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びんぼう神様さま びんぼう神様さま
求羅/びんぼう神、大いに悩む。
年じゅう金欠でぴいぴい言っているからか、タイトルに引き寄せられるように手に取ってしまった。でもよく見ると、びんぼう神に「様」がついている。それでは足りぬとばかりに、もひとつ「さま」が。貧乏神(平仮名から漢字にするだけで、どうしてこんなにも辛気臭くなるんだろう)って、疎んじられることはあっても崇め奉られることなんて、まあないと思う。浅田次郎の『憑神』じゃないけど、貧乏神・疫病神・死神の3トップは、できればお近づきになりたくないもの。・・・というこれまでの考えを、見事に一変させてくれたのが本書である。60ページ足らずの昔話なので、すぐ読める。が、中身は深い。松吉・おとよ夫婦の家に〈びんぼう神〉が住…  全文読む 評価する

マンスフィールド・パーク マンスフィールド・パーク
求羅/時の移り変わりと心の機微を捉えた、オースティン後期の傑作。
『高慢と偏見』や『エマ』に比べると地味だが、ボリュームといい内容といい、非常に読み応えのある一冊である。ひとりの女性が幸せを掴むまでの軌跡が、およそ10年の歳月をかけて丹念に描かれていく。初期の軽妙なものより、じっくり読ませる本書の方が私は好きだ。円熟味を増したオースティンの筆が冴えわたる、後期を代表する傑作。オースティンは6長篇の主人公のキャラクターをすべて書き分けているが、その中で本作のファニーは(境遇も含めて)ひときわ影が薄い。内気で控えめ。エマがいたら、「私がなんとかしてあげなくっちゃあ!」と張り切って世話を焼くかもしれない。ヒロインも地味なら、相手役エドモンドも地味。若い割に妙に分別…  全文読む 評価する

ユダヤ警官同盟 ユダヤ警官同盟
求羅/斬新な切り口で描くユダヤ問題。
タイトルとあらすじでスルーしてしまうところだった。好きか嫌いか、でいうと私好みではないのだが、読んでよかったと思う。うまいなあ、という感じ。上巻に戻って読み返すと、その巧さがよりくっきりと浮き彫りになる。伏線の張り方が。ディテールの細かさが。人物造形の豊かさが。ジャンルなんて関係ないからとにかく読み応えのあるものを、という人にオススメの小説。2007年、アラスカ州シトカ特別区が舞台。もちろん、そんな特別区は現実に存在しない。これは、1940年に「アラスカ移民法」なるものが制定され、バラノフ島に暫定的なユダヤ人自治区が築かれた、という架空の世界を舞台にしているのだ。改変歴史小説というのは、読み手…  全文読む 評価する

ノーサンガー・アビー ノーサンガー・アビー
求羅/平凡なヒロインが繰り広げる、妄想爆裂ラブコメ。
ジェイン・オースティン6長篇の中で唯一文庫化されていなかった小説が、ついに(というかやっと)新訳で登場。この『ノーサンガー・アビー』は、オースティン22、3歳頃に書かれた初期の作品である。紆余曲折を経て出版されたのは、執筆から20年近く経ってからのこと。ヒロインも作者も若いためか、なんとも初々しい作品である。本書を読むときは、できればまっさらな気持ちで。傑作とは言い難いものの、瑞々しく軽やかなタッチは読んでいて心浮き立つものがある。主人公のキャサリン・モーランドは、田舎育ちの17歳。とりたてて美人でもなく、才能に恵まれているでもなく、波乱万丈の人生を送ってきた訳でもない。いわゆる「普通の」女の…  全文読む 評価する

黙って行かせて 黙って行かせて
求羅/戦争は、終わらない。
過去に犯した罪をどのように裁き、どう受け入れるのか。戦後のドイツ人は、ナチズムという負の遺産を前に、徹底した自己批判とその反動とのはざまで苦しんできたといえる。執拗に、繰り返し語り継がなければ記憶は風化する、あっけなく。その意味では、真に“戦争”が終わることはないのかもしれない。そんな終わらない戦争を、母と子の確執を通して描き出したのが、本書である。60代の女性が27年ぶりに母親に会うため、介護施設を訪れるところから物語は始まる。かつて母は、ナチス親衛隊に入隊するため幼い彼女と弟を捨てて出て行ったのだった。辛い幼少期を経て彼女が母と再会したのは、それから30年後のこと。自分の母親が元ナチス親衛…  全文読む 評価する

カレーソーセージをめぐるレーナの物語 カレーソーセージをめぐるレーナの物語
求羅/スパイスのない人生なんて。
きっかけは、ほんの偶然。第二次大戦下のドイツ、男女の出会いと別れのドラマから、ある食べものが生まれた。カレーソーセージ。輪切りにしたソーセージを、カレー粉とケチャップを混ぜ合わせたソースに絡めて炒めた、ドイツの庶民的な食べものである。一見相容れない「カレー」と「ソーセージ」がどのようにして結びつき、広く親しまれるようになったのか?その誕生の謎に迫る時、戦中戦後の混乱をたくましく生き抜いたひとりの女性の人生が浮かび上がってくる。おいしそうなタイトルにそそられて手に取ったのだが、意外にも物語は食糧事情の厳しい終戦間際のドイツが舞台だった。しかも描かれているのは、親子ほどに歳の離れた男女のラブストー…  全文読む 評価する

戦場の画家 戦場の画家
求羅/終わりの始まり、あるいは、始まりの終わり。
この世に生まれ落ちた瞬間から、誰しも「死」を背負っている。人の一生はいわば、死へのカウントダウン。命の猶予期間をどう過ごし、どのように意義づけるのか。そんな鋭い問いかけが、深々と胸に突き刺さる傑作である。旧ユーゴ紛争中の兵士を写した一枚の写真。カメラマンには戦争写真家としての地位と名声を、兵士には拷問と悲劇をもたらした。それから10年後。地中海にのぞむ望楼で戦争風景の壁画を描いて暮らしている主人公フォルケスのもとへ、元クロアチア民兵が訪れる。マルコヴィチと名乗るその男は、自分の人生を大きく狂わせた主人公に復讐しにやって来たのだった。物語は、フォルケスとマルコヴィチの6日間にわたる対話を軸に、戦…  全文読む 評価する

素数たちの孤独 素数たちの孤独
求羅/孤独と孤独が出会うとき。
マイナスとマイナスを足しても、プラスになることはない。その数値が大きくなればなるほど、ますます正数からの距離は広がっていく。だが、孤独と孤独が出会うとき、共感が生まれ、癒しとなる。それは、ひとりで歩む人生の流れの中で、奇跡のような瞬間だ。自傷癖のある天才数学少年マッティアと、片足に障害をもつ拒食症の少女アリーチェ。心に傷を負い殻に閉じこもって生きていた二人は、相手の中に自分と同じ苦しみを見出し、自然と引き寄せられるように。幼少期から思春期を経て青年期へ。時の移り変わりとともに交錯するふたつの人生は、いつしかひとつの運命に縒り合わさっていく。切ない小説である。剥き出しの傷のような、ひりひりとした…  全文読む 評価する

リリアン リリアン
求羅/そこに希望はあるか?
「何がバカなのよ?やらなきゃならないとなったら、できるものよ」(作中より)お先が真っ暗に思えた時。そこで選択すべきは、「生きるか、死ぬか」ではなく、「しぶとく生きるか、みじめに生きるか」なのではないか。どれだけ踏みつけられようとも、不運を呪いたくなろうとも、人間には絶望の淵から這い上がれる力が、必ずある。数々の苦難にもめげず、前へ前へと進み続けた主人公リリアンがそうであったように。1924年、ポグロム(ユダヤ人迫害)で両親と夫、幼い娘を失い、ロシアから単身ニューヨークへ渡った22歳のリリアン。もはや失うものなど何もない彼女は、仕事を掴み取り、雇い主の親子と愛人関係を結んで安楽な暮らしを手に入れ…  全文読む 評価する

ナイン・ストーリーズ ナイン・ストーリーズ
求羅/現代版・『ナイン・ストーリーズ』
サリンジャーの小説は、とっつきにくい。ただ文字を追うだけだと、何がなんだかよく分からないままに終わってしまう。けれど、こちらがほんの少し感性を研ぎ澄ませて臨めば、驚くほど美しい世界を見せてくれる。自選短篇集であるこの『ナイン・ストーリーズ』は、奇跡のような一冊だ。ここに収められた9篇いずれも、おそろしく完成度が高い。繊細で洒落た技巧が凝らされた中に、切ないほどの優しさと愛情が注がれている。少し前、村上春樹がエルサレムで投じたスピーチが話題になったが、彼の言う「壊れやすい卵」とは、例えばサリンジャーの小説に出てくる人びとのことなんじゃないか、と思う。これは、世界の深淵をふいに覗いてしまった人の物…  全文読む 評価する

青年時代 青年時代
求羅/ああ、私は若かった!
自分の才能に自惚れたかと思えば、周囲の目がひどく気になり自信を失くす。ありのままの姿をさらけ出すのが怖くて、必要以上に自分を格好よく見せてしまう。精一杯背伸びして大人になろうとした、あの頃―。『幼年時代』、『少年時代』に続く、トルストイの自伝的小説第三段である本書は、青年時代の堕落と改悛、精神的発奮の目覚めまでを綴った一冊である。若さゆえの無知と過ち、とはさすがに言い過ぎだが、周りに流され本来の自分を見失った16歳のニコライ(=トルストイ)の姿は、かなり痛々しいものがある。私自身、覚えがあるものだから、彼の心情や行動が嫌になるぐらい分かってしまうのだ。傲慢で、世間知らずで、打たれ弱くて。若いと…  全文読む 評価する

少年時代 少年時代
求羅/叶うことなら、十代に戻って・・・。
最愛の母親の死とともに、幸福な幼年時代は終わりを告げ、新しい時代―少年時代が始まった。『幼年時代』に続く、トルストイの自伝的小説第二段。本書では、思春期を迎えた主人公が描かれている。日本でいえば中学生にあたる年齢だろうか。幼い頃持っていた無邪気で快活な心はいくぶん影を潜めている。「突然物の見方ががらりと変わり、まるで今まで見て来たいろんな物がくるりと向きを変えて、それまで知らなかった別の側面を呈示するようになる」という精神的変化が生まれた少年時代。主人公は、家族中心の幼年時代とは異なり、外側に広がる世界、なかんずく「他者」というものを強く意識するようになる。思いがけず垣間見た大人の世界、異性へ…  全文読む 評価する

幼年時代 幼年時代
求羅/文豪トルストイの出発点。
トルストイの自伝的小説。本書は、北御門二郎氏の未発表翻訳原稿(1979年3~6月)を出版したものである。「なぜ今、この作品?」と不思議に思ったところ、『幼年時代』『少年時代』『青年時代』三部作の出版は、亡き訳者の希望だったそうだ。というわけで、今回新たに登場したといっても「新訳」ではない。ただ個人的に、北御門氏の翻訳には感慨深いものがある。何をもって「名訳」というのか私にはよく分からないが、その作品や作家にとくに強い思い入れを持った訳者に手がけられた作品は幸せ者だなあ、と思う。トルストイ作品をこよなく愛し、自らの人生の指針とした北御門二郎氏。『文読む月日』のカバー折り返しには、こんな言葉が紹介…  全文読む 評価する

ごまのすべてがわかる本 ごまのすべてがわかる本
求羅/ゴマラーのススメ。
生姜をこよなく愛する人のことを「ジンジャラー」と呼ぶなら、マイごまを持ち歩くほどごま好きな私は、さしずめ「ゴマラー」といったところか(ここは、「セサミ」じゃなく、「ごま」と言いたい)。ごまって、ほんとうに優れものだと思う。いりごま、すりごま、ねりごま、ごま油。黒に白に金。風味や食感など、さまざまに表情を変えるごま。存在感はあるのに、他の食材の味を邪魔しない。最近健康ブームで注目されているが、なによりごまは美味しいのだ!香りとコクがあって、「なにか足りないな」という時は、さっと加えるだけでワンランク上の味になる。小さいけれど、頼れるヤツである。さて、本書。ごまの種類や歴史といった基本的な知識から…  全文読む 評価する

望郷の道 望郷の道
求羅/盲目的書評。
待っていた、なんてものじゃない。むしろ、遅かったじゃないか、という思いの方が強い。本作は、日本経済新聞朝刊に約一年にわたって連載されていたものである。新聞小説なんて暇つぶしにざっと目を通す程度だったのに(作家の皆さま、ごめんなさい)、これにはハマった。こんなに夢中になって小説を読んだのは、いつ以来だろう。最初はなんとなく続きが気になり読んでいたのが、やがて記事をそこそこに切りあげるようになり、一面の前にまず文化面、となるまでさほど時間はかからなかった。朝が苦手な私が爽快なスタートを切れたのは、ひとえにこの小説のおかげだ。二分冊のボリュームが意外なほど、まったく長さを感じさせないおもしろさである…  全文読む 評価する

グローバリズム出づる処の殺人者より グローバリズム出づる処の殺人者より
求羅/インド出身作家の描く、現代インドの光と闇。
近年、グローバリズムの負の側面がさかんに取り上げられるようになってきたが、本書もその流れを汲んだ一冊といえるだろう。ドキュメンタリーよりも生々しい現代インドの姿が、ここにある。〈ホワイト・タイガー〉と名乗るあるインド人の起業家が、訪印を控えた中国の温家宝首相に宛てた手紙で綴られてゆく物語。世界が注目するインドの起業家精神を貴国に教えてあげましょう、と男は自らの成功物語を饒舌に語り始める。といっても、本書は起業のハウツー本でもなければ、インドの経済発展を賞賛したものでもない。主人を殺すことで使用人から経済的成功者となったバルラム・ハルワイの語る物語は、現代インドの抱える問題を鋭く暴き出す。いまや…  全文読む 評価する

白い牙 白い牙
求羅/力か愛か。それが問題だ。
たとえば、ままならない現実に愚痴をこぼしたくなる時。あるいは、なんとなくやる気の出ない時。またあるいは、将来に漠然と不安を抱えている時。そんな時、ジャック・ロンドンの小説はよく効く。ただし、優しく慰めてくれるのではなく、「甘えんなよ!」と思いっきり張り手を喰らわされる、という意味でだが。『白い牙』は、先に発表された『野性の呼び声』を反転させたような物語である。飼い犬が極北の過酷な環境に鍛え上げられ最後は野生に戻ってゆく前作に対し、本書は犬と狼の混血として生まれた〈ホワイト・ファング〉が人間に飼われ愛情を知るようになるまでが描かれている。ともに主人公は動物。貫かれているテーマも、作者流の生命哲学…  全文読む 評価する

ディビザデロ通り ディビザデロ通り
求羅/小説の新たな可能性を提示してみせた一冊。
レビューしにくい小説があるとするなら、本書がまさにそれだ。断片的なエピソードで紡がれた物語は、ストーリーらしきものは見当たらない。始まった、と思ったら途切れて終わり、唐突に別の場面が挿入される。一見関連性のなさそうな、別の物語が。大きく3つのパートに分かれた物語。カリフォルニアの農場で、父、血の繋がらない姉妹、親を殺された少年が暮らしている。そこで、彼らをばらばらにする、ある決定的な事件が起きる。家族の崩壊と再生、あるいは引き裂かれた恋人たちの再会を描くのかと思いきや、物語は一転、舞台を過去のフランスに移し、荷馬車で放浪するジプシー一家と作家の姿を映し出す。このスケッチのような第二部に次いで描…  全文読む 評価する

ニール・サイモン ニール・サイモン
求羅/可笑しき哉、人間!
ブロードウェイの喜劇王、ニール・サイモン。名前はあまりにも有名なのに、作品を読むのは初めて。いやあ、おもしろかった。抱腹絶倒とまではいかないけれど、随所でクスリと笑える戯曲である。若い世代を中心に、ルームシェアやシェアハウスなる居住スタイルが浸透しているとはいえ、やはり他人と一緒に暮らすというのはたとえ気の合う仲間でも難しい。どうしたって自分のエゴが出てしまう。では、まったく異なる性格の人間だとしたらどうだろう?ずぼらなオスカーと、潔癖症のフィリック。そろって妻に愛想を尽かされた二人の中年男性が、奇妙な同居生活を始めたために生じた軋轢を描いたのが本書である。この作品の妙味はなんといっても二人の…  全文読む 評価する

神樹 神樹
求羅/死人に口あり。
すさまじい一冊である。樹齢数千年の〈神樹〉の突然の開花から始まる物語は、近代中国の歴史と過酷な運命に翻弄されてきた民衆の姿を鮮明に映し出す。もっとも、「鮮明に」とは、上品過ぎる表現かもしれない。ここで描かれる情景はあまりにも生々しく、いまにも血と涙が流れ出してきそうなのだから。北京五輪の開会式で繰り広げられた、中国五千年の歴史絵巻が記憶に新しい。文字の発展や大航海の始まりなど、あちらが中国の輝かしい歴史だとすれば、こちらはいわば影の側面を描いたものといえるだろう。この作品の根底にあるのは、強い怒りなのだと思う。「死人に口なし」という嫌な慣用句とは逆に、作者は死者に声を与えることで無念に散ってい…  全文読む 評価する

悲しみよこんにちは 悲しみよこんにちは
求羅/けだるいような、切ないような。
読み終えたそばから読み返したくなる小説である。ラストと冒頭で語られる「悲しみ」という言葉を、つき合わせてみたくて。南仏の海辺を舞台に、若さゆえの無知と残酷さ、愛と陰謀を描き出した『悲しみよこんにちは』は、なんといってもそのしゃれたタイトルが印象的である。これは、ポール・エリュアールの詩の一節から取ったものだが、いまや出典元より有名だ。好きな詩の一節を拝借、というのは文学少女なら一度は考えそうなもの。ただ、この言葉を完全に自分のもの(世界)にしているところに、センスを含めて作者の並々ならぬ力量を感じる。観念の世界で生きていた感受性の強い少女が、生身の悲しみを知る。その感情を受け入れるに至ったひと…  全文読む 評価する

ルルージュ事件 ルルージュ事件
求羅/刑事裁判制度について考えさせられる、世界初の長篇ミステリ。
「初」とか「新」とか「限定」といった謳い文句にめっぽう弱い。さて、本書。「世界初の長篇ミステリ」である。普段ミステリをほとんど読まない私でも、これは食指が動くというもの。短篇ミステリの記念碑的作品は、エドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人』。そして、長篇ミステリとして初めて産声をあげたのが、1866年に発表されたこの『ルルージュ事件』なのである。物語は、未亡人のルルージュ夫人が遺体で発見されるところから始まる。警察や予審判事が捜査に乗り出すうちに、ルルージュ夫人の秘められた過去が徐々に明らかになってゆく。犯人の残した痕跡や偶然掴んだ情報から、事件発生の翌日には犯人逮捕へ。スピード解決で一件落…  全文読む 評価する

世界文学全集 世界文学全集
求羅/大人になることの痛み。
同時代にイタリアで生まれ、ファシズムの嵐をくぐり抜けてきた女性作家。歩みこそ似通っているものの、題材も作風もまるで異なる収録作品である。他人と交わらず、島で空想の世界に浸る繊細な少年を描いたエルサ・モランテの「アルトゥーロの島」と、逡巡しながら生きる大人たちの姿を書簡形式で浮かび上がらせたナタリア・ギンズブルグの「モンテ・フェルモの丘」。過去を回想する少年の独白で綴られた前者が、感傷的で神話めいた色合いを帯びているのに対し、後者は登場人物が多い上にそれぞれの人間が遠慮なく声(ここでは手紙だが)をあげているからか、にぎやかでぐっと世俗的である。上下二段組みで550ページ近くある本書。コストパフォ…  全文読む 評価する

アフリカ農場物語 アフリカ農場物語
求羅/きらきらと輝く午後がある限り、生きる価値はあるだろう。(作中より)
偉大な文学作品は、人生の真理を突いているものである。そうでなければ、文化や時代を超えて読み手の心を打つことはないだろう。『アフリカ農場物語』は、南アフリカのある農場を舞台に人間と自然の営みを描きながら、「いかに生きるべきか」ということを真摯に問うた作品である。乾燥した赤茶けた大地(カルー)、点在する小山(コピ)、低木の茂み(ブッシュ)。石の間からあちらこちらに顔を覗かせる草や多肉植物。オリーヴ・シュライナーは、南アフリカの美しい自然に育まれながら思索にふけっていたのだろうか。作中印象的なのが、苦悩する人間を悠然と見下ろす星空を映した場面。広大な宇宙と子どもとのコントラストは、一幅の絵画のよう。…  全文読む 評価する

ノック人とツルの森 ノック人とツルの森
求羅/ゴミ屋敷で暮らす子どもが切り取る世界。
触れようとするのにするりとかわされ伸ばした手は空を切り、よく見ようとするのに靄がかかってぼんやりとしか映らない。そうしてただ、もどかしさばかりが募ってゆく。本書を読んで、そんなことを感じた。そしてそれは、アディーナという少女が母のカーラに抱く思いそのものなのである。外からガラクタを持ち帰っては、家中ゴミで埋め尽くすカーラ。足の踏み場のない家、雪崩を打って押し寄せてくる木箱、むせかえる悪臭、カビの生えたパン、くすんだ洗面台。そこで暮らす7歳のアディーナと弟のボルコは、そんな家を当然のものとして育った。ジャングルジムで遊ぶかのようにゴミの森をかき分けて動き回り、食事はバナナやパンで済ます日々。カー…  全文読む 評価する

カナリア王子 カナリア王子
求羅/イタリア児童文学の波到来か。
いま、福音館文庫がアツい!(と、私は勝手に思っている)ディーノ・ブッツァーティの『シチリアを征服したクマ王国の物語』に続いて、またもやイタリア児童文学の再刊である。伝承文学好き、イタリア文学好きなら、絶対「買い」の一冊だ。『シチリア~』ではブッツァーティの絵の才能に驚かされたが、こちらも負けてはいない。『旅の絵本』シリーズで有名な安野光雅さんによる挿絵である。こんな美しい本が700円も出せば読めるのだから、ありがたや。イタリアを代表する作家・イタロ・カルヴィーノは、優れた文学作品を次々と世に送り出す一方、イタリア全土の民話をまとめ上げた業績で知られている。既に岩波文庫から『イタリア民話集』とし…  全文読む 評価する

時のかさなり 時のかさなり
求羅/6歳の眼を通して語られる一族の歴史。
私の手元に、『京都時代MAP 幕末・維新編』なる一冊の本がある。これは、幕末京都の地図の上に半透明のトレーシングペーパーに印刷された現代の地図が重ね合わされた、京都の変遷を俯瞰できる地図帳である。京都観光にはお世辞にも実用的とはいえない代物なので、悦に入るのは歴史マニアぐらいかと思っていたが、関連本が数冊出ているところをみると売れ行きは上々のようだ(それとも歴史好きが多いのか)。二次元の世界とはいえ、時空を隔てた同じ場所を同時に眺められるというのは、なかなか楽しいものである。なぜこんな話題から入ったかというと、この『時のかさなり』という小説を読んで私はこの地図帳と同じものを感じたからである。四…  全文読む 評価する

遊女のあと 遊女のあと
求羅/尾張には夢の都があったそうな。
最終回まで残すところわずかとなった「篤姫」だが、大河ドラマの主人公に、と私がひそかに熱望している人物がいる。その人とは、尾張藩第7代藩主・徳川宗春。時の将軍・吉宗の緊縮財政に真っ向から異議を唱え、規制緩和によって名古屋を繁栄させた人物である。たしか、「八代将軍吉宗」の時に登場していた覚えがあるが、業績や人物としての魅力の割には知名度が低いように思うので、ここは主役で是非!そんな宗春だから、彼を描いた小説も数えるほどしかないのだが、その数少ない作品群に新たに加わることになったのが、本書である。といっても、徳川宗春は物語の背景に過ぎず、中心となるのは市井の男女である。夫から逃れてきた博多の女と、妻…  全文読む 評価する

何も持たず存在するということ 何も持たず存在するということ
求羅/飾らない、繕わない。
角田光代さんの最新エッセイ集。小説と違ってエッセイの場合、「さん」づけで呼ぶほうがしっくりくる。エッセイと一口に言っても、文章の美しさに惚れ惚れするもの、思わず笑ってしまうもの、視点の鋭さに唸ってしまうものなどさまざまあるが、角田さんのそれは、とても近しい感じがするのである。小説を書いたことなどなく、一人旅をするわけでもなく、ましてや同世代でもない。共通点を探す方が難しいというのに、不思議と彼女の文章には共感できる。同じ目線の高さが、心地良い。彼女のエッセイはほんとうに庶民的で、ものごとの捉え方も書く文章もごく普通である。ただ、「普通でいる」ということは、案外難しいのではないだろうか。以前友だ…  全文読む 評価する

ザ・ロード ザ・ロード
求羅/世界はまだ終わらない。
 灼熱の地を舞台にした『スコルタの太陽』と本作を平行して読んでいたので、酷暑と厳寒の責め苦を交互に味わったような気分である。 『ザ・ロード』は、いわゆる終末モノで、舞台は世界破滅後のアメリカ。 太陽はぶ厚い雲に覆われて始終空は薄暗く、地上には灰が積もっている。ほとんどの動植物は死に絶え、生き残った人々はわずかな食料を巡って争う。略奪・強姦・殺人がはびこり、飢えをしのぐために人間を食べる者まで現れる始末。 そんな殺伐とした世界の中、父と幼い息子が暖かい南を目指して旅を続けている。ショッピングカートに荷物を積み、道々で食料と物資を探しながら。 本書は、一組の親子が歩き続ける様子をひたすら追った作品…  全文読む 評価する

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