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商品説明
堅物の同心・玉島千蔭。美貌の花魁・梅が枝。若手人気女形・水木巴之丞。そして、千蔭の見合い相手のおろく。巻き起こる難事件の先に仄見える、秘められた想いとは?江戸の風物を効果的にあしらい、市井の息づかいを丁寧に描き上げた傑作シリーズ、待望の最新刊!情感豊かな時代ミステリーの傑作。【「BOOK」データベースの商品解説】
堅物の同心・玉島千蔭。美貌の花魁・梅が枝。若手人気女形・水木巴之丞。そして、千蔭の見合い相手のおろく。巻き起こる難事件の先に仄見える、秘められた想いとは? 市井の息づかいを丁寧に描き上げた時代ミステリー。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
猪鍋 | 5−94 | |
---|---|---|
清姫 | 95−185 | |
寒椿 | 187−278 |
著者紹介
近藤 史恵
- 略歴
- 〈近藤史恵〉1969年大阪府生まれ。大阪芸術大学文学部文芸学科卒。「凍える島」で鮎川哲也賞、「サクリファイス」で大藪春彦賞を受賞。他の著書に「モップの魔女は呪文を知ってる」など。
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紙の本
おきゃんな年下の義母に、無愛想な許嫁
2009/07/13 12:54
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かつき - この投稿者のレビュー一覧を見る
猿若町捕物帳シリーズ4冊目。
このシリーズを読んでこなかったことを後悔しました。
隠居の父親に、自分の見合い相手をとられたばかりか、
その娘は18で、父親と、祖父と孫くらい年が離れています。
しかも、この母親お駒にすぐ子どもができて
その子が男の子なら世継ぎにしてもいいし、
千陰が嫁を娶るのなら、その子でもいい。
かなり複雑な未来が予想されるのですが
それがまたおもしろくなりそうな予感に満ちています。
そんな同心の玉島千陰にも、風変わりな許嫁ができます。
お見合い相手は、将軍家御目見得の前田家の末娘。
年は28で、色黒で、愛想もない。
ところが、このおろく、目がよくて、算術が得意。
この本でも活躍し始め、同心の妻にはうってつけ! となるのですが
そこがまたひと波乱。
この千陰の見合い話を横軸に、ミステリーを絡めて
3つの連作小説を展開します。
話題の猪鍋屋で食中毒事件が起こり、
女将が川にはまって頓死する「猪鍋」。
人気女形の円之丞が、若い女に刺される「清姫」。
千陰は南町奉行の定廻りですが、
北町奉行の定廻り大石新三郎が冤罪で捕えられる「寒椿」。
語り手は千陰の手下八十吉で、
機敏に立ち回り、千陰の女運のなさにやきもきしています。
突拍子もないお駒やおろくのキャラクターを活かす、
地味な語り口でいい味わいです。
紙の本
私の感じですが、この作品で近藤は宮部みゆきに追いついた、いえ、ある意味で超えたんじゃないか、って思います。とくに伏線の張り方が見事。しかも言いお話。文句なしの★五つ。
2009/04/11 18:54
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ある時期から出るたびに読むようになった近藤史恵ですが、『猿若町捕物帳』シリーズは未読でした。私の場合、今までの本が文庫だったから敬遠したんだと思います。でも、今回、つくづく、読んでおけばよかった、だってこの人、どんどん上手くなっているもの、って思いました。
なにより人や江戸に対する見方、距離感がとてもいい。だから話が甘過ぎず、辛過ぎない。それと伏線の張り方。これはもう、見事としか言いようがありません。読み終わってから、あらためてカバーを見てください。ああ、そうだったのか、って思います。ある意味、宮部を超えた部分もあるんじゃないか、まで言ってしまいたい。
そういう意味で、翠川祥子の装画、片岡忠彦の装幀は、目立ちすぎず、オーソドックスで小説の中身とよくあっています。ただし、それは結果論。何も知らない人がこの姿を見てどれだけこの本に魅力を感じるか、私には疑問です。せめてボリュームがあれば別の評価もあるのでしょうが、これだけでは弱い。だから、言っておきます。この作品、羊の皮を被った狼だ、いや虎だ、ライオンだ、む? 猪か・・・
時代としては何時なんでしょう。今回の話でそれを特定できるような事件は描かれていません。幕末の殺伐とした風は吹いていませんし、黒船の臭いもしません。といって豊臣の残党が潜んでいる様子もない。ある意味、泰平なわけです。だから一九世紀初頭、って勝手に思っています。
先程、江戸に対する見方、距離感を長所にあげましたが、デティールを書き込まずにそれでいて江戸をしっかり感じさせる、人情まで伝わってくるっていうのは中々の技でしょう。ともすれば、時代を匂わす事物にたより、それに溺れる小説が多い中で、このクールさは貴重です。
主人公は、玉島千蔭、と言いたいところですが、そう単純ではありません。父親の千次郎、継母のお駒、許婚のおろく、小物の八十吉、遊女の梅が枝、女形の巴之丞、同心の新三郎、このうちの誰一人がかけてもこのお話は成り立たない、その距離の取りかたが描写不足を少しも感じさせない。
だからといって技巧が前面に出ているわけではありません。視点がころころ変わったり、時間軸を動かしたり、順番を入れ替えたりすることはない。ある意味、描写はきわめてオーソドックスです。でも、技がないわけではありません。宮部みゆきや逢坂剛もですが、才能あるミステリ作家の時代小説には同じ匂がします。それらと並ぶ、あるいは一歩抜いたかもしれない作品の誕生をすなおに喜びましょう。
最後に各話と登場人物の簡単な紹介。
・猪鍋 (「ジャーロ」2007年冬号、春号):義母のお駒が妊娠をしたせいでものが食べられなくなった。心配した千蔭が年下の義母にために探し出したのが、最近行列ができる店として有名になった猪鍋の山くじら屋。なんとか頼み込んで座敷を用意してもらった千蔭が店の女将に頼まれたのは・・・
・清姫 (「ジャーロ」2007年秋号、2008年冬号):千蔭とおろくの見合いは周囲の不安をよそに順調に進んで、縁談が一応まとまった形の二人は芝居見物に。演しものは安珍清姫の世界を下敷きにした新作。清姫を演じるのは人気若女形の水木巴之丞。そして初日が明けて五日後、事件は楽屋口で起きた・・・
・寒椿 (「ジャーロ」2008年夏号、秋号):年が明ければ結納、と決まった千蔭とおろく。胸騒ぎがしてならない八十吉の心配通り事件は起こった。伊勢町の金貸しのところに盗賊が入ったという。もしそれが内藤屋ならばえらいことになる。伊勢町で一番大きく、蔵には金がうわんうわんと唸っているという店に内通者が・・・
玉島千蔭:34歳の堅物。南町奉行所の同心。
玉島千次郎:千蔭の父で、隠居の身。通人。先妻を亡くしている。
お駒:千次郎の後妻で、18歳。本来、千蔭の見合いの相手だったが、彼女のほうが通人である千次郎にほれ込んでしまった。現在、妊娠中。千蔭の上役である与力・青山の孫で甘やかされて育ったため、奔放な性格であまり礼儀など気にしない。母はお佐枝。
おろく:28歳。奥祐筆筆頭の前田重友の六女。見合い42回、断られたのが29回、断ったのが13回。記憶力、観察力に優れ、数字に強く計算が大好きなため、変わり者の噂がある。
八十吉:もともとは千次郎についていた南町付きの小者。千次郎が隠居したので、そのまま千蔭のもとで働く。年齢が書かれることはないが、かみさんのおしげが40をとうに過ぎているらしいことから50代後半ではないだろうか。
おしげ:八十吉のかみさんで、40過ぎてから体つきがますます丸くなったと八十吉は思うが、それは決していやなものではない。
梅が枝:水木巴之丞に瓜二つの吉原の遊女。その美貌から入れあげる客も多いが、気が強く、気にいらない客は自分から断る。あと二年で年季明けになり、自由の身となれる。青柳屋。
水木巴之丞:中村座の人気若女形。昔、千次郎が巴之丞の養父に大恩を受けたことから、玉島家とは親しい。
大石新三郎:北町奉行所の同心。独身。堅物で、縄張りの問題で千蔭に突っかかってくるようなところがあるが、他意はないとして千蔭は大石を高く買っている。
紙の本
今度こそ千蔭に嫁を、と思ったんだけど……
2010/11/23 22:01
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:saihikarunogo - この投稿者のレビュー一覧を見る
玉島千蔭の新しい見合い相手が登場する。奥右筆組頭で将軍家御目見得の前田重友の六女、「ろく」である。以前に四十二回見合いをし、二十九回断られ、十三回断わった。だから今度もまた断わられてもだいじょうぶ、両親も自分も慣れていますと、おろく自ら千蔭に言う。
大石新三郎によると、その十三回のうちの一回の相手が、北町奉行所与力の西川弥一郎である。これもおろく自ら奉行所まで出向いてきて断わったので、そのとき、話をしたことがあるという。
千蔭の継母のお駒は、最近、おなかに赤ちゃんができた。それについて、千蔭に初めて会った日に、おろくが言う。
> 「その子が男の子だとして、元服の年には、お母様は三十四。今の玉島様と同い年でございます」
> 「そして、その年にはわたしは四十三になります。玉島様は四十九です。四十三と四十九を足せば、九十二。では、四十三と四十九をかけると……」
> 「二千百と七になりますわね」
…………なぜ足し算や掛け算をしなければならないのか……?
その後、おろくと千蔭(と八十吉)で、水木巴之丞主演、桜田利吉脚本の、安珍清姫の芝居を見に行った。おろくは、清姫が蛇に変化するのを、食い入るように見ていた。幕間になるとすぐに、千蔭に言う。
> 「あの蛇は、八人で動かしておりましたね」
> 「伸び縮みする節の中に入って、その節の部分を動かしているようでした。動いていた節は全部で八つ、中に入っているのは八人になりますわ」
玉島千蔭による、おろく評。
「嘘のない女性だ」
「おろく殿は、よい目をしておられる」
「注意深く、ものをご覧になる。それはよい目だ」
大石新三郎による、おろく評。
「あの、算術好きの変わり者の女子(おなご)」
西川弥一郎による、おろく評。
「色気のない消し炭みたいな女だが、嫁は別に美しくなくてもかまわぬ。女は外にいくらでも作れる」
おろくでなくても、西川弥一郎みたいなのはこっちから願い下げだ。
玉島千蔭が前田家に訪ねていくと、おろくは算盤をはじいて、炭の値段の勘定をしていた。別に不自由を感じるほど切り詰めなくても、無駄を省き、うまくやりくりすれば、使用人の給金もあげてやれるし、急になにか入用なことがあっても、どこからも借金をしなくてもすむ、という。
> 「だから、千蔭様もご安心なさってください。梅が枝殿……の身請けの代金も、日々切りつめれば、いつか調達することができましょう」
「!」という顔になった千蔭、額に汗を浮かべて、梅が枝とはそういう仲ではないと、申し開きをする。八十吉がそれをおもしろそうに眺める。『にわか大根』では、梅が枝に対して額に汗して言い訳する千蔭を、おもしろそうに眺めていたのだが。
おろくの五人の姉のひとり、喜代が、離縁して実家に戻ってきた。彼女はおろくの幼いときに起こった事件を千蔭に話す。おろくは自分の「よい目」のせいで愛の悲劇が起こったと思い込んで、ずっと自分を責め続けていた。梅が枝を身請けできるように貯金するなどと言ったのもそのせいなので、理解してやってほしいと頼むのだった。
いいおねえさんだなあ、と思っていたら、なんと、喜代は、次第に、千蔭をおろくから横取りしそうな勢いに!
その頃、千蔭とおろくと八十吉と喜八は、大石新三郎の冤罪を晴らすために奔走していた。おろくは優れた決断力と行動力を発揮して、千次郎から、男に生れなかったのがもったいない、と言われた。そして千蔭は、喜代に迫られているようなそうでないような会話をしているうちに、大石新三郎が疑惑を呼ぶもととなった行動の意味に気づき、ようやく、真相をつかむ。
千蔭は、事件解決の切り札として、熊野大社の誓紙を取り出した。それは、梅が枝と交わした起請文だった……
おろくは、玉島千蔭と大石新三郎との出会いによって、幼い時に遭遇した、痛ましい愛の悲劇の呪縛から解放され、めでたく同心の妻に納まることができた。
そして、喜代は……? 気になる……