bk1 オンライン書店ビーケーワン

送料無料キャンペーン10,000円以上(税抜)、30,000円以上(税抜)、50,000円以上(税抜)購入でもれなくポイント進呈!寄付コースもあります

> トップ > 書評一覧

1 - 30 / 35 件
ミステリ美術館 ミステリ美術館
yu-I/ミステリと、そのジャケット・アートの歴史
本書のまえがきに、エラリー・クイーンの「クイーン談話室」のなかの、書籍収集狂は四段階に進化してゆく、という論が引用されている。版や本の状態には拘らず、とにかく読めればいいという「書籍愛好家(ブック・ラバー)」にはじまり、初版本を収集する「鑑識家(コニサー)」、カバージャケットでさえ原型のままでないと気がすまない「書物狂(ファナティック)」、そして著者による書き込みがある稀覯本を集める「書物崇拝狂(ビブリオファイル)」が最終段階――というものである。この本に触れる際のスタンスも、クイーンの説に同じく、四段階に分かれると思う。この本に掲載されたさまざまのジャケットで目を楽しませて満足する人、いつか…  全文読む 評価する

少女椿 少女椿
yu-I/幽閉されていた代表作、新生
丸尾末広というと、まず最初に、あのレトロで美麗な絵が思い浮かぶ。そして次に、その美しさを逆手にとったような、過激なエログロナンセンスを想起する。そこでこの「少女椿」なのであるが、そもそもこの話は、昭和初期に製作され街頭で演じられていた紙芝居が原作なのだそうである。そこに丸尾がグロテスクな要素をふんだんに盛り込んで漫画化した作品、というわけだ。もう、これを聞いただけで著者のファンはワクワクしてしまうだろう。昭和初期の紙芝居に、エログロナンセンス。なんて丸尾末広的な、魅力的な取り合わせだろう。あらすじが添付されていないので、おおまかに記す。主人公はみどりちゃんという12歳の女の子。父が家出をし、母…  全文読む 評価する

悲しい本 悲しい本
yu-I/悲しい本――SAD BOCK
タイトルのセンスが素晴らしい。悲しい本――SAD BOOK。児童書や絵本のコーナーで、ネガティヴな物語を予感させるシンプルで鮮やかなタイトルはひどく目をひいた。悲しい気持ちになりそうな本であるだけに、子供達は表紙を開くのをもしかしたらためらってしまうかもしれないけれど。装丁のセンスが素晴らしい。タイトルと同様シンプルで、洗練されたデザイン。ブルーに囲まれた灰色の絵は悲しげで、それでいて軽やかなタッチのユーモラスな表紙(クェンティン・ブレイクのこの絵画センスは本文でも存分に発揮されている。悲しい本を重苦しい本にさせないのは、ブレイクの功績)。元気いっぱいの鮮烈な色彩の踊る児童書コーナーで、このう…  全文読む 評価する

魔女になりたかった妖精 魔女になりたかった妖精
yu-I/リアルな親子の優しさのかたち
とてもリアルな親子の物語、である。「魔女になりたかった妖精」というタイトルからイメージされるとおりのファンタジックな雰囲気で、元気いっぱいのキュートな妖精が魔女になろうと奮闘する、とてもワクワクする絵本なのだけれど。それでいてこの物語の中には、ものすごくリアルな親子の姿がえがかれている。主人公・ローズマリーは妖精の女の子。だからママは、妖精として生まれてきたローズマリーに、妖精として生きることを望む。上品でお行儀よく、美しくあってほしいと望み、その希望を我が子に押しつける。これは現実にとてもよく見られる、親の一つの姿だと思う。与えられた環境を疑わずに受け入れ、「良い子」であることを望み、しばし…  全文読む 評価する

銃とチョコレート 銃とチョコレート
yu-I/おそろしく「完璧」に近い大傑作
16歳のときに書き上げたという「夏と花火と私の死体」で衝撃のデビューをはたして以来、天才、という言葉を冠せられることも多かった著者。本書を読んで、再確認させられた。乙一は天才である。講談社ミステリーランドは要注目のシリーズで、当代の人気ミステリ作家が、それぞれに個性あふれる児童向けミステリ作品を発表している。しかし子供向けであるということで、漢字や言葉使いに制約がある(あるいは制約を感じる)のだろう、どこかしら苦しげな文章を散見する。ジュブナイルという慣れない枠に戸惑っているな、と感じさせる部分がちらほらとある。しかし、この作品にかぎっては、そういった戸惑いはいっさい感じられない。もともと著者…  全文読む 評価する

身の毛もよだつ日本残酷死刑史 身の毛もよだつ日本残酷死刑史
yu-I/著者は死刑廃止論者です
おそらく、本としては失敗作であろう。死刑廃止を訴えている本ではあるのだが、内容にお互い殺しあっている部分が多々あり、全体として主題の明確さに欠けている。そもそもタイトルがどうもサブカルチャー的で、悪趣味で不謹慎な娯楽本だと思って手にとる人がいるのでは……って、実は筆者がそうだったのであるが。著者は、奈良時代から現代にいたるまでの残酷な処刑制度・処刑法の紹介に、本書の半分以上のページを割いている。ホラー小説のような過激な描写こそないものの、赤ん坊ですら容赦なく首をはねられたとか、少しでも長く生かして苦痛を与え続けるためになされた工夫だとか、ここに書かれた事実だけで十二分にショッキング。死刑廃止を…  全文読む

少女は踊る暗い腹の中踊る 少女は踊る暗い腹の中踊る
yu-I/期待の新人
1985年生まれ。若い作者のデビュー作である。執筆当時19〜20歳程度であろう若者が、ここまでえぐい話を書くのが不思議だった。正直、誰彼構わずおすすめできるような本ではない。乳児殺害やら一家皆殺し(それも物凄く残酷なやり方で)やら、思わず目をそむけたくなるようなエピソードが、たたみかけるような勢いで次々にえがかれている。10代の青年の冒険譚にあわい恋心も絡む話だが、一般に言う青春文学とは著しく異なる。主人公の心情などはほとんど描写されておらず、物語の凄惨さとはうらはらに、狂気的なまでに淡々としているのだ。文章も若書きらしく完成度は高くないが、ぐいぐい読ませる。そして、ジャンルにとらわれていない…  全文読む 評価する

エロティシズム12幻想 エロティシズム12幻想
yu-I/一冊でお腹いっぱいになれる、大満足アンソロジー
エロティシズム、エロス、官能、等々…同じような意味合いで使われることの多い語であるが、どれもニュアンスが違う。本書には“エロティシズム”の名が掲げられているが、収録作は多種多様。“エロティシズム”という言葉の響きにとらわれない、バリエーション豊かな競作集となっている。その中の何作かを紹介させていただく。「インキュバス言語」 牧野修とにかくぶっ飛んだ発想である。とんでもない奇想を躊躇なく展開させてゆく力強さ、抱腹したくなるのにどことなくブラックなストーリー、珍妙な非日常感などは“ドタバタ”と評された頃の筒井康隆をすら彷彿とさせる。とにかくインパクト大、の作品。「恋人」 有栖川有栖この作者らしいリ…  全文読む 評価する

百器徒然袋−雨 百器徒然袋−雨
yu-I/面白くないはずがないっ!
本書は、探偵役として榎木津礼二郎を適用したミステリー作品集である。それだけでもう、面白くないはずがないのである。ご存知ない方のために説明しておくと、榎木津礼二郎とは著者の「京極堂シリーズ」の登場人物の一人である。登場人物の一人、などという控えめな紹介が、おそろしく似合わない登場人物でもある。何しろ榎木津ときたら破壊的である。八方塞がりな難事件やどうしようもない無理難題を前にしても、悩みもしなければ立ち止まりもしない。蹴り飛ばして完全粉砕。そんな男なのである。破壊的に変人なのだ。喋ることといったらわけのわからない迷言か、珍妙な暴言か、あるいはその両方。人の名前は覚えないわ、面白いことしかしないわ…  全文読む 評価する

ミザリー ミザリー
yu-I/さすがキング…
ロブ・ライナー監督で映画化もされており、超有名な作品。しかし何冊にも渡る大長編を次々発表しているキングの作品にしては、一冊きりできれいにまとまっているし、監禁モノで動きも少なくちょっと地味かなあ、などとも思われるのだが。実は、すごいことをやっている。監禁モノの心理サスペンスである。自動車事故で半身不随になった流行作家であるポールが、元看護婦の愛読者に助けられ…たかと思いきやそのまま監禁され、「私一人のために小説を書け」と強要される。手を抜いていい加減なものを書いたり、逃げ出そうとすれば残酷な罰が与えられる。ポールは無事逃げおおせることができるのだろうか…?主な登場人物は二人だけである。監禁する…  全文読む 評価する

ZOO ZOO
yu-I/天才乙一の奇想の標本箱
さまざまなタイプの作品が収められた、乙一の才能の標本箱のような作品集である。それぞれに秀逸であるが、とりわけ印象に残った三篇について少し書こうと思う。「陽だまりの詩」角川スニーカーは著者に「せつなさの達人」という言葉を冠したが、その流れにつらなる胸に染みる作品。冒頭では人造人間というモチーフから、グロテスクなホラーにいくのか? とも思ったが、二人がやさしく寄り添いながらもそれぞれの孤独に向かい合う、あたたかくも寂しい物語であった。なるほど、せつない、とはこういうことを言うのか。それにしても素晴らしい着想である。「冷たい森の白い家」こちらは本当にグロテスクなホラー。ショッキングな児童虐待のシーン…  全文読む 評価する

占星術殺人事件 占星術殺人事件
yu-I/推理小説史上に残る大傑作
今さら言うまでもないことだが、本書はまぎれもなく推理小説史上に残る大傑作である。本格ミステリ全盛の時代が思いのほか長く続いているようであるが、たとえばアガサ・クリスティの代表作などのような古典名作と肩を並べることのできる作品は、いったいどれだけ書かれたであろうか。少なくとも本書は、そういう意味でなんら引けをとることのない作品だと思う。古今東西にすばらしいミステリ作品はあふれていて、あまりに数多く書かれたためにトリックにパターンが生まれてしまったと思う。密室トリックなどはとくによく言われる。もうめぼしいものは書き尽くされてしまっていて、あとはそのバリエーションや見せ方でえがくしかないのだと。しか…  全文読む 評価する

行ってみたいな、童話の国 行ってみたいな、童話の国
yu-I/どれをとっても長野まゆみ色
数年前、大人のための残酷童話の類が非常に流行した。意地の悪い笑みを浮かべたお姫様の怖ろしげな表紙が、書店のあちこちで多数平積みになっていたものだ。本書もその流れにつらなる短編集である。しかしはじめにまず言っておきたい。安易に流行に乗じただけの、個性の感じられないような本では決してないと。個性が感じられないどころか、収録作のどれをとっても長野まゆみらしさがあふれている。少年たちの端整な姿と甘い毒のような無邪気さ、上品で知的な美しいエロティシズム。そこに童話の醜悪な残酷さがまじりあい、美醜の鮮烈な対比が生まれ、それがこの作品の印象をぐっと深めている。甘く、非情で、端麗で、醜悪で、たいへん刺激的な一…  全文読む 評価する

翼ある闇 翼ある闇
yu-I/ミステリファンによる、ミステリファンのためのミステリ
古城のような洋館、怪しい一族、密室殺人、首なし死体、蘇る死者、見立て殺人、そして二人の奇抜な探偵…。本格ミステリの魅力的なツールとして長らく受け継がれてきた要素が、一堂に会した感がある。次々にあらわれる謎と解決、どんでん返しの連続と、その内容の濃さに驚かされる。洋館の不気味なたたずまいとクラッシック音楽が全篇にわたって彩りをそえており、それがこの大作にただならぬ雰囲気、さらなる荘厳さを与えている。こうしたたくさんのミステリーコードを華麗に用いたというだけでなく、読者の意表をつき予想を裏切るという点においても、この作品は極上である。しかし、この作品には一つ致命的なところがある。個人的には欠点であ…  全文読む 評価する

虚無への供物 虚無への供物
yu-I/狭義の推理小説の範疇に収めておいてはいけない
ミステリファンの間では超がつくほど有名な作品だが、ミステリを読まない層にはどのていど認知されているのだろうか…と懸念して、昨年新装版が刊行されたことも鑑み紹介させていただく。呪われた一族、密室殺人、自称探偵たちが一堂に会しての推理合戦…外形はあきらかに本格ミステリだ。それも過去のミステリの名作への敬愛に満ちあふれ、次々に展開されるロジックも高度で、ミステリファンに向けて書かれた濃密なミステリという印象である。しかし、最後まで読めばこれがたんなる推理小説でないことがわかる。アンチミステリ——反推理小説と呼ばれるゆえんが、物語のラストにおいて燦然と現れる。まあ筆者としては、反推理小説というよりは超…  全文読む 評価する

九尾の猫 九尾の猫
yu-I/超・サイコスリラー
本格ミステリの巨匠として名高いエラリイ・クイーンの作品の中でいちばん好きなものは?と問われたら、筆者は迷うことなくこの作品を挙げる。無差別殺人としか思えない連続絞殺事件が起こり、ニューヨークは恐怖に震え上がった。動機もわからない、目撃者もいない、容疑者もいつまでたっても不在…。警察が右往左往しているあいだにも被害者の数は増えてゆき、市民はじょじょにパニックに陥ってゆく。容疑者不在、というこの設定は、クイーンの作品及びその流れにつらなる作品の中では異色であろう。本格ミステリというジャンルの特性上、捜査の糸口すら見つからないような設定は困難だ。しかし、さすがはクイーン、である。次々に被害者が増えて…  全文読む 評価する

殺人鬼 殺人鬼
yu-I/悪趣味を楽しむ
端整な本格ミステリを書く著者が、元来好きであるというスプラッターのジャンルで徹底的に遊び倒した作品。スプラッターであるから、誰彼かまわずすすめられるものではない。正直本当に気持ち悪い。非常に好みの分かれる作品だと思う。しかし、好みの分かれる、というのは、ただたんに残虐なスプラッター描写のゆえだけではない。たとえば、キャンプをしにやってきたメンバーが山に閉じ込められ、次々に襲われて…なんていうあらかさまに「十三日の金曜日」を彷彿とさせる設定。たとえば、「殺人鬼」なんてあまりにも明快なタイトルをつけてしまう点。恐怖をいったん取り除いて冷静に見てみれば、ほとんど冗談みたいな話である。読みすすめてみて…  全文読む 評価する

雨更紗 雨更紗
yu-I/掌の中でささやかに息づくような珠玉作
著者の作品を読むといつも、ああ、長野まゆみだなぁ、と思う。それは少年というモチーフであったり、儚く幻想的で時に官能的な、作品全体に漂う雰囲気であったり、淡々としていながらも詩的な独特の文体であったりする。しかし、そういった外観的なものだけではなかろうと思う。全ての作品が見事に著者の美学で貫かれ、その感性で彩られている。長野まゆみ、というジャンルを確立しきっているのだ。これは、間違いなく偉業であろう。さて、ここで本書の話に入るが、まず感じるのは、いつにな“和”な雰囲気であるということだ。そしてこれが、「長野まゆみ」と実に相性が良い。繊細で艶のある作品世界を、ぞくッとするほど美しく魅力的にみせてい…  全文読む 評価する

最後の喫煙者 最後の喫煙者
yu-I/名作ゆえに、今となっては笑えないかもしれない
昭和40年代から50年代の作品を中心に、筒井康隆のオイシイところをぎゅぎゅっと寄せ集めた自選ドタバタ傑作選の第一巻。本当にオイシイとこ取りで、何ともお得な本である。一作目の「急流」でいきなりやられてしまった。奇天烈な人物が突拍子もない台詞を口にしただとか、そういう笑いならあるのだが、地の文がこんなに面白くて、つい笑い声を上げてしまったというのは初めてのような気がする。ただふざけたことを書いて笑わせるのではなく、あくまでも知的でシュール。それでいてニヤリとさせるというのではなく、抱腹させる。こういう文章を書ける人はやっぱりなかなかいないと思う。本当に面白いものは月日が経ってもやっぱり面白いのだな…  全文読む 評価する

オルガニスト オルガニスト
yu-I/狂気よりもやわらかで、執着よりも美しい
音楽大学で教鞭をとる主人公のもとに、ある日一枚のディスクが持ち込まれた。正体は未だ謎に包まれているというそのオルガニストの演奏は、天才的であった。そして、主人公テオの記憶は過去へさかのぼってゆく。テオにはかつて、オルガニストとして驚くべき才能を持つ友人がいたのだ。しかしテオの過失による事故で、彼は半身の自由を失っていた。この演奏者は、はたして彼なのか…。音楽を愛しすぎた者の物語だ。愛するあまりに神にそむいてしまった者の物語だ。その魂は、あきらかに常軌を逸している。しかし、あくまでも美しくやわらかな作品である。異常としか言いようのないはずの強すぎる愛を、あくまでも愛としてえがききっている。凡手の…  全文読む 評価する

人形 人形
yu-I/嗜虐と被虐の美学
まず、ギニョルの造形が秀逸だ。このキャラクターを生み出した時点で、本作品の成功はある程度決まっていたと言って良いと思う。SM小説家を生業としながらも現実ではごく平凡な中年の男が、偶然人形—ギニョルと呼ばれる男娼の存在を知ったところから物語ははじまる。その後実際に男はギニョルに出会うこととなるのだが、彼は全身をむごたらしい傷におおわれた、凄惨な身体をしていた。何も語らないギニョルに男はなぜか嗜虐の欲をかき立てられ、そのまま彼を監禁することに…。男娼を監禁するというエロティックな設定でありながら、官能的なシーンはほとんど存在しない。そのかわり暴力や虐待がえんえんと続く。しかし彼らがSMに興じている…  全文読む 評価する

クー クー
yu-I/躍動感溢れる陰惨さが強烈な印象を残すSF
濃密な本格ミステリを書く作家というイメージの強い竹本健治であるが、実は同じくらいSF作品も多く手がけている。本書は荒廃した未来世界を舞台、非人道的な戦闘訓練を受けた美女を主人公に設定しており、長さも四百枚程度であろうか著者の作品の中では比較的短く、内容も躍動感に富んでいてエンタテイメント性の強い一冊になっている。ただし、ライトノベルのような作風を期待して手にとると大きく裏切られることとなる。“荒廃した”未来世界が舞台で、“非人道的な”戦闘訓練を受けた(しかも本人の意思に反して)美女が主人公なのである。なんだか他にも見られそうな設定ではあるが、これははっきり言って非常に暗澹たる物語である。それも…  全文読む 評価する

壊音 壊音
yu-I/幻想と現実の狭間
この本には著者が17歳、史上最年少で文學界新人賞を受賞した「壊音」と、「月齢」の二作品が収められている。どちらも幻想的かつ退廃的な世界を繊細な描写でえがいており、文字を追っていくだけでも酔える。そんな詩的な世界の中で、たとえば「壊音」に登場するドラッグの具体的な名称のようなリアルが、主人公ハジメのごく普通の感情が、“浮く”。きわめて現実的で素っ気ない言葉が、どうしようもなく読み手の心に引っかかりを残す。その一方で「月齢」の“神”という言葉や、終盤のあまりに現実離れした展開もまた、世界から“浮いて”いる。手の届くところにあったはずの物語が、そこで突然空高く飛び立ってしまったかのような印象を与える…  全文読む 評価する

ひらけ!勝鬨橋 ひらけ!勝鬨橋
yu-I/何てカッコイイユーモア小説なんだ!
ユーモア長編ミステリー、と銘打たれている。たしかに前半はとぼけた味わいがあり、ユーモラス。舞台はとある老人ホーム。その中でも、物忘れも激しく会話はちんぷんかんぷんでゲートボールもからっきし、という、ホームの中でもバカにされっぱなしの老人たちが主役だ。とはいえいつか見返してやろうなどと心燃やすこともなく、のほほんと暮らしているのだが、ある日館長が悪質な詐欺にひっかかり、ヤクザにホームの引渡しを要求されてしまう。そして老人たちとヤクザの攻防戦がはじまる。そして…この本の魅力を知ってもらうために、あえて書いてしまおう。実はこの老人たち、若かりし日はスポーツカーをさんざん乗り回した大の車好きグループな…  全文読む 評価する

死の泉 死の泉
yu-I/美と愛と悪の熔けあう物語
吉川英治文学賞受賞、文春ミステリーベスト一位も納得の奇跡のような大傑作である、とまず太鼓判を押しておく。舞台は第二次大戦下のドイツ。ナチの施設レーベンスボルンの産院から、この物語は始まる。芸術を偏愛し、少年の歌声に魅せられた医師クラウス。マルガレーテは彼の求婚を承諾するよりほかなかった。謎めいた研究。交じり合う数々の悪意。死。少年歌手の美しい声への執着はやがて狂気に変貌し、戦争は激化してゆき、逃げのびようとした先に辿り着くのは怪しい古城…。壮大な物語である。凄惨な物語でもある。大胆なストーリーテリングと繊細なディテールにあわせ、自由に変幻する筆使いは見事の一言。異常な物語でありながら、目に浮か…  全文読む 評価する

あらゆる場所に花束が… あらゆる場所に花束が…
yu-I/中原昌也には、一度は触れておくべき
これが三島由紀夫賞を受賞したっていうんだから、いやはや、選考委員は実に勇敢であるなぁと感嘆するしかない。狂気と正気がない交ぜになり、何が異常で何が正常なのかわからない、そもそもそんなことはどうでも良いのかもしれない…。読むと精神に異常をきたす、とは夢野久作の名作「ドグラ・マグラ」に付された言葉であるが、筆者は賞賛の意をこめてこの言葉を本書にも冠したく思う。暴力が、憎悪が、肉欲が、まるでデタラメのように横溢し、ようやく何らかの意味なり秩序なりが見えかけたかと思うと、そこで言葉は打ち切られてしまう。快とも不快ともつかない一方的な切断。やはりこれは怪作であり、快作なのである。それにしても中原昌也は、…  全文読む 評価する

朝日のあたる家 朝日のあたる家
yu-I/永く読みつがれるべき名作
娯楽として浸透したどころか、昨今ではあまりにも濫作されすぎな向きの否めないボーイズラブ小説であるが、この本、奥付を見れば昭和63年刊。BL文化を開拓してきた作品のうちの一つと言っていいかもしれない。とはいえこれをボーイズラブと呼ぶのは、少々問題である。それはBL文化が花開く以前の作品だからというだけの理由ではない。この作品は巷にあふれているBL小説とは、明らかに一線も二線も画している。スターから転落し、死を望みながら女に買われて生きる透。かつて芸能界で透と双璧をなし、今もなおスターの座に君臨し続ける良。しかしそんな良のきらびやかな生にも、消えることのない罪と死の香りがまといつく。美しくもはかな…  全文読む 評価する

不道徳教育講座 不道徳教育講座
yu-I/これは、あたしの人生のバイブル。
タイトルからしてインパクト大、の本書。目次を見れば「知らない男とでも酒場に行くべし」「教師を内心バカにすべし」「大いにウソをつくべし」等々、好きな人はもうこれだけで大喜びしそうな題が並んでいる。三島由紀夫というと、難解で少々取っ付きにくそう…というイメージをお持ちの方もおられるかと思うが、少なくとも本書はいたって軽妙に書かれたエッセイであり、またそれぞれの文章が短いこともあっていたって読みやすいのでその心配は無用である。機知に富んだユーモア、心地よく刺激的な逆説、ニヤリとさせる毒舌。しかし不道徳などといいながら、最終的には偽善でない本当の善の意識に読者を帰着させるこの著者の眼差し、この手腕!な…  全文読む 評価する

血と薔薇の誘う夜に 血と薔薇の誘う夜に
yu-I/この本は素晴らしい収穫だった
角川ホラー文庫から素晴らしい大収穫。 ジャンルホラーというよりは、昏く淫靡な世界観を堪能できる、耽美好きにおすすめしたいアンソロジー(正統派ホラーももちろんあるけどね)。 コンセプトがしっかりしているので、アンソロジーだが一冊の本として見事に完成されている。 ちなみに説明に上がっている作家陣以外にも、三島由紀夫、倉橋由美子、中井英夫、種村季弘、江戸川乱歩、柴田錬三郎、中河与一、城昌幸、松井松葉、百目鬼恭三郎が参加しています。 どれも印象的で、甲乙つけがたい佳作揃い。うーん、この内容でこのお手頃価格は申し訳ないくらいだ。 久しぶりに、読んだ本をやたらと人に薦めたくなってしまった。  全文読む 評価する

掌にダイヤモンド 掌にダイヤモンド
yu-I/あの頃の痛みが生々しくよみがえる
通り過ぎてしまえばただひたすらに眩しく思えるあの頃は、本当は決して弾むような楽しさに満ちていたわけではなかった。 制服に押し込められた息苦しさと、ひりひりする痛みがよみがえる佳作。 友達と笑い声を上げる女子高生が羨ましいばかりではなく、哀しくも思える。がんばるんだよ、と年寄りみたいなことを言いたくもなってしまう。 いやぁ、若いってのも一つの苦痛ではあるのだよ。 “このテ”のまんがはあまり好んで読まないのだが、この痛々しいほどのリアリティにはたまらず五つ星。  全文読む 評価する

page: 1  |  2  |  次へ→