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偉大なる、しゅららぼん 偉大なる、しゅららぼん
YO-SHI/「琵琶湖には何か秘密があるはず」と私も思う。特別な力を授けられた「湖の民」の物語。
 著者は、奈良では神の使いの鹿に話しかけられ、京都ではオニたちを操り、大阪では豊臣の姫を守った。そして今回の舞台は、日本最大の湖である「琵琶湖」を擁する滋賀。琵琶湖から特別な力を授けられた「湖の民」の物語だ。 琵琶湖の東岸にある「石走(いわばしり)」の街は、日出(ひので)一族が絶大な力をふるう街。一族が持つ「他人の心を操る」力によって財をなし、かつてのお城の本丸御殿で暮らしている。ちなみに一族の力のことは、物語が始まって早々に読者には明かされる。 主人公の日出涼介は、お城に住む本家からは遠縁になる高校生。日出一族の力を授かった者は、高校の3年間を本家で暮らし、その力の修行をする決まりになってい…  全文読む 評価する

くちびるに歌を くちびるに歌を
YO-SHI/恋、友情、家族...。陳腐に聞こえるけれど素直に受け入れられる。ラスト10ページで落涙。
 舞台は長崎県五島列島のある中学校の合唱部。主人公はその部員の仲村ナズナと桑原サトルの2人で、それぞれの視点からの物語が交互に語られる。2人とも3年生。しかし、ナズナは同級生や後輩に慕われる合唱部の主要メンバーだけれど、サトルは人とのコミュニケーションが苦手で「自称(ひとり)ぼっちのプロ」。そんなサトルは、ひょんなことから3年生の春に合唱部に入部した。 本書はいくつもの物語が縒り合さって、大きな物語が織り上げられている。恋、友情、家族、不安、衝突、命。言葉にすると陳腐に聞こえるけれど、それを中学生が語ると素直に受け入れられる。時折挿入される登場人物たちが書いた手紙の効果も大きい。 この合唱部は…  全文読む 評価する

アーカイブズが社会を変える アーカイブズが社会を変える
YO-SHI/「公文書管理法」本書を読めば、これが国の有り方にも関わる重要な法律であることが分かる。
 本書は、日本経済新聞社の編集委員を務める著者が、「公文書管理法」という法律がこの4月施行されたことを受けて書いたもの。著者は、およそ8年半前に公文書問題の重要性を知り、その後に数多くの機関、個人を取材している。「公文書管理法」は、震災後の世の中がざわつく中で、その施行はあまり注目されなかった。しかし本書を読めば、それが国の有り方にも関わる重要な法律であることが分かる。 「公文書管理法」とは、国や独立行政法人等が作成した、公文書等の管理の仕方を定めたもの。その肝は、歴史資料として重要な公文書は、保存期間満了後に国立公文書館等に移管する、としたことだ。これによって、将来の検証に応え説明責任を果た…  全文読む 評価する

もう一つのシアター! もう一つのシアター!
YO-SHI/「シアター!」シリーズが好きな読者には、抗いがたい魅力。
 著者の作品「シアター!」「シアター!2」に登場する小劇団「シアターフラッグには、「Theatre劇団子」というモデルとなった実在の劇団がある。本書は、その「Theatre劇団子」が「シアターフラッグ」の面々を演じる舞台「もう一つのシアター!」の脚本だ。 劇団が劇団を演じる、それも自身がモデルになった小説の中の架空の劇団を。そしてその脚本を、(諸般の事情でそうなったそうだけれど)小説の著者が自ら書く。本書には、こんな面白い仕掛けがいくつも施されている。 物語の舞台は「シアターフラッグ」の地方公演。と言っても、高校の文化イベントに呼ばれたもので、入場料が取れないので儲けは望めない。ただ、公演依頼…  全文読む 評価する

ニッポンの書評 ニッポンの書評
YO-SHI/「正解」はない。人気の書評家が考える「面白い書評」「ダメな書評」を知りたい方にはオススメ。
 著者はプロの書評家(プロフィールには「ライター、ブックレビュアー」とある)で、「GINZA」「本の雑誌」「TV Bros」といった雑誌などで、書評を多数連載している。本書は、現在は休刊になっている光文社のPR誌「本が好き!」の、2008年~2009年の連載記事に加筆修正したもの。 「面白い書評はあっても、正しい書評なんてない」というのが、著者の基本スタンス。本書では、「粗筋紹介」「援用」「ネタばらし」の是非、「日本と海外」「プロの書評と感想文(ブログ書評)」という比較、といった様々な観点を設けて、具体的な「書評」を一つ一つ俎上に挙げて評していく。そうすることで「面白い書評」の姿を浮かび上がら…  全文読む 評価する

コロヨシ!! コロヨシ!!
YO-SHI/三崎亜記さんの新境地は、怪しげで危険な雰囲気を街を舞台とした「青春小説」
 これはハマってしまった。著者の作品を何冊か読んで、「なるほど三崎亜記さんは、こういう物語を書くのだな」などと、何か分かったような気でいた。しかし、本書は私が思っていた三崎作品とは全く違う物語だった。 主人公は高校2年生の藤代樹。「掃除部」に所属している。そう、本書では「掃除」はスポーツになっている。「長物」という棒状のもので、「塵芥」という羽根を扱う演舞で、芸術性や技術の高さを競う。彼は、昨年の新人戦で優勝し、今は掃除部のエースになっている。 主人公を一人紹介しただけで、ちょっと設定が風変わりなものの、本書がいわゆる「青春小説」だと想像する人は少なくないだろう。その通りだ。樹は、仲間に支えら…  全文読む 評価する

〈不安な時代〉の精神病理 〈不安な時代〉の精神病理
YO-SHI/被災地での「さぁ復興だ」という力強い声に、私たちは励まされる。それも危ういものなのかもしれない。
 著者は、テレビ出演も多いが、書籍や雑誌、新聞などの紙媒体でも度々お目にかかる。それらを読んで、私は「その通りだ」と思うことが多い。「なるほどそうか」という「気付き」もある。「ネット王子とケータイ姫」「しがみつかない生き方」を読んだ時もそうだった。 帯に多くのメッセージが踊る。「私を、日本をあきらめないために」「混迷する社会をどう生きるか」「精神科医からの緊急提言」「支え合う心、守るべき命、未曾有の出来事を乗り越えるためにできること」。「あとがき」によると、本書は昨年から執筆を始めて、途中で一時凍結の時期があって、震災によって再びの凍結を経て、出版に至ったそうだ。帯のメッセージは、「震災後」を…  全文読む 評価する

村田エフェンディ滞土録 村田エフェンディ滞土録
YO-SHI/「不思議」を許容するゆったりした空間。「家守綺譚」と対になる物語。
 タイトルの意味を後ろから追うと、「滞土録」の「土」は「土耳古(トルコ)」の頭文字、エフェンディ」はトルコで昔使われていた、学者に対する尊称、「村田」は主人公の名前。つまり「村田エフェンディ滞土録」は、「村田先生のトルコ滞在記」の意味。 時は1899年、舞台はイスタンブール。主人公の村田は、トルコ皇帝からの招聘を受けて、かの国の歴史文化の研究のために来ている。1890年に起きたトルコの軍艦「エルトゥールル号」の和歌山沖での遭難事件での、地元民の献身的な救難活動への返礼としての留学なのだ。しかし彼はまだ青年で、大学の史学科の講師。「エフェンディ」と呼ばれるのは、自分でもしっくりこないらしい。 そ…  全文読む 評価する

県庁おもてなし課 県庁おもてなし課
YO-SHI/グダグダだった「おもてなし課」が、徐々に「使える集団」に。もちろんラブストーリーもあり。
 帯に「史上初、恋する観光小説」とある。まず「観光小説」って何だろう?と思ったが、今なら分かる。本書の舞台は高知。読み終わって「高知に行きたい」と無性に思った。観光をちょっとだけ擬似体験させて「あぁそこにホントに行ってみたい」と思わせるのが「観光小説」だ。 上に書いた通り、舞台は高知県。県庁の観光部に新しくできた「おもてなし課」を中心に物語は回る。主人公はそこの課員の掛水史貴。入庁3年目の25歳。課の中では一番若い。観光客に「おもてなし」する心で県の観光を盛り立てようという「おもてなし課」は、手始めに掛水の発案で「観光特使」の制度をつくった。 掛水の発案、と言えば聞こえがいいが、「そういう自治…  全文読む 評価する

知事抹殺 知事抹殺
YO-SHI/この本が、もっと広くもっとクローズアップされるようになるのは時間の問題だろう。
 震災と原発事故のために世の中が不安定になっている現在。本書は、すでに各所で話題になっているし、もっと広くもっとクローズアップされるようになるのは時間の問題だろう。 この本は、前の福島県知事である著者が、自身の汚職事件について無実を訴える手記で、1年半前に出版された。しかしその内容は、今の不安定な現状に直接的にリンクしている。本書が真実ならば、私たちは頼れるものを失ってしまう。いや、もともとそんなものは失って久しいのかもしれない。 著者によると、この汚職事件は東京地検特捜部の捏造だということなのだ。検察が創造したストーリーに合うように、強引な取り調べによって取った調書を積み重ねたに過ぎないとい…  全文読む 評価する

四畳半王国見聞録 四畳半王国見聞録
YO-SHI/見渡すかぎり阿保ばっかり。愛すべき腐れ学生たち。
 yom yom、小説新潮、ユリイカといった小説誌に掲載した短編が7編収められた短編集。掲載誌が3誌あって、掲載された時期もまちまちなのだけれど、登場人物たちがほぼ共通しているので、連作短編といって良いだろう。 単行本の刊行順で言うと、本書の前が日本SF対象を受賞した「ペンギン・ハイウェイ」、その前は「宵山万華鏡」。著者の作品と言えば思い浮かぶ「腐れ学生」モノからは、ちょっと距離を置いた作品が続いた。そして本書は..「四畳半神話大系」を彷彿させるタイトルでお分かりだろう。愛すべきダメダメ学生たちが帰ってきた。 最初の一編「四畳半王国建国史」に慄いた。「四畳半王国」の国王が、京都は東山ふもとにあ…  全文読む 評価する

シアター! シアター!
YO-SHI/待ち望んでいた続編。これぞ「青春」これぞ「ドラマ」
 メディアワークス文庫創設の目玉として刊行された「シアター!」の続編。ダ・ヴィンチ(2010年1月号)に「もし読者さんに受け入れてもららった時は、続きを出せるようなものを」という著者のインタビュー記事が載って1年あまり。私の周辺では、読者は「受け入れた」なんてもんじゃなくて、続編を「切望」していた。 前作は、悩める青春をスカッと描いた爽快感のある物語で楽しめた。しかし続編を「切望」した理由はそれだけではない。舞台に魅力的なキャラクターが11人もいるのに、ライトが当たったのは数人。「これじゃ全然足りない」という飢餓感にも似た気持ちが、切に続きを求めたのだ。 登場人物の11人は、そこそこ力のある小…  全文読む 評価する

折れた竜骨 折れた竜骨
YO-SHI/ファンタジーでありながら本格ミステリーの謎解きが味わえる
 物語の舞台は、グレートブリテン島の東、北海に浮かぶ架空の島のソロン島と小ソロン島からなるソロン諸島。時代は12世紀の末。主人公は、ソロン諸島を治めるエイルウィン家の娘のアミーナ、16歳。 物語は、アミーナの父で領主であるローレント殺害の犯人探しを軸に進むミステリー。トリポリ伯国からきた騎士のファルクと従者のニコラが「名探偵と助手」の役割。 領主一家が住む小ソロン島は、150ヤードの海でソロン島と隔てられていて、夜間は「自然の要害」と化す。ローレントがその夜、殺された「作戦室」に居ることは、限られた人しか知らなかった。などを手がかりに、2人とアミーナが、犯人に一歩二歩と近づいていく。 ファルク…  全文読む 評価する

アマルフィ アマルフィ
YO-SHI/正義感と行動力。カッコいい外交官の活躍を描く痛快サスペンス
 型破りな外交官が活躍する、国際問題やテロリズムも絡む硬派なサスペンス。 主人公は黒田康作。外交官で「邦人保護担当特別領事」という肩書を持つ。その実態は、外務省トップの事務次官の特命を受けるテロ対策・要人警護のスペシャリストだ。今回は、外務大臣の訪伊を受けてローマの日本大使館に赴任する。(ちなみにタイトルの「アマルフィ」はイタリア南部の観光地の名前。アマルフィ海岸は世界遺産になっている。) そこに、日本人少女の誘拐事件が起きる。本来、捜査権限を持たない外交官は、その国の警察に事件の捜査を任せ、オブザーバーに徹するのが原則なんだそうだが、黒田は「邦人保護担当」という肩書ゆえ、それが本務だとして、…  全文読む 評価する

失われた町 失われた町
YO-SHI/大切な人を失った人々の、哀しくも力強い物語
 私には、すごく面白かった。「私には」とわざわざ付けたのは、これはダメな人には徹底的にダメだろう、と思ったからだ。その理由は、本書の独創性にある。ジャンル的にSF、恋愛小説、サスペンス、ミステリー、ヒューマンドラマ、本書はこれらの境界にあって、何か1つのものだと思うと非常に宙ぶらりんな感じなのだ。 また、「町が消滅する」という設定はともかく、「消滅耐性」「別体」「余滅」など、独創的な設定と造語が多い。それが、冒頭の「プロローグ、そしてエピローグ」という章に頻出するのだから「ついていけない」と思う人もいるはず。実際、私も面くらってしまった。 しかし、ここで挫けずに先へ進もう。章題で分かるように、…  全文読む 評価する

モーツァルトの陰謀 モーツァルトの陰謀
YO-SHI/どこか陰のあるブロンドのヒーロー、ベン・ホープ。続くシリーズが楽しみな第2弾。
 「消えた錬金術師 レンヌ・ル・シャトーの秘密」に続く、「ベン・ホープ」シリーズの第2弾。主人公ベン・ホープは、長身でブロンドの髪の英国陸軍特殊空挺部隊の元精鋭。 過去の悲しい出来事の影響もあり、誘拐された子どもの救出を生業としている。子どもを誘拐するような連中が相手であるから、銃の引き金を引くのに躊躇はしない。鋼のように強い精神力の持ち主なのだが、どこか陰と脆さが漂う。 そのベンにも一時は心を許し将来を考えた女性がいた。軍隊時代からの親友オリバーの妹で、今は有名なオペラ歌手になっているリーだ。15年前にベンはリーの許を黙って突然去った。 1年ほど前にオリバーが亡くなって、その葬儀でベンはリー…  全文読む 評価する

上と外 上と外
YO-SHI/エイタテイメントに徹した冒険と家族の物語。涙腺の弱い方は注意。
 本書の単行本版を図書館で見かける度に、いつか読もうと思っていたのだけれど、510ページの2段組の分量に怯んで、なかなか手を出せないでいた。 本書はそれを上下巻の文庫にしたもので、上巻が447ページ、下巻が512ページと、当たり前だけれど、やっぱりかなりの分量だ。 分量が多いのも当然で、本書は元は2000年8月から1年間に亘って隔月で発刊された6冊の文庫シリーズなのだ。つまり出版社は、文庫シリーズを一度単行本化し、それを再び上下巻にして文庫を出している。きっと評判が良かったのだろう。 読み終わって「2段組だろうが510ページだろうが、もっと早く読んでいれば良かった」という気持ちになった。エンタ…  全文読む 評価する

小惑星探査機はやぶさの大冒険 小惑星探査機はやぶさの大冒険
YO-SHI/「はやぶさ」の打ち上げ前からの7年間を追った迫真の報告
 小惑星「イトカワ」への往復60億キロ7年間の旅を終えて、昨年6月13日に地球に帰還し、「イトカワ」で採取した試料が入っている可能性がある「カプセル」を残して大気圏で燃え尽きた、小惑星探査機「はやぶさ」。本書はその打ち上げ前から帰還後までを、ノンフィクション作家の著者が多くの関係者の取材を基に記録したものだ。 「素晴らしい」の一言に尽きる。何がかと言うと「はやぶさ」のプロジェクトに関わった、川口淳一郎プロジェクトマネージャ他の技術者・スタッフの皆さんが、だ。何という技術力、何という創意工夫、そして何という粘り強さだろう。望んでも手に入るものではないと思う。 そして、この記録を7年前から取材を続…  全文読む 評価する

希望のつくり方 希望のつくり方
YO-SHI/「希望」とは何か?そこから始めることで見えてくる現状打破の糸口
 「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない」。本書を紹介する時に多くの人が触れるであろう、村上龍さんの「希望の国のエクソダス」のこのセリフから私も始めたい。このセリフは本書の中でも何度か引用され、本書の著者がまとめた「希望学」という本には、村上龍さんが推薦文を寄せている。 「希望の国のエクソダス」の刊行は2000年。それから10年余を経ても状況は一向に好転しないことは周知の通りだ。ただ私は思うのだけれど、あまりにスッキリと「希望がない」と言われて、私たちは納得してそれを受け入れてしまったのではないだろうか。そして逆にこの言葉に縛られて気持ちを切り替えられない…  全文読む 評価する

ペンギン・ハイウェイ ペンギン・ハイウェイ
YO-SHI/著者の新しい引き出しから出てきた淡彩画のように淡いファンタジー
 「また1つ、著者の新しい引き出しが開いた」そんな感じがした。著者は「太陽の塔」「四畳半神話大系」で、臭うような腐れ大学生を描いて登場し、「きつねのはなし」「宵山万華鏡」で妖かしの京都を描いた。エンタテイメント作品の「有頂天家族」もある。 「腐れ大学生」にインパクトがあってクローズアップされがちだけれど、このように色々な物語を次々とつづっている。ただし、そこにはいつも「濃密な空気感」があった。しかしこの作品に感じる空気は淡彩画のようにとても淡い。これはまったく別の引き出しから出てきたもののようだ。 主人公はアオヤマ君。郊外の街に住む小学校4年生の男の子だ。彼は毎日きちんとノートを取る。授業だけ…  全文読む 評価する

日本人へ 日本人へ
YO-SHI/後から振り返って、「あぁ、そのとおりだった」と思う記事のなんと多いことか
 1ヶ月前に発行された「日本人へ リーダー篇」の続編、というより上下巻の下巻といった方が的確だろう。「リーダー篇」が月刊誌「文藝春秋」の2003年6月号から2006年9月号までに掲載された著者のエッセイで、この「国家と歴史篇」はそれに続く2010年4月号までに掲載されたものだからだ。 約4年前の2006年9月と10月を挟んで、それ以前と以後でこんなにも臨場感が違うものかと驚いた。前著に比べると本書は圧倒的な迫力で迫ってくる。もちろんそれは、前著は著者の筆が鈍かったということではなく、物事が人の(私の)関心から急速に遠ざかってしまう、ということなのだろう。 そういうわけで、2冊とも読むに越したこ…  全文読む 評価する

マークスの山 マークスの山
YO-SHI/改稿を重ねて更に研ぎ澄まされた直木賞受賞作
 「警察小説」というジャンルの作品。本書の主人公は合田雄一郎という刑事。警視庁捜査一課七係の警部補で33才。上を見れば何階級もあるし、横を見れば同じ課の中でも、いや係の中でもライバルとしのぎを削る。まぁ大筋では協力する方向で一致しているのだけれど、外に漏れたら捜査の支障になる情報は、警察内部でも公にはできないこともある(らしい)。 さらに検察という組織は、警察とは利害が一致するとは限らず、これも本書の背景になっている。こうした警察内部や検察との軋轢や駆け引きの中で合田刑事を動かし、さまざまな人との関係を描くことで、人間としての合田雄一郎が浮かび上がる。本書の魅力の1つはここにある。 著者は改版…  全文読む 評価する

戸村飯店青春100連発 戸村飯店青春100連発
YO-SHI/兄ちゃんガンバレ!読み終わってそんな声をかけたくなった。
 アンソロジー作品の「Re-born はじまりの一歩」に収録されていた「ゴーストライター」という作品が本書の第1章となっている。 この本は、ホントに面白かったし楽しめた。おまけに少し泣ける。「ゴーストライター」を読んだときには、「Re-born」は再生や再出発の意味だと考えて、高校生の主人公コウスケの淡い失恋と、兄との関係の再認識を描いたものだと思っていた。しかし著者は、続く5章を書き下ろして、もっと味わい深くしかも笑わせてくれる物語に仕上げてくれた。 コウスケが主人公だと思っていたら、なんと第2章の主人公は兄のヘイスケだった。無責任で要領ばかり良くて、大阪の下町の中華料理店「戸村飯店」を営む…  全文読む 評価する

絶対製造工場 絶対製造工場
YO-SHI/90年前の作品が我々に提示するものは何か?
 著者は、20世紀初めのチェコの作家。著者のことは、「R.U.R(Rossum's Universal Robots)」という作品で「ロボット」という言葉を世に送り出した作家として記憶されている方も多いだろう。この作品は、1921年の「R.U.R」の発表の直後から翌年にかけて「人民新聞」に連載されたもの。つまり実に90年も前の作品なのだ。 ある優秀な技師が、物質の原子エネルギーを完全に消費する装置「カルブラートル」を発明した。その装置では、1キログラムの石炭で工場を数百時間稼動させることができるという。「夢のエネルギー機関」であるこの装置は、瞬く間に世界中の工場、輸送機関、発電所など…  全文読む 評価する

フリー フリー
YO-SHI/「無料の経済」に今後の何か重要なヒントが感じられる
 「<無料>からお金を生み出す」といっても、錬金術まがいの怪しげな本ではない。「ラクして儲けよう」というお気楽な本でもない。念のため。 "There is no such thing as a free lunch."という言葉をご存知だろうか?普通に「タダのランチなんてものはない」と訳せばいいのだが、「タダのものには裏がある(から気をつけろ)」という格言でもあり、「タダのように見えてもどこかで対価を払っているのだ」という経済用語でもあるらしい。いずれにしても「Free(無料)」という価格には懐疑的な目が向けられている。 そして本書は、タイトルの通りこの「無料」を正面から考…  全文読む 評価する

かのこちゃんとマドレーヌ夫人 かのこちゃんとマドレーヌ夫人
YO-SHI/中高生に読んでもらいたい、ほのぼのとしてちょっと切ないファンタジー
 「鴨川ホルモー」や「プリンセス・トヨトミ」で、奇抜な設定で笑わせたり、呆れさせたりしてくれた著者の次なる作品は、ほのぼのとしてちょっと切ないファンタジーだった。タイトルになっている、かのこちゃんは小学校1年生の女の子、マドレーヌ夫人は外国語を話すメスの赤トラの猫だ。 かのこちゃんは、お父さんとお母さんと暮らし、犬の玄三郎を飼っている。ある豪雨の日に、マドレーヌはやってきた。そのままかのこちゃん家に住み、玄三郎と夫婦になった!?マドレーヌ夫人が話す「外国語」とは、犬の言葉。正確には玄三郎の言葉が分かる。 第1章と3章はかのこちゃん、2章と4章はマドレーヌ夫人の視点から描かれている。かのこちゃん…  全文読む 評価する

オー!ファーザー オー!ファーザー
YO-SHI/父さん!と呼びかければ応える父親が4人、4人で理想の父親が完成
本書は2006年から2007年にかけて、いくつかの地方新聞に掲載された、いわゆる「新聞小説」に加筆修正したもの。発表の時期的には「ゴールデンスランバー」の直前。著者自身のあとがきによると、「あまり好きな表現ではない」と断りながら、「ゴールデンスランバー」以降が第二期と呼べるかもしれない、とある。つまり本書は、著者の第一期最後の作品なのだ。 著者の作品の人気の理由は、気の利いた会話や愛すべきキャラクター、そして巧みな伏線だと思う。そしてそれは著者がいう第一期の作品にこそ色濃く出ていた。第一期最後の作品である本書は、その特長を存分に楽しむことができた。 主人公は高校2年生男子の由紀夫。成績は優秀、…  全文読む 評価する

知らないと恥をかく世界の大問題 知らないと恥をかく世界の大問題
YO-SHI/分かりやすいニュース解説は著者の真骨頂。ただ、もう少しじっくりと聞いてみたい。
 著者は、ニュースの分かりやすい解説が評判で、テレビ番組で引っ張りだこだ。この本も帯に「世界のニュースが2時間でわかる!」とあり、「分かりやすさ」「お手軽さ」が特長だ。 内容は、世界の勢力地図、アメリカの覇権の崩壊とパワーシフト、世界の問題点、日本の問題点、と今の世界を網羅的に説明している。歴史的な流れを踏まえた考察やウラ話的なものも交えてあり、新聞記事より奥行きがある情報が得られる。 「はじめに」で世界金融危機のことに触れ、「ブッシュ大統領以外の世界の指導者たちは、歴史に学んでいました」と書いているように、ブッシュ政権(あるいはブッシュ元大統領個人)には大変厳しい眼を向ける。今世界が抱えてい…  全文読む 評価する

若き友人たちへ 若き友人たちへ
YO-SHI/著者の「ラスト・メッセージ」が指し示す将来は?
 著者は2008年11月に亡くなっている。本書は、集英社新書編集部が著者の死後に、集英社のPR誌に書いた「若き友人への手紙」という連載と、早稲田大学と立命館大学での講演を基に構成したものだ。 PR誌への連載は、著者がすでに病に冒された後「遺しておきたい言葉がある」と言って、何度か掲載したものを新書の形でまとめる、ということで始めたものだそうだ。しかし、病の進行のために連載は2回しか続かなかった。だから本書は言わば著者の絶筆、まさに「ラスト・メッセージ」なのだ。 「若き友人への手紙」という連載と、大学での講演が基になっているのだから当然だが、内容は大学生ぐらいの若い世代へのメッセージだ。全編に感…  全文読む 評価する

影のオンブリア 影のオンブリア
YO-SHI/世界で一番古い都の歴史が堆積した「影の都」
 著者は「妖女サイベルの呼び声」で1975年に世界幻想文学大賞を受賞し、30年近く後の2003年に本書で再び同賞を受賞している。作家は一生の仕事だと思えば、30年という年月は驚くことはないかもしれない。しかし、息の長い作家だということはできるだろう。 どちらも大賞受賞作ということで、どうしても比較してしまう。良し悪しは言えないが、私は「妖女サイベルの呼び声」より本書の方が好きだ。本書の方が設定やストーリーがファンタジーのスタンダードに近いから、楽しみ易かったのだと思う。 もちろん、スタンダードとは言えありきたりの物語ではない。著者の持ち味であろう不思議で淡い独特な雰囲気は健在だし、何よりもしっ…  全文読む 評価する

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