それを表現するのが目的だったからかもしれない。そして、その視点はもしかしたら、知る権利一点張りでは記事が書けないと悩む斉田記者の気持ちに代弁されているのかもしれないし、それこそがこの問題の根源なのかもしれない。最大の被害者は沖縄県民であるようにも思うし(あと一冊で、そっちにもっと力が入れられていてほしい)、弓成にさえ痛めつけられる弓成の家族なのかもしれないし、そこを表現するときの作者の筆はぞっとするほど引き込まれる。権力、組織というものの醜さ、恐ろしさ、最初の方に「このような小さな外交活動の積み重ねが重要」というような表現が出てくる。そう、全ては人が作り上げる小さな努力の積み重ねのはずなのに、正のベクトルに触れることがいかに難しいか、考えさせられた。
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これは久々の5。
初めて読んだ山崎豊子の本でしたが、圧倒的に面白かった。
法学部生なら知らない人はいないぐらいの有名な「外務省機密漏洩事件」を描いたこの本。
綿密な取材に基づいて書かれた事実に即した内容や、
新聞記者や官僚をリアルに描いた描写にかなりゾクゾクきました。
政治とマスメディアの関係性や国会議員と官僚の関係など、
授業で扱ったことがかなり出てきて本当に面白い一冊でした。
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沖縄返還をめぐる外務省機密漏えい事件で有罪となった元毎日新聞記者の西山太吉さんがモデルとなった小説。
山崎豊子の緻密な取材で、きめ細かい説明で当時の裁判を再現する。
今回もまた、栄華を極めた大物がなにかのきっかけでストーンと奈落の底に突き落とされるという山崎豊子の好むパターン。
ただ今回はどうしようもない状態から、ひと筋の光が見え始めると言う未来あるエンディングになっているので読後はさわやかだ。
現実には、日米間の密約(アメリカが沖縄の地権者に払う「土地現状復旧費用」400万ドルを日本が肩代わりするという内容)を証明する公文書が見つかったあとでも、政府は密約の事実を認めず、西山氏は今なお政府に対して提訴し続けているのだが。
「報道の自由」をテーマにした話かと思ったら、第四巻はがらりとテーマが変わり、傷心の弓成(西山氏)が流れ着いた先の沖縄での当時の悲惨な状況を描き始める。米兵による少女レイプ事件、軍用機墜落事故・・・米軍による数々の惨事をアメリカは覆い隠そうとし、本土の人間は沖縄の現状を知ることもない。
もともと山崎豊子は沖縄をテーマに書きたかったようで、筆力も一段と迫力があったように感じる。
本当にアメリカの横暴さと日本政府の弱腰には頭にきましたもの。
偽善者ぶったアメリカ。その化けの皮は年々剥がされてますね。ほんとにイヤミな国だ。
山崎小説は大抵実在の人物をモデルに描いているけれど、ヒーローになる人もいれば悪役になってしまう人もいる。
これほど影響力のある小説家だからよほど注意を払って書かないと恨みを買うことにもなりかねない。
弓成が逮捕された機密漏えい事件のニュースソース、外務省勤務の三木昭子は小説の中では完全に悪者扱いだけど、
もし本当にセクハラにあって仕方なく外務省機密を漏らしたのであれば、彼女の無念は計り知れないと思う。
小説は事実でなくても事実っぽく書くと読者中では事実になっちゃいますからね。恐ろしい代物です。
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父親が買ってきてくれた本
親子揃って
山崎豊子ファン
待望の長編小説
彼女の取材量の半端なさが相変わらずやばいと
ビシバシ伝わってくる
お話は
沖縄密約の話です
ほぼリアルだろう
私自身
沖縄密約の話は聞いたことがあるだけで
毎日新聞の記者がこんな事件を起こしていたなんて
知らなかった
断片的な情報しか知らない
第一巻目は
逮捕される前の記者は
いかに優秀でいかに記者らしいかということが
訥々と描かれているんだけれども
後半から雲行きが怪しくなってくる
全4巻ありますが
これからが辛い物語の始まりなんだろうな…
彼女の小説は
窮地に追い込まれた人間を主人公にすることが多く、
フィクションなんだけれどほぼノンフィクションで
辛い心情部分はリアル以外の何物でもない
そんな人をピックアップするところも山崎豊子の素晴らしいところ
2〜4巻を
自分のお金が買おうかただいま迷っているところです
山崎豊子は天才
というよりジャーナリストですねやはり
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「この小説は事実を取材し、小説的に構築したフィクションです」とあったので、まず登場人物を探そうとしたが、人名はかえられているらしい。
また、何か事件が起こるのかとわくわくして途中まで読んでいて、いっこうに何も起こらず、華々しい生活が描かれている。
といった感じで、何も予備知識なく、初山崎豊子氏を読んでいる。
文章の書き方が緻密で引き付ける文章だと思った。
事実を書いているだけのようで、文章に重みというか味わいみたいな何かがあって引き込まれる。
1巻の終わりに天国から地獄への転落がうまい具合にあるなーって感じ。
今後、2巻がどうなるのか、目次を見ただけでは話の展開はつかめず。
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取材・執筆に10年がかかっているそうで・・・さすがの読み応えです。全4巻ですが、あっという間に読み終えることができました。
外務省機密漏洩事件を発端に、国民の「知る権利」、そしてマスメディアの「報道の自由」に対する国家機密。そして、後半は唯一戦場となった沖縄の現状、戦争の傷跡が細やかに描かれており、とてもスケール感のある作品です。
「権力」というものの恐ろしさを感じるとともに、政治において(外交も含め)、私たちが知りえている情報は、一体どのくらいのパーセンテージがあるのだろうか・・・と疑問に思いました。私の場合は、権利を主張する前に「知らなすぎる」ので、もっと勉強が必要なのですが・・・。
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09/08/26 ★★★★
沖縄返還協定の裏で取引された日本の妥協案
−アメリカが補償するべき金額を日本が他の経費に上乗せして払い、アメリカがそこから補償金を支払う−
に関する極秘通信文を手にした新聞記者の弓成は、
責任の追及に関する決定的な記事をニュースソースの保護する為に書けない。
その焦りからか、この問題に興味を持った議員に国会追求のため通信文を渡す。
国会で波紋が拡がるが、ニュースソースの外務省事務官は逮捕されてしまう。
そして弓成も警察に事情聴取され逮捕される。
事務官という言葉を読むたびに、あの恐怖の面接が思い出され目を背けたくなる。
それに加え外務省事務官と人事担当者の問答は、さらなる悪夢を思い出させる。
とてもまともな状況で読めん 泣
物語は新聞記者の弓成を中心として進む。
だけどやっぱ官僚の言動の方が気になる。
これはなかなか厳しい世界
タイトルが「運命の人」なんだけど、主人公は既婚者。
やや奥さんとの間にすれ違いが生じ始めた感じなんですが
今後の展開が気になるところ
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実際にあった西山事件(外務省機密漏洩事件)を元に書かれた作品、やり手新聞記者とその家族の物語。
西山事件は私の生まれる前の出来事で、「運命の人」を読んで初めて知りました。
戦争中の沖縄の出来事、戦後も不当に差別された沖縄の人々、そして沖縄返還
歴史の生き証人が少なくなっていく中で、作品を通して現代に伝える事は、大切な事だと思いました。
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久々の山崎豊子さんの新刊にようやく手を出しました。
本屋で見つけたときには「まだ書いてくれるのか!」と感動。
やはり期待を裏切らない骨太作品ですね。
ご本人が新聞記者だったのもあるでしょうが、臨場感とか凄い。
続きが楽しみです♪
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山崎作品による、社会の暗部を取り上げた作品の中では、ちょっと物足りなさを感じるかも。現実問題としての沖縄問題と西山事件がそもそも強引に括られているからだろうが、戦争の悲惨さ(沖縄での集団自決)と、国家による不当なメディア介入、それに直接的に関わっているのが主人公だけでとあって、ひとつのテーマに2つの問題を押し込めるのはなかなか難しかったよう。沖縄問題だけで書いても良かったかなと。
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日本インターネット新聞社JanJanに同じ書評が載っています。
http://www.book.janjan.jp/0908/0907318015/1.php
日本国内で配信されているニュースには、紙であれネットであれ「どうでもいいこと」が増えたな、と最近私は思うようになった。
特に政治関連のニュースでは、政治工作のひとつとして、失言や女性関係、脱税の事件を作っているというのが見え見えで、はっきり言って退屈だ。本当に問題にしなければならない点は、すぐにぼやけて、忘れ去られてしまう。
それから第2次世界大戦以降の日本の政治や経済は、アメリカ政府の意向に大きく振り回されてきた。私たちが日頃目にする新聞やテレビ、ウェブですらも実のところ、この政府に都合の悪いものは、あまり積極的には報道していない。まるで日本のマスコミは、人々が日頃関心のあるニュースの論点をずらし、抑圧し、無関心にしてしまうのが使命であるかのようだ。
この小説は「西山事件」をモチーフにして、何故マスコミや政治が戦後60年経っても自立できないのか、教えてくれているように思う。「運命の人」全巻を読み終わってまず感じたのは、得体の知れない居心地の悪さと哀しみだった。
現在、日本の文化やテクノロジーの多くが世界で認められ、日本人であるという誇りを持って生きている人は多い。しかし、この国は今も尚アメリカの飼い犬であり、戦争に負けて60年経ってもその事実は変わっていないということも、残念ながら事実である。その象徴が沖縄なのだと、改めて感じた。
この物語の中核にある外務省機密漏洩事件、俗に言う「西山事件」は、おそらく40代以降の若い世代には、あまり知られていない事件である。1972年当時沖縄を日本に返還する代償として、アメリカが支払うはずの補償金を実は日本が肩代わりしていたという、外務省の機密スクープを手に入れた弓成記者。彼はこの事実を正義のため、世間に公表するか、国益のために見て見ぬ振りをするか、究極の選択を迫られる。
結局彼は「正義」を取って野党第1党の議員を通じて情報のリークを試みるが、その議員の不手際で事態は悪い方へと急展開する。顔に泥を塗られた当時の佐橋総理大臣は警察庁長官を呼び、対応策を練る。
その策とは、余りになりふり構わないものであった。新聞記者が外務省の美人事務官と性的な関係を持ち、外務省の機密を漏洩させたとして、彼を逮捕したのだ。検察の狙いは、もちろん、男女の不倫スキャンダルで世間の注目を密約問題から逸らし、遠ざけることだった。1978年、弁護士や新聞社、そして家族の支えも虚しく、元記者の有罪が確定した。有能な政治記者のトップであった弓成氏の人生は、完膚なきまでに叩きのめされ、家族は四散してしまった。
1人の男とその家族の運命を狂わせるに十分な月日が経ち、初公判からおよそ35年後にアメリカ政府が公開した公文書から出てきた事実は、正に事実であったと証明された。にもかかわらず、この運命の新聞記者の名誉は時効の名の下に今だ回復されていない。
インターネットで「西山事件」の経緯を調べてみると、わかりやすい解説がたくさんあって興味深い。当時裁判や世論を覆せ��かった毎日新聞社は、購読者数を落とし、会社存続の危機に陥った。西山事件以来、ジャーナリズムを名乗るだけの活力を失った大手新聞社は官僚と政治家の僕となり、持ちつ持たれつの低次元な関係となった。
家業も廃業に追い込まれた主人公は抜け殻のようになって、沖縄諸島を彷徨する。そこでかつて起きた集団自決の事実を聞き衝撃を受ける。島民の明るさとは全く正反対の、本土にも、島民自身にも、拒まれ続けた暗い歴史の存在を知る。しかし皮肉にも、彼はその歴史で再び生きる理由が見出されたようで、少し救われた気がする。
ところで、山崎氏の文体にはさすがに古さを感じるが、年齢を感じさせないダイナミックな描写力は相変わらずで、まるで主人公が目の前にいるかのように、新聞記者の世界に読者をぐいぐい引き込んでいく。豪腕弓成記者と小平正良氏の禅問答のようなやり取りを読むと、ジャーナリストと政治家の本来あるべき程よい緊張関係が垣間見えるようだった。
おそらく日本という国が一皮剥けるには、政府とマスコミが協力して、真剣に沖縄問題と向き合うところから始まるのではないか。