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ほとんど記憶のない女 ほとんど記憶のない女
コモンセンス/圧縮された豊穣な物語
 リディア・デイヴィス『ほとんど記憶のない女』(岸本佐和子訳、白水社)には51の短篇小説が収められている。本文が190頁足らずの本なので、一つ一つの話はとても短い。超短篇小説といった方がいいだろう。しかし、そこには豊穣な物語が含まれている。たとえば、冒頭の「十三人めの女」は一頁わずか八行の作品である。 「十二人の女が住む街に、十三人めの女がいた。誰も彼女の存在を認めようとしなかった。手紙は彼女に届けられず、誰も彼女のことを語らず、誰も彼女のことを訊ねず、誰も彼女にパンを売らず、誰も彼女から物を買わず、誰も彼女と目を合わさず、誰も彼女の扉を叩かなかった。雨は彼女の上に降らず、陽は彼女の上に射さず…  全文読む 評価する

幸福な食卓 幸福な食卓
コモンセンス/幸福な夕食
 朝起きると快晴である。散歩に出たい。しかし、瀬尾まいこの新作『幸福な食卓』も読みたい。寺山修司は「書を捨てよ、町に出よう」と言ったが、私は「書を持って、町に出よう」と思った。 昼食後、自転車に乗って池上本門寺へ行く。正面の階段からではなく、裏手の弁天池の畔に自転車を止め、本門寺公園の中を歩いて本堂のある山の上まで行く。お参りをすませてから、本堂の横の日当たりのいい階段に座って『幸福な食卓』の第2章「バイブル」を読む(第1章「幸福な朝食」は夕べ読んだ)。 物語の主人公は中学生の女の子。父親が5年前に風呂場で自殺未遂を起こし、最近、「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」と宣言して、中学の教師を…  全文読む 評価する

いつも風を感じて いつも風を感じて
コモンセンス/四十八歳の蹉跌
 島田紳助の最新エッセー集『いつも風を感じて』を読む。前からこの時期に出版が決まっていた本である。タイミングがいいのか、悪いのか。読んで思ったことは、今回、彼が起こした事件は、「四十八歳の蹉跌」であったということだ。石川達三の小説『四十八歳の抵抗』と、同じく石川の小説で神代辰巳監督で映画化された『青春の蹉跌』を重ね合わせた言葉である。 島田紳助は15年間続けてきたテレビ朝日の「サンデープロジェクト」のサブ司会者を今年の3月末に降板した。降ろされたのではない。自分から降りたのである。ヤンキー上がりの漫才師からピンのタレントになった「何も知らない三十三歳の紳助」が時事問題について専門家に素朴な質問…  全文読む 評価する

号泣する準備はできていた 号泣する準備はできていた
コモンセンス/短篇小説の余韻
 短篇小説というのは余韻がすべてである。「しみじみとした」余韻、「さわやかな」余韻、「切ない」余韻、…いろいろな余韻があるが、とにかく、読み終わってしばらくそれに浸っていたいような何かしらの余韻がそこに残るかどうか、そこに短篇小説の成否がかかっている。そして、そうした余韻をかもしだせるかどうかは、ひとえに作家の才能にかかっている(もちろん読者にもそれなりの感受性が必要だが、それについてはひとまず措く)。長篇小説を書くために必要な才能が「構想力」であるとすれば、短篇小説を書くために必要な才能は「観察力」である。日常生活の中で、凡人が見過ごしているもの、見てはいてもありきたりの視線で見ているもの、…  全文読む 評価する

アフターダーク アフターダーク
コモンセンス/今夜の出来事
 台風一過の晴天の一日、『アフターダーク』を読んだ。18の章から構成される小説だが、15章に入る手前では、あと残り4章でどうやって物語を終わらせるのだろう、このままだともっと大きな小説の予告編みたいな作品になってしまうのではないかと心配したが、杞憂であった。以前、河合隼雄との対談『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』(岩波書店、1996)の中で、村上はこんなことを言っている。 「書きはじめのときに全体の見取り図があるわけではぜんぜんなくて、とにかく書くという行為の中に入り込んで行って、それで最後に結末がよく来ますね、と言われますが、ぼくはいちおうプロのもの書きだから結末は必ず来るのです。そしてある…  全文読む 評価する

天国はまだ遠く 天国はまだ遠く
コモンセンス/瑞々しい再生の物語
 主人公の千鶴は保険会社に勤める23歳のOL。日々の生活の何もかもが嫌になり、疲れ果て、死ぬことを決意して日本海に面した木屋谷という名の小さな集落にやってくる。一軒しかない民宿「たむら」の二年ぶりの客として投宿したその日の夜に、睡眠薬を14錠飲んで自殺を図るが、翌々日の朝にスッキリと目が覚め、民宿の主人が作った朝食(みそ汁、ご飯、白菜の漬け物、卵焼き、鰺の干物)を残らず平らげた。こうして木屋谷での彼女の日々が始まった。 「朝、早く起き、男の用意した食事を食べ、自分の物を洗濯して、外へ出る。集落の周りをゆっくり回り、おばあさんに挨拶し、有機栽培のパン屋を覗く。おばあさんの挨拶はいつも一緒で、パン…  全文読む 評価する

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