紙の本
歴史問題を解決するために
2009/06/09 16:18
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:としりん - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、外務省を退官した著者が、新たな立場から歴史がらみの問題について思索した書である。
靖国、慰安婦、日韓問題、台湾問題、原爆投下、東京裁判をテーマとする。通常、これらはイデオロギー、思想的立場から左右両翼に割れる問題だ。著者は、どちらの立場にも偏ることなく、国益を見据えて国としてどう振る舞うべきか、指針を示している。
さすが第一線で活躍した外交官である。自身の体験も踏まえ、かなり高レベルな考察だと感じられる。
だが、左右両翼からは不満が残るかも知れない。
北岡伸一氏は、読売新聞「地球を読む」に、「国益とは何か」として卓抜した論文を載せている。(09年5月31日)
「国民の声が、すなわち国益とも限らない」のである。「日本では、100%を主張して決裂すると褒められ、80%の案で妥協すると批判されることが多い。しかし、決裂の結果、60%も取れなくなることが少なくない。」とする。
象徴的なのは、対北朝鮮外交である。02年に訪朝した小泉総理は、将軍様との間で日朝平壌宣言を取り交わした。その内容が不満として、担当局長だった田中均氏は世論からバッシングを受けた。しかし、日本側にとって100%満足な内容では決裂するしかない。日本側にとって不満はあるけれど、将来のために有利な文言が挿入されており、今後の交渉のたたき台として意味のある文書だったと考えられる。
正義感や感情にまかせた外交では、しばしば国益を損なう。本書中でも、その好例が慰安婦問題だ。
07年3月の安倍総理発言を機に、米議会での慰安婦決議案が最終的に採択されるに至った。日本側の主張・説明は米議員に全く受け容れられず、むしろ逆効果となる有様だった。なぜ、そうなってしまったのか、本書からも教訓を汲み取らねばならない。
ところで、本題からはやや外れるかも知れないが、注目したいエピソードが載せられている。
著者が米国の大学で竹島問題の講義をしたところ、韓国からの留学生の次のような反応があったという。
「僕は、この授業を聞いてはじめて、日本人が韓国に対してどういう気持ちをもっているか、わかりました。とくに、独島について、日本人がほんとうに、歴史的な経緯で、日本領だと考えているということ、韓国をまた抑圧するために島の領有を主張しているのではないことが、わかりました。ありがとうございました。」と。(P152)
そんな当たり前のことも知らなかった、誤解していたとは、唖然とするばかりだ。一般的な韓国人の認識はその程度のものなのか。
竹島問題は日本側のPRにも課題があるかも知れないが、むしろ韓国側に大きな原因があると言える。韓国社会が問題を拗れさせているとでも言おうか。
さて、本書は流し読むのではなく、読者自身も考えながら読み進む書だろう。自身の思想的立場を離れて、著者の示す指針にも耳を傾けたいものである。
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東郷家にまつわるストーリー、そして外交という歴史を国益としてとらえるプロの立場で培ってきた知見は一見の価値あり。メインテーマはやはりアジアの中の日本。
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筆者の外国での研究経験から、現在筆者が考えている歴史認識のあるべき姿についての提言、といえるでしょう。総論的に言えば、オール・ジャパンとしての歴史認識のコンセンサスを持つ努力をしよう、という主張です。それ自体はよかったのですが、少し筆者の個人的なエピソードが多い気がしました。このエピソードが、かえって本書を読みにくくしているのではないかという疑問があり、少し残念な部分ではあります。もっとも、エピソード挿入の是非については個人で意見が分かれるかもしれません。
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植民地時代の朝鮮の変化 前 後 人口 1300万 2500万 平均寿命 24歳 45歳 小学校173 5213 映画 ホタル 高倉健 最終的の日本国政府の形態は日本国民の自由に表明する石により決定される
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東郷氏はオランダ大使だったが鈴木宗男事件やらで退職された。
ちょうど私が赴任する直前までオランダ大使だった。その後もライデン大学とかで教鞭をとっていた。
韓国、台湾の戦後外交問題を深く記している。韓国では日本人に植民地されたときの博物館が今でも生々しく展示されている。
そして祖父の東京裁判についても書かれている。
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靖国、アジア、東京裁判という非常に書きにくいテーマを真剣に扱っていて、答えは出ないもののその考えるプロセスが丁寧で良い。自分も読みながら考えられる。
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自らの経験や私見を混ぜながらもその考えはしっかりと整理され、根拠付けがされており、同じ私見をまぜていても資料を一面的にしか見ず、偏ったナショナリズムとも言えない暴論を振り回す小林よしのりの著書よりだいぶマトモであるし、著者自身も「他者攻撃」に終始する歴史事実の捉え方や主張に警鐘を鳴らしている。
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[ 内容 ]
政治が歴史に変じ、歴史は政治に転ずる。
外務省を辞めて考えたこと。
第一線に立って戦った元外交官の体験的思索の書。
[ 目次 ]
六年の“漂流”の後に-少し長めのまえがき
第1章 靖国神社と歴史認識
第2章 国家の矜持としての慰安婦問題
第3章 日韓の“失われた時”を求めて
第4章 トーゴー先生は台湾独立を支持しますか?
第5章 原爆投下をアメリカに抗議すべきか
第6章 私のなかの東京裁判
オール・ジャパンとして?あとがきにかえて
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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著者は、大東亜戦争開戦・終戦時の外相・東郷茂徳の孫。
靖国神社の合祀は、国が誰が合資にふさわしいかを決め、神社が実際に合祀する。
靖国神社問題を解決するための対応中、首相は一時的に参拝を中止せよ。
靖国神社への首相の私的参拝は意味がない。国としてどうするのか位置づけよ。
靖国問題を解決するためには、憲法20条問題を解決する必要あり。
国立墓地化する案もあるが、道は険しい。
従軍慰安婦問題については、①公的レイプ制度、②公娼制度、③河野談話派に分けられる。筆者は③。
アメリカでは女性・性問題に対する意識が厳しくなっている。日本がこの情勢を踏まえずに、ただ慰安婦問題を否定することは、欧米世論の態度を硬化させることになる。
慰安婦に関する世界の動きをしっかり把握せよ。
日本は過去に他者に与えた痛みを感じ取れる国であれ。
朝鮮におけ皇民化政策の中であやうく日本人になりかけて戦争に参加した韓国人の悔しさがある。
原爆投下について、日米間で新たな論争を生むことは望ましくない。過去よりも将来の核廃絶に努力するべき。
東京裁判で唯一受け入れられることは、天皇の訴追を免れたこと。
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著者は東京裁判でA級戦犯とされた東郷茂徳の孫で元外交官の東郷和彦。
靖国神社、従軍慰安婦、台湾独立、アメリカによる原爆投下、日韓の歴史認識、竹島問題などに関して国内の相違を形成することの重要性を繰り返し説く。主張は割と中立的で、内容もごもっともだった。
「つくる会」の教科書もある程度認めるなど、個人的に勉強になる視点もあったが、全体的に踏み込みが浅いと思った。
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靖国、南京、慰安婦、東京裁判、議論の多い歴史と外交の諸問題に対して、多くの資料から歴史的事実に基づいて国益の観点から冷静に論点を整理している。
タブー視せず、左右に偏らない、しかし主張すべき事は主張する。こうした問題提起が何より必要だと思う。
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A級戦犯である東郷茂徳を祖父に持つ、元外務官僚が近年の外交についての思索と、その背景を著したもの。本書のサブタイトルにもなっている「靖国
(神社)」や、従軍慰安婦問題、そして(国としての)日本の歴史認識について、基礎のない私でも分かりやすく書かれていた。前書きに「どの問題についても、確定解は、書かれていない。」と著者が断りをしているように、結果論だけで「あの時はこうすれば良かったのだ」というような書き方をしていないところに、著者の真摯さが見て取れた。とはいうものの、ある種の問題に対する他国とのやりとりというものに、決して”正解”は無いというのも感じた。
しいてマイナスな感想を挙げるとすれば、さすがに外交という国家の舵取りの一端を担っていただけあり、考え方が慎重で、常に「最大公約数」的。自分は比べるだに申し訳ない木っ端能吏であるが、やはり元役人の思考回路というものがベースになっている気がした。
しかしそう考えると、政治家というのは、(発言を見る限り)なんと浅薄な人間が多いのだろう、というのも実感させられた。
佐藤優氏の著書で、著者の名前を拝見し(その人物像に触れ)てから、いつか著書を読んでみたいと思っていたが、期待通りの本であった。
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条約に基づく外交の駆け引きと政治的判断など、現場のなまなましい交渉が分かる。
靖国問題、教科書問題、慰安婦問題、東京裁判など、戦後60年を過ぎてもことあるごとに日中、日韓の喉に突き刺さった骨のように浮上してくる問題に対する考え方。真実がどうであるかは別にして、その場で日本人として主張することのメリットとデメリットを勘案した上で、最終的に我が方の有利にことを運ぶように行動することを訴える。
まさに「政治的判断」。青臭い自己満足な主張や、国内向け(選挙向け)の虚勢ともいうべき強硬姿勢など幼稚で短絡的で何の利益もない。名古屋市長の「南京事件否定発言」などその格好の例で、とても政治的な駆け引きのできる御仁ではないことを晒しているとしか言いようがない。と感じた。
著者は開戦、終戦時に外相を務めた東郷茂徳の孫。鹿児島ゆかりの人である。そこも興味を惹かれた所以である。
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歴史観は私と違う部分もあるが、外交官をやめてアカデミックな世界に身を置いて、積極的な対話から大戦時の諸外国との認識の齟齬を解消していこうとする姿勢は敬意に値します
と、同時に元外交官としての視点で著者を見るならば、あまりにナイーブすぎるのではないかと危惧した事も付け加えておきます
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日米開戦時の外務大臣東郷茂徳の孫である著者が外交官として日本を巡る歴史の問題を総括したもの。靖国、慰安婦、原爆、東京裁判など、今日まで尾を引いている諸問題について議論している。歴史上の人物の孫でありかつ実務に当たっている人の発言は迫力があり、様々な矛盾を乗り越えようとする苦悩が伝わってきた。共感できるところが多かった。