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  • カテゴリ:一般
  • 発行年月:2008.11
  • 出版社: 新潮社
  • サイズ:20cm/294p
  • 利用対象:一般
  • ISBN:978-4-10-441205-1

紙の本

どこから行っても遠い町

著者 川上 弘美 (著)

男二人が奇妙な仲のよさで同居する魚屋の話、真夜中に差し向かいで紅茶をのむ「平凡」な主婦とその姑、両親の不仲をじっとみつめる小学生、裸足で男のもとへ駆けていった魚屋の死んだ...

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どこから行っても遠い町

税込 1,650 15pt

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商品説明

男二人が奇妙な仲のよさで同居する魚屋の話、真夜中に差し向かいで紅茶をのむ「平凡」な主婦とその姑、両親の不仲をじっとみつめる小学生、裸足で男のもとへ駆けていった魚屋の死んだ女房…東京の小さな町の商店街と、そこをゆきかう人々の、その平穏な日々にあるあやうさと幸福。短篇の名手による待望の傑作連作小説集。【「BOOK」データベースの商品解説】

妙な小屋を屋上に背負った、魚屋「魚春」。みたび別れた元恋人たちが営む、小料理屋「ぶどう屋」。東京の小さな商店街と、そこをゆきかう人びとの平穏な日々にある、あやうさと幸福。川上文学の真髄を示す連作短篇小説集。【「TRC MARC」の商品解説】

収録作品一覧

小屋のある屋上 7−29
午前六時のバケツ 31−52
夕つかたの水 53−76

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みんなのレビュー135件

みんなの評価3.8

評価内訳

紙の本

「奥さん奥さん」と魚屋さんは呼びかけた。

2008/12/03 18:33

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 街を歩いていて、時々こんなことを思う。
 自分の視界の中にいるたくさんの人。向こうから歩いてくる中年の男性。談笑する若い男女。難しげに仕事をしている紳士。大きな口で笑う女性。
 たくさんの人が、私という視点を介して、生きている。
 しかし、視点が別の人のそれになれば、私という存在も点景にすぎないことに気づく。
 人は時に主役であり、時に脇役であり、時に点景にもなりうるのだ。
 そんなことを、時々思う。
 川上弘美の連作短編集『どこから行っても遠い町』を読んで、またそんなことを思った。

 この本には、「奥さん奥さん」と呼びかける魚屋さんがいる、「東京の東にある小さな商店街」を舞台にした、十一の短編が収められている。
 登場人物も、語られる時間も、物語の内容も、ほとんど関連していない。
 連作といっても、そういう点では、独立した短編集の風合いである。
 だから、最初から順に読むのではなく、思いのままに、開いた作品から読み始めるのも面白いだろう。そんな風合いである。
 唯一連作であるといえば、これらの物語の舞台が、「たこ焼き」で焼酎を呑ませる居酒屋のある、「東京の東にある小さな商店街」ということだけであろうか。
 どの物語も、その一点だけは踏みはずさない。

 そして、ある物語の中で、点景のように描かれている人物が、別の物語では主人公として、あるいは重要な脇役として描かれていくことで、連作短編集『どこから行っても遠い町』としての作品の幅と深みが、読み進んでいくうちに増してくる。
 そういう風合いもある。
 連作第一作(もちろんあなたは自由に読んでかまわないのだが)「小屋のある屋上」は、男二人が不思議な関係性を持ちながら同居しているという魚屋さんの物語(この作品に登場する「ピカソとコクトーのポスター」という小道具が実に雰囲気を出していて、川上弘美のこういう巧さが彼女の世界観につながっているのだと思う)であるが、そこに登場する死んだ真紀さんが語り部となって登場するのが、連作最終話(もちろんあなたは自由に読んでかまわないのだが)の「ゆるく巻くかたつむりの殻」という具合である。
 そういう人と人との関わりのような述懐を、川上弘美は表題にもなっている「どこから行っても遠い町」という作品の中で、主人公である商店街の印刷工場の経営者の高之という男性に、こう語らせている。
 「おれが決め、誰かが決め、女たちが決め、男たちが決め、この地域をとりまく幾千万もの因果が決め、そうやっておれはここにいるのだった」(264頁)と。

 私は自分にとってはいつも主人公かもしれない。
 しかし、ある人からみたら、私は単なる点景だろう。
 それでも「捨てたものではなかったです、あたしの人生」(294頁・「ゆるく巻くかたつむりの殻」)といえるような生活は不思議と落ち着く。
 本作は、そういう風合いの、連作集である。

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紙の本

川上弘美の世界観が十分に表現された作品。

2009/04/14 18:04

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:トラキチ - この投稿者のレビュー一覧を見る

初出小説新潮及びyom yom。
心地よく流れるような文章に身を委ねれる時間。
本好きにとって最も至福の時なのであるが、川上さんの作品を読むと知らぬうちにその世界に入り込んでいる自分に気づく。

舞台は東京の下町の商店街。
11編からなる連作短編集といったらいいのでしょうね。
いろんな人の視点から物語が語られます。
川上さんは人間の不思議さ・滑稽さを引き出すのが巧みですね。
嫁の不倫相手だった男と一緒に住む男(平蔵さんと源さん)。
あるいは何回も別れてはまた引っ付く女性が15歳も年上のカップル(廉ちゃんとおかみ)。
個性的な登場人物が賑わせてくれますね。
少し難点を言えば、私の読解力不足かもしれないんだけど、登場人物が少しずつリンクしているのがわかりづらかった点かな。
でもそういった部分も作者が意図しているのですね。
そのほのかなリンクをかすりとるのが気持ち良いのすわ。
途中まではそう思っていて読み進めたのです。
だが本作では最終編で異変が起こるのである。

それまでの自由奔放な10編は少しずつ話がつながっているなという感じを持ちつつ読み進めれるのであるが、感動的というより軽快かつ軽妙に読める部分が大きい。
しかしながら、読者は最後の物語で度肝を抜かれそして泣かせられるのだ。
さすが川上弘美。やってくれますわ。
故人である真紀さんが語り部となってます。
私なりの解釈で言えば“ファジーな部分はファジーなままで、そして語っていい部分は語ってます”ね。
それが川上ワールドなのでしょう。

が、それは言い換えれば、今生きている人達にエールを送っているのである。
それまでは少し風変りな人として読者に根付いていた真紀さんのイメージを覆すのである。
と同時に作者の凄い点なのだけど、読者自身もあたかも自分自身にエールを送ってくれているかのごとく感じるのだ。
それはつきつめて考えると、前述したようにひとつひとつの話は心地よいのだけど、ほとんどの人が多少なりとも話の繋がりがわかりづらかったのである。
川上さんはそこを容赦せずに読者に半ば強制的に陶酔感を感じ取らせるのである。

まるで読者自身が“川上弘美コミュニティー”に参加した如く感じるのである。
川上弘美コミュニティーとは私の言葉で表現させてもらえれば、“一見儚いように見えても人と繋がっていれば幸せが訪れる。人生とはそんなものであるという社会。”
読み終わって満足感だけでなく、最初に戻って読みなおしたいという衝動に駆られた人も多いでしょう。
彼らの幸せを確かめるために。
そう考えると本当に心地よくて切ないですね。

“心地よい切なさ”
川上さんの世界観を表す端的な言葉だと思ってます。
あなたも私と同じような言葉に感じ取れるかを是非手に取ってみてください。
そして存在感のある12番目の物語を演じましょう。
読者自身が幸せな12番目の物語を演じる=作者の願いであると確信しています。

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紙の本

「どこから行っても遠い町」知り合いの誰かに会えそうな本

2009/10/02 17:01

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:soramove - この投稿者のレビュー一覧を見る

「雑誌ダヴィンチの
今月のプレミア本に選ばれていたので
注文し、やっと読み終えた本、
小さな町の歩ける範囲で暮らす人達を
短編のそれぞれの主人公にした作品、
『誰もが自分の物語では主人公』と
どこかで聞いた気がするが
まさにそのような、
誰もが宇宙の中心となんとなく思える11編」


自分の生き方に明確な「何か」をもって
迷わず突き進むような人は出てこない、
大袈裟な仕掛けもないし、
波乱と思えるほどの波風も立たない、
でも散歩で歩く範囲、顔見知りの人々と
同じ時間を過ごしながら
それぞれの人に当然ながらそれぞれの日々があり、
どれもかけがえのない、愛しい日々を送っている。

誰も強く自分を主張しない替わりに
様々なことをしなやかに受け止め
顔見知り、ちょっと話す程度の人
そんなご近所さんとともに
過ごす日常をさりげなく語った本だ。

平凡な毎日を送っていると
本や映画の中では
ドラマチックな展開を見たくなる、
そして自分とはかけ離れた暮らしや
事件、事故などを読んだり、見たりして
ちょっとした刺激をもらうことが多いが、
この本からはじんわりと
さりげないリアルな生活の手触りのようなものを
感じた。

本の中に出てくる誰かに共感したり
何かしら強く感じるということは無いが
全部読み終えて感じるのは
ここにはすべてがあるということ、
きっとこれまでと、これから感じるであろう
全ての感情がここで読みとれるような
不思議なそしてとても愛しいような作品集だ。

なんだろうこの心が波立つような感じは、
心を揺さぶられ、長くそのことに捕らわれるような
そんな劇的な何かは無い、
でもだからこそここには穏やかな日々の中で
人が感じることのほとんど全てがあるような
気がしてならない。

読み終えてしばらくたっても
きっとまた登場人物の誰かを
折に触れて思い返すだろうな。

★100店満点で90点★
http://yaplog.jp/sora2001/

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紙の本

平凡さの中に危うさが漂う、川上弘美「どこから行っても遠い町」。

2010/08/18 23:17

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:オクー - この投稿者のレビュー一覧を見る

 連作短篇といってもその「連なり」にはいろいろなスタイルがある。
川上弘美のこの小説は東京にある小さな商店街が舞台、そこに住んだり
関わったりしている人々が各々の話に登場する。もちろん人物がダブっ
ていたりするのだが、そのダブらせ方が何とも巧い。さすが川上弘美、
と思ってしまう。彼女が書く多くの小説のように、ここでは大事件など
は起こったりしない。平凡な商店街の平凡な店に住む、平凡な人々の日
常が描かれる。が、しかし、その平凡さの中にはどこか危うさがあり、
虚と実がないまぜになっている。だからこそ、この町はリアルさに欠け
た「どこから行っても遠い町」なのだ。川上弘美ワールドのために作ら
れた町である。表紙の絵は谷内六郎。彼の絵にも彼女の小説と同じにお
いがするので、これはまさにぴったりの選択、なんだかとてもいい。

 平凡な主婦とヘンに気が合う姑を描いた「長い夜の紅茶」が秀逸。魚
屋「魚春」を舞台にした最初の物語「小屋のある屋上」が最後の「ゆる
く巻くかたつむりの殻」につながり、優しく全体を包み込む。魚屋で同
居する男2人、平蔵と源二、そして平蔵の妻真紀の物語は寂しくて哀し
くて、でもとても温かい。

ブログ「声が聞こえたら、きっと探しに行くから」より

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紙の本

町は呼吸している。

2009/10/11 14:56

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ジーナフウガ - この投稿者のレビュー一覧を見る

川上さんの書く小説はすっきりとしている。そこが好きだ。
日本語の持つ美しさ、言葉の響き、さらさらと水の如く流れる文章。

身体の中の胸の内側、思いが言葉に変わっていく様子が、鮮やかに描かれてある。
どれだけ人間を観察したなら、これほどまで的確に人が物を思う時の心の揺れを書けるのだろうか!?

連作短編である今作において、登場人物達の関係は、
様々な形にリンクし、スライドしあいながら存在する。各人の物語。

心象風景から浮かび上がる町の輪郭。地域に根ざした昔ながらの商店街の姿。
買い物にはセットで世間話が付いて来る。

名前は?年はいくつ?へぇ、何やってる人?そう、先生なの偉いね!
最初は戸惑いつつも、次第に町と顔馴染みになる妙子の描かれ方が良い。

町を外から傍観していたのが、日々の暮らしを通じ、
自分や周囲の人々の内側に潜んでいる気配を観察出来る迄に変化して。

魚春の主人平蔵さんは、死んだ奥さんの愛人源さんを、
ビルの屋上に建ってる不思議な形の小屋に住ませている。

『あれは、憎みあっている顔ではない。そう思った。
あれはただ、いろいろなことを見てしまった顔だ。』果たして2人は何を見てしまったのか!?

短編の1つ1つを縦糸横糸に、織りなされる人生模様。
その流れが在るからこそ、最終話に明かされる謎や結末の静けさが胸に沁みるのだと思う。

それ位、どのエピソードも現実として、何処かで起きていそうで凄い。
特に、【蛇は穴に入る】に出て来た介護ヘルパー谷口くんが印象的だった。

福祉の仕事をする前に勤めた職場では必ず、
「不運な巡り合わせ」とでもいうべき出来事が起きている。

突然社長に頬をグーで殴られたり、パンチパーマをきつくかけた女性上司に押し倒されたり、
好意を寄せていた子が強盗に殺されたり。

けれども彼の語り口は何気なく
『ちょっと思い出話をしてみました。』風の、さりげなさすら漂わせている。

流し読みしそうになったけれど、劇的な出来事も案外、
当事者にすれば淡々と語る他に方法は無いのかも知れない。

小学生から、お年寄りまで。様々な年齢の登場人物が胸の内を、ありていに打ち明ける様。
人生を、穏やかに力強く肯定してくれる傑作です。

装画の谷内六郎さんの絵柄やぬくもりある本の質感も味わって下さいね。

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紙の本

人の縁はすべて繋がっているけれど、すべてわかるわけじゃない

2009/07/06 12:56

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:かつき - この投稿者のレビュー一覧を見る

東京のある町で暮らす人々を描く11編の連作短編集。

魚屋のビルで奇妙な共同生活を送る男二人。
母のない譲だが、父は恋人を次々と同居させる。
実家の反対を押し切って結婚した母は、この家に馴染んでいない。
感情が薄いはずなのに、姑に好感を抱く嫁。
15歳年上の女性と付き合っては別れる男。

そんな人々を描きながら、時に別の短編の人のことが出てきて
フワっと、物語の真実や別の面を浮かび上がらせます。

滋味深い短篇が並び、
町と人が愛しく感じられるようになるのですが
どこかもやもやが残ります。
短編が11もあり、すべての人物が繋がるかというと、そうでもない。
著者は切り離してしまい、全部は見せません。

それが最後の短編「ゆるく巻くかたつむりの殻」で
明らかになります。
この連作短編に幾度となく登場する魚春という魚屋は
美人の奥さんが40前に突然亡くなり、
その奥さんの愛人だった男と、亭主が同居しているのですが、
その美人の奥さんが語り手となっています。

「残されたのは、亡くなった人に縁のある、
深い縁も浅い縁もすべてふくめた、
そういう人たちを全部、なのでした」

彼女が語る、商店街や町、人々との繋がりは「縁」でした。
そして、この連作短編に登場する人々も
なにかしらの縁で繋がっています。
その「なにかしら」がもやもやとなった原因でした。
それは現実に直面してしまうと実感できないけれど
確かに存在するものです。

人と人との出会いも営みも、すべからく縁で繋がっていることを、
当たり前のことなのですが、
生活と人生に根差して、教えてくれる短編集でした。


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紙の本

手法だけ見れば、まるでミステリ。連作から浮かび上がるのは東京の一角の複雑な、それでいて閉じられた人間関係。でも、ちょっとフツーではない気がしますよ、川上さん

2009/04/18 22:53

4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る

なんていうか、よく言えば懐かしい、悪く言えば古臭い、そういった雰囲気の装画は、それこそ昔懐かしき谷内六郎 Michuko Taniuti 、これまたオーソドックスな装幀は新潮社装幀室です。なぜこういう装幀になったかといえば、この作品集が東京の東にある小さな商店街と、その町に暮らす人びとを描く連作集で、そこに哀感を抱く人がいるからでしょう。

でも、そういう先入観、下町の人情溢れる物語を求めてこの本を手にした人は、戸惑うんじゃないでしょうか。まず連作、ですが一人の人が全ての話に登場するというシンプルな形式ではありません。最近の連作によく観られる様々な人の視点からあるもの描き出すというもので、ミステリであれば、あるもの=事件、となるわけですがここでは、あるもの=人間関係、となります。

で、この人間関係たるや「人情溢れる」昔懐かしいもの、どころかまさに現代的なものなので、ミステリの謎解きが必要になるようなものなんです。いえ、そこに描かれる関係は、昔からあるようなものではあります。何せ男と女の話がメインですから。ただし、それは明るい陽光の元で回顧されるようなものではなく、囁かれ秘されるに相応しいものです。

まず簡単に各話と初出紹介しましょう。

・小屋のある屋上(小説新潮 2005年11月号):妙子の気になるのは、魚屋の主人・平蔵とそのビルの屋上に暮らす源さんとの関係・・・

・午前六時のバケツ(小説新潮 2006年3月号):稼ぐのは父親の渉で家事をするのは僕・譲。女好きの渉には呆れるが、その血は僕にも・・・

・夕つかたの水(小説新潮 2006年7月号):サチの心にあるのは美人の母のこと。父と結婚したことで実家と疎遠になった元お嬢さま・・・

・蛇は穴に入る(小説新潮 2006年10月号):きちんと仕事をしているのに不運なめぐりあわせで、同じ職場に長くいたことのない僕・谷口・・・

・長い夜の紅茶(yom yom vol.1):平均と平凡は違う、というのが持論の自称平凡な主婦・時江は義母の弥生のことが嫌いではない。ある日、義母の話を聞いているうちに・・・

・四度めの浪花節(yom yom vol.2):15年前、20歳の廉は35歳の央子と出合った。以来、別れてはくっつくを何度も繰り返して・・・

・急降下するエレベーター(yom yom vol.3):佐羽は潮が高校時代に予備校で出会った友人で、大学も同じ。その佐羽が打ち明ける家庭の事情・・・

・濡れたおんなの慕情(yom yom vol.4):東大を二年で中退し、今は占いをしている清。高校時代、金が無くて浮いていた清にいつも気前よく昼食をおごってくれていた友人は・・・

・貝殻のある飾り窓(yom yom vol.5):いつもカメラを持って歩いては雨の写真を撮り続けているあけみが見かけたのは、絵にならないおばさん・・・

・どこから行っても遠い町(yom yom vol.6):女たちはなぜ物事を決めたがるのだろう。妻の千秋、娘の千夏、そして不倫の相手の純子まで。戸惑う羽生高之が思い出すのは・・・

・ゆるく巻くかたつむりの殻(yom yom vol.7):高校を出て商事会社で働いていたあたしに結婚するか、といってきたのは幼いときから遊んでもらっていたお兄さんのひとり平蔵さん・・・

です。話の核にあるのは平蔵・源さんの人間関係なのですが、それが全てではありません。むしろそれは通奏低音ともいうべきもので、色々な話に顔を出しますが、11の別の話がある、と言ったほうがいい気がします。そういう意味では平蔵・源さんはこの街を構成する重要な要素としてある、と言えます。ですから夥しい数の人が、それぞれ存在感を持って登場します。それらの人々を紹介して、その意味を感じてもらいましょう。

平蔵:三階建てのビルの一階の魚屋・魚春の主人。

源さん:魚春のビルの屋上の小屋に住む老人。

唐木妙子:予備校の英語の先生で42歳。20代で一度結婚し、二年後に離婚、以来独身を通しているが、現在は久保田と同棲中。

久保田学:妙子の恋人で37歳。去年離婚したばかり。妙子と同じ予備校の国語教師。

渉:譲の父親で根っからの女好き。離婚後も女をとっかえひっかえしている。三田村サチの母にも目をつける。

譲:父親の女好きを快く思わない息子。父親から家事を任されているため、食事つくりなどはおてのもの。

みゆき:譲のガールフレンドで同じ予備校に通う。国語の久保田の授業がお気に入り。

三田村サチ:叔母のるみのいる町に帰ってきたことに驚いている娘。いつのまにか母のことを疎ましく思い始めている。

三田村美智子:サチの母で22歳の時、できちゃった婚をした。そのせいで実家と疎遠となり夫かたの両親と暮らす。いい所のお嬢さまで、言葉使いについて町でも評判になっていた。

谷口:38歳の介護ヘルパー。不運なめぐり合わせで職を転々とするが、4年前に介護士の資格をとり、以来、「サンハウス」で働く。

英:谷口と同じ訪問介護サービス「サンハウス」で働くケアマネ。

美根子:「サンハウス」の認知症の利用者。

辰次:美根子の夫。

千木良司郎:38歳。優しくて仕事もそこそこできる威丈夫。平均的な男。

千木良時江:短大を出て中規模の商社に勤めていて27歳の時、むずかしい義母がいるという司郎と見合いをした。

弥生:司郎の母。友人が多く、50歳になったばかりの頃、冒険をしたことがある。

市原さん:由香里より一つ年下のさなえちゃんのお母さんで、章太郎のファン。

廉ちゃん:ぶどう屋の35歳になる板前。

央子さん:50歳のおかみ。廉ちゃんの雇い主、というか恋人。

榊原潮:佐羽と同じ大学でまなび、そのまま会社勤めに。三つ年上の山崎との結婚を前に、友人の佐羽に会いたいと思う。

佐羽:潮の高校時代からの友人。いいところのお嬢さま。

川原衿子:12歳、年の違う義理の母。

川原清:義母の勧めで勉強していたら何となく東大に受かってしまったという。

坂田:金持ちの息子で、高校時代、金の無い清によく奢ってくれていた。高校時代の清の唯一の友人。

津原ユキ:雨の写真ばかり撮っている子。

真代:ユキの会社の同僚。飼っているハムスターはケイジ。

高野啓二:真代の元恋人。

牟田菜摘:高野を狙っていて一人。

森園あけみ:喫茶店「ロマン」で働く、絵にならないおばさん。

羽生高之:研磨機の製造会社に勤務し、製造と営業の双方にかかわりを持つ。

羽生千秋:高之の妻。

羽生千夏:高之の娘で純子の息子と同い年。

純子:2歳年上の夫と子供がいる人妻で、埼玉にある業務用の鋸を扱う会社勤務。高之と付き合っている。

春田真紀:平蔵の妻。結婚後、両親、義妹と次々となくす。

大吉:昔、蛇を捕まえるのが上手だったお兄さん。

清子ちゃん:平蔵の妹で、大学で建築を学んでいたが、山で遭難して死ぬ。

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紙の本

中年の文学

2011/04/29 08:02

4人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:K・I - この投稿者のレビュー一覧を見る

僕はこの書評でひどいことを書くと思う。
でも冷静に受けとめてほしい。これはたぶん「事実」だから。



『神様』は衝撃的だった。
だって、「くま」とピクニックに行くんだもの。
そのくせ、その「くま」はやけに人間くさい。
その他にも人間ではない生き物が出てきて、
それが違和感なく小説の中に溶け込んでいた。
『神様』は川上弘美のデビュー作。
作家の処女作にはその作家の全てがつまっている、
というよく言われる言い方はあんがい当たっているかもしれない。

で、『神様』が出てから、、もう月日は流れている。
『どこから行っても遠い町』を途中まで読んで、
「何か物足りないナ」と思った。
出てくるのは人間ばかりで、もちろん、
連作短編のよさや短編としてのよさは出ているのだけれど、
『神様』のような衝撃度はないなあ、と。

『ざらざら』を読んだときも感じたが、
「川上さんもふつうの作家になってしまったのか」
と少し残念だった。
でもふと、気づいた。
もう川上さんも「中年」といっていい歳だろう。
「これは中年の文学なのではないか?」
そう思って読んでみると、人生の苦みというものが、
よく出ている短編集だと思えてくる。
出てくるのは人間ばかりで、「くま」も「かに」も
出てこなくても、間違いなく、これは、
川上弘美の世界だと感じることができる。

作家も歳をとる。
それにつれて、作家本人もその作品も変わっていく。
たしかに『神様』ほどの衝撃度はないが、
これはこれで、名作だと思う。

川上弘美は東京のある架空の一つの町を
描こうとした。その町に住む人たちの縁(えにし)を
描こうとした。最後の短編でそのことがよく表れていて、
この連作短編集は高い水準に達している。

28歳という中年の入り口の入り口にたたずんでいる
僕にとって、この短編集はこれから待ち受ける
〈人生〉を少しだけ擬似体験させてくれた。
それは甘くて、苦くて、すっぱくて、さびしくて、
つらくて、でも、あたたかい。
そういう〈人生〉……。

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紙の本

どこから行っても遠い町

2011/02/07 14:10

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:るるる☆ - この投稿者のレビュー一覧を見る

東京の小さな町の商店街をゆきかう平凡な人々の
穏やかな日常が淡々と描かれています。
人と人とが連鎖していく短編集。


亡くなった妻の愛人と同居する魚屋、女好きの父親、家庭内別居する両親、クールな女友達、平凡な嫁と風変わりな姑、12歳ちがいの義理の母親、三度よりを戻す板前と女将。

自分の身近にいる人を見つめるまなざしは温かくも厳しい。
そんな親子や夫婦、友達や恋人に抱く言葉にならない思いを、
頭の中をめぐる思いと同じようにぐるぐる、ぐるぐると描く
川上さんの文章が素敵でした。

幸せと言うには不満だらけだけど、不幸せなわけでもない。
人はみな、平凡でありながらもどこか危くて、
でも劇的に変化することもなく、ぐるぐるした思いを
抱えながら生きていくものなのかもしれない・・。


風変わりなお姑さんが素敵な「長い夜の紅茶」が一番好きです。

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紙の本

因果は巡る花車小説

2009/05/04 19:53

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:あまでうす - この投稿者のレビュー一覧を見る




道路の左端に江戸時代に建立された馬頭観音と右かなざわ道と書かれた道路標識が立ち並んでいて、この一帯が古代から幹線道路として重要視されたかすかな面影を伝えていた。

鎌倉石でできたその二基の標識のすぐ隣に立っている一軒の魚屋さんが、おそらくはこの小説の最初に出てくる魚屋「魚清」のモデルではないだろうか、と私は勝手に想像を逞しうした。なぜならその魚屋は小説と同じように三階建てで、一階では魚を商っており、二階は住居部分であり、三階には小さな小屋があるのだが、それを除いた広大なスペースを利用してよくアジやイカなどを天日干にしているからである。

「魚清」を起点にして著者がはじめるのは、東京近郊のとある小さな町の住人たちが織りなす生と死と愛と希望の物語だが、私は私で別の空想を楽しんでいた。

その魚屋には年老いた夫婦二人が長らく商売を続けてきた。彼らの一人息子は東京の大学でフランス文学を専攻し、ソルボンヌに留学をしてからリヨンの大学で教員をしていたと風の噂で聞いたことがある。ところが理由はまったく不明だが、彼は今から一五年ほど前に突然帰国し、しばらくはフランス語の家庭教師の看板をカツオやヒラメの隣に掲げていたのだが、受験勉強に追われるいまどきの学生にこんな時代遅れの言語を学ぼうとする者などいるはずもなく、ある日父親に向かって「俺は魚屋のあとを継ぐ」と宣言したのだった。

魚屋の向かいにはここから鮮魚を仕入れている仕舞店風の鮓屋があったが、いつが営業日でいつが休日なのか客も店主にもよく分からない気まぐれな店だったので、一握りの馴染み客しか寄り付かなかった。
そんな鮨屋金兵衛をことのほか贔屓にしていたのが、金兵衛の隣のガソリンスタンドで働いていたFさんだった。氏は九州大学の理学部を卒業したインテリだったが、ある日大企業を突如リストラされ、とにもかくにも月々の生活費を稼ぐためにエッソスタンダードに飛び込んできたというわけだった。
私とFさんの唯一の接点は、障碍児を持つ父親ということだった。二人は時々金兵衛でゲソなぞをつまみながら、まるで同病相哀れむように、他人にはとうてい聞かせられない情けないグチをこぼしあう仲だった。

新しい年が明けてまもないある夜のこと、いつものように私が金兵衛の暖簾をくぐると、この店ではついぞ見かけたことのない若い女が、ねじり鉢巻きを巻いた徳さんに向かって「もう、あたし我慢できない」と何度も叫ぶように言いながらううすい背中を震わせて泣いていた。
……まあ、ざっとそんな感じの、因果は巡る花車小説です。


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