|
銀婚式
|
|
k-kana/大学教授は銀婚式の夢を見るか
|
主人公は、一流大学をでて、当時飛ぶ鳥を落とす勢いの証券会社に就職したエリートサラリーマン。ニューヨークで活躍するが倒産の憂き目にあう。日本に戻ったものの、損保会社ではリストラの執行役の立場に追いこまれ、躁鬱病になったか。そして舞台は仙台市外の大学へと展開する。例によって精密な描写が続く。あと書きには参考書のリストが付されているが、加えて證券会社とか大学関係者に突っ込んだヒアリングを行ったようだ。たしかに文章にはリアリティがある。それに地方の大学教授が軽自動車を乗りまわすなんて生活感が濃い。主人公の生き方は潔いのである。証券会社が倒産しても、自身の保身など考えずに、最後までひとり終戦処理にあたる…
|
|
|
小澤征爾さんと、音楽について話をする
|
|
k-kana/村上春樹がコンダクターになっている
|
小澤征爾は、2009年12月に食道がんが発見され、大がかりな切除手術を受けた。療養、リハビリを経て、2010年12月、カーネギーホールの復活コンサートで圧倒的な成功を収めたことは耳新しい。本書は、1年以上にわたった村上春樹と小澤征爾とのインタビューをまとめたものだ。さすがに村上春樹の音楽感性はするどい。あたかもピアノ協奏曲を振りまとめる指揮者のように、小澤征爾から深いメッセージを引き出している。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番や、カーネギー・ホールでのブラームスの第1交響曲がインタビューの題材になっている。なかでも、マーラーについて語り合ったものが興味深い。もちろん、バーンスタインやカラヤン…
|
|
|
空白の天気図
|
|
k-kana/今年ほど、本書を読み継ぐのに相応しい年はないだろう
|
1945年8月6日、広島に原子爆弾が投下された。直後の9月17日には、その広島を大型台風(枕崎台風)が襲い未曾有の暴風雨と洪水をもたらす。原子爆弾による死者および行方不明は二十数万人に上った。枕崎台風による広島県下の死者及び行方不明は2千人を越えた。原爆被害の巨大な影に枕崎台風の悲劇が隠されているが、いったいなぜ広島で台風で多くの――それも上陸地の九州の犠牲者数(442人)をはるかに越える――人命が奪われたのだろうか。著者は、単なる事件の発掘だけでなく、原爆による殺戮と台風による災害という二重の苦難の中で、人々がどのように生きあるいは死んでいったのかを知りたかったという。とりわけ著者の心をひき…
|
|
|
「進化論」を書き換える
|
|
k-kana/進化とは発生プロセスが変わること
|
現代の進化論の大きな問題は、無脊椎動物から脊椎動物といった異なる類型への進化はどのようにして、どんなメカニズムで生じたのかということだという。本書は、近年明かになってきた進化のメカニズムを、著者の25年来の主張である構造主義進化論に則して解説したもの。ダーウィンは自然選択により適応的な形質が作られるとした。その後、メンデルによるエンドウの交雑実験によって、遺伝の原因(遺伝子)の存在が明らかになった。ネオダーウィニズムでは、遺伝子の突然変異は微細であるが、突然変異よって新しく生じた遺伝子が増加したり消滅したりする、その繰り返しを進化であるとする。そして、遺伝子の突然変異、自然選択、遺伝的浮動、と…
|
|
|
島国チャイニーズ
|
|
k-kana/日本人は中国人を恐れているか
|
中国が日本人にとって、いま最も気になる国であることは間違いない。2010年末に内閣府が発表した調査結果では、中国に「親しみを感じない」とする回答が77.8パーセントにのぼったそうだ。あの東北大震災の直後、中国人の留学生とか研修生が一斉に日本を脱出したとのニュースには、見捨てるのか!と思ったものだ。本書は、200人を超える在日チャイニーズの取材の積み重ねだそうだ。彼らの実態があまり知られていない。その結果、日本で思いがけない嫌がらせや差別体験を味わい、失意と反感を抱いて帰国する留学生があとを絶たないという。日本人は中国人を恐れ、中国人は日本人を恐れている。両者を取り持つべきマスメディアは、むしろ…
|
|
|
はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか
|
|
k-kana/一気に読ませるリアル感がある
|
SFの分類に入るのだろうか、最新科学技術の動向に無関心ではいられないテーマが重なっている――レア・メタル、知識ロボットとか。現代に生き延びる寄生虫とか。ホラー系の匂いもする。作家・篠田節子については、名前だけを直木賞作家として知っていた。読後感として、科学技術について、しっかりと勉強しているのだなと感心した。関連書を通読して得られるような底の浅い知識を超えている。小説のテーマとしての基盤でもあり存在感を発揮している。本書は4つの短編からなるが、その中の一編、「はぐれ猿は……」は不気味なロボットの出現としつこい追跡に、映画「ターミネーター」を思い起こさせる。かすかなモーター音とともに、どこからか…
|
|
|
生物学的文明論
|
|
k-kana/生物学的発想が人類の危機を救えるか
|
自然科学の中で、生物学は例外的に意味を問える学問だという。たとえば生物学は「なぜチョウに羽があるの?」「なぜ羽はひらべったいの?」という「なぜ」に答えられる。だから生物学を手がかりとして、理科の世界に子供たちを導き入れるのは良い方法だと、生物学者の著者は言う。理科離れを止めるには、生物をしっかり教えるべきだと。いま人類が直面している深刻な問題に、環境、資源枯渇等々がある。現代社会は、数学・物理学的発想を基盤とする技術が作り上げたものであるが、一方で環境問題などを生み出している。本書のテーマは、生物学上の事実をもとにして、これらの問題に解決の糸口を考えてみようというものだ。環境問題は生物多様性の…
|
|
|
古代国家はいつ成立したか
|
|
k-kana/邪馬台国はどこにあったか?
|
日本で最初の古代国家は7世紀から8世紀に誕生した律令制国家である。国家には土地の分配・税・生産・経済など多面にわたる複雑な仕組みが要求される。この仕組みは永い時間をへて構築された。未成熟な国家の制度が試行錯誤されながら蓄積されていったはずだ。研究者は、この未成熟な国家段階に「初期国家」の名前を与えて注目している。日本の初期国家は、古墳時代にあたるというのが、著者の主張である。「初期国家」という耳新しい概念を著者はていねいに紹介し、律令国家への道筋をわかりやすく実証的に提示してくれる。NHKの人間大学の講義がベースになっているからだろう。それに、新しい知見をさりげなく紹介しているのもちょっと刺激…
|
|
|
水惑星の旅
|
|
k-kana/水は大丈夫か?
|
いま世界の水資源の状況は思った以上に深刻である。福島原発事故を契機として将来のエネルギー問題が人類の大きな課題として浮かびあがってきたが、地球規模の水不足も、決して見逃すことのできない大きな問題である。椎名誠には危機感がある。この21世紀最大の問題とされている「水」に、どうも日本だけがあまりにも平和かつ呑気に傍観しているような気がしてならないと。水資源に恵まれ、世界でも稀な、水飢饉の心配が殆どない国というしあわせは、おしよせてくる世界規模の水飢饉に対して、危機感のないぶん脆弱である。地球上の淡水はわずかなものだという。地球を1メートルの小さな球で考えると、その水の稀少さは、体験的にも衝撃である…
|
|
|
日本語教室
|
|
k-kana/母語より大きい外国語は覚えられない
|
「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく」とは、井上ひさしの言葉だ。文章に関わるものにはまさに至言だと思う。言葉/日本語への、井上ひさしの関心の広さと、目配りの効いた勉強ぶり。そして、そこから生まれる日本語への見識の深さには常々感心していた。例えば、いまや名著と言われる、木下是雄の『理科系の作文技術』に対して、もっとも縁がないと思われる文化系の作家なのに、賛辞を呈したのは井上ひさしが最初ではなかったか。母語と脳は強く関係するという。人間の脳は生まれてから3年ぐらいの間にどんどん発達する。急速に脳が成長するとき、赤ん坊がお母さんから聞く言葉が母語である。赤ん坊のま…
|
|
|
深読みシェイクスピア
|
|
k-kana/「マクベス」のキーワードは”we”
|
さすがに外題が、『深読み……』なので、日頃シェイクスピアなど読んだことのない輩――黒澤明の「蜘蛛の巣城」に触発されて「マクベス」の上演に出向いたわずかな体験しかない――にはちょっとハードルが高いと思ったのだが。読み進めると、シェイクスピアの戯曲の奥深さが浮かび上がってくる。戯曲のひとつの台詞が、たしかな意味づけを持っていることを教えてくれる。「マクベス」の翻訳で最大の発見は何でしたかと問われて、松岡さんは”we”と答えている。この単語をどう読むかによって、作品全体にたいする見方が変わると。スコットランドの王ダンカンを迎えた将軍マクベスが、晩餐の席を退座し国王暗殺をためらって「例のことはもう止め…
|
|
|
小沢征爾
|
|
k-kana/透明感のあるブラームス
|
小澤征爾は昨年1月に食道がんの手術を受け、12月にはニューヨークのカーネギー・ホールでサイトウ・キネン・オーケストラ指揮して完全復帰した。この時の様子はTV画面で報じられたが、がんを克服し腰痛の再発に耐えての登場でもあり、小澤の緊張と決意が伝わってきた。指揮姿はまさに鬼気迫るといった様子だ。この時演奏したラームスの交響曲第1番が、早くも「奇蹟のニューヨーク・ライヴ」としてCD発売されるとのこと。予約が殺到しているそうだ。ブラームスは小澤の得意のレパートリだという。しかし本書『小澤征爾』によれば、小澤のブラームスについては賛否両論があるらしい。第3章に「透明なブラームスの是非」が設けられている。…
|
|
|
センセイの書斎
|
|
k-kana/情報工場のノウハウ満載
|
著者の内澤旬子さんは乳がん治療の克明なレポートで承知しているのだが、あらためてイラストルポライターという肩書きを知った。本書でも精密感のあるイラストが何より特徴的だ。他人の住まいぶりをのぞき見ることは悪趣味だろうか。他人の本棚をのぞくことほど楽しいことはない。どんな本が並んでいるのだろうと興味津々だ。ふらりと知らない駅で 降りて、駅前の古本屋をチェックする楽しみに通じる。思いもよらない本に遭遇すること。それと読者にとっては切実な問題がある。本はいつの間にか増殖し生活空間を浸食して行く。邪魔でバッチイとか、重くて床が抜けるとか、常に家人から強いストレスを受けることになる。ほかの人はどうやって折り…
|
|
|
真珠湾攻撃総隊長の回想
|
|
k-kana/一人の男の真摯に生きた記録
|
真珠湾攻撃の英雄が、戦後には一変してキリスト教に回心し、アメリカをはじめ世界中を飛び回り伝道の日々を過ごす。本書は、真珠湾攻撃の総隊長・淵田美津雄の自叙伝を、中田整一が編集し解説を加えたものである。大きな曲折があるが、一人の男の真摯に生きた記録であることは間違いない。ルカ伝の一節、「父よ、彼らを赦し給へ。その為す処を知らざればなり」に触れたとき、淵田は突然の啓示をうけたという。アメリカ人女性マーガレット・コヴェルの両親(宣教師)が日本軍に殺されたときの、その最後の祈りが分かったのである。「彼らを赦し給へという彼らの中に、お前も含まれているのだぞ」と。戦後間もなくの、マーガレット・コヴェルやドゥ…
|
|
|
ゼムクリップから技術の世界が見える
|
|
k-kana/技術の歴史は失敗物語
|
たしか単行本発刊の折りに、本書を手にしていたはずである。文庫ライブラリー化の機会に改めて読みなおしてみた。いつもながらのペテロスキーの柔軟な語り口に感心するとともに、工学系の学生への入門書として最適ではないだろうかと感じた。身のまわり至るところにある工業製品――パソコンはもちろんとして、なにげないペーパークリップでさえも――すべてが技術者の知恵をしぼった、工学的な設計の所産なのである。本書の明確なテーマは、いわゆる「失敗学」と言っていいだろう。工学の歴史に成功の物語があったとしても、それは幾多の失敗を乗り越えてきたものである。失敗の物語は工学技術の基礎だ。単純なペーパークリップから、シャープペ…
|
|
|
38億年生物進化の旅
|
|
k-kana/これは新しい「生物の教科書」だ
|
ネオダーウィニズムとは何か。ダーウィンが自然選択説を唱えた後、メンデル遺伝学が登場し形質を決める原因は遺伝子であることがわかった。遺伝子の「突然変異」と遺伝子にかかる「自然選択」と「遺伝的浮動(偶然による遺伝子頻度の変化)」が進化の主原因とした。これがネオダーウィニズムである。「DNAが変わって、それが発現すると、形質が変わる。それが適応的ならば自然選択により、集団中に拡がって生物は進化する」というわけだ。本書のテーマは、38億年の生物進化の歴史をたどるとともに、これらの進化が、ネオダーウィニズムの基本概念――遺伝子の突然変異・自然選択など――だけでは、進化史を画するような大きな出来事を説明で…
|
|
|
プルーストとイカ
|
|
k-kana/日本語が脳を鍛えてくれる
|
サラリーマンの朝の様子は、TVのNHKニュースを見ながらパジャマをYシャツに着替えて出勤する……と、こんな文章になるだろうか。無い知恵を絞ったのだが、何気ない日本語に、漢字、平仮名、カタカナ、アルファベット、さらにはこれらが組み合わされた――Yシャツとか、のことばもある。こんなにいろいろな文字を読み取るのだから、どう考えたって、アルファベットだけの英語なんかより脳に負担がかりそうだなとは感じる。人間の知能の発達に、読む行為ほど深く関わっているものはないと著者はいう。脳が文字を読むために構築する新しい回路(ニューロンのつながり)が、新しい革新的な考え方を可能にする基盤になると。この珍妙なタイトル…
|
|
|
「昭和」という国家
|
|
k-kana/自己を絶対化することで国を誤っていた
|
この秋からNHKテレビで『坂の上の雲』が放映されるそうだ。本書の増刷はこの放映時期にタイミングを合わせたものであろう。司馬遼太郎は生前、『坂の上の雲』を映画とかテレビとかの視覚的なものに翻訳されたくないと言っていた。ミリタリズムを鼓吹しているのではないかという誤解を懸念していたのである。日本はなぜ「昭和」という破滅への道を歩んだのか、という疑問を司馬遼太郎は戦後40年ずっと考え続けてきたという。最初に考えさせられたのは、昭和14年のノモンハン事件であったという。日本という国を、昭和元年ぐらいから敗戦まで、魔法使いが杖をポンとたたいたように、その国全体を魔法の森にしてしまった。魔法の森からノモン…
|
|
|
チャールズ・ダーウィンの生涯
|
|
k-kana/小泉純一郎に読ませたい
|
胸のつかえが取れすっきりした読後感である。ひところダーウィンの言葉というのがやたらと引用されていた。曰く「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残るのは、変化できる者である」と。あの小泉元首相が言ったとか?ところが、この言葉は、ダーウィンの著書のどこにもないそうだ。政治家とかが自分の主張を正当化するために勝手にダーウィンを騙っていたのだという。道理で岩波文庫の『種の起源』を隅から隅までページをめくっても見当たらなかったわけだ。2009年はダーウィン生誕200年。また『種の起源』出版150年とのこと。本書の目的は、ダーウィン研究の新しい成果を踏まえて正確な事実…
|
|
|
ノモンハン戦争
|
|
k-kana/ノモンハン前夜が明らかになる
|
司馬遼太郎が晩年ノモンハン戦争をテーマに小説の構想を練っていたことはよく知られている。しかし結局このテーマは結実することはなかった。本書から浮かび上がってくる、闇に閉ざされていた陰惨な歴史は司馬遼太郎の世界にはまったくそぐわない。ノモンハン戦争の敗北について、日本ではひた隠しにされてきた。ソ連、モンゴル側にも、大きな問題が隠されていたはずだ。今までノモンハンについて書かれた一般読者向けの本では、ひとりの著者もオリジナルな文献を読みこなしていなかった。だから、あの時の部隊の動かし方はどうか、この指揮官のやり方はまずかったというような、日本軍内部のうちわ話しの域にとどまっていたという。著者の意図は…
|
|
|
老いて賢くなる脳
|
|
k-kana/アンチエイジングの秘術はあるのか
|
その気になりそうなタイトルにひかれて、思わず店頭でこの本を手に取ってしまった。アンチエイジングとか言う秘術を教えてくれるのだろうか。たしかに、年をとっても、かくしゃくとして知的活動をバリバリ続けている人がいる。ゲーテが『ファウスト』の第1部を出版したのは59歳。そして第2部はなんと83歳だったそうだ。ヒトは老いれば脳も老化し萎縮してゆく。海馬の萎縮はアルツハイマー病の兆候と言われる。加齢とともに精神活動そのもののスピードが落ちてくる。新しい概念のマスターとか、根をつめる知的作業はなかなかできなくなってくるのが実感だ。ところが、神経学的な衰えにもかかわらず脳は知的活動を保つ。パターン認識の活躍で…
|
|
|
旅する巨人
|
|
k-kana/日本中を歩きつくした男・宮本常一の評伝
|
本書のカバー写真は小舟に乗る宮本常一である。小さなカメラを手にしているように見える。確か、愛用のカメラはオリンパスペンだったと聞いた覚えがある。何気なく日常の風景を切り取って撮影するには、もってこいのはずだ。昭和37年撮影とあるから、オリンパスペンの発売された昭和34年と年代的にはつじつまが合う。とにかく写真を撮りまくった。なんであんな変哲もない風景を一生懸命撮るのかと当時は言われたようだ。宮本がよく撮ったのは洗濯物だった。一見みのがしがちな洗濯物には、その地方の生活の程度と人々の好みがよく現れていた。宮本は言う、「昭和35年ごろまではまだ木綿が多く、それも手縫いしたものが主であったが、37年…
|
|
|
クアトロ・ラガッツィ
|
|
k-kana/大航海からローマを歩く4人が見える
|
大航海時代の真っただ中、1582(天正10)年、イエズス会の巡察師に率いられた4人の少年使節が、ちっぽけな帆船に乗りこんで、ローマをめざして日本を発った。大洋をきりわけイベリア半島をわたり2年を要してついにローマに至る。袴をはいて刀を差し晴れがましい様子で少年たちは教皇に拝謁する。この壮大な計画をたてて実行したのは、イエズス会巡察師のイタリア人ヴァリニャーノである。ヴァリニャーノは日本と中国を西欧とは異なっているものの同じように高い文明をもった国として尊敬していた。東西の文明の相互理解をめざしたのがこの使節派遣の大きな目的だった。出発から8年後に彼らは日本に帰り、西欧の知識・文物と印刷技術を日…
|
|
|
音楽を「考える」
|
|
k-kana/作曲とは自分の内部を聴くこと
|
この本の共著者である作曲家の江村哲二さんは、惜しくも47歳で2007年に亡くなられた。脳科学者・茂木健一郎との対談は興味深いものだ。江村さんが提示するのは、作曲=創造、この楽想、このアイデアは一体どこから来るのだろうということ。作曲とは聴くということ。自分の内なるところから湧き上がる音の響きにじっと耳を澄ますこと。このことを教えてくれたのは武満徹の音楽であると言う。創造とは、自分自身が現実の世界に在るものを見たり聞いたりした経験の積み重ねが、脳内に長期記憶として蓄えられ、それが何らかの外部刺激によって想起され、複数が組み合わされて元のかたちが変貌して意識の中に創発されること。だから、作曲すると…
|
|
|
グーテンベルクの時代
|
|
k-kana/天才的なインテグレータだった
|
ルネッサンスの三大発明と言えば、活版印刷術、羅針盤、火薬である。なかでも印刷術は、人間活動に関わるあらゆる知識を、世代を超えて伝承できるという可能性を創造した。活版印刷によって、ヨーロッパで最初の本が印刷されたのは、グーテンベルクのマインツ工場である。本書は、新しいビジネスを創造し、あわよくば大もうけに結びつけようと、模索を重ねているひとりの職人=グーテンベルクの姿を生き生きと描き出している。そのころ活版印刷に必要な技術的な要素――印刷術、インク、紙、プレス機など――は既にヨーロッパには存在していた。グーテンベルクの工夫は、それらをどう組み合わせるかであった。グーテンベルクは、キリスト教に関わ…
|
|
|
ビルギット・ニルソン
|
|
k-kana/オペラに捧げた生涯/イゾルデが忘れられない
|
オペラ歌手ビルギット・ニルソンは2005年に87歳で亡くなった。スウェーデンの田舎で大きな声をはりあげていた少女が、努力のすえに世界の一流劇場で活躍するに至るという、本書はニルソンの自伝。オペラ出演のエピソードが豊富だ。カラヤンの渋ちんぶりを活写する作者の目は辛辣である。ニルソンの名前を聞くと、ワーグナーの楽劇《トリスタンとイゾルデ》を思い出さずにはいられない。この楽劇のCDはいくつか持っているのだが、なかでも、カール・ベームの指揮したバイロイト音楽祭の録音が素晴らしい。歌手や指揮者・オーケストラの熱気が伝わってくる。ニルソンは当代一のイゾルデではなかったか。このバイロイトへの出演(1962年…
|
|
|
手塚治虫クラシック音楽館
|
|
k-kana/ブラームスが好きだった
|
手塚治虫は音楽一家に生まれた。小学生のころ母からピアノの指導を受けバイエルなどのピアノ練習もしたようだ。後年ピアノの腕前を披露することもあったらしい。父も若いころから音楽好きで大量のレコードを所有していたとのこと。漫画家として活動を始めてからは、仕事部屋でラジオの音楽番組を一日中つけっ放しにしていたという。「鉄腕アトム」が日本初のアニメとして白黒テレビに登場したのは1963(昭和38)年である。アニメは、音楽や音響効果なしでは考えられない、と手塚治虫は言っていた。音楽の選択にも熟慮したようである。本書には、手塚自身のエッセイから、音楽センスあふれるエピソードが紹介されている。ブラームスとの結び…
|
|
|
モーツァルト=翼を得た時間
|
|
k-kana/新しい発見が聞こえる
|
本書は原本が既に1988年に刊行されている。著者・磯山雅さんのほかのバッハ関連の著作と同様に、新鮮な読後感を得ることが出来た。また、厳密を旨としながら読みやすい誠実な文体が印象的である。例えばモーツアルトのト長調へのこだわりである。《魔笛》のパパゲーノのアリアがト長調で書かれているように、モーツァルトは、ト長調で発想するときに、もっともみずみずしい翼を得るという。《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》もそうだ。モーツァルトほどト長調の世界を愛好した人はいないだろうと。モーツァルトのオペラには、《イドメネーオ》ばかりでなく、実際の親子が登場しない場合にさえ、父子関係に相当するモチーフを発見できるも…
|
|
|
甘粕正彦乱心の曠野
|
|
k-kana/甘粕正彦って誰なんだ
|
戦後生まれにとって「アマカス」と聞いても何のイメージも喚起されない。映画「ラストエンペラー」で、坂本龍一が演じた甘粕正彦の印象が独特ではなかったか。いかにも暗黒世界の住人。社会主義者を虐殺した冷酷非情な元憲兵という設定であった。この本を手にした理由は、もっぱら著者・佐野眞一への信頼からである。綿密な取材をバックにした重量感のある数々のノンフィクションのファンであった。著者はこの評伝を教養小説として構想したという。大正、昭和という時代に翻弄されたひとりの人間の魂の成長の物語として執筆したと。充実した読後感に期待を裏切られることはなかった。世に「甘粕事件」と言われるのは、関東大震災直後の瓦礫のなか…
|
|
|
綾とりで天の川
|
|
k-kana/いはゆる一つのプロ野球
|
丸谷才一のエッセイのファンではあるが、新刊を待ちかねて書店に飛んで行くと言うほどではない。この本にしても、偶々書店に平積みされていたのに、強い磁力で引き寄せられたというわけだ。いつもながらの発想のユニークさに、目次をさらっと見ただけでも、食欲がわいてくる。牛肉と自由、自転車屋の兄弟の伝記作者、ミイラの研究、シャーロック・ホームズの家系、……。そして、いつもの旧仮名遣いではある。「君の瞳に乾杯」とは、もちろん映画『カサブランカ』の話題であるが、いつの間にか、新説が展開される。こんな見立ては今まであつたかしらと。こうである。……ある日ふと、おや『カサブランカ』は『勧進帳』に似てるぞ、設定がかなり近…
|
|