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怪談 怪談
仙人掌きのこ/シュバンクマイエル氏にしいたけ1年分を贈りたい!
 唐突ですが、最近の大相撲をどう思われますか? いえ、野球賭博や八百長問題ではありません。番付上位にズラリと並ぶ、異国の力士たちの四股名。これを見るたびに私は、なんとなく落ち着かないような、こそばゆいような気持ちになるのです。私は国粋主義者ではありませんし、やれ「国技」だ、やれ「神事」だとやかましく言うつもりもありません。むしろ、現代の日本人にとっても異質な世界で頑張っている若者という意味では、心から彼らにエールを送りたいと思っています。しかし、どうしても感じてしまう小さな違和感は、私自身が気付いていない「日本人としての根っこ」を刺激されるからでしょうか。 さて、小泉八雲の「怪談」。いうまでも…  全文読む 評価する

てのひら怪談 てのひら怪談
仙人掌きのこ/怪談108R(ラウンド)――怖いって何だろう?
 帯には「3分で読める800字の怪談が108編!」とある。編者である東氏は「カップ麺」と「ウルトラマン」をあげていらしたが、私の脳裏に浮かんだのは「ボクシング」であった。更に、愛読しているボクシング漫画「はじめの一歩」を連想し、こうつぶやいた。『怖いって何だろう?』 ふとしたきっかけでビーケーワン怪談大賞に作品を投稿し、それが本になるという僥倖を得たのは、文章の素人である私にとっては喜びであるとともに戸惑いでもあった。まさに、ボクシングに巡り合ったばかりの一歩くんの気分だ。自分の書いたものが評価されるのは嬉しい、他の人の素晴らしい作品を読むのは楽しい、しかし常に原点とも言うべき問いに立ち返る。…  全文読む 評価する

ヒカルの碁 ヒカルの碁
仙人掌きのこ/「ヒカ碁」の面白さはスパイラル!
 初めにお断りしておくが、私は碁が打てない。それでも、「ヒカルの碁」(以下ヒカ碁)は、何度も繰り返し読む愛読書である。その面白さはどこにあるのか、私なりの楽しみ方をご紹介したい。 唐突ではあるが、まずは頭の中になるべく大きな円錐(すい)を思い浮かべていただきたい。そして、その頂点から底辺にむけて、螺旋(らせん)状に溝を掘っていく。するとドリルのような立体ができるはずだ。これが私のイメージする「ヒカ碁」の世界である。 頂点はもちろん、「神の一手」。螺旋状の溝は、そこに至るまでの道のりだ。「ヒカ碁」に登場する人物は、例外なくこの道のどこかに存在する。ヒカルやそのライバル塔矢アキラはもちろんのこと、…  全文読む 評価する

定本久生十蘭全集 定本久生十蘭全集
仙人掌きのこ/幸福なバーチャルツアーへのチケット
「久生十蘭」と聞いて、身構えてしまう人は多いのではないだろうか。私もその一人だ。 私の世代にとって十蘭といえば、三一書房版の全集であり、澁澤龍彦や中井英夫など一流の好事家たちが愛した稀代の作家というイメージが強い。したがって、その書評なんておこがましいとは思うが、三一書房版あるいはその他の書籍では味わえない「特別な魅力」をお伝えしたく、恥をしのんで書かせていただく。「特別な魅力」とは何か。それはパンフレットに明記されているし、月報で中野美代子氏も指摘している。『小説は編年体の編集を採用。作品の発表順に収録し、久生十蘭の軌跡がたどれるように構成』されている事だ。 なんだ、それだけの事か……と思わ…  全文読む 評価する

生き屛風 生き屛風
仙人掌きのこ/モノノケ・セラピー
 もしあなたが、心の中にひとつ隠れ里を持ちたいと願うなら、この「生き屏風」を読むと良いだろう。 日本ホラー小説大賞短編賞という肩書きや、そのタイトルから、おどろおどろしいイメージを持つかもしれないが心配御無用。確かに、死霊や鬼の子は登場するが、怨恨・復讐・暴力などとは無縁で、ひなびた温泉宿でのんびりとくつろいだような気分を味わう事ができる。日本むかし話とムーミン谷、そしてアリスが巡った不思議の国を混成したような理想郷がここにある。 それにしても主人公・皐月の人(鬼?)の良さは、読んでいて気の毒になるほどだ。初対面の相手からはまず容姿を褒められないし、村を災いから守っているのに尊敬もされていない…  全文読む 評価する

トンコ トンコ
仙人掌きのこ/ある名作アニメによせて
 第15回日本ホラー小説大賞短編賞作「トンコ」、前年度の同賞最終候補作を全面改稿した「ぞんび団地」、そして「黙契」。 この三作を読みながら、私はしきりにあるアニメ作品を思い出していた。「アルプスの少女ハイジ」である。作品から受ける印象は人それぞれだと思うが、私にとって「ハイジ」は『孤独な魂の救済劇』だ。村人との交流を避け世捨人となった“おんじ”、家柄と足の障害のため同年代の友人を持たない少女“クララ”、旧弊な常識に縛られた執事“ロッテンマイヤー”。彼らは、ハイジというきわめて無垢な存在に触れて心を開いていく。そして、実はハイジ本人もその交わりの中で救われている。 トンコは孤独な豚である。「ぞん…  全文読む 評価する

100KBを追いかけろ 100KBを追いかけろ
仙人掌きのこ/黒史郎を追いかけろ
 第1回『幽』怪談文学賞・長編部門大賞受賞者、黒史郎の四冊目の単行本である。 受賞作『夜は一緒に散歩しよ』は妻の死をきっかけに綻びをみせる日常を描いたサイコホラー、次の『獣王』は他に類をみない奇妙な愛の物語、そして3作目の『黒水村』は脱出型アドベンチャーゲームを思わせるライトノベル。そして本作では、作者がもっとも興味を持つもののひとつとしてあげている「都市伝説」と、工業地区で育った若者たちの「傷だらけの青春」の組み合わせにチャレンジしている。 物語の舞台は、横浜の鶴見だ。その描写は徹底してリアルで、登場する地名や店名はほとんどが実在のものだ。土地勘のある人ならば、「ああ、あそこのコンビニ」と見…  全文読む 評価する

お父ちゃんと私 お父ちゃんと私
仙人掌きのこ/世にも稀なるブリガドーン現象の観察記録
 私はつねづね「水木しげる」とは、戦後日本を襲った最大級の“ブリガドーン現象”ではないかと考えている。ブリガドーン現象とは、百年あるいは千年に一度、複雑な気象条件と物理条件がそろって現れるもので、その中は妖怪や幽霊が跋扈(ばっこ)する世界であるという。 私たちの周囲をよく再確認してほしい。TVや映画では何度も「鬼太郎」がリメイクされ、その登場キャラクター、すなわち妖怪グッズがあふれている。『砂かけ婆』と聞けば、ほとんどの人がそのビジュアルを思い描く事が出来るが、もともとは“誰も姿を見た事がない、一地方の怪現象”だったのである。それを日本全国津々浦々にまで広めたのは、他ならぬ「水木しげる」であっ…  全文読む 評価する

隠居の日向ぼっこ 隠居の日向ぼっこ
仙人掌きのこ/800字の小宇宙
 今年もビーケーワン主催の「ビーケーワン怪談大賞」が開催されている。800字以内の怪談を創作・実話を問わず募集し、全投稿作をブログ形式で発表するというユニークな試みは、すっかり夏の風物詩として定着したようだ。私も駄文を書き連ねたり、磨き上げられた玉のような作品を拝読したりと楽しませて頂いている。この催しに参加して痛感した事は、800字、わずか原稿用紙二枚分の文章が、実に豊潤な可能性を秘めているという事である。 さて、前置きが長くなったが、この杉浦日向子「隠居の日向ぼっこ」も800字以内で書かれたエッセイだ。江戸から昭和にかけて活躍した道具をテーマに、博識とユーモアを織り込み驚くべき小宇宙をつく…  全文読む 評価する

あちん あちん
仙人掌きのこ/メメント・モリ
「メメント・モリ(死を忘れるな)」「哲学とは死の練習である」 思春期の頃はそんな言葉をメモして、わかったような気分になっていたものだ。その時は真剣だったが、切実ではなかった。あくまでも「死」はまだまだ先の話であり、他人事だった。絶対に安全を保証された場所から、死の恐怖をのぞいていたに過ぎない。いわば遊園地のバンジージャンプのようなものだ。 怪談の醍醐味もまた、それに似ている。どんなに恐ろしくおぞましい話であろうと、それは活字(または映像・語り)の向うの世界だ。安全な場所で、擬似恐怖体験や仮の死を味わうのだ。 しかし「あちん」を読み進むうち、じわじわとその安心が侵されていくのを感じた。そう、作品…  全文読む 評価する

人魚と提琴 人魚と提琴
仙人掌きのこ/「人魚と提琴(ヴァイオリン)、どこが似てる?」と聞いたれば、『あたしはどちらも煮てないわ』とはアリスの答え。キャロルおじさん曰く「人魚は『幻想の生物』、ヴァイオリンは『弦奏の静物』……」
「人魚と提琴(ヴァイオリン)」には『鏡の国のアリス』が重要なモチーフとして登場する。物語の導入部で、主人公・涼子は黒猫のキティに導かれて玩具館「三隣亡」に足を踏み入れる。その入口で玩具館の共同経営者・美珠と合わせ鏡のように向かい合った時、現実と幻想の境界は「ガーゼのように柔らかく」なり、不思議な物語が始まるのである。「燃えさかる炎のなかでヴァイオリンを弾く少年、その周りで踊る人魚」という涼子の記憶は、おとぎ話のように美しく思われるかもしれない。しかし、その炎は涼子の肉体に火傷の痕を残しているし、人魚はアンデルセン童話のような美しい存在ではなく、人にも魚にもなれない生臭い不気味な生物として描かれ…  全文読む 評価する

カフカ田舎医者 カフカ田舎医者
仙人掌きのこ/錬金術めいた「田舎医者」の誕生
  アニメーション作家・山村浩二氏は、本作でオタワ国際アニメーション映画祭グランプリを獲得した。2002年製作の「頭山」と合わせると、世界四大アニメーション映画祭のグランプリを制覇するという世界初の快挙である。アニメというと大人数でつくるものというイメージが強いが、「カフカ田舎医者」の製作スタッフは山村氏をのぞくと4名だという。一年半をかけてコツコツと創られてきた労作、職人技の作品なのだ。 その「カフカ田舎医者」を絵本化したのが本書だが、いわゆるフィルムブックではない。原画をもう一度スキャンし直し、再構成されている。アニメを観た人はお判りだと思うが、本作では魚眼レンズをのぞいたような…  全文読む 評価する

綺想迷画大全 綺想迷画大全
仙人掌きのこ/斉天大聖(せいてんたいせい)大暴れ
「まぁ、なんとお行儀のわるい……」 お釈迦様にそう怒られるのではないか、というのがこの本の第一印象だった。 「西遊記」の訳者であり、シノロジー(中国学)図像学の第一人者である中野美代子氏が、お気に入りの絵画について語った本とくれば面白くない訳がない。そう思って読み始めたのだが、こちらの想像をはるかに超えた自由な精神の飛翔にめまいを覚えた。 対象は中国を飛び越え、タイの寺院の壁画、中世ヨーロッパの写本、ペルシアの絨毯にまで及ぶ。さらにその内容といったら、巨大な一本足の怪物スキヤポデス・写字生たちが写本の余白に描いたラクガキ・皇帝のハンコがペタペタ捺された画巻・、日本の誇る若冲のニワトリ・デューラ…  全文読む 評価する

世界のキノコ切手 世界のキノコ切手
仙人掌きのこ/50万分の1のキノコ
  この本を手にしたら、まずは表紙の切手部分を撫ぜてみてほしい。少し段差があって、本当に切手が貼ってあるように感じるはずだ。こういう遊び心を発見すると、たまらなく嬉しい。 さて、本書は20年以上前に突然キノコに「取り憑かれた」という写真評論家・飯沢耕太郎氏が収集したキノコの切手のコレクション・カタログである。3000枚以上を収集したという目にも鮮やかな世界中のキノコ切手が、国別に分類され紹介されている。そこにはふたつの世界への扉が用意されている。すなわち、「キノコの世界」と「切手の世界」である。 まずは「キノコの世界」。私も筆名に使っているくらいだからキノコは好きだが、その魅力は奥深…  全文読む 評価する

てのひら怪談 てのひら怪談
仙人掌きのこ/800字書評【コレクター】
「私、コレクターなんですよ」 良く通る低い声で話しかけられたのは、古書展の帰りにふらりと立ち寄った小さな酒舗でだった。永年探していた獅子元蜂蝋の『世界綺想生物大全』を抽選の末に勝ち取り、独りでその祝杯をあげようかというタイミングだったので、さてはこれが目当てかと思わず鞄を引寄せた。が、逆に男はふところから一冊の本を取り出し、差し出してきたのだ。 黒い表紙のすこし縦長の本。男にうながされて表紙を捲ると、そこには五百円玉の倍ほどの穴があいていた。何だこれはと覗こうとすると、ヒョッコリ赤い玉が現れアッと思う間もなく引っ込んだ。直後、穴の中から大勢の子供の笑い声が聞こえたような気がした。 いまのは酔い…  全文読む 評価する

久生十蘭「従軍日記」 久生十蘭「従軍日記」
仙人掌きのこ/ジュウラニアンにとってのパンドラの箱
  ジュウラニアンと呼ばれる「久生十蘭中毒者」にとって、彼の残した従軍日記(すなわち本書である)が存在し出版されるというニュースは、喜びよりも戸惑いをもって迎えられたのではないだろうか。十蘭はいっさいのプライベートを秘匿し、また嘘の経歴で人を煙にまくことを喜びとする人だったからである。そのスタイルを愛したファンが、いまさら手品の種明かしなど見たくないと思っても不思議ではない。そういう人がこの書評を目にするか疑問ではあるが、ひとつだけ取り急ぎ伝えたい。現在の久生十蘭著作継承者、十蘭の姪の三ツ谷洋子さんの言葉だ。「叔父様、スミマセン。素顔が公開されて恥かしいのは我慢してください。名前さえ…  全文読む 評価する

深海生物の謎 深海生物の謎
仙人掌きのこ/「最後のフロンティア」の素顔
  『深海は宇宙よりも謎に満ちている』と言われる。宇宙よりはるかに身近にありながら、重力と暗闇と低温が人類の侵入を拒んできたのだ。『地球最後のフロンティア』という言葉にロマンを感じたものである。 ところが昨今、深海生物の映像を見る機会が増えているように思う。「へんないきもの」のヒットもあってか、TVで生きたユメナマコの姿が紹介されるのも珍しくない。本書「深海生物の謎」も図版が豊富だ。200頁中半分、あるいはそれ以上をカラー写真が彩る。どうやら『深海』は以前に比べると、すこし身近になっているようなのだ。これらの映像はどのように記録されたのだろうか。そこに注目して読むと、我が国の深海探査…  全文読む 評価する

古本屋を怒らせる方法 古本屋を怒らせる方法
仙人掌きのこ/書を求め、町へ出よう
思わず手に取りたくなる、いい題である。 著者は「『古本屋を怒らせる方法』という本を書いたとしてもさっぱり売れそうにない」と謙遜するが、そんな事はない。タイトルに惹かれて購入した者がここにいる。 ただ、タイトル買いなので、たいへん失礼ながら著者の林哲夫氏が画家である事も、雑誌の編集人として歴史に埋もれた出版人の再評価に尽力されている事も知らなかった。 氏の興味の対象――古書店に求めるもの――は主に雑誌である。しかも「埋もれた出版人」の出したものであるからマイナーだ。私の浅学菲才を差し引いても、聞いた事のない名前の雑誌が並ぶ。 読み進むと、ちょっとした古書店散歩ガイドといった趣きの章がある。しかし…  全文読む 評価する

響鬼探究 響鬼探究
仙人掌きのこ/「劇場版」「仮面ライダー響鬼」「七人の」「王子」
「仮面ライダー響鬼」(以下「響鬼」)のファンは屈折している。 自分の好きなものを好きとは言い切れない……そんな鬱屈した想いを抱いている。その原因は、番組中盤でのプロデューサー交代劇にある。作る人間が変われば内容が変わるのは当然の事だ。「響鬼」は連続した物語でありながら、ふたつのテイストを持ってしまった作品なのだ。 この『響鬼探求』はその交代前、29話までを対象にした本だ。30話以降は別物として考え批判はしない、というスタンスが貫かれている。最初にその構想を知った時、ずいぶん窮屈な本になるのではないかと心配した。しかし、読み進めるうち、なるほどそういう事かと得心が行った。 帯にはこう書いてある。…  全文読む 評価する

岡本太郎「明日の神話」修復960日間の記録 岡本太郎「明日の神話」修復960日間の記録
仙人掌きのこ/明日の『明日の神話』のための現し世(うつしよ)の話
2006年8月、私は「神話」に会いに行った。汐留で公開された岡本太郎の代表作『明日の神話』に会いに。縦5.5メートル、横30メートルという巨大な壁画の存在感は圧倒的だったが、私が本当に見たかったのは絵の描かれていない裏側であった。通常の展示で絵画の裏を見る機会はまず無いだろう。しかし、汐留ではその裏側も公開されたのである。そこには無数のひび割れが走っていた。この巨大な壁画は公開1年前まで、無残な8000個の破片に砕けていたのである。 『明日の神話』が描かれたのは「太陽の塔」とほぼ同時期の1960年代後半である。メキシコのホテルから依頼されて現地で製作された。エキスポ70の代名詞にもなった「太陽…  全文読む 評価する

ざくろの空 ざくろの空
仙人掌きのこ/62年目のトンチンカン
八月が来るたびに、私は小さな人形を取り出してながめる。人形の名前は頓珍漢(トンチンカン)人形。型もロクロも使わない、手びねりの素焼きの人形である。私が持っているのは大きいもので9cm、小さいものは3cm。全部で10個以上あるが、二つと同じものはない。このユニークさを何に例えたらよいだろうか。土偶・アフリカのマコンデ彫刻・バリの面・プランクトン・妖怪――すべてに似ているようで、すべて違う。頓珍漢人形としか呼べないものだ。 人形の作者は久保田 馨(1928-70)。たった2年足らずの修行の末に独立し、一人で17年間に20~30万体の頓珍漢人形を生みだしたという人形作家だ。その数もおそるべしだが、更…  全文読む 評価する

女の子の食卓 女の子の食卓
仙人掌きのこ/「女の子」以外の人たちへ
「食べ物」をテーマにした少女漫画である。 そう聞いただけで甘ったるいものを連想して、胸焼けを覚える人もいるかもしれない。どうせ、惚れた別れたの恋愛話に生クリームがたっぷりトッピングしてあるのだろう、と。 確かに「女の子の食卓」というからには、スイーツや恋愛がらみの料理も登場する。しかし、その味わいは単純ではない。例えば、自分の歩みたかった道を往く従妹への羨望とともに飲み込むシュークリームの苦い味。男をとられた元カノが恨みを込めて熟成させたフルーツケーキの不気味。男と失踪した母を見て封じていた自らの「女」を許す赤飯の渋味。舌ではなく心で味わう味だ。 グルメ漫画というジャンルが定着して久しい。あり…  全文読む 評価する

文人暴食 文人暴食
仙人掌きのこ/ふたたび名作を味わうためのレシピ
「我輩は猫である」と鉛筆で百回なぞっても、夏目漱石にはなれない。しかし漱石が食べた味そのまま、というカキアゲを食べる事は今でも可能だ。(私も食べた)憧れの人物の好物を知りそれを食すという行為は、いささかミーハー的ではあるけれども、同一化の願望を満たす最もお手軽な方法ではないだろうか。 「文人暴食」は同じ著者による「文人悪食」の続編である。37人ずつ、計74人の日本を代表する文人たちの食卓・酒席のエピソードを集め、日本の近代文学史を「食」の観点から語ろう…という試みだ。一見、誰でも思いつきそうな平凡な企画のように思われる。しかし、この2冊を書くために、著者は十年の歳月を費やした。全集はもちろん研…  全文読む 評価する

戦国時代のハラノムシ 戦国時代のハラノムシ
仙人掌きのこ/ハラノムシが治まる成分が含まれております
 架空生物の図鑑というのは、なぜこんなに楽しいのだろう。シュテンプケの「鼻行類」しかり、鳥山石燕の「画図百鬼夜行」しかり。生物ひとつひとつの意匠を味わうのも良いが、全体を流れる独自の世界観や体系がまたたまらない。役にたたない知識を蓄える喜びを満たしてくれる。この「戦国時代のハラノムシ」もまた、頁をめくるたびに思わず笑みがこぼれる一冊だ。前記の作品が好きな方なら楽しめること請け合いである。63匹の可愛い(なかにはグロテスクなものもいるが)ムシたちが、あなたを迎えてくれるだろう。 とはいえ、ハラノムシ達を「ハナアルキ」や「ぬっぺっぽふ」と同列にあつかうのは問題があるかもしれない。彼らが収められた『…  全文読む 評価する

稲生モノノケ大全 稲生モノノケ大全
仙人掌きのこ/平成の平太郎は平気の平左か?
 『稲生物怪録』は、和製・少年版「不思議の国のアリス」である… そんなフレーズが浮かんで、コイツは我ながら気の効いた思いつきだぞ…とほくそえんでいたのだが。この分厚い平成の奇書「稲生モノノケ大全 陽之巻」を開いた時、その発想の単純な源泉をみせつけられて呆気にとられた。口絵におさめられた宇野亜喜良氏の「絵本ぼくはへいたろう」である。宇野氏といえば、「アリス」の挿絵でもお馴染みだ。何のことはない、優れたイラストレーターのイメージが平太郎とアリスを引き合わせてくれただけの事だったのである。(私はこれ以前の「ぼくはへいたろう」を2種とも所有している。もちろん、宇野版アリスも) さて、先に平成の奇書と記…  全文読む 評価する

八本脚の蝶 八本脚の蝶
仙人掌きのこ/過剰なる蝶
かけがえのない人の永遠の不在は、悲しみではなく巨大なストレスである。二階堂奥歯「八本脚の蝶」…最初この本を書店で手にした時、私はそっと棚に戻した。プロフィールに「自らの意志でこの世を去る」とあったからだ。数年前、私は続けざまに近しい存在を失った。10年以上ともに暮らした愛犬、文学・絵画観に多大な影響を受けた恩師、そして「右腕」ではなく「半身」として仕事を支えてくれた私よりずっと若い友人。これ以上のストレスに耐える自信がなかったからである。その後、奇縁あって再びその本は私の前に現れた。これは避けては通れない本なのだ、と覚悟を決めてページをめくり…いきなり冒頭で釘付けになった。紹介されているのはミ…  全文読む 評価する

てのひら怪談 てのひら怪談
仙人掌きのこ/てのひらからてのひらへ
たくさんの個体が集まって巨大な群体をつくる…鉄腕アトムに登場した「ロボット宇宙艇」のような生物が実在するという。深海に棲むクダクラゲである。驚いた事にそれぞれの個体は、専門の役割を担っているそうだ。あるものは捕食、あるものは生殖、あるものは移動…あたかも一つの生命体のように。この「てのひら怪談」はまさにそんな一冊である。インターネットでの公募という、地域も年齢も性別もバラバラな60名以上の語り部から集まった100の怪談。しかし読み進むうちに、作品と作品が繋がり脈打ち出すのを感じるはずだ。それは「連句連歌」を意識したという編者の巧みな演出によるものであり、また全く意識されない偶然の連鎖でもある。…  全文読む 評価する

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