|
エリック・ホッファー・ブック
|
|
悠々楽園/エリック・ホッファーとは何者かを知るに十分な1冊
|
エリック・ホッファーは人生のほぼ半ばまで季節ごとに場所を移動して農作業に従事する移動労働者として働いた。39歳のときサンフランシスコに定住したが今度も沖仲士として厳しい港湾労働に明け暮れる。そういう生活の中で本を読み思索した。 7歳で失った視力が15歳で奇跡的に回復するとホッファーはドストエフスキーなどの著作に没頭した。18歳で父親と死別し天涯孤独となる。28歳の時には、働くのをやめ貯えを食いつぶしながら1年の間旧約聖書を精読した。34歳の冬にモンテーニュの「エセー」を初めて手にする。この3つの本が彼の哲学形成に大きく影響したのは確からしい。 49歳の時に最初の著作を刊行。以後も65歳までは…
|
|
|
超簡単お金の運用術
|
|
悠々楽園/投資から学ぶ人生のスタンス
|
ひとはこの手の本を手にとって読んでみたい衝動に駆られがちだが、手にしてみればやっぱりあまり真剣に読む気にはならないし、読む必要もなかったと後悔することが少なくない。 この手のモノゴトに「読んだ通りやればうまくいく」ことなど皆無なのだ。その点では本書も多かれ少なかれその例に漏れない。 ただし、山崎元という人の反抗的態度というか、体制や権力に(おおむね)こびることなくすっぱりとモノ申す姿勢や言葉に元気や(ときには)勇気をもらえるという効用がこの本にはある。 といっても、巨悪をあばくというほどの物々しさはない。そのあたりの、良くも悪くも市民的良識的態度に真実味があり、共感を覚える向きは少なくなかろ…
|
|
|
カンブリア爆発の謎
|
|
悠々楽園/カンブリア紀研究の最新成果に触れる喜び
|
本書が画期的なのは、何といっても出版時期が比較的新しく(2008年4月初版)、バージェス頁岩、中国・澄江(チェンジャン)というカンブリア紀の生物に関するいわば「二大聖地」と、さらに世界中でその後続々発見された化石や研究の最新成果を踏まえて、解説がなされている点である。 科学的な書物においては、わずかな時間経過によってそれまでの学説が引っくり返ったりすることは大いにあるので、新しいものを読むに越したことはない。 とはいえ、専門家が読むような専門書や論文は別として、わたしたち一般人が手に取れる範囲でそうした書物はカンブリア紀の生物を扱った本ではなかなかなかったのではないかと思う。 少なくともわた…
|
|
|
マラソンは毎日走っても完走できない
|
|
悠々楽園/フルマラソンをちゃんと完走したい人に最適の一冊
|
Qちゃんこと、あの高橋尚子。オリンピック2大会連続メダルの有森裕子。世界陸上金メダルの鈴木博美。千葉ちゃんこと千葉真子も教えを請うた。 誰もが知る日本一のマラソン指導者であるあの小出監督が書いた本である。 マラソンは苦しい。苦しいけど楽しい。 楽しさのミナモトはいろいろあるだろうが、「生涯に一度はフルマラソンを走ってみたい」という人は少なくないだろう。いくばくかの苦しさや困難を乗り越え、少し前の自分ならゴールするなど思いもよらなかった距離を走り切り、完走するという夢が達成できるかもしれないという期待は大きなモチベーションになるだろう。 逆に、レースに出てはみたものの、途中でリタイヤするような…
|
|
|
ロベルト・バッジョ自伝
|
|
悠々楽園/来年に迫った南アW杯。バッジョのような選手がすい星のごとく現れるのを期待しつつ、サッカー史上稀有な孤高のファンタジスタの言葉に耳を傾ける。
|
アメリカ・ワールドカップ(1994)の決勝でPKを外したバッジョを、私もTVの生中継で観ていた。 日本でJリーグが始まったのは1993年である。私たちはラッキーだった。おかげでバッジョのキャリアの絶頂時に彼を知ることができたし、ワールドカップという最高の舞台でいくつかのプレーを目の当たりにすることもできた。 90年代、カルチョの国イタリアを代表する――いや世界中を熱狂させた偉大なサッカー選手ロベルト・バッジョ。創価学会の熱心な信者(毎日2時間お題目=南無妙法蓮華経を唱えるのだそうだ)であり、狩猟をこよなく愛する男(殺生を禁じる仏教の教えと矛盾するのではないかと非難されてきた)。ハンサムでしな…
|
|
|
アンネの日記
|
|
悠々楽園/過酷な運命と引き換えに残された人類の宝物。戦争の理不尽さを嘆くだけではもったいない。
|
アンネ・フランクという少女の、13歳から2年余りにわたる日記が貴重なのは、それがアンネとアンネの家族および彼女を取り巻く人々の死と引き換えにこの世に送り出されたものだからということは疑いようがない。 確かに、その1点をもってしても、おおむね平和のうちに長い間暮らしているわれわれが耳を傾けるべき言葉がこの日記にはいくつも含まれている。 というわけで私もまた、この、おそらくは世界一有名な日記を、「第二次大戦におけるユダヤ人への無差別的な迫害に対するけなげな少女のふるまいや感想」、あるいは「理不尽な運命への怒りや悲しみやはかない希望」といったものばかりが綴られているのだろうと漠然と考えながら読み始…
|
|
|
登ってわかる富士山の魅力
|
|
悠々楽園/富士山に登りたいという漠然とした気持ちが確信に変わる
|
素人への目線で書かれた肩ひじの張らない文章で、ひじょうに読みやく楽しかった。カラー写真はないけれども、必要十分な写真・地図などが配置されていて、過剰でない分かえって理解しやすい。富士山登頂の準備には十分な内容だと思った。 そうした実用性以上に、富士山に登ることがいかに素晴らしい体験かという著者の思いがあふれていて、読み終わったときには、ぜひ富士山に登りたいという気持ちがさらに強くなっていた。 著者は国内外の高峰にも登攀歴のある登山家だが、富士山登山についてはとりわけ広く深い知識と経験を持っている。あらゆるルートから登頂回数は数知れず。なお富士山への思いはとどまることを知らず、頂上からのスキー…
|
|
|
北の動物園
|
|
悠々楽園/抱腹絶倒の日々。
|
倉本聰といえばどうしても「北の国から」を思い浮かべるわけで、(細かなことは忘れて)とにかくあの「愛と感動の物語」の延長線上の話を期待してしまう。 このエッセイ集に関していうなら、その期待はまず大きく裏切られる。 帯裏を見ると「夕刊フジ大好評連載」とある。夕刊フジといえば、満員電車で通勤・移動する中年男性が、おもにKIOSKで買う大衆紙である。視聴率の厳しさが身にしみている人気脚本家は、的確にその読者層を把握し、サービス精神を発揮するのにぬかりはない。グルメや旅や病気だのといった定番の話題に加えて、中年男の関心を引くシモネタやトイレネタがそこかしこにちりばめられることとなる。それだけではもちろ…
|
|
|
虹の天象儀
|
|
悠々楽園/瀬名秀明の提示する「生きる意味」
|
五島プラネタリウムがなくなる、というニュースは聞いた気がする。さほど思い入れのある施設でもなかったのでよく覚えていないが2001年のことだそうだ。この小説の主人公はその五島プラネタリウムで投影された星空を解説する人物であり、物語は閉館の日の最後の説明の場面から始まる。 彼は星空を、宇宙を、そしてプラネタリウムを愛していた。そして何よりも愛していたのは、カール・ツァイス製の投影機だった。彼にとって「投影機の仕組みを知ることは宇宙を知ること」と同じだった。 だからこそ、自らの手で閉館の準備を進めながら、彼の「思い」はその投影機に「残」ったのだった。その思いは、彼の前に生きた別の人間の残した「思い…
|
|
|
14歳からの哲学
|
|
悠々楽園/14歳でこの本を手に取るチャンスを得たあなたは幸せだ
|
もう5年も前に出た本だし、著者の早すぎる死とも相まって大きな話題にもなったので、この本についてはすでに多くの書評や感想が出尽くしている感がある。好意的な意見があり、批判的な意見があり、この本を手に取ろうかどうしようか迷っているあなたはその中から自分が信じられる書評を参考にすればよいだろう。いろいろな意見がありすぎて、逆に迷ってしまうかもしれない。書評に限らず、真贋を見抜くというのはなかなかに難しい(本書で池田さんは「本物を見抜ける人間になるためには、自分が本物にならなくてはならない」と書いています)。 私はあなたにただこう言いたい。もしあなたが14歳なら、こういう本を若いうちに手に取る機会が…
|
|
|
海のはてまで連れてって
|
|
悠々楽園/大人向けのちょいワル冒険小説でした。
|
アレックス・シアラーの名前は、金原瑞人さん(あの金原ひとみのお父さん)が訳者であること、帯の紹介がどれもなかなか魅力的なこと(つい手を出したくなる)、欧米では相当なベストセラー作家らしいことなどから、ずいぶん前から気にはなっていたのだった。訳者あとがきに書かれた金原さんの紹介が大いに期待させる内容だったので楽しみに読み始めたが、少々私の期待とは違った。 残念ながら私には、帯に書かれた、「ハッピーな感動」はもたらされなかった。これは少年少女向け冒険譚、勧善懲悪、予定調和的な物語である。プロットはしっかりしていて話自体はよくできている。翻訳も読みやすい。海に浮かぶ豪華客船が舞台ということもあり、…
|
|
|
アシュリー
|
|
悠々楽園/なかなか素敵な本です。
|
もちろんTVで彼女を取材した番組を見て、私は彼女のことを知っていたからこの本を手にとったのだった。 アシュリーは前向きだ。彼女の言葉からは14歳らしい可愛らしさを十分に感じ取れるけれども、その人生観は到底14歳のものではない。 体内時計が10倍も速く進んでしまうプロジェリアという病気だけれど、病気によってもたらされた過酷な運命は、彼女の身体だけでなく精神をも10倍速く成長させるのではないかと思う。あらためて、人の一生は長さに関係なく等しく平等なのかもしれないという思いを強くする。つらくとも楽しくとも悲しくともうれしくとも。 であるならアシュリーのように前向きに、自分にもたらされた生命の奇跡を…
|
|
|
東京奇譚集
|
|
悠々楽園/天才的職人の技に気軽に酔いしれる幸福
|
この本を手に入れたのはずいぶん前のことだ(というわけでもう文庫になっちゃってるんですね)。最初の「偶然の恋人」を読み、期待通りの面白さに舌を巻き、次の「ハナレイ・ベイ」を十分に味わい、満ち足りた気持ちになり、たとえばディズニーランドで買ってもらったクッキーをいっぺんに食べるのがもったいなくて2枚食べたところでやめにして、明日また缶を開けて食べるのを楽しみにしている子供のごとく、「いっぺんに食べちゃう――いや読んでしまうのはもったいない。さあて、次はいつ読もうかな」と大事にしまっておいたのだが、あんまり大事にしすぎて、そのまま食べるのを――いや読むのを忘れてしまっていた。 村上龍がどこかの雑誌…
|
|
|
SHUNSUKE
|
|
悠々楽園/ワールドカップ・南ア大会予選を戦う岡田ジャパンの押しも押されもせぬ大黒柱に成長した中村俊輔のセリエAデビューをめぐる記録
|
この本には、写真は表紙の1枚を除いて皆無である。が、背番号の10とNAKAMURAとのみ白抜きされたエンジのユニフォームをまとい、天に向けて両腕を差し上げ両手の人差し指を突き出してゴールを祝うSHUNSUKEの姿のなんとカッコイイこと。 本書はレッジーナの本拠地レッジョ・カラブリア生まれのスポーツ記者である著者の綿密な取材のみによって構成された、いわば硬派なサッカーファンのための本である。 タイトルの通り、本書は日本サッカー史上屈指のファンタジスタ・中村俊輔について書かれた本である。2002年日韓共催のワールドカップの代表落選からレッジーナへの移籍とその後1年間のプレーぶり、さらにはジーコ監…
|
|
|
グレート・ギャツビー
|
|
悠々楽園/村上春樹渾身の訳業がさらにくっきりと浮かび上がらせたフィッツジェラルドの天才。
|
たったの29歳でこの小説を書いたというのは信じがたい。そして1940年、たった44歳で死んでしまった。まさに波乱の人生であり、フィッツジェラルドは早足で時代を駆け抜けた寵児だった。 翻訳でしか読んでいないので文章家としての彼の力は私には評価のしようがないが、物語の設定、推理小説仕立ての構成、人物の造形、魅力的な会話、背景描写の繊細さと時折挟まる正鵠を得たアフォリズム。彼は人間が何たるか、宇宙の真理のなんたるかを若干29歳ですでに深く理解していた。誤解を恐れずに言うなら、人生とは、この世とは、はかない夢に過ぎない、そういうことだ。 この小説の展開する時代と場所はフィッツジェラルドの実生活を深く…
|
|
|
人類進化の700万年
|
|
悠々楽園/目からうろことはこのことだ。ヒトとしての出自を知るに最適の1冊。
|
昔習った記憶では200~300万年前のアウストラロピテクスが最初の人類だったはずで、この本のタイトル「人類進化の700万年」には「えっ?そうなの」と驚いた。それでこの本を手にとったのだが、2000年前後から21世紀の最初の数年の間にヒトの起源を書き換えるような大きな発見や研究成果がいくつもあり、そうした成果を踏まえて700万年前にさかのぼる人類の歴史について書かれたのが本書である。現在最古の人類は2002年に報告されたサヘラントロプス・チャデンシス、愛称「トゥーマイ」(「生命の希望」の意)だそうだ。 科学の世界では、1990年代から進歩のスピードがさらに一段も二段も加速しているように思える。…
|
|
|
波乱の時代
|
|
悠々楽園/明日の市場はグリーンスパンにもわからない。
|
FRB議長在職時にも増して、その発言が経済・金融市場に大きな影響をもたらしているグリーンスパン氏。一部の人たちにとって彼は神のような存在かもしれない。 当たり前だが彼は神ではないが、神のもとで地球全体(といってももちろん経済の領域に限られる)を見回して世界のバランスの不均衡や不正を見つけ出し、神の意志を尊重しながら、出しゃばらず、着実に仕事をこなしていくきわめて優秀な執事のように思えた。 本書は彼の半生の総決算ともいえる「波乱の時代」の特別編として出版された。自身が「100年に1度」と語った金融危機のさなか「波乱の時代」出版後に起こったこの未曽有の経済危機をどう解釈し、どのような提言がなされ…
|
|
|
日本でいちばん幸せな医療
|
|
悠々楽園/患者にとって「いちばん幸せな医療」とは何か?
|
Dr.コトーのモデルだと勘違いして購入したが、実際にはDr.コトーとは関係がなく、モデルとなった原作より以前からこの名前を使っているそうだ。 2004年8月に刊行された本だけれども、医療や介護の問題は、たった4年でさらに困窮を極めつつある。その意味でもドクターゴンこと泰川恵吾さんが実践する「幸せな医療」への取り組みと考察は、日本の医療の進むべき方向を示唆し、重要な契機となりうる。 宮古島を拠点に、ゆくゆくは八重山の数ある離島の医療のはるかな充実を目指す泰川さんの経歴は変わっている。始まったばかりの、東京女子医大のいわゆるERのチーフとして寝る間も考える間もない生活から、救急救命とは正反対とも…
|
|
|
ハーケンと夏みかん
|
|
悠々楽園/たわいもないが、確実におかしくて元気が出る
|
シーナのエッセイを読むのは久しぶりだけど、やはりオカシイ。ところどころクスクスと笑いが止まらなくなる。正直言って実にたわいもない文章なのである。だけども何か根源的な人間の笑いのシステムのつぼみたいなものをくすぐる文章なのかもしれない。 たとえばこんなところ。カヌーイストの野田知佑さん、ワニ目の悪友イラストレータ・沢野ひとし等と四万十川を下る旅の一コマ。キャンプで川蟹を茹でて一杯というシーン。「川蟹はすばしこいやつで、沸騰した湯の中に入れると『あついんだもんね』と言ってすぐにぞろぞろ出てきてしまう。それらをまたかき集め、『だめなんだもんね』と言って蓋をしておさえつける。全日本川蟹愛護育成協会と…
|
|
|
オシムの言葉
|
|
悠々楽園/オシムの魅力を余すところなく伝え、ユーゴの戦火と現代をつなぐ糸を鮮やかに浮き彫りにしたすばらしいノンフィクション。
|
「オシムの言葉」というタイトルから、オシム語録的なものを--ジェフのHPにあったような--をイメージしていたが、全然違った。 この本は著者の木村元彦さんの、旧ユーゴスラビアに対する強い愛着と関心(なぜその地域に関心を持ち始めたのかは書かれていないのでわからない)の上に立ち、周到な計画と綿密な調査、精力的な取材に基づいて書かれた素晴らしいノンフィクションであった。 旧ユーゴの崩壊とボスニア戦争の記憶は、すでにわれわれの記憶の中でその影を薄めつつあるけれど、元々同じ国の民であったいくつもの民族がモーレツな殺し合いを始めたという事例は近代ではあまり例を見ない凄惨な事例だったのではないか。 ソ連が崩…
|
|
|
春、バーニーズで
|
|
悠々楽園/読んでいるうちにリアルさが増す。吉田修一の小説の力。
|
もともと「春、バーニーズで」という、アーバンでおしゃれな雰囲気のタイトルに魅かれ、パラパラとめくってみたら最後の短編のタイトルが「楽園」だったので(「楽園」という言葉に弱いもので)、買ってみることにしたにすぎなかった。 だいたいタイトルから連想される通りのイメージというようなことは、この手の作家ではありえない、ということにもう気づいているはずなのだが、時々忘れて、まんまと作者の術中にはまるということが今でも時々ある。魔が差す、とはそういうことだろう。 冒頭の「春、バーニーズで」を読み始め、学生時代おかまバーのママの愛人をやっていて、今は子連れの女と結婚して小田急線で都内に通勤する30代の会社…
|
|
|
また会う日まで
|
|
悠々楽園/事実という「曖昧な記憶」によってこの世界が形作られている以上、唯一絶対の真実などはない。自分の物語を「信じられる」ようになれば、すなわちそれが真実となる。
|
上巻の後半でもすでに母・アリスの影響は薄くなって、物語の中心はジャック自身へと移っていたが、下巻ではアリスと入れ替わるように、父・ウィリアムの影が次第に濃くなってゆく。 断片的に語られるアリスの話と4歳の幼児だったジャックの曖昧な記憶によってしか登場しないウィリアムは、登場人物というより背景もしくは幽霊にすぎなかったといってもいい。からだじゅうに音符の刺青を施した、信仰に篤い教会オルガニスト(これまたなんという思いもよらない設定だろう!)。父はジャックを捨てたのか? 時が経ち、友人や家族も去りゆき、記憶もさらに不確かさを増してゆく。再び父に会えないままでは、ジャックが真実を見出すすべはない。…
|
|
|
走ることについて語るときに僕の語ること
|
|
悠々楽園/1冊で3度おいしい。村上春樹ファン必読の書。
|
この本は、村上春樹の愛読者にとってとても重要な本だと思う。さらに、あなたが、いつか42.195kmを完走したいと日々ランニングを続ける市民ランナーなら、この本はうってつけだ。手に取らない手はない。 ご存じのように、村上春樹は、村上龍のようにメディアに登場することはほぼまったくない。だから、カフカ賞の授賞式で撮られた写真には少し驚きさえした。村上春樹も年をとるという当たり前のことを忘れていたからだ。 それはともかく、自ら語っている通り、この本はこれまでのエッセイの内容とは一線を画す。村上春樹が自らと自らの小説について初めて語ったバイオグラフィ(村上春樹自身はメモワールという言い方をしている)で…
|
|
|
また会う日まで
|
|
悠々楽園/私がいまさら言うまでもないことは重々承知の上だが、アーヴィングの作品は、現代作家の中では圧倒的に面白い。この作品に対してもその評価はいささかも揺るがない。
|
アーヴィングの世界は、(少なくとも私には・良くも悪くも)そこに生きているのが真っ当だと信じられる世界なのだと今回も再認識した。もう少し平たく言うなら、そこにいたとして自殺したくなるような世界ではない、と言ってもいい(つまり魅力的な人物が闊歩する愛すべき世界ということだ)。時に真っ当とも言えない人物設定や強引なストーリー展開はむしろ大きな魅力である。 世界で日々起こる出来事のどこを眺めても、大まかに言って人間という生き物が「ろくでもない」ということは、認めがたくも認めないわけにいかないだろう。「また会う日まで」で描かれる出来事も登場人物もまた「ろくでもない」ことに変わりはないが、この小説を読ん…
|
|
|
高瀬川
|
|
悠々楽園/平野啓一郎の才能の幅を示す作品集
|
最後の「氷塊」という作品が面白かった。2段組になっていて、実は普通と違って上下段は別々の物語なのだった。上段は母親が実の母ではないと知らされた少年の話。下段は、不倫をしている30代の女の話。まったく関係なかったこの2つの話はやがて近づき交差し重なり合う。人と人とのカンケイはそういうものに違いないというリアリティがあった。また、女を女らしく描写する力は大したものだとあらためて思った。 この掲載の仕方は、まったく思いつかないというほど意外なアイデアではなかったが、実際にこうして目の前に提示されると、読みにくさはともかく、視覚的な効果はあると思えた。視覚的な効果はもちろん作品の実質の一…
|
|
|
ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー
|
|
悠々楽園/うまいとは思うが、作り物めいた感じを否めない
|
あとがき(角川文庫版)で本人が言うとおり、今のところ「日本語を綺麗に扱える黒人女は世の中で私だけ」であるに違いない、それは納得できる。しかしそのこと自体にどんな価値があるのかというと私にはよくわからない。世界で彼女一人にしかできないなら希少価値という価値があるとは言えるのかもしれない。 山田詠美がいかに魅力的な女であるかを語る、やや自慢めいた村上龍の解説(角川文庫版)も、きっとその通りだろうと納得してしまう。「ゾクゾクするほど」魅力的な女なのだと思う。しかしそれと小説の出来とどう関係があるのだろうか? 魅力的な人間が書く小説は必ず魅力にあふれた小説になるということだろうか? 直木…
|
|
|
垂直の記憶
|
|
悠々楽園/山野井泰史は登山界のベートーヴェンであり、宮沢賢治である。
|
山野井夫妻のことはあるTVの番組で知った。2人とも命と引き換えに凍傷で多くの指を失っている。しかし、指を失ったことなど人生を生きる上でたいしたことではないとでもいうように二人の語る言葉には絶望も気負いもない。クライマーが指を失うとは音楽家が聴力を失うことに近いだろう。にもかかわらず、番組の中の彼らの表情や暮らしぶりは、ひたすら前向きで明るかった。生活のすべてをクライミングのために捧げる暮らしは喜びに満ちたものだという気がした。捧げる、というより、彼らにとって生活と人生とクライミングはまったく同じものなのだ。「こういう人にはかなわない」と私は思った。 彼ほどのクライマーなら、たとえ…
|
|
|
うるわしき日々
|
|
悠々楽園/小島信夫の自在さが体現する「小説の可能性」
|
最近ケータイ小説なるものがはやっている。2007年のベストセラーの上位を占めるという。中心的な読者は女子高生。等身大の主人公に起こる不幸や悩みに自分の姿を重ね合わせ、困難に立ち向う姿に共感し、時に涙する。「難しい言葉」など出てこず、ケータイで一話ごとに買って読める「気軽さ」も良いのだと、普段本はほとんど読まないという少女がTVで語っていた。 ひるがえって、この「うるわしき日々」はどうか。 主人公が作家であるとはいえ、ここに描かれる人々の暮らしぶりは、およそ日常的な範囲にとどまるといっていい。ただし、登場人物に若者はほとんど出てこない。だからといって老人向けというわけではない(しか…
|
|
|
ユートピア
|
|
悠々楽園/政治家や経営者にこそ、今まさに読んでもらいたい。モアが命賭けで作り出した世界の理想に学ぶべきことは多い。
|
期待以上に面白く読んだ。ここで示されたモアの理想の世界像が、結局のところ21世紀の現代でも、いまだに求められる理想であり続けていることは興味深い。 テクノロジーの分野では、人間はこの何千年で格段に――とりわけこの100年ばかりの間に加速度的に――進歩したが、本質的で根源的な諸問題――たとえば「人間の幸せとは何か」とか「どう生きることが人として正しいか」とか――については相も変わらず結論は出ないままで、問題をむしろ複雑化させ、分かりにくくさせてしまった気さえする。そういう問いに対する答えは人それぞれだという考えにも一理あるし、人間は事実そのようにやってきた。その結果われわれが選択し…
|
|
|
宇宙はこうして誕生した
|
|
悠々楽園/あなたは「宇宙の始まり・今・未来」を知りたくありませんか?
|
ホーキング博士の著作の翻訳者であり、日本を代表する宇宙物理学者としても著名な佐藤勝彦先生の講演をまとめた「第1部宇宙の創生」がこの本の主章であり、事実圧巻の内容だった。 佐藤先生の提唱されているインフレーション理論、初期宇宙やブラックホールに関するホーキングの研究、さらに最近では超ひも理論等々、特に90年代以降、宇宙についての新たな理論や研究成果が続々と発表され、ニュースや本を通じて私たち一般人もそうした話に触れる機会が増えた。しかし、相対性理論も量子力学も厳密に理解できない私が、現在の宇宙物理学の最先端の研究を100%理解することは夢のまた夢である、残念ながら。もっと数学や物理もちゃんと勉強…
|
|