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舟を編む 舟を編む
栗太郎/愛しさが溢れます
 言葉に、辞書に、そして人に対する愛おしさが胸に溢れてくる一冊でした。 素人が想像しても、辞書編纂作業は気が遠くなるほど膨大で緻密で、忍耐と情熱、言葉に対する感性、知識、そして愛情がなければ務まらないものでしょう。これは、そういう物語です。 大手総合出版社玄武書房の中で、時に冷遇され金食い虫と囁かれる辞書編集部に集う個性的な面々は、数多の問題を乗り越えて新しい辞書『大渡海』完成に向けて突き進みます。年齢も経歴もバラバラで、もちろん性格も違う人々の人生が、「言葉」を核に編み上げられていく。 辞書の編纂にかかった時間はおよそ、15年。読み手は途中で、ぽんっと10年ほどワープするのですが、彼らはその…  全文読む 評価する

下町ロケット 下町ロケット
栗太郎/ウェル・メイドな熱血小説
 この小説、とても面白かったです。私は一気読みしました。はらはらドキドキし、憤り、喝采し、ちょっと涙して・・・・・・読後感も爽やかだし、幾度か読み返したシーンもあります。でも、星5つはつかない、もどかしさ。 何故なんだろうと考えると、「作り話感」が強すぎたんですね。「ものづくり」に夢とプライド、ロマンを持つ中小企業の闘いが描かれているのですが、物ごとが上手く行き過ぎです。クライアントの理不尽、資金繰り、訴訟問題、大企業相手の駆け引き、社内の造反、製品品質に対する不信・・・・・・主人公、佃航平が率いる佃製作所に、困難はこれでもかと言うほど降りかかるのだけど、それはあくまで成功のスパイス。『下町ロ…  全文読む 評価する

激走 激走
栗太郎/ノンストップ陸上ミステリー
 ロンドン五輪予選会を兼ねた福岡国際マラソンの42.195キロを舞台に繰り広げられるミステリー。 主要登場人物はランナーが6人と白バイ先導員が1人だが、他に実況中継のアナウンサーと解説者、ランナーの恋人、そして視覚障害者ランナーの「オレ」も重要な役目を担っている、結構な大所帯だ。 白熱するレース、過酷な闘い、駆け引き、野望、絆。マラソンのスタートからゴールいう限られた舞台に仕込まれた謎は3つある。謎その1:レース中に急死したランナーは、殺害されたらしい。誰に、何の為に、どうやって?謎その2:20キロまでが契約のペースメーカーが、レースを続行する理由は?謎その3:一人だけ、読者に正体を隠された「…  全文読む 評価する

武士道シックスティーン 武士道シックスティーン
栗太郎/漫画チック、ドラマチック剣道
 剣道に打ち込む二人の女子高生が主人公。性格も剣道に対するスタンスも正反対、それぞれ個性的な彼女たちが、章ごとに一人称の語り手となって、テンポ良く話が進みます。 が、帯や宣伝ポップ、粗筋と言った前情報なしに本書を読んだら、絶対に一章のはじめのページで主人公の性別年齢を誤解するでしょう。例えば、精神集中し「無」になろうとして、失敗する場面。 くそ、甘いぞ。いちいち風を感じているではないか。匂いを想っているではないか。(p12)   いません、こんな女子(一章時点では)中学生!  新免武蔵を心の師と仰ぎ、斬られるまでは、ひたすら敵を打ち倒すことのみ考える。超絶時代錯誤の剣道少女、磯山香織。剣道エリ…  全文読む 評価する

老朽マンションの奇跡 老朽マンションの奇跡
栗太郎/「家を、あきらめない。」と帯にあるが、「夢を、あきらめない。」ということだと思う。「夢」を「人生」に置き換えても良いけれど。
 今の時代、「定住」することにはリスクがある。隣人トラブル、地方自治体の財政破綻、住環境の悪化。住まいを買ってしまえば、簡単に引っ越すわけにはいかない。  根無し草のリスクより、私はずっとそちらの方が怖かった。だが、この本を読んで、自分の家を持つのも良いものだと感じた。家を買うこと=定住ではないのだ。まあ、年収の何倍ものローンは論外だが。 それくらい、「たそれがれロンドンフラット」は魅力的だった。 この本を、ただラッキーな話として読む人がいれば、それは違う。著者は確かに、吉祥寺徒歩8分のマンションを500万円という破格の値段で手に入れた。最初に見た売り出し価格は1280万だったというから、さら…  全文読む 評価する

氷上の美しき戦士たち 氷上の美しき戦士たち
栗太郎/バンクーバーまで、あと何日?
 荒川静香選手がアマチュア引退して以来、フィギュアスケートから遠ざかっていた。バンクーバー五輪の代表選手争いも「ふーん」という感じで、本番も結果をニュースで見ればいいかという気分だったのだが、書店で本書をみつけてしまった。 前作『氷上の光と影 知られざるフィギュアスケート』が面白かったので、迷わず購入した。読んだ感想は、「バンクーバーもしっかり観戦しなきゃ!」 本書は、そういう力を持った本だ。 前作は、フィギュアスケートと言う競技の全容をわかりやすく解説した本で、取り上げられる選手は女子が多かった。他にも監督、コーチ、振付師、審判などフィギュアスケートを取り巻く人々にまで言及されていた。対して…  全文読む 評価する

赤い指 赤い指
栗太郎/「家族」って、ほんと、どうしようもない。でも「絆」は捨てたものではない。
 文庫版の表紙裏、作品解説は「家族のあり方を問う直木賞受賞後第一作。」という煽りで終わっている。加害者、被害者、そして事件を担当する刑事。三つの家族の姿が読者に問うものは、まさに家族の意味であり、その枠を取り払っても残る絆の意味だ。 痴呆の母、引きこもり気味の幼稚な息子、息子を溺愛し夫を侮蔑する妻。前原家は、とてもありがちな問題を抱えた家族である。主人公の一人・昭夫は前原家の家長であり、崩壊しつつある一家を体現するかのように、現実から目をそらし、逃げ続けている。 昭夫が、ついに現実に立ち向かわねばならなくなったのは、自宅の庭に少女の遺体を見てしまった時だ。犯人はわかっている。だが犯人を警察の手…  全文読む 評価する

Run!Run!Run! Run!Run!Run!
栗太郎/良くも悪くも、ケレン味たっぷりなスポーツ小説
 好きな小説のジャンルにスポーツ小説がある。挑戦して、打ちのめされて、乗り越えて、夢を見て……勝負の行方とは別に何かを手に入れる。 全体としてはパターン化されているのだが、勝負の緊迫感がスパイスとなって飽きさせない。友情は重要要素のわりに、ベタベタした恋愛が無視されがちな点も、私としてはポイント高い。 と言うわけで、タイトルからして露骨にスポーツ小説であることを訴えている本書を手に取った。主人公は、オリンピックを目指す長距離ランナーの大学生で、当面の目標は通過点である箱根駅伝だ。 だが本書は予想に反して、一風変わったスポーツ小説だった。文庫版裏表紙の内容解説を引用したい。「(前略)しかし突然の…  全文読む 評価する

フェリックスとお金の秘密 フェリックスとお金の秘密
栗太郎/ケストナーの「エーミールと探偵たち」を思い出しました
 十二歳のある日、「金持ちになる」と心を決めたフェリックスは二人の友人と、『小人のなんでもや&Co.』を設立し、芝刈りから始まってお金もうけに乗り出します。子どもたちが、それまで漠然としか知らなかった「お金」について考えるようになり、経済の基本を学び、投資の世界に飛び込んでいく様子が、物語の一つの柱。もう一つの柱は、偶然と幸運からフェリックスが手にした古い金貨の持ち主探しです。  まとまった元手を手にしたフェリックスと仲間たちは、なんと株に手を出します。(しかも新興株の全力買い!)さらには、商品先物取引にまで。 実際のところ、子どもだけで株の売買ができるか疑問ですが、欧米の子どもたちは、わりと…  全文読む 評価する

会計天国 会計天国
栗太郎/あれ? 面白くて、びっくり
 とっても失礼な感想だが、正直にそう思った。 こういった、小説と実用書を両立させようという試みは、たいてい「二兎を追う者、一兎をも得ず」に終わる。最初はストーリーの面白さを重視しているのに、次第に知識の羅列になってきて、最後には主人公たちはただの首振り人形になってしまう、悲しきパータンだ。『ソフィーの世界』『数の悪魔』『ブッタとシッタカブッタ』等など。 本書は、それが反対だった。 経営コンサルタント北条は、現世復活をかけたゲームで、追い詰められた五人を救わねばならないのだが、最初の一人は元アイドルのアパレルブランド経営者。会社が黒字倒産しそうなことにも気づかない会計の素人である彼に対して、北条…  全文読む 評価する

ハゲタカ ハゲタカ
栗太郎/爽快さが足りない
 ビジネスで失敗する最大の原因は、人だ。(p453)  という主人公の台詞があるのですが、この小説を読んでいて今ひとつ盛り上がらなかった理由もそこにあるような気がします。 力作であるのは確かです。読み始めたら上下二冊ノンストップで読んでしまう。でも、再読するか? 続編が読みたいか? と聞かれれば、私の答は否でした。   ただ熾烈な企業買収の赤裸々な真実を知りたいだけならば、ドキュメントでもノンフィクションでも読めばいいのです。それを何故、あえて「ハゲタカ」というフィクションを読むのか? 現実ではちょっと有りえない、もしくは数を揃えることが難しいくらい、魅力的な「人」を求めてのことでしょう。主役…  全文読む 評価する

橋をかける 橋をかける
栗太郎/待望の文庫化、ハードカバーですが。
 1998年、IBBY(国際児童図書評議会)第26回世界大会において、美智子さまの基調講演がビデオテープにより上映されました。本書はその講演と、2002年、IBBY50周年記念大会における美智子さまのお祝いの挨拶を、二本の柱としています。「橋をかける」と題された講演はもちろん、静かでありながら力強く、心に残るものですが、本書には講演と御挨拶の舞台裏をつづったエッセイ、解説文、随行記などが収められていて、そちらも大変興味深いものでした。とりわけ、「文庫版によせて」は、一人でも多くの人に読んで欲しいと思います。 多くの人の熱意によって実現が可能となり、何年もかけて準備された、IBBY世界大会での美…  全文読む 評価する

押入れのちよ 押入れのちよ
栗太郎/あああ、もったいない!
 表題作「押入れのちよ」が良かった。登場人物たちのキャラクターがそれぞれに立っているし、過去、現在、未来へ続くものがある。それだけに1冊を読み終えた時、この子を核にした連作短編集だったら良かったのにと、ため息をついてしまった。 と言うか、裏表紙の紹介文も帯も、各書評に添えられた粗筋も、「ちよ」の連作短編集だとしか思えない書き方をされているのは、広告に偽りありではないだろうか。 実は、9編まったくバラバラの短編集なのである。 今回、短編集の難しさを、しみじみ感じた。作風が違う作品を寄せ集める悲劇。 本書に収められた9編を、独断と偏見で4つのグループにわけてみると、こんな感じになる。・綺麗過ぎる感…  全文読む 評価する

波のうえの魔術師 波のうえの魔術師
栗太郎/人は愚かさを繰り返す。そしてまた、立ち上がる。
 物語が始まるのは1998年、今から20年以上前です。主人公のフリーター青年、白戸は無為に生きる日々の中で一人の老人と出会い、彼の導きを得て相場の世界に飛び込み、そこにのめり込んできます。老人、小塚の狙いは、メガバンク「まつば銀行」の株価を操作し、社会的に抹殺もとい、相応のダメージを与えることでした。 それは、かつてバブル期に銀行が行った融資付変額保険によって、骨の髄まで搾り取られ、今なお苦しむ老人たちの復讐なのです。 バブル期の頂点と言われる1989年頃、私は高校生でした。バブルが崩壊した時も、かろうじて学生でしたから、その波に乗って人生を謳歌することも、波に翻弄されて転覆することもありませ…  全文読む 評価する

DIVE!! DIVE!!
栗太郎/もうひとつの「DIVE!!」
 森絵都さんの小説「DIVE!!」大好きです。普段、好きな本は隠しておきたい方なのですが、「DIVE!!」は熱く語り、スポーツ小説好きと見れば勧めて回ります。原作ファンなだけに、実写映画は恐る恐る観て、まあ可もなく不可もなく、こんなもんかという感想でした。そして、ついに漫画版に手を出しました。 漫画版があることは知っていたのですが、ちょっと敬遠していました。特に漫画化反対というわけではなく、むしろこの作品は「いける」と思っていましたが、私が想定していたのは少女マンガだったので、掲載紙が『少年サンデー』というところで、二の足を踏んでいたのです。 偏見もとい傾向として、少年漫画は他ジャンルの漫画に…  全文読む 評価する

猫を抱いて象と泳ぐ 猫を抱いて象と泳ぐ
栗太郎/この物語の、どこまでが事実でどこからが作り話かは、作者しか知らない
 これは、好き嫌いが別れる作品だと思う。好きになる人は、主人公をはじめ作品世界の隅々までを、たまらなく愛おしく感じ、そうでない人は冷ややかに笑い飛ばす。そんな類の作品だ。 書き手が、物語ることの至福をかみ締めた一作。陶酔感に似たその幸福をわかち合えるか、どうか。 本書は、相当に突飛なストーリーだ。タイトルも奇抜だが、登場人物も個性的という言葉では言い足りぬ奇妙さで、モノクロの映画か銅版刷りコミックくらいの非現実感が、全編に漂っている。それでいて、読み終えた時に、「全て本当にあったことかもしれない」と思わせる何かがある。 チェスに特別な興味を持っていない読者なら、主人公の少年リトル・アリョーヒン…  全文読む 評価する

春の窓 春の窓
栗太郎/何ゆえ、ホワイトハートなのか?
 書店で、もの凄くビックリしました。ホワイトハート文庫の棚で新刊を物色していた私は、『春の窓』という本のサブタイトルに「安房直子ファンタジスタ」とあるのを見ても、最初ぴんと来なかったんです。 この本、何か安房さんと関係あるのかなって。それから著者名を見たら、安房さんご本人の短編集だったので、ビックリ。ホワイトハート文庫、思い切ったことするなあ。  このレーベルから現役作家以外の作品が出た記憶がないと言うのが驚きの第一点。第二点としては、ここは刊行作品の八割以上がそのジャンルという準BL(ボーイズラブ)レーベルですから。 かつてホワイトハート文庫と言えば、小野不由美さんの『十二国記』シリーズなど…  全文読む 評価する

医学のたまご 医学のたまご
栗太郎/ヤングアダルト向けですが、大人がサラッと読むほうが楽しめると思います
 カバー折り返しの粗筋では、主人公の曽根崎君(14歳)が、ひょんなことから「日本一の天才少年」となって、大学の医学部で医学の研究をすることに。とあるのですが、ひょんなことって、あなた、犯罪じゃないですか? 曽根崎君が潜在能力試験で全国1位を取ったのは実力ではなく、ズルっこです。実は私、第一章を読んだところで、読むのを止めようと思いました。小ずるくて、浅はかで、甘ちゃんな、こんな子が主人公の小説は嫌だー。  ついこの間も、DVDで「パイレーツ・オブ・カリビアン2」を観て、主人公たちが、平気で仲間を騙したり、利用したり、陥れたりするので、唖然としたのですが、今は、自己中心的で軽薄な主人公が、格好良…  全文読む 評価する

夏から夏へ 夏から夏へ
栗太郎/「一瞬の風になれ」より面白い
 佐藤多佳子さんは陸上青春小説「一瞬の風になれ」で吉川英治文学新人賞や、本屋大賞を受賞した。全3巻を読んだ時、走るシーンの臨場感溢れる描写に魅せられ、特にリレーについては「なんだ、この自分が走っている感覚は?」と舌をまいたのだが、こういうことか、と納得した。 長期にわたる綿密な取材の成果というだけでなく、彼女の適性は小説よりむしろ、ノンフィクションにあるように思う。とりわけ人物の描き方にそれが顕著だ。「一瞬の風になれ」だけでなく「しゃべれどもしゃべれども」「サマータイム」どの作品を見ても、佐藤さんの描く人物は格好良すぎる。優柔不断で地味という仮面をかぶらせても、やはり格好良い。理想なのだろうな…  全文読む 評価する

チーム・バチスタの栄光 チーム・バチスタの栄光
栗太郎/名探偵は必ずしも人格者にあらず
 天才医師、桐生が率いるチーム・バチスタは、成功率平均六割といわれるバチスタ手術を連続26回成功させたが、直近では立て続けに3例の術死が起こっていた。医療過誤死か殺人か? 殺人であるなら、その手口は? 動機は? この作品、原作を読む前に映画版をDVDで観たのですが、正直あまり面白くありませんでした。しかし、映画だけ見て「これが『このミス』大賞?」と思うのは不当であろうと、張り切って原作を手にしてしまいました。 原作は、なかなか面白かったです。上下巻に分けず1冊にしてくれていれば、星もう一つ足したのですが。  映画はそもそも尺の問題があって、原作の全てを盛り込むことはできません。だからエピソード…  全文読む 評価する

スポーツドクター スポーツドクター
栗太郎/こんな先生がいたら、恋してしまいそうです
 連作短編でしょうか。 第一章で、高校最後の試合を前に膝を痛めてしまったバスケ部キャプテン、夏希はスポーツドクターの靭矢と出会います。キャプテンとしての責任感から不調を誰に告げることもできず、一人で不安と闘っていた彼女は靭矢によって、身体だけでなく心も救われ、癒されました。  続く第二章からは、半ば押しかけ的に靭矢のクリニックでアルバイトをすることになった夏希が、靭矢とはまた違ったアプローチで、クライアントたちを見つめます。 勝利至上主義の大人たちに心身を傷つけるまで追い詰められる野球少年、選手として頑強な身体を作ることと、女らしさを失いたくないという気持ちの狭間で摂食障害を起こしている水泳選…  全文読む 評価する

ストロボ ストロボ
栗太郎/人生のシーンを切り取る写真
 最終話である第一章に、こんな文章がある。「いずれ北川自身にも、人生のフィルムを巻き戻す時がやってくる。まだ遠い先かもしれないが(後略)」 本書は、まさにこの言葉の通り、50歳になったカメラマンの主人公が、人生の転機となったシーンを思い返し、自分の反省を遡っていく構成となっている。 小説は「第五章 遺影……五十歳」から始まり、以下、42歳、37歳、31歳と続き、そして「第一章 卒業写真……二十二歳」で幕を閉じる。 時間軸を反対にした小説は時おり見かけるが、大抵の場合は、もどかしさが付きまとう。 成長した主人公は、とうに乗り越えた山や、解決済みの悩みを、時を遡った若き主人公は真っ只中の問題として…  全文読む 評価する

LAST LAST
栗太郎/現実の重さと、ほのかな救い
 石田衣良氏の小説は、どちらかというとヤングアダルト向け、ふわふわと綺麗でラストは甘い物が多いと思う。疲れた時などはホッとするのだけど、そうでもない時に読むと、何だか適当な所で手を打たれたようなモヤモヤ感が残る。 そんな中、本書は少し毛色が違っていた。「LAST」は、様々な事情で人生崖っぷちの男女が主人公の短編集だ。基本はダーク&ビターだが、荒涼とした感じはなく、何より7本の短編で7冊の本を読んだくらいの充実感がある。「ラストライド」悪質な小切手金融にはまり、家族を売るか自分が犠牲になるか、選択を迫られる男。「ラストジョブ」住宅ローンの破綻に苦しみ、援助交際を始めた主婦。「ラストコール」テレフ…  全文読む 評価する

風神の門 風神の門
栗太郎/面白い。面白いが、しかし不満。
 巨匠と呼ばれる先生方と言うか、ある一定の年齢以上の男性作家さんの中には、登場人物における「女子ども」枠があるんだろうなあと、つくづく思ってしまった一作でした。司馬遼太郎先生はあくまで「漢」が書きたいのであって、女性は刺身のツマなのね。「風神の門」は忍者ものです。関が原合戦から早幾年、豊臣秀吉の遺児、秀頼は日々壮者になり、徳川家康は日々老衰する中、天下は再び騒乱の時を迎えんとしている、そんな時代。 主人公は伊賀忍者の霧隠才蔵で、いかなる集団に属することも嫌い、ただ己の技を信じて孤高に生きている彼が、謎の美女との出会いをきっかけに、豊臣・徳川の争いに巻き込まれていきます。 才蔵と、彼とは正反対の…  全文読む 評価する

魔物 魔物
栗太郎/これは「ターミネーター」?「エクソシスト」?
 上巻三分の一で、そう思わせる設定はライトノベルだと思います。強引で派手で、常識を吹き飛ばす、と言えましょうか。普通にハードボイルドを読む気でいた私は、ちょっと気力が萎えました。 タイトルの「魔物」は比喩であり、比喩ではないのです。 海を渡って悪い奴がやってくるのですが、これが一般読者にはなじみの薄い外来種の為か、解説が多く、同時に問答が多いです。人生や、人の善悪、運命、神について、主人公たちが、これでもかというほど語り倒しています。 要約すると、「人間は救いようのない邪悪な存在で、この世は地獄だ」「いいや、そうではない」のエンドレスなのですが。 とんでも設定にのけ反り、禅問答にイライラしつつ…  全文読む 評価する

ゲイ・マネーが英国経済を支える!? ゲイ・マネーが英国経済を支える!?
栗太郎/合言葉は誠意
  18兆円超とも言われる英国の同性愛者市場に注目することで、欧州ゲイの実態をリポートした本書。「おわりに」で著者は語る。 差別は根絶できない。ならば受けないようにするしかない。方法は二つある。 ひとつは差別者を鼻で笑える社会的な優位性の取得。知識でも容姿でもセンスでもいい。(中略) もうひとつは資本主義を味方につけること。(p253) 世界に、ホモフォビアという精神疾患がある以上、同性愛者に対する差別が消えることはないだろう。だが、差別を限りなく自分たちと無縁のものとすることはできるのだ。情に訴えるのではなく、正義を叫ぶのでもなく、ただ先にあげた二つの方法を取ることで。 ここで、資…  全文読む 評価する

Death note Death note
栗太郎/ノートの持ち主が彼でなければ、もう少し面白くなったかも
  この漫画、実はかなり変則的な読み方をした。10→11→12、7→8→9、そして1~6という順番で読んだのだ。 そのせいか、10巻以後3冊の印象が強く、「前半派」と「後半派」で言えば、断じて後半派だ。前半とは、言うまでもなく某主要登場人物の死までであり、後半は彼の死後である。 私にこの漫画を勧めてくれた人は完全な前半派で、「後半は蛇足だ」とまで言っていたけれど、私は「前半はプロローグに過ぎないのでは?」と思った。少数意見だとは思うが。「このノートに名前を書かれた者は死ぬ」所謂デスノートを手に入れた青年が、やや視野狭窄的に独裁帝国を築く過程が前半で、その帝国が崩壊していく過程が後半、…  全文読む 評価する

聖ペテロ祭殺人事件 聖ペテロ祭殺人事件
栗太郎/男性陣もしっかり!
  著者のエリス・ピーターズさんが、カドフェルシリーズを世に送り出したのは、60歳を過ぎてからでした。「聖ペテロ祭殺人事件」は68歳頃の作品です。知的でキュートな、愛すべきおばあちゃまだったのでしょう。そんなおばあちゃまだからこそ書けた作品なのだと、カドフェルシリーズを読むたび思います。 このシリーズ、まず老人が強い! 主人公の修道士カドフェルの知力、体力、気力とも、現代日本のへなちょこ成人男子をはるかに凌駕しています。そして女性が格好良い! これも現代日本の(以下省略)。 各話に登場する女性たちは、みな自分の頭で考え、行動し、人生を選びます。物語の舞台が十二世紀半ばのイングランドで…  全文読む 評価する

フレッドウォード氏のアヒル フレッドウォード氏のアヒル
栗太郎/彼女はアヒルでなければならなかった
  この作品、マイベスト30に入る大絶賛漫画なのですが、人に薦めるのは、ちょっと難しいです。実際、「これすごく良かったから、読んでみる?」と薦めた複数の友人から、「ちょっと、パス」と言われてしまった……絵柄にクセがあるのが一つの理由。下手じゃないのです。ただ……煌びやか?  そして、最大の難関が「アヒルの家政婦」です。この作品の最重要ポイントである、特異なキャラクター、アヒルの家政婦ローズマリーの存在が、読み手をたじろがせます。「アヒルの家政婦? え、私ちょっとファンタジーは……」 気持ちはわかります。 この絵柄で、アヒルの家政婦が登場すると言えば、何やら子どもっぽいお伽噺的ファンタ…  全文読む 評価する

貯められない女のためのこんどこそ!貯める技術 貯められない女のためのこんどこそ!貯める技術
栗太郎/自分の稼ぎで暮らすということ
  自分の食いぶちを自分で稼ぐ。それは大人であれば当り前、人生の基本です。稼いだお金の使い道は自由ですが、貯めることも大切だ! と思わせてくれる一冊です。 東京在住のフリーのイラストレーター池田暁子さんは、貯められない女でした。 仕事のギャラが入る10日後までに、残高11,652円で生き延びねばならないほど、財政状態は逼迫しています。定期預金や株があるわけでなく、全財産です。 その金額もさることながら、お金がいかにして消えていったか(使ったからに決まっていますが)の過程は、思わず「お話、作っていませんか?」と言いたくなるハチャメチャぶり。ザルで水をすくっている感じです。 本書は前半部…  全文読む 評価する

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