bk1 オンライン書店ビーケーワン

送料無料キャンペーン10,000円以上(税抜)、30,000円以上(税抜)、50,000円以上(税抜)購入でもれなくポイント進呈!寄付コースもあります

> トップ > 書評一覧

1 - 30 / 53 件
死神の精度 死神の精度
祐樹一依/クールだが、ドライではない非日常へ
 現代ファンタジーでもある「死神の探偵小説」。1週間後の死を予定されたものの「死の判断」をするために派遣された死神、千葉。地上に降りるときには必ず雨模様の天気となる不思議な命運を伴う彼の前で起こる、奇妙な事件であったり事件でなかったり…、とかく、人間でない彼の目には、人間の言動は逐一不可思議に映るもので、彼の視点で語られる、「予約された死者」たちと彼との、奇妙な遣り取りが綴られた連作短編集。  謎が先にあってそれを解くための物語がある、「本格」ミステリではないのですが、千葉が調査を始めると不思議と見つかり出す、ちょっとしたこと、では終わらない僅かな「非日常」が、なんとも「死神」という存在の非日…  全文読む 評価する

ミステリオーソ ミステリオーソ
祐樹一依/「ハードボイルド」なエッセイ集
 エッセイ集「ミステリオーソ」を文庫化に際し増強二分刷されたうちの一冊。自伝的エッセイやジャズ、映画についての文章がふんだんに盛り込まれた本作は、唯諾々とはせず決して他者に媚びない、様々なものの考え方やその大元となる氏の「生き方」(生き様、とは言わないほうがいいでしょうね)が訥々と書かれています。ハードボイルド作家としてとても「らしい」と読者に頷かせるでしょう。真面目な性格で、でも不器用で、多少堅物で、自分の信じる観念は他者には譲らない。けれども、これを「如何にもハードボイルド作家らしい、男らしいな」などと安易に呼んでは氏に失礼に当たるでしょう。原氏の文章だけを読んで「ハードボイルド作家らしい…  全文読む 評価する

町長選挙 町長選挙
祐樹一依/「こんな選挙、見たことない!」だけじゃ、ありません
 天然すっとぼけ滅茶苦茶トンデモ神経科医、伊良部一郎シリーズ、三冊目。誰が見ても幼児が変態を気取ったような単細胞な言動を繰り返し、彼を訪ねた患者は勿論、その周囲の人間を困らせることしかしないくせに、時折、唐突、心理を突いた発言をして彼らを驚かせ、頷かせるところも併せ持つ。これが伊良部の「天然」たる所以ですね。実のところ彼は何も考えていないのでしょう。近くにいると忌々しいことこの上ないのに憎めない、という「困ったさん」。それが(口にするのもおこがましいのですが)彼の一番の魅力、なのでしょう。…いや、やはり作中でも言及されているように現代では「珍しいもの」なのかな。常識の枠には到底収まりきれない、…  全文読む 評価する

競作五十円玉二十枚の謎 競作五十円玉二十枚の謎
祐樹一依/「1000円」が煌く謎の饗宴
 若竹七海氏がかつて体験した「日常の謎」系ミステリとして、この謎はありそうでなさそう、というギリギリのラインで面白く読みました。プロのミステリ作家は勿論、一般公募から選び抜かれた優秀作が本書には収められています。そのどれもが奇抜な論理で「真相」を暴き出していて面白かったです。そういう話の流れで真相を結び付けてくるのか、と大喜びしそうになったものも幾つか。  ですが…、やはり、というか、そのどれもが「『五十円玉二十枚の謎』というテーマで書かれたミステリ」以上のものにはなり得ていないのですよね。限られた情報、という条件下での物語り作りがそもそも難しいこともあるのでしょうけれど、オリジナルの設定が持…  全文読む 評価する

さまよう刃 さまよう刃
祐樹一依/「反社会」は全てが悪か?
 少年犯罪と、その犯罪被害者である者との対立の構図。殺人犯人への被害者家族の復讐は許されるものなのか、仇討ち行為は正当なものなのか、その者の苦渋と愚劣な犯人の生態と社会復帰、更正の不可能性を鑑みて過剰保護であることを認め、逆襲の殺人もまた赦さざるを得ないものなのか、どんな事情があっても、絶対的に、どうあっても、殺人は反社会行為としてあってはならないことなのか。では人道的なスタンスを取ろうとするのならば、甘っちょろい倫理観に縛られることなく、関係者の心の苦しみを解放し、救うことは、果たして出来るのだろうか。  テーマは物凄く重く、本書に限らず、どんな媒体で「殺人への復讐」を扱ったところでも、それ…  全文読む 評価する

手紙 手紙
祐樹一依/握り潰される手紙の行方
 天涯孤独の兄弟であり、弟の就学費を作るために空き巣を試みようとするが、家人に見つかり、思わず殺してしまう。兄が殺人を犯してしまった弟、が主人公。「犯罪者の弟」という強烈にして執拗なレッテルが、人生の分岐点で常に付きまとう非情な命運。就学、就職、恋愛、家族、様々な場面で弾劾され、人生の道筋を見失いかける主人公。彼の元に届く、兄からの手紙。「受刑者」からの手紙を厭う思いと、そのそもそもの動機が自分にあることとのジレンマが、それに本心を書いた返信をさせない…。  犯罪は、してはいけないこと。その罪を償うために、受刑者は刑務所で刑期を務める。では、犯罪者の近親者は、どうあるべきなのか…? それを描い…  全文読む 評価する

山伏地蔵坊の放浪 山伏地蔵坊の放浪
祐樹一依/「探偵」を揶揄する本格ミステリ
 院号、地蔵坊。その名が表すとおり、山伏が探偵役を務める、珍しい短編集。彼が旅先で出会った数々の事件を、場末のスナックで恒例の客たちに語ってみせる、という趣向。もうそれだけでオリジナリティ溢れる設定が炸裂しているようにも思うのですが、スナックの面々は、最初から彼の話の存在自体を半信半疑で聞いている。ある意味では「与太話に付き合う飲み屋の面々」という以上の意味合いを持たないものなので、決して場の雰囲気は盛り上がらないのです(幾らかは推理の饗宴もあるとはいえ、それは程度が緩い)。ここに独特の味が発生していると読むか、それとも多少の上滑りが発生していると読むかは、読者の印象にゆだねられることになるの…  全文読む 評価する

キノの旅 キノの旅
祐樹一依/国から国へ、本から本へ
 10作目に達したシリーズ作。国から国へと放浪する旅人、キノの話。そして、また別の世界、別の舞台で放浪する人々の話。ほんの数ページの短編や、口絵を用いて語られる掌編(併せて9話)も、如何にもなお約束を孕んだ国や、読者が想定するお約束を見事に裏切ってくれる時雨沢氏の手腕が見事な話しも幾つかあって楽しいのですが、やはり久しぶりの長編サイズの物語、「歌姫のいる国」がいい出来。これ単体だけで一冊の本にしても成立しそうなくらいに、意外なサスペンスとトリッキィなイロニーが収められていて、「キノの旅」らしいのにらしくない、という性質すらも楽しい。  世界の中で、数多く存在する国々は、その多くが世界の中で独立…  全文読む 評価する

宇宙の声 宇宙の声
祐樹一依/これぞ「SF」ショートショート集
 星氏は元から、SF小説の書き手で、数多くのショートショートの中でも、サイエンス・フィクションの占める割合は結構高い。その中でも本作は宇宙へ少年少女が飛び出していき、様々な冒険を経験する、という、ど真ん中のSF。「スペース・ファンタジー」という誤訳がまかり通ってしまいそうなくらいに、誰もが考え夢見る、ファンタジーたっぷりの科学と宇宙の物語。本書の世界観は、現代より科学が発展して、地球人が宇宙にどんどん進出して行っている時代、という架空のものなのですが、そこには科学を論理で解きほぐす必要などなく、そうだったらいいな、ということがまさにそうである世界が基盤として成り立っているために、すんなりと物語…  全文読む 評価する

パプリカ パプリカ
祐樹一依/夢と幻想の間のトリップ
 現実と夢の融合、という素材は、割とそこかしこに溢れているものだったりします。夢は現実の象徴、現実は夢の延長戦、そんな描かれ方をする物語の一端は、人間の深層心理を描こうとする試みと共に、意外に誤謬を伴わない想像の産物として、物語の中に組み込もうとするときには、書きにくいものではない。けれども本作のように、全くもって、現実と夢が言葉通り「融合」してしまう様を描いた物語は、そうそう見つからないのでは、と思われます。今まさに進行している「物語」が、夢の中での出来事なのか、それとも夢を抜け出した現実でのことなのか、それとも「これは現実なのだ」と自覚している明晰夢の中での夢想に過ぎないのか…、一種のトリ…  全文読む 評価する

電車男 電車男
祐樹一依/「リアルタイム」な恋物語
 巨大なネット上の掲示板、2ちゃんねるにて繰り広げられた、リアルタイムの恋物語。主人公は冴えない一介の青年。ほんの些細なことから始まった男女の繋がりは、彼一人では絶対的に手繰ることは不可能だった…、しかし。その小さな話が掲示板の上に持ち出されたとき、小さな奇跡は始まったのです。まさかあのような始まりからあのような結末を迎えることになるとは、発端時には誰が予想出来ただろうか…。「掲示板の書き込み」だけで構築された「恋愛物語」が成立すること自体が驚きですが、その内容の「純愛さ」には、今日、むやみに大量生産される「純愛」の薄っぺらい看板を打ち砕く感動に等しい興奮と、リアルな威力がありました。 インタ…  全文読む 評価する

よろづ春夏冬中 よろづ春夏冬中
祐樹一依/アナザ・ロマネチカを貴方に
 長野氏の短編集は数あれど、各話がこれほどコンパクトな形でまとめられているものは本書が初めて。本書には14の短編が収められていますが、長野まゆみ流の恋愛の「あるカタチ」を描いたものである…、そんな説明をすれば、氏を知る多くの人は、どういう流れの向きのある短編集なのか、察しがつくでしょう。そのどれもがぎゅっと濃縮された物語のような印象で、短編として読み終えてしまうのが勿体無いものばかり。 植物や水など、風景、情景描写に定評のある氏ですが、本書に関して言えば、今回はどれも、思い掛けないところから始まる、運命や時に翻弄されて登場人物が動き回るシチュエーションを描くことに筆を費やし、作者本人もそれを楽…  全文読む 評価する

呪文字 呪文字
祐樹一依/文字に呪われる者たち
 自らの限られた命を知った作家の守渡季里は、遺作の執筆を進めると同時に、ある同人誌にエッセイを書き始める。まるで残り少ない命を搾り出すかのように綴られる彼の筆は、大いなる罠に絡め取られようとしていた…。 怪奇小説家、倉阪鬼一郎…、彼にはそんなイメージがありますが、ホラー仕立ての小説を数く発表する一方で、本書の如く、小説を読む読者、という立場にある僕たちに対して見事な「トリック」を披露してくれます。袋とじの中に隠された、前代未聞、驚天動地の大仕掛け。読み進めるに連れてじわじわと表出する違和感は、このために存在するもので、真相が明かされたときに、これを素直に楽しめるかどうかで、本書の評価も人それぞ…  全文読む 評価する

Star egg Star egg
祐樹一依/孤独が隠すものは
 森氏が自ら絵を描き、文章を書き、出版される際には「多くの人に読んで欲しい」とコメントした本です。少しだけ硬質で、少しだけ冷ややかで、けれども何処か柔らかく温かい、本。空気のない宇宙の中にも、空気のある星があるように、素っ気無く提出された物語の中に、密やかな微笑みを見つけ出すことは、決して難しくありません。 宇宙には沢山の星があり、沢山の物があり、沢山の者がおり、そして沢山の孤独がある…、時折、森氏の著作に現れるテーマ、「孤独」。様々な形で表現される言葉ですが、極限的に開かれた世界である宇宙で用いされるその言葉は、何故か物悲しいばかりのものではないような響きをもたらします。それは、無限にある孤…  全文読む 評価する

暗黒館の殺人 暗黒館の殺人
祐樹一依/この「暗黒」に侵食されてください
 綾辻行人といえば「館シリーズ」。と答える人は多いでしょう。氏のミステリはまさにそこから始まったのであり、本作はその集大成とも呼べる大作。上下巻、計1300ページにも及ぶ膨大な物語は、世にも奇妙な漆黒の館「暗黒館」にて繰り広げられる殺人事件が語られた巨編であります。 手にとって見ればずしりと響く重さそのままに、長大な物語は隅から隅まで綾辻氏の「館」の雰囲気に満ち満ちています。雰囲気作りから物語が始まり、どの場面においても雰囲気が前面に押し出されている印象は拭えません。「普通ではない」ことが明らかである、どろどろとした、そしてもやもやとした不可思議な空気は、幻想綺談を思わせるものでもあるのだけれ…  全文読む 評価する

原罪の庭 原罪の庭
祐樹一依/少年は「原罪」を背負う
 ガラスの柩を思わせる温室の中で惨殺された病院長一家。血塗れの密室にただ一人生き残った少年は、言葉を失い、他者との交流を完全に拒否していた…。未だ表の世界へと解放されない少年の魂を救うため、桜井京介は大きな謎「薬師寺家事件」に挑む。 「原罪」。その言葉を聞いて真っ先に思い浮かぶのは、やはり永久の楽園であるエデンから追放されたアダムとイヴでしょう。人間の犯した最初の罪は…? 神が人を作るときに、果たして彼(或いは彼女)は人を愛するが故に作り出したのだろうか。個人的な観点で述べれば、それは異なるでしょう。それでは目的と行為が裏返しのものになってしまう。アダムとイヴが起こした罪は、楽園の内側で起こし…  全文読む 評価する

新本格魔法少女りすか 新本格魔法少女りすか
祐樹一依/新「本格魔法少女」です
 魔法使いの少女に必須なものといえば…、例えば、魔法の言葉、魔法のステッキ、いざというときに発動する何者かへの変身、魔法を仕込んだ師匠たる者、相方(或いは友人)である魔法使いでない者…。色々ありますが、その色々が、本書にも散々織り込まれています。しかし。しかしなのですが、本書には甘っちょろい「魔法使いの少女」は登場しない。本格的な魔法少女でありながら、既存のそれとは一線を画する魔法少女。それまで普通にあったパーツを一度ばらばらにして、新たに構築し直したもの。それゆえに「新本格」魔法少女、なのです。きっと。 魔法が当たり前に存在する世界であり、けれども日常において、魔法そのものはやはり非日常的存…  全文読む 評価する

禅定の弓 禅定の弓
祐樹一依/矢がなくたって、弓があるさ
 鬼籍通覧シリーズ、第5弾。火災現場から発見された死体は、単なる焼死ではなく出火の以前に死んでいた。同じ時期に同地域で起こる連続動物殺害事件との関連は…? 同じ「ミステリ」でも、本シリーズは奇談(オカルトファイル)の形を取る主流であるだけに、今回はまともにミステリしてましたね。法医学教室に在籍の医師と新米刑事の三人が追う事件の真相は、事件発覚の時点で、読者が十分に予想しうるレベルの意外性で、目のこなれた読者からしてみれば目を見張るほどのものではないかもしれないけれど、その「真実」をはっきりと書かれる部分を目の当たりにしたときに感じる圧力は少なからず胸に重く染みてきます。ああいう犯罪は、もしかし…  全文読む 評価する

愚者のエンドロール 愚者のエンドロール
祐樹一依/スタッフロールは後回し
 『廃屋の劇場密室で、少年が腕を切り落とされ死んでいた。誰が、そしてその方法は…?』 文化祭に出展するクラス製作の自主映画は、真相が明らかにならぬまま、中途で製作が中断されていた。映画の「真相」究明のために古典部に持ち込まれた映画から、少年たちは解決へと乗り出すことになるが…。 「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」。省エネ行動主義の主人公が消極的な探偵役。数少ない手掛かりから関係者が打ち立てる推論は、しかし一つ一つ否定されていく。誰が真の真相を得るか? アントニィ・バークリーの「毒入りチョコレート事件」をオマージュに書かれた本作は、小さな「解決」の積み重ね…  全文読む 評価する

本格推理委員会 本格推理委員会
祐樹一依/キャラクタがミステリします
 小中高一貫のマンモス校、木ノ花学園を舞台に、「本格推理委員会」のメンバーが、古い校舎で起きた幽霊事件の謎に挑む。普通の高校生を主張する主人公と、やたら勘がいいその幼馴染。学園位置の才女や空手部の筆頭主。ちぐはぐでデコボコなメンバーは、けれどいつしか意外な真相を描き出そうとしていく…。第1回ボイルドエッグズ新人賞受賞作。タイトルからして、ミステリフリークの疑惑の目が注がれそうな「注目作」ではありますが、中身だって一癖も二癖もある代物でした。 いかんせんキャラクター小説であることを中途半端に押し出してしまっているのが惜しい。主要人物は兎も角、殆どが「事件に関わる人物」であることを絡めて描かれてい…  全文読む 評価する

冷たい校舎の時は止まる 冷たい校舎の時は止まる
祐樹一依/失うことは、忘れることではない、けれど。
 第31回メフィスト賞受賞作。上中下巻の三ヶ月連続刊行が話題を呼んだ一作です。ほんの二ヶ月前の、ある一人の生徒の自殺。ある雪の日、時の止まった校舎の中、閉じ込められた8人の男女は、しかし当事者の姿を思い出すことが出来ない。一人、一人と消えていく仲間たち。彼らを時と記憶の狭間に閉じ込めた「ホスト」の正体とは? 誰もが過ぎる、青春という一時代…。「この高校で体験した様々なことを、私は生涯忘れることはないでしょう——」卒業生のそんな台詞は、稀少なものではありません。けれども、数年後、数十年後、その全てを思い出すことは容易ではなくなっているものです。思い出というものは、時としてファンタジーに限りなく近…  全文読む 評価する

蹴りたい背中 蹴りたい背中
祐樹一依/その「乱暴」は必要だ
 クラスから何処か浮いた存在となっている「ハツ(私)」と「にな川」。雑誌のモデルであるオリチャンを見た、という理由から不意ににな川に近づかれたハツ。似たところがあるわけでもない、むしろ別物でしかありえない自分と相手の距離は、けれど、ひたすら曖昧なまま何処かへ続いていこうとする…。第130回芥川賞受賞作。 愛しいのとも違う、ただ苛めたくなる子供っぽいものとも違う。では、その感情は一体、何なのか。読んでいて、とてももどかしい気分になります。普通なら「それは恋愛感情だ」と本人に気付かせて当然だとされる感情を、恋愛感情ではない、何か他のものであると表現することによって、「恋愛感情」のそもそもの不確かさ…  全文読む 評価する

蛇にピアス 蛇にピアス
祐樹一依/人は純愛から逃れたがるか
 第130回芥川賞受賞作。しかし純文学賞の受賞作である、という先入観は禁物です。耳ピアス、脱色なんて当たり前、舌ピアスやタトゥーすらも当たり前の世界に生きる少女が主人公。スプリットタン…、つまり蛇のように先が割れた舌を持ちたい、という衝動が、「身体改造」を臨む語り手のルイを突き動かしていく…。可愛さに惹かれる男と、格好良さに憧れる男との三角関係までも繰り広げられて、精神的にも肉体的にもプラトニックな心情から離れよう離れようとしている作者の意図が窺えます。 求める思いだけでなく、求められる思いまでもを描いたところがジレンマティックな要素を増すことに成功していますね。誰もが間違いなくアブノーマル、…  全文読む 評価する

小生物語 小生物語
祐樹一依/それは「小生」の物語
 不可思議な半透明の文体が無機質に至らない人間くささを読者に楽しませてくれる乙一。本書は彼の、ウェブサイトにて公開した日記を一冊にまとめたものです。自分のことを「小生」と称して書き綴られる日々は、ナルホド、乙一の文章であると頷くばかりの思考過程、行動過程。危うく生活能力を疑いそうになる駄目駄目っぷりや、変人の周りにはやはり変人が集まるのかと思わせる意外な人間関係、そんな中に不意に紛れ込ませてある鋭い考察。本人も面白い人だった、乙一。そしてそれらは読んでいて、次第に妙な物語味を帯びてくる。 そして最後の最後、後書きに至り、読者はある真実を乙一氏に見せつけられるでしょう。そこで再び、ナルホド。奇妙…  全文読む 評価する

失はれる物語 失はれる物語
祐樹一依/「白乙一」をご堪能あれ
 初期作品集にはホラーテイストのものが多かった乙一氏の小説ですが、ここ数年の氏の著作には、静かだけれども淡々とした優しさが紛れ込んでいる、という作風が目立つように思われます。いわく「切なさの達人」との異名を持つとか持たないとか。本人にそのつもりがあるかどうかは定かではないのですけれど、少なからず、本書にまとめられた物語の数々は読んでいて何処か、透き通った色の液体を眺めるときのような不思議な感覚に捕われるように思います。それは決して心地良いばかりのものではないけれど、いい意味で後に余計なものを残さない。それが乙一の「淡々とした優しさ」なのではと僕などは思うのです。 透き通った液体、と僕は評したけ…  全文読む 評価する

工作少年の日々 工作少年の日々
祐樹一依/工作少年のススメ
 森博嗣としては初めての、連載エッセイをまとめた本。これまでもウェブサイトの日記をまとめた本が出版されたりしたけれど、本作はテーマを決めて書かれたものであるので、より読みやすいものになっています。そしてタイトルにある通り、基本的に「工作」が話題の中心になっているため、何かを作ることが好きだという人にお勧めの一冊でもありますね。 クリエータとしての森博嗣、という冠が付きそう。元々、森氏は工学系の大学の助教授であるし、小説を書くよりも工作をする方が何倍も好きなんだろうというのがひしひしと伝わってくる(皮肉ですが)人であるので、「ものを作るということはこういうことなのだ」というスタンスが明確で、それ…  全文読む 評価する

Deep love Deep love
祐樹一依/これは「アユの物語」なんですよ?
 あまりに彼方此方で賛否両論、しかも意見が両極に分かれているので、流石に興味本位で読みたくなってしまった一冊です。僕ははっきり言って、全く面白さに期待はしていなかったことを付け加えておきます。以下は「まず、『飛びっきり面白い』ということはないだろう」と確信して読み始めた上での、読了後の感想になります。 読めない話ではないな、というのが、正直な印象。感情の起伏に乏しく、生きることの意味を見つけられない、売春を繰り返し、「タルイ」が口癖の少女。現代においては、ある意味では何処にいてもおかしくない「冷めた」生き方をしている少女が、一人のおばあさんに出会うことで命の大切さを知り、人と触れ合うことの温か…  全文読む 評価する

クライマーズ・ハイ クライマーズ・ハイ
祐樹一依/ジレンマティックな登山家
 1985年、御巣鷹山の日航機墜落事故で北関東新聞社は湧き立った。それは浮き足立った、と紙一重の長い長い緊迫感。事故の全権デスクを命じられた悠木に次々に迫る問題は、己との戦いであり、組織との戦いともなった。それは事件に向かう己の姿勢の確立を迫る、つまり新聞を作る組織そのものとの戦いとなる。本来ならば組織の一部に過ぎない男の決断は英断となり得るか。 実際の事故を題材に扱った、セミ・ノンフィクション。横山氏が元記者であった経験が最大限に生かされているであろう、記者世界のリアルさと、組織の中で揺れ動く人々の描写がとても巧い。横山秀夫の小説は「濃密」。この一言が切っても切れませんね。極限状況、とは少し…  全文読む 評価する

博士の愛した数式 博士の愛した数式
祐樹一依/ルートと素数のように
 過去に負った事故により、記憶を80分しか保てない数学博士の下に派遣された家政婦の「私」。コミュニケーションにすら数学の知識を持ち出す博士は、確かにそうせざるを得ない事情によるもの。博士から「ルート」と呼ばれるようになった息子を加え、3人の普通で不思議な日常が始まる…。 世界は驚きと喜びに満ちている…。登場人物が数学博士である、というそのものな要因もさることながら、難くて得体の知れないもの、というイメージがありがちな「数学」が巧く物語の中に染み込ませられています。確かに風変わりだけれども(いやいや、凄く奇妙だけれども)、不思議な日常は数学の美しさに裏打ちされた、当たり前の日常とは少し違った素敵…  全文読む 評価する

ナ・バ・テア ナ・バ・テア
祐樹一依/全てがあり、何もないところ
 飛行気乗りの男女の物語。森博嗣の大好きなものを書きたいように好きに書いているなあ、というのが第一印象。それは前作「スカイ・クロラ」と同じ。本作は同シリーズと銘打たれているものの、単発でも読めます。これほどに「飛行気乗りの視点」で書かれた小説も珍しい。上空での戦闘が随所に登場します。エレベータ、フラップ、エルロン、といった言葉を絡め、リアルタイムで飛んでいる飛行機とそ内部のパイロットの心情描写が(飛行機の内部から)描かれるのです。僕は専門的(?)な用語には通じていないものの、詩的とも言える鋭角な文体と相まって流れるように楽しく読めました(それが戦闘シーンであっても)。 空で生きているのではなく…  全文読む 評価する

page: 1  |  2  |  次へ→