紙の本
アパルトヘイトの日常はこんな感じか?
2014/08/19 22:15
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投稿者:アトレーユ - この投稿者のレビュー一覧を見る
『夷狄~』で興奮し『恥辱』でがっかりし『少年時代』は名作だと思ったクッツェー。
なんだか作品ごとに表情が違うんだな。
アパルトヘイトの実情を、私達は知っているようで知らない。
現地での生々しさが伝わるような、非道さだけでもなく、平穏だけでもなく、よいも悪いもひっくるめての日常が進んで行く。
そこがまたリアルさを出している気がする。
生きてゆくべき子供達の死と、死期の近い老婆の生。
ここにもまた、白か黒か、では割りきれない、テーマが顕されている。
全体に漂う、このパラドックスの雰囲気が、先の予測を読めなくさせているあたりがまた、おもしろかった。
紙の本
おお、なんと勇気凛々の超楽天主義者であることよ!
2009/05/08 21:18
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投稿者:あまでうす - この投稿者のレビュー一覧を見る
南アフリカのケープタウンに住む元ラテン語教師の70歳の女性がアメリカに住む娘に宛てた長い遺書である。彼女はガンに冒されていて余命いくばくもないが、アパルトヘイトのただなかにあるこの極南の地にあって、いっけん自由な、そして孤独な生活を強いられている。
トランジットしては通過して行く者たちのように彼女の家を訪れるこれも孤独で心を固く閉ざした男や通りすがりの女、そして彼女の子供たちがいる。
誘蛾灯にさそわれて飛んできた蛾のようにいつの間にか老女の周りに集まってくる見知らぬ赤の他人たち。その醜悪で悪臭を放つ気味の悪い連中を、われらが老いたるヒロインはあたたかく迎え入れ、非道な国家権力や警察の暴力によって日常生活の平安を徹底的に脅かされながらも、容易に他人の善意を信じようとしない彼らと誠実に向かい合う。
残された日が短い彼女にとって、この世におけるゆいいつの救いとは、たまさかに彼女の懐に落ち込んだ任意の男、限りなく胡散臭く、薄情で誠実さのかけらもない1人の中年男をひたすら信じきること、その1点に賭けることなのだ。
彼女にとってこの悲惨で絶望的な争闘の「鉄の時代」のあとに来るべきは、人類が友愛でゆるやかに結ばれるはずの「青銅の時代」であり、それに続く「銀と金の時代」なのである。おお、なんと勇気凛々の超楽天主義者であることよ!
それゆえ、小説の掉尾をあえかに彩る2人の抱擁は、少しく感動的ですらある。
♪遥かなるエルドラドの輝きは幻かわれら冷え行く鉄の時代に生きる者 茫洋
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あれよあれよと言う間に引き込まれる。
2018/12/26 19:09
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投稿者:ROVA - この投稿者のレビュー一覧を見る
登場人物が揃いも揃って好きになれないタイプのキャラクターで
(たぶん誰が読んでもそう思うんじゃないかと)
これ楽しめるかなあと不安に思いながら読み進めましたが
最初は一番不快だと思ってたファーカイルの「解け」ていく感じが
まーたうまい具合に絶妙で!じりじりするうちにすっかり見方が変わってしまいます。
本編のテーマであろうアパルトヘイトの凄惨さにも心を動かされますが
ラストシーンの二人が何ともたまりません。
そしてこんなリアルな老女の語りを書ける男性である作者すごすぎ。
(余談ですが、この「遺書」読まされる娘はたまったもんじゃないですね?(笑))
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人種差別に正面から向き合った作品。舞台はアパルトヘイトの影響がまだ残る南アフリカ。死に直面する一人の白人老婆の心理的描写が鮮やかで、一人の人間として訪れる死との葛藤と、社会の変革に対する葛藤から生まれる感情がとても印象的だった。フィクションではあるけれども、とてもためになる。
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何度も感想を書こうと思ったんだけどなんて書いたらいいのか分からない。っていうのが本音です。
こんなに理不尽な暴力がつい最近まで合法化されている社会があったなんて。作品中にほとんど肌の色の直接的描写がないのに誰が白人で誰が黒人か分かってしまう恐ろしさ。
主人公の白人のどうしようもない諦めと嘆きが本当にこころに突き刺さりました。
タイトルセンスにも絶句。こんなに深い意味があったなんて。
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一言では言い表せない重たい本でした。
重たいけれどけしていやな感じではなく、むしろ今知ることが出来てよかった、と感じました。
歴史で学んでも「アパルトヘイト」「黒人迫害」と字面でしかとらえていなかった事実を南アフリカの乾いた空気、多くの人たちの血の溶け込んだ重たい土地を自分の中にずっしり感じながら知ることが出来ましたから。
末期がんのため娘に残す長い長い遺書はその題名の深い意味とともに心に残りました。
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[ 内容 ]
反アパルトヘイトの嵐が吹き荒れる南ア、ケープタウン。
末期ガンを宣告された一人暮らしの初老の女性ミセス・ヘレンは、自分が目の当たりにした黒人への暴力の現実を、遠く離れて暮らす娘に宛て、遺書のかたちで書き残す。
そして、彼女の家の庭先に住みつき、次第に心を通わせるようになったホームレスの男に、その遺書を託そうと決意するのだった―英語圏を代表する作家の傑作を初紹介。
[ 目次 ]
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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きっとこれから注目をされることが多くなってくる一冊だと思います。
舞台は南アフリカのケープタウン、次回W杯開催国です。
痛ましい歴史を持つ南アフリカ。
特にアパルトヘイトを記憶している人は多いでしょう。
差別というのはあらゆる世界で存在することです。
たとえ目の前に差別が存在していたとしても見てみぬふりを貫く人もいるかもしれません。
差別は恐ろしいほど人の心を歪めます。
でもその差別と正々堂々闘える人は本当に強い人だと思います
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〈われわれ 対 彼ら〉の関係性を書いた小説だが、その対立軸が色々な方向に向いているせいで話が複雑になっている。子供対老人の世代間不和、白人対黒人の人種間不和、政府対リベラル派の保守-革新不和、おなじ白人でも富裕層とファーカイルのような最下層の不和など。
一瞬即発の対立構造の力学が複雑な状況のまま提示されていて、登場人物の誰にも感情移入を許さないような小説だと思った。そのような〈敵 対 味方〉の時代に、身元もたしかでない浮浪者のフローレスに大事な手紙を託すミセス・カレンの、権力に対する最後の抵抗である〈他人への信頼〉は印象的だった。
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主人公は70歳の癌に冒された老女。舞台はアパルトヘイト制度が揺らぎ始めた南アフリカ。10年前に故国を捨ててアメリカに移住した娘への遺言という形式で話は進む。
癌に冒された体と差別制度が崩壊しつつある国というのは1つの対称となる。終わりを間近に控えているわけだが、異なるのは癌はそのときの死という確実な未来を明示し、差別制度はそのときにおいてまだ混乱であり、先行きの見えない状況にある。
鉄の時代はヘシオドスの「労働と日々」における混乱と破壊の時期を指す。制度だけでなく、文化や精神が乱れてカオスな状況。それは主人公の体とそれまでのモラル、期待、思い出の置かれた状況をも指す。
問題は、死に臨んで、壊れていく体や国を嘆くだけでなく、同時にその自分の嘆きが正当であるかどうかについての確信が揺らぎながらも問い続ける自分という存在の確かな在処が分からなくなることだ。
そこでキーになる人物が家の近くに浮浪していたホームレスである。かつての自分の生き方からすれば風貌、性格、感性、倫理観ほとんどすべてにおいて侮蔑するか無視してきたはずの存在である。それが特に理由は分からないが、そばにおいておきたくなる。そしてこの浮浪者に自分の死後、遺言をアメリカにいる娘に届けてくれるように託するのであるが、主人公はその約束が守られるかどうかはかなり疑問している。むしろ否定的であると言ってよい。
ただ、それだからこそ、「信頼出来ないからこそ信頼しようと思い、愛することができないからこそ愛する」ことにする。それは今まで、信頼を必要としないほどに信頼でき、愛を必要としないほどに愛に囲まれていた自分の歴史に対する決別であり、自己再構築を意味した。さらにそれは自己の運命にもおよび、意味がある故に意味を見いだす必要のなかった人生のはずが、実は意味が無いことに恐れながら気づき、意味が無いからこそ意味を見いだす心境の変化へとつながっていく。
そうして自分が死ぬときには、世界も自分も「鉄の時代」から「青銅の時代」へ、またそこから「銀の時代」「黄金の時代」へと綿々と続いていく新たな希望(意味)を発見するのである。
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アパルトヘイト時代の南アフリカを舞台にした作品。主人公の白人女性が末期ガンを宣告されたところから話が始まるが、闘病的なものではなく、庭先に住み着いたホームレスとの交流や、メイド(黒人)の息子やその友達の巻き込まれる過酷な状況といった話が中心である。
ささくれだったストーリーと状況、心理がクッツェーらしい感じ。決して娯楽作品ではないが、読む価値はある。
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妙な嫌悪感はどこからくるのだろう。誰を信頼して読めばいいのかわからない不安感に襲われる中、半ばやけくそにもみえるが、少しずつ縮まっているような距離感だけが、ほんとのことのように見える。
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『夷狄~』で興奮し『恥辱』でがっかりし『少年時代』は名作だと思ったクッツェー。
なんだか作品ごとに表情が違うんだな。
アパルトヘイトの実情を、私達は知っているようで知らない。
現地での生々しさが伝わるような、非道さだけでもなく、平穏だけでもなく、よいも悪いもひっくるめての日常が進んで行く。
そこがまたリアルさを出している気がする。
生きてゆくべき子供達の死と、死期の近い老婆の生。
ここにもまた、白か黒か、では割りきれない、テーマが顕されている。
全体に漂う、このパラドックスの雰囲気が、先の予測を読めなくさせているあたりがまた、おもしろかった。
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読み易い本ではなかったけど、興味深く読めたと思う。珍しく。100冊読んで99冊はつまんないからなあ。。苦笑
訳者や選者池澤夏樹氏の解説はまだ読んでない。
バイアスが入る前の感想を書こうと思った。
帯に池澤氏は「差別が制度化された南アで差別がどう人の心歪めるか」と書いてる。
だけど僕は差別が主題ではないという気がしたな。むしろ「孤独死」。
僕にも、まったく同様の事が起こりうること。この瞬間にも東京でもどこでもきっと起きていること。
その心情、気持ちの移り変わりが1人称でつづられる。
最後、少し救われたのかな。。いや救いというよりあきらめ。達観かな。。
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これまで読んだクッツェーの作品の中で、マイケルKと並んで読みやすいと感じだ。どちらもくぼたのぞみ氏の訳によるからなのだろうか。
かといって内容が平易だっということではない。著者の他の作品に比べると直情的で単純な話のようにも感じられるのだが、マイケルK同様、アパルトヘイトの本質に対する理解がないと表面的な読書経験になってしまうのだろう。再読したい。(鉄道とは何の関係もありません。念のため)