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アレンスキー アレンスキー
消息子/豊饒なロマンティシズムとリリシズムを湛え、極めて洗練された和声支えられた美しく親しみやすい旋律を持ち、抜群のセンスによって仕上げられた
 アントン・アレンスキイは、『クラシック音楽作品名事典』で「チャイコフスキイの亜流」と評されていた。そういう寸評というのは記憶に残るもので、私の認識もそんなもの。あとは、ニコライ・ルビンシテイン追悼のチャイコフスキイのピアノ三重奏曲《偉大な芸術家の思い出に》、それに影響を受け、チャイコフスキイ追悼のために書かれたラフマニノフの《悲しみの三重奏曲》というロシアの伝統の中に、チェリスト、ダヴィドフを悼むアレンスキイのピアノ三重奏曲も並べられるという知識くらい。 もっとも、2曲の交響曲と前述のピアノ三重奏曲第1番、ヴァイオリン・ヴィオラ・2つのチェロという特異な編成の弦楽四重奏曲第2番(これはチャイ…  全文読む 評価する

寄り添い支える 寄り添い支える
消息子/われわれ日本人の代表として、こんな好青年が選ばれたことには、巡り合わせ以上のものがあったのではないか
 評者は東日本大震災の被災地の縁くらいのところに住んでいるが、当日は自宅から数十分離れたところにいて、ちょうど家族もそれぞれ出かけるという予定であった。近くにいた人がケータイのニュースで震源は三陸沖という情報を得たのを聞き、かなり離れているのにこの揺れ、阪神大震災級の被害が生じていることを確信した(津波には思い至らなかったが)。メールに返信はなく、自宅に帰り着くまでの間、家族の安否に言いようのない不安を感じたし、こちらが無事だと伝えられたかわからないのももどかしかった。我が家の高校生はプチ帰宅難民化したが、幸い夜には一家が揃った。翌朝まで停電したので、情報は手回しラジオ。大地を海水が覆っていく…  全文読む 評価する

国家救援医 国家救援医
消息子/ユニセフの「アフリカ干ばつ緊急募金」のホームページにアクセスを
 作品が作者の手を離れて自立していく、といった話はよく語られるが、逆に、著作がまるで鍵穴であるかのように、その著者の計り知れない全貌を垣間見せるに留まるということもある。 本書の著者は知人なので、この書評も提灯記事のようなものだが、何しろ大した奴なのだ。 北関東の地方都市に生まれ、いつの頃からか、アフリカで医者をしたいと思った少年は努力を重ねて自治医科大学に入学する。在学中から,国際協力に関与するばかりか、休学してインドにで伝統医学を学ぶとともに、アフリカにも赴く。卒後、僻地診療所などの勤務のかたわらNGOで国際緊急医療援助などに従事しつつ、その後、外務省、そして現在はユネスコに勤務する。ペル…  全文読む 評価する

西洋音楽論 西洋音楽論
消息子/所詮「正常」とされているようなことは視点を変えればすべて「狂気」に陥っているのだから
 「クラシックに狂気を聴け」というタイトルは『狂気の西洋音楽史』を思い起こさせる。またかという気持ちとともに、森本恭正なる作曲家、しらんなあと呟きつつ手に取る。この著者、Yuki Morimotoなる名前でヨーロッパで活躍しているという。それなら、CDを見たことはある。森本氏、日本の音大を出てプロの指揮者となっても、ある「もどかしさ」につきまとわれていた。それは単純化すれば、日本で西洋音楽をやるということの違和感であろう。彼はそのもどかしさに駆られてアメリカに渡り、そしてヨーロッパに移り、以来、ウィーンを活動の場としてしまったのだ。 その森本氏が西洋音楽とは何かと考えてきたことを綴ったのが本書…  全文読む 評価する

都市と都市 都市と都市
消息子/ディック−カフカ的世界には超自然的なものが介入するが、ミエヴィルの描くこの世界には「不思議なことなど、何もないのだよ」
 都市と都市、ヨーロッパのはし、バルカン半島のあたりにあると思われる二つの都市国家、ベジェルとウル・コーマは「地理的にはほぼ同じ位置を占める」。ほぼ同じ場所を占めるという紹介文の記述がまずわからなかった。いったいどういうことか。 それは『アンランダン』の裏ロンドンのように同じ場所だが異次元、というようなSF的に現実離れした設定ではまったくなく、実現可能だが政治的に現実離れした設定なのである。二つの国の国境はいわば双方の国民の心の中に画定されている。ベジェルの側からみると、完全にベジェルの土地である〈コンプリート〉な場所、まったく異国、すなわちウル・コーマの領土である〈アルター〉な場所、両者が混…  全文読む 評価する

グスタフ・マーラー グスタフ・マーラー
消息子/本書の最大の特徴は、まるで《大地の歌》の終結部の「ewig」の繰り返しや、「死に絶えるように」奏される第9交響曲の終わりのような、深い余韻が刻まれているところである
 2010年と11年はマーラー生誕150年と没後100年、それを見越したのかわからないが、2009年に出版された本書は、春秋社編集部から著者にマーラーの評伝を書かないかとオファーがあったのだという。それに対して著者はそういう本はもうすでにいくつもあるということでかなり躊躇したという。それは本書を手に取るほうも同じであり、今さらマーラー伝に新しいことはあるのかと思わなくはない。そのうえ著者はクラシック・ギタリスト。確かに第7交響曲にはギターのパートはあるが、ギタリストの書いたマーラー伝といささか首をひねってしまう。もっともこの著者にはすでにブルックナー本がある。 それで買ってはみたものの。最初の…  全文読む 評価する

マーラー マーラー
消息子/マーラーの頭の中というかぎりではあるが、恐らくこの世に存在した第11交響曲の姿が一瞬ひらめいた
 CDブックレットに解説が付くという形態が長らく続いているため、作曲家の評伝にはクリシェがつきまとう。ちょうどインターネットで誤った情報がコピーにコピーを重ねて流通してしまうように、自分できちんと資料に当たらない「音楽評論家」たちが、既存の文章を参照しながら解説を書き飛ばすからだと思う。たぶんその程度の原稿料しかもらっていないんだとは思うけれど。 グスタフ・マーラーの評伝はもう結構あるから、新たな1冊は何か売りが欲しいが、本書の売りはそうしたクリシェ、すなわちマーラーにまつわる「神話」から彼を解放していることである。 マーラーが「やがて私の時代が来る」といったことが有名であるが、マーラー自身は…  全文読む 評価する

プランク・ダイヴ プランク・ダイヴ
消息子/「来るべきすべての世代の人々が、自分では完成させることのできないなにかを、はじめられますように」
 イーガンの短編集は今回初めて。というのも翻訳されているのは日本編集ばかりで、短編集といえどもどの作品を収録するかという作者の裁量も含めて作品という思いがあった。しかし、読んでみるとそんなこだわりはどうでもいいことだ。 本書はここ数年の最近作が多いこと、ハードSF的で宇宙を舞台にした作品が多いのが特徴。 「クリスタルの夜」はもちろんナチスの蛮行がタイトルの由来だが、ここでは『順列都市』で描かれた、コンピュータ上で知的生命を進化させるということの倫理面がテーマとなっている。すなわち人間は神となっていいのか、なれるのかということで、はからずも評者は(もしこの世界にも神がいるのなら)神の非倫理性に気…  全文読む 評価する

ディアスポラ ディアスポラ
消息子/結末まで開いた口がふさがらないものと覚悟すべし
 この頃、星空を見上げると、ある感慨にうたれる。この宇宙にはいろんな世界がある。他の星の生命もいるかも知れない。宇宙人もいるかも知れない。 もしかして自分もそこに到達できるかも知れない。と思ったのは子どもの頃。 星々の世界があると思っても、もはや自分にはあの星々に到達することはあり得ないと今は思わざるを得ない。そのことにある感慨を覚える。ましてやこの宇宙の外など。しかしそんな小説を読もうという気はある。なぜだかよくわからない。 すごいSFだけど、とても読みにくい。 という評言はまあ正しい。私も最初の三分の一くらい読んだまま、数年うっちゃっておいた。 まず最初のアイディアは、人間がその精神をソフ…  全文読む 評価する

ぼくらはそれでも肉を食う ぼくらはそれでも肉を食う
消息子/偏狭な心に子鬼を飼わないために
 もともとは仏教思想だろうが、人間は他の生き物を食べずには生きていけない罪深いものだといった考えに触れて衝撃を受けたのは中学生頃だったろうか。最近は知人に菜食主義者が2人ばかりいて、その主張を聞くにつけ、いろいろ考えるところがあったさなか、『ぼくらはそれでも肉を食う』なる、「これだ!」というような本をみつけた。原題は「愛したり、嫌ったり、食べたり──動物についてまともに考えるのはなぜ難しいのか」。動物というか、他の生物種に対する人間の心理を研究する「人類動物学」の研究成果について一般向けに書かれた本である。 端的に言えば帯に書かれているとおり、「イルカ殺しはかわいそう、でも、焼き肉もマグロ丼も…  全文読む 評価する

殺してもいい命 殺してもいい命
消息子/殺し屋を警察は捕まえられない
 殺してもいい命、とは挑戦的なタイトルだ。プロローグでは、父親の無理心中に巻き込まれる姉弟のワンシーン。犯人の不幸な生い立ち? この作者は、恐らくそう思わせて外してくるだろう。いや、裏の裏をかくかもしれない。まったく油断ならない。 本編。他殺体が発見され、林堂警部補が現場に向かう。前作では誘拐事件などを扱う特種班のチーフだったが、2年後の現在は捜査1課に異動している。第一発見者は被害者の元妻だが、妙に冷静な応対が奇妙だ。死体の口にはチラシが差し込まれている。「殺人ビジネスはじめました」。林堂は元妻の事情聴取にはいる。実は、第一発見者の名は雪平夏見。雪平は別れた夫の死体を発見した状況を語りつつ、…  全文読む 評価する

アンフェアな月 アンフェアな月
消息子/読めないから、読むしかない。「やられた!」という感じ
 まだ若い男が、癌で余命幾ばくもないことを同年代の医師から宣告される。医師にとって癌の告知は初めての経験で、むしろ彼のほうが動揺している。他方、患者はそれ以後、ぷつりと来なくなる。ある日、医師のマンションに来訪者がある。そこに立っていたのはその患者。手には凶器を持って。 プロローグでそんなエピソードが綴られるが、本編で起こるのは誘拐事件である。0歳児が誘拐されるが、母は取り乱していて、事情が十分わからない。離婚しており家族もいないので、他に事情を聞ける人もいない。男性の刑事を受け付けず、雪平夏見が呼ばれる。雪平はまず狂言を疑うが、誘拐犯からの電話がかかってくる。しかしその犯人は何ら具体的な要求…  全文読む 評価する

MM9 MM9
消息子/舞台と役者は揃った。なんだか「がんばろう日本」的に読んでしまう怪獣SF
 不謹慎かもしれないが、東日本大震災の津波の被害を見て、怪獣映画を連想してしまった。といっても、たとえゴジラが三陸を縦断したとしても、あそこまで破壊されなかっただろうという感想。もっとも放射能怪獣の恐怖は原発事故で現実化してしまったともいえるが、それはいささか別の話である。 『MM9』の世界は、地震をはじめとする天災被害が、すべて怪獣による被害、すなわち怪獣災害となっているという、いわばパラレルワールドである。怪獣の容積に従って被害も大きくなるということで、気象庁特異生物部対策課(気特対)がモンスターマグニチュード=MMを定めて警報を発するという設定だが、まさか作者も現実にマグニチュード9の地…  全文読む 評価する

推理小説 推理小説
消息子/タイトルは『推理小説』であって、『アンフェア』でないのは、なんだかちょっとアンフェアかもしれない。
 刑事ドラマでアンフェアとはどういうことかと気にはなったが、ドラマと映画の『アンフェア』は見ていない。ドラマの最初の部分が本書『推理小説』を原作としているのだが、ドラマはドラマでオリジナルな展開を示し、近々2作目の映画が公開予定で、小説のほうは刑事雪平夏見シリーズとして,4作目が刊行された。なぜいまごろその『推理小説』を読んでいるのかといえば、アンフェアな刑事ってなんだとまたもや気になったからだ。 暴力的なダーティーハリーであろうと、犯人に一杯食わせる刑事コロンボであろうと、犯人を逮捕し、法の裁きに引き渡すという目的に向かう点においてやはりフェアでしかあり得ない。 連続殺人が起こるが、犯人は自…  全文読む 評価する

NOVA NOVA
消息子/NOVAシリーズ、SFってなんだろうと思いながら読むのが面白い。
 SFオリジナル・アンソロジーの第3弾。 まずはマンガ。とり・みき「万物理論」。もちろんイーガンのパロディで、「すべてのSFを説明する究極の定義」がテーマで、それが発表されたら、SFは消失する。ここで笑えない人にはつまらんな。 とはいえ、『NOVA3』を読みつつ、これがSFか、などとまたまた思うのである。 小川一水「ろーどそーるず」。SF設定によるバイク小説にして、人情話。この程度のSF設定の普通小説はジャンル外にも一般化しているともいえるが。バイクに特段愛着はなくとも、道具に対する愛という点でオタク的心性をくすぐる点がSF的といえるのかも。 森岡浩之「想い出の家」、長谷敏司「東山屋敷の人々」…  全文読む 評価する

「フクシマ」論 「フクシマ」論
消息子/「中央」によって蹂躙された「ムラ」の代名詞「フクシマ」
 ブラックな話です。眉を顰めて聞いてください。 被災地では、雇用がなくて困っているという。そこで中央の資本と国家の補助で企業のプラントを建設することにする。津波で図らずも更地ができているから、そこに大きなプラントを作る。 まずは建築業で雇用が創出される。そしてプラントが稼働したら、住民はそこで働くことになる。反対運動も起こるだろう。そこは金をばらまいて懐柔する。何しろ、プラントができれば出稼ぎしなくとも、家族とともに故郷に住むことができる。4人に1人くらいはプラントで雇われ、労働者を相手にした商売で潤う人も出てくる。プラントでは定期点検があり、数千人単位で季節労働者もはいってくるようになるので…  全文読む 評価する

クロノリス クロノリス
消息子/題名の勝利。
 題名の勝利である。クロノリス。否応なく『2001年宇宙の旅』のモノリスを思い起こすし、それに「時間」がつくのだから、どんな壮大な話になるのだろう。 2021年、タイの山中に四角錐の石柱が突然現れる。タイ南部とマレーシアが「クイン」と名乗る者の軍門に下ったことを賀する碑文が刻まれていた。しかも日付はちょうど20年後。次に旧ソヴィエトの彫像のように抽象化された非人間的な人物像の石柱がバンコクに現れるが、石柱の出現時の衝撃波でバンコクは壊滅する。続いて、平壌、ホーチミン市、マカオ、札幌、関東平野、中国の宜昌。石柱の出現と都市の破壊がアジアを席巻していく。20年後のクインの軍勢の侵攻を示すとともに、…  全文読む 評価する

ねじまき少女 ねじまき少女
消息子/内乱、疫病、主人公はやがて水没する都市
 情勢は暗いほうへと傾斜し、通産省を牛耳るアラカットと環境省の総帥プラチャ将軍の対立は王室を巻き込みながら政変と混乱を引き起こしていく(2010年のタイの赤シャツ・黄シャツの衝突を思い出すが、本書の出版はそれより前)。そして環境省が躍起になって防ごうとしていた新たな疫病の発生。下巻においては、環境省の隊長ジェイディーの副官カニアの活躍がクローズアップされてくる。 カロリー企業のエージェントであるアンダースンはアラカットと手を結ぼうとする。ホク・センはアンダースンを出しぬいて、もう一旗揚げようと企むが、タイ情勢の変化に翻弄されている。そして日本製人造人間、通称ねじまき、また新人類とも呼ばれるエミ…  全文読む 評価する

ねじまき少女 ねじまき少女
消息子/化石燃料は枯渇、舞台はタイ王国、ねじを巻く上巻
 2010年SF賞総なめの作品。邦題はオタク受けを狙って『ねじまき少女』なのかと思いきや、原題もきっちりThe Windup Girl。  化石燃料が枯渇し、遺伝子改変動物を使役して生み出す力学的エネルギーを小型高性能のゼンマイにため込むというのが、この時代のエネルギー事情だ。よってエネルギー源を辿ると家畜が食べる飼料のカロリーということになり、農業が重要となっているのだが、バイオテクによって生じた疫病や害虫で植物もまた壊滅的となっている。 舞台はタイ王国。農作物の遺伝情報を握るカロリー企業の支配に屈せず独自の繁栄を築いている。物語はアニメ風のねじまき少女の冒険ではない。上巻を読む限り、むしろ…  全文読む 評価する

罪火大戦ジャン・ゴーレ 罪火大戦ジャン・ゴーレ
消息子/神の息子なのだ
 ワイドスクリーンバロックと謳われていては黙っておれん。読む。 22世紀末、過去の人間たちが次々に生き返り始めた。最後の審判だ。しかし神の審判が下る前に、六百億人の人口になってしまった地球は大変なことになった。幸いこの復活に先立って、人類は2つの発明を成し遂げた。ひとつは魂を肉体から取り出して他の肉体に移し替える技術である。税金を払えないものは肉体から取り出されて他人の肉体に間借りすることで何とかこの人工爆発に耐えることになった。 たぶん、この話の主人公と思われなくもない桃屋ピンクは、12歳の〈自由人〉だったが、〈自由人狩り〉に捕まって、額田王の体に間借りして2年。4人で一つの肉体となると、4…  全文読む 評価する

天獄と地国 天獄と地国
消息子/そのたび頭の中で上下をひっくり返しながら読むロボット対戦SF
 『AΩ』に次ぐ、小林泰三のSF長編第2作。 「天国と地獄」ではなく「天獄と地国」であるのが、設定を語っている。大地は頭上にあり、下は星海。落ちるということは遙か真空の宇宙空間に吸い込まれてしまうわけであり、これが天獄。人々は大地に穴を穿って住み、乏しい資源とエネルギーをやりくりして何とか「村」を維持している。大地の下には独立した岩塊「飛び地」があり、ここには空賊が住み、村を襲っては資源とエネルギーを奪う。破壊された村の生き残りは「落穂拾い」となって、一人乗りのオンボロ宇宙船を駆って、空賊の略奪の残り物を漁る。 という設定からすぐさま、この世界の人々は遠心力によって疑似重力を生み出している人工…  全文読む 評価する

シリンダー世界111 シリンダー世界111
消息子/設定を簡単に説明できません。SFミステリ。
 ある基地で殺人が起こる。中央から到着した捜査官は当事者からとりあえず事情を聞くが、話の最後に第二の殺人が生じていることを告げられる。 ありきたりな演出だが、実に効果的だ。ただし、この作品はSFミステリだから、設定は凝っている。 宇宙空間に建造された円筒形構造物。遠心力で疑似重力を生む。これならガンダムにも出てきたお馴染みのやつだが、シリンダー世界「111」はそれを一桁大きくしたもので、地表面に当たる円周部分にはかなりの重力が生じて濃厚な毒性大気がよどんでいる。回転軸のまわりに巨大なツタ植物が繁茂し、そこにぶら下がるナマケモノのような原始的な知的生命ウデワタリが住んでいる。殺人はこの「111」…  全文読む 評価する

アンランダン アンランダン
消息子/『ベルディード・ストリート・ステーション』のわくわくをもう一度
 他に読むものがあって、買ってから半年も過ぎてしまった。先に妻が読んで「あんまり面白くない」というので、さらに読む気が薄れてしまったが、……面白いじゃないか。 ある世界に魔物の手が伸びる。魔物を倒すのは異世界からやってくる救世主との予言がある。救世主は7つの試練を乗り越えて、魔物を倒すすべを手に入れ、首尾よくその世界を守る。 というありきたりのストーリーのパロディをミエヴィルは狙っているようだ。ロンドンの裏に存在する裏ロンドン、すなわちアン・ラン・ダン。ロンドンのゴミは密かに裏ロンドンに流れ着いて生き物になり、裏ロンドンの思潮がロンドンに流れてモードを生むというように相互依存の関係にある。裏ロ…  全文読む 評価する

悪魔のハンマー 悪魔のハンマー
消息子/原発で沸かした熱いシャワー
 読んでから30年もたっていておぼろな記憶で書くのをお許し頂きたい。自然災害もののパニックSFの、もう古典ともいっていい作品であろう。彗星が地球に衝突することが判明し、そして実際そうなり、破滅的状況を生き抜く努力が描かれる。後のパニックものの映画にも影響を与えたのではないかしらん。 今回、言及したいのはそのなかでもとりわけ印象的な場面。絶望的な状況の中、生存に苦闘する主人公の前に現れたのが、災害を生き延びた原子力発電所と、そこで文明の火を絶やさないようにがんばり続ける技術者たちなのである。この本を読んだ当時、すでに反原発の考えに触れていた私は、この理性と技術への手放しの礼賛に違和感を思えたこと…  全文読む 評価する

交響曲入門 交響曲入門
消息子/本書は「入門」に過ぎない。ただ、一本筋は通っているから、これでいいのだ。
 評者のようなすれたクラシック・ファンは『交響曲入門』などといういかにもビギナーむけのタイトルの本に関心はないのである。が、それが「講談社選書メチエ」から出たとなると、何なんだ、ということになる。 著者については寡聞にしてよく知らない。音楽学者で、『ビートルズ音楽論』などという本も出しているそうだ。結論からいえば、まさに「交響曲入門」、正統的な立場から、音楽の構造を丹念に追ってまとめた文句の付け所のない本である。「文句の付け所のない」などと持ち上げた場合、必ず文句をつけるわけだが、巻末の「ディスクガイド」をみると、筆者の嗜好が概ねわかってくる。今さらモノラル期の名演ばかり挙げる手合いではないが…  全文読む 評価する

働かないアリに意義がある 働かないアリに意義がある
消息子/人間の社会とアリの社会を比べるのは実は詭弁である。それでも人間と引き比べたくなるのが、面白いところ。
 ネット記事で紹介をみて、ネット書店でその本を買う。でもまだ紙の本は手放さないぞ。 この本はまさにそんな風に知ってそんな風に買った。一般向けの書物として軽いタッチで描かれているが、実にまじめな生物学の本である。しかし、生物学といっても真社会性生物といわれる、社会を作る生物を扱っているので、俄然、人間という社会性生物の生態と対照されることで、「身につまされる」のである。 社会を作る生物というとハチやアリは誰もが思い浮かぶところだろうが、『新世界より』でネタになっていたハダカデバネズミから、粘菌の一種までいろいろあるという。 何しろタイトルにもある、働きアリが働いていないというのが、衝撃的というか…  全文読む 評価する

バウドリーノ バウドリーノ
消息子/キリスト教徒のフェチぶりといったらオタク以上の情熱だ
 それにしても盛りだくさんの小説である。話は歴史家ニケタスが聴き取るバウドリーノの生涯なのだが、話を聞き終わってそれをどうしようかニケタスはある賢者に相談する。そんな嘘つきの話、歴史書に書いては駄目だ。バウドリーノの話はきっといずれ誰かが語る、バウドリーノ以上の嘘つきが。というのがオチ。 上巻はほぼ歴史小説の体裁をとる。ローマ法王との権力抗争において神聖ローマ帝国皇帝フリードリヒに権威を付与するため、東方の司祭ヨハネの国からフリードリヒにグラダーレ(一応、聖杯らしいのだが、本当はそれが何だかバウドリーノたちにもよくわからない)を贈るという文書をバウドリーノはでっち上げるのだが、そういう怪文書は…  全文読む 評価する

バウドリーノ バウドリーノ
消息子/『バウドリーノ』はバウドリーノ並みの嘘つきエーコが書いた物語
 検察審議会の評決で小沢一郎が強制起訴された。小沢の影響力を政界に残したい者、排除したい者、誰もが直接そうは語らない。そのかわり、逮捕・起訴された議員はこれまでも議員辞職あるいは離棟しているだから小沢もそうすべきだとか、検察審議会の強制起訴は通常の起訴ではなく、公に白黒つけろということだから、議員を辞職するに当たらない、などと理屈をこねるわけだ。だが、理屈をこねることを嗤ってはいけない。 要するに戦争で殺し合いをしている時でも、聖書でも法でも何でもいいが権威あるものを持ち出してきて、それにどういう解釈をするかで、敵が味方についたり、味方が離反したりするのが、人間という、言葉を喋る動物の生業なの…  全文読む 評価する

ハーモニー ハーモニー
消息子/この解法は十分論理的に思えるのにも拘わらず、やはりこの解は違うのではないかと思う
 WHO憲章だったか、健康である権利というのを学校で習ったとき、不健康でいる権利はないのかなどと思ったのは、やはり私も思春期だったのだ。しかし、その後、健康への圧力は強まり、健康増進は法律で定められ、たぶん、人生の価値を名誉でも財産でもなく、健康に置くと言う人(本音はどうあれ)が増えたのではないだろうか。手狭になった病院が郊外に移転するとそのまわりに家が建ち、ショッピングセンターができるなどという街作りも稀ならずみられるようになった。不治の病に冒され入院をくり返した伊藤計劃は、病室から延長する将来の世界を見すえていたのだろう。と思ったら、やはりインタヴューでそんなことを答えていたようだ。 世界…  全文読む 評価する

ΑΩ ΑΩ
消息子/「超空想科学怪奇譚」などという副題が付いているが、角川の編集者はアホか?
 地球に2つの異星生物が降下する。赤い玉を青い玉が追っている。青い玉の宇宙人は誤って人間を死なせてしまったため、彼に同化して命を繋ぐとともに、地球上で活動する基盤を得る。普段は人間として活動するが、敵である赤い玉の生物と戦うときには、銀色の巨人に変身する。しかし、地球上ではその変身態は短時間しか維持できない。 それは『ウルトラマン』のストーリーだろうって? 『AΩ』のストーリーです。 明らかに『ウルトラマン』を意識した、ある種の怪獣SFである。角川ホラー文庫に収録とあって「超空想科学怪奇譚」などという副題が付いているが、角川の編集者はアホか? ホラーの意匠を借りているのはプロローグ。航空機事故…  全文読む 評価する

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