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本の音 本の音
こたにりこ/その音を聞くために、なくてはならない静けさ。
説得力が欲しい。そう思うとつい、拳を振り上げて熱弁をふるわせなければならないような気がする時もあるけれど、これは大きな罠だ。自分が五月蝿かったら、本の音が聞こえなくなってしまうのだから。でもやっぱり、汗をしたたらせながら叫んだ方が目立つので、書評、ブックレビューと呼ばれるものは、だんだん宣伝文句の宝庫みたいににぎやかになっていってしまう。読者書評でさえそうなのだ。最近、いけないと思う。自分も。出版社の回し者になってしまっては、意味をなさないのではないだろうか?プロの書評家だって、信頼できるとは限らない。「○○氏も大絶賛か、それは凄い!」と、読んだその時は、何だか気おされたように納得する(させら…  全文読む 評価する

海を失った男 海を失った男
こたにりこ/ゆっくり静かに酔っぱらいたい一冊。
SF幻想の巨匠と呼ばれながらも、長いこと異色作家の枠にくくられてきたシオドア・スタージョンだが、ここに来て再評価の動きあり。特にこの本には、読んですぐにばんばん太鼓判を量産したくなるような、質の高い作品が集まっている。スタージョンという人が、短篇でこそ存分に本領を発揮する作家だからだろう。これまで以上に多くの読者を獲得するのではないか。むしろ、変な先入観がない方が、楽しむには有利だ。この本で初めての衝撃を受けることができる人がうらやましい。一方、この作家は根強いファンを持つことで知られており、私もその一人かもしれないのであるが、そういう固定ファンも再び鮮烈な印象を受け、スタージョンについての認…  全文読む 評価する

嵐が丘 嵐が丘
こたにりこ/幻の名場面と、ネリー再発見。
恋愛も虐待も復讐も、すべてが恐るべき執念でできている。強烈な印象をもたらす古典作品の新訳が誕生した。有名な古典になればなるほどイメージが固まりやすく、「読んだつもり」になってしまうことがある。新訳という良いきっかけを頂いて、もう一度しっかりと本を開けることを、ありがたく思う。記憶というのはあてにはならないものだということも分かった。私の身近なところで、荒野に「キャシーー! キャシーーー!!」と、ヒースクリフの悲痛な叫びがこだまする名場面(?)があると思っていた、と言う人がいた。しかし、私は、少年時代のヒースクリフは無口で、去る時も黙って行ってしまったのだと思っていた。果たして、ヒースクリフがキ…  全文読む 評価する

物語における読者 物語における読者
こたにりこ/作者だけが仕事をしているわけではない。むしろ、物語を完成させるのは読者かも?
難易度高し。『<a href="/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/?aid=&bibid=01803050&volno=0000" target="_blank">薔薇の名前』で小説家デビューする前に、記号論者としてのウンベルト・エーコが著した作品だ。物語のテクストについて「記号論的分析」というものを展開している。文章といい内容といい、まさに「学者さん」が書いた論文。さすがに気軽に読むというわけには行かない。こういう本を読むと、エーコの小説に大量のうんちくが盛り込まれているのもしょうがないかな、あれでもおさえているつもりかもしれないな、などと思えてくる。物語、小説を形…  全文読む 評価する

バルザックとこだわりフランス バルザックとこだわりフランス
こたにりこ/他の作家が作品の舞台に選んだ土地を訪れるのとはわけが違う。「人間喜劇」はライブだ。
どこか一行書きもらしたら、途端にがたが来そうだ。あちこちがたぴし言っている。でも、どこもかしこも読み逃せない。バルザックの小説をめくった時、これを書き抜いた男の、とてつもないエネルギーの仕業を思った。異様な熱気、作者の執着心が、小説にぐるぐると渦を巻いているのを見た。そんな作品群が生まれてから、だいたい200年ほどの時が経った。今、オノレ・ド・バルザックの魅力はどこまで通用するだろう。圧倒的な面白さは永遠に不滅です! という半面、告白すると、最近まで苦手だった。理由は、くさいから。文章がかなりねちっこく、脂ぎった印象を受ける。作品舞台、情景の描写が長々と続くため、説明臭が気にかかる。しかし、ど…  全文読む 評価する

ムーンライト・シャドウ ムーンライト・シャドウ
こたにりこ/好きになりたい。本とか映画とか風景とか人物とか、何でもいいから。
目や鼻の奥がつーんとして、どうしようもなくほっぺたがほてった。涙というのは、突然に目から吹き出すものではなくて。普段から全身をめぐっている水が、堰を切ってあふれ出す現象なんだなと思った。涙が海の水みたいになまぐさく匂って、底から押し上げてきて、骨まで溶かしそうな勢いだった。いっぱい読んで、いっぱい泣いた。この物語が収録されている単行本『キッチン』からは、未だに本からしょっぱい匂いが漂ってきそう。そんな、骨がくたばって全身が震え出すような恋の話に焦がれた。 何と言っても、ここが出発点だろう。「キッチン」以前に、ばななさんが初めて読者の存在というものを意識して綴った物語である。よしもとばななは、ご…  全文読む 評価する

ベロニカは死ぬことにした ベロニカは死ぬことにした
こたにりこ/二度と読み返すことはないだろう。一発で充分に感じさせてくれる。
すいすい読める本と出会った。若く美しい主人公は、家族にも恋人にも恵まれて、職場についてもとりたてて不満を持っているわけではない。ただ、不満がないイコール満足感を得ている、ということにはならない。すべてを手にしているはずの彼女が、自分には何もないと感じていた。 1999年11月11日の朝、ベロニカは死ぬことにした。 とってもとっつきやすい設定だ。 たまたま、ベロニカはベロニカなのであるが、これが日本人女性の、たとえばミカとかいう女であっても(名前を出すと妙にリアルなのですが……)、何ら不思議はない。 端的に言えば、死ぬと決まってから生きることに目覚めていく過程が描かれた話である。 何となく「やっ…  全文読む 評価する

予告された殺人の記録 予告された殺人の記録
こたにりこ/わけのわかっている胸騒ぎを、完璧にコントロール。
一体何が起きようとしているのか、気づかないわけにはいかない。最初から、殺人の記録と予告されている。盛大な結婚式のあとに、花嫁アンヘラが処女ではないことが知れて、花婿バヤルドは誇り高くアンヘラを実家に返してよこす。処女を奪った相手を尋ねられ、アンヘラが挙げた名前はサンティアゴ。アンヘラの双子の兄たちは、よぅし、奴を殺してやると息巻くが、それはあまりにもあからさま。町中の人々が彼らを引き止めている状況だった。彼らは自ら、殺しを止められるような材料を町中に撒き散らして歩いていた。まさか実行できるなどとは、本人たちも唖然呆然だろう。ただ、その日、その場所で、その事件が起きることは、動かしがたくしっかり…  全文読む 評価する

魔法のほうき 魔法のほうき
こたにりこ/エレベーターで、カフェで、公園で。わたしたちは、毎日ちょっとずつファンタジーに癒されている。
「時間」と「場所」とに著者ならではのこだわりをちりばめながら、多くのファンタジー作品を読み解く評論集。前著『<a href="/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/?aid=&bibid=02266903&volno=0000" target="_blank">ファンタジーの魔法空間』も示唆にとむ内容だが、結構ヴォリュームがあるので「コンパクト版もあったら嬉しい」などとのほほんと思っていたところ、いいものを見つけた。ついでながら、『ファンタジーの魔法空間』評に最新評論集と書いてしまったけれど、最新は本書であると判明。訂正してお詫びする。副題にもある通り、本書の中身は全体を…  全文読む 評価する

オレンジだけが果物じゃない オレンジだけが果物じゃない
こたにりこ/まなざしは、距離によって和らげることができる。奇妙な許しの物語。
著者のデビュー作にして半自伝的作品であるが、そうと知らずに開いても想像力のはばたきに魅せられてしまう。芯から読んでよかったと思える、優れた作品と出会った。ジャネット・ウィンターソンという人は、本物の想像力を持った作家である。孤児であったジャネットを引き取り育てたのは、狂信的なキリスト教に属するご夫婦だった。夫の影がひたすらに薄く、主導権を握っているのは妻なのだが、この人、あまりにも強烈なキャラクターを発揮してくれる。書物を選ばせたら旧約聖書と『ジェイン・エア』だけに拘泥する。『ジェイン・エア』に関しては、自分の都合に合わせて結末を変更している。<迷える魂の会>活動への入れ込みようも半端じゃない…  全文読む 評価する

フラニーとゾーイー フラニーとゾーイー
こたにりこ/もはやフラニーへのラブレター以外の何物でもない。愛をこめて、キスマークもべったりつけて、彼女のしあわせを願って。
フラニーが好きだ。グラース家の兄妹たちが子供の頃にレギュラー出演していたというそのラジオ番組、もし聴いていたら私はフラニー・グラースのファンになったのかな。大きくなってますます愛しく、きゅうっと抱きしめてあげたいが、それでは線の細い彼女の背中が折れてしまいそうな気がして触れられず、悶絶する。この甘美な悶絶のうちに『フラニーとゾーイー』は私の中にしみつき、小説に書いてあることないこと読みこみ、想像も妄想になるほど膨らませた。頭も切れて、鋭敏で繊細な感受性で、性格は健気、お芝居もやっている女子大生フラニー嬢。つまり、素敵な女の子ってことじゃないだろうか?もしかしたらこれは書評ではないのかもしれない…  全文読む 評価する

大工よ 屋根の梁を高く上げよ シーモア−序章− 大工よ 屋根の梁を高く上げよ シーモア−序章−
こたにりこ/グラース・サーガを愛読する者にとって、何度でも立ち返りたくなる出発点。
まれに見る繊細な感受性を備えたグラース家の七人兄妹を描くシリーズの中でも、ずばり核心に踏み込んだ一冊、台風の目の部分だ。ついに、長兄シーモアの物語が始まった。自らの結婚式を欠席し、ミュリエルと旅行に出てしまったシーモア。反対を押し切る必要もないのに、式当日になって花嫁その人を伴って「駆け落ち」を成立させてしまう。弟バディは冷や汗たらたらだったろうが、ミュリエルの関係者たちとの歯車がたぴしの会話も、『大工よ〜』ではまだユーモラスに見えなくもない。だが、噛み合わない歯車を無理に回そうとすると、とてつもない負荷がかかるわけで。問題は『シーモア−序章−』で噴出する。シーモアとミュリエルのその後は、先に…  全文読む 評価する

抱擁 抱擁
こたにりこ/読みほどいているつもりが、からめとられてしまう?1990年ブッカー賞受賞作。
映画化により再度注目を浴びている、1990年ブッカー賞受賞作。19世紀の詩人アッシュの研究に携わるローランドは、アッシュが妻以外の女性に宛てて書いた手紙を発見する。お相手は、同時代の詩人ラモットらしい。これまで愛妻家とされてきたアッシュと、レズビアンというのが定説だったラモットが関係を? この古い手紙をめぐり、ローランドは、ラモットの研究家モードに助力を仰ぐ。往復書簡から追跡する、かつての詩人たちの恋。そういう話であるから、だいぶ露骨なカバーの印象とは違う、クラシカルでこっくりとしたテイストだ。私なぞ、この濃ゆい表紙を見て店頭で買うのがためらわれ、bk1に逃げこむという経緯をたどった。さあ、一…  全文読む 評価する

ファンタジーの魔法空間 ファンタジーの魔法空間
こたにりこ/彼女の魔法のレンズを通してファンタジーの本質を拡大し、覗きみる。
ファンタジー作家、翻訳者、評論家、歌人、そして夢の狩人である井辻朱美の最新評論集。彼女の魔法のレンズを通してファンタジーの本質を拡大し、覗きみることができる。本書の鍵は、物語の「場所」「空間」である。近年、『ハリー・ポッター』や『指輪物語』の、映画化から沸騰した人気のほどには目を見張る。おかげで多くのファンタジー本に手が届きやすくなり、恩恵を被っているのも確かだが……。後書きからは、著者の複雑な心境もちらりとのぞく。「長年ファンタジーにかかわってきて、ここ数年のブームには「わが世の春」のような喜びもある反面、だいじなお宝がおしげもなくぶちまけられて、俗塵をかぶったり、誤解されて片づけられること…  全文読む 評価する

薔薇の名前 薔薇の名前
こたにりこ/一方では魔女の烙印を押された罪深き娘が、彼の中では「地上の恋人」。
アドソその人はわずか七日間の訪問者であり、恐るべき慣習に染まってもいない。しかし、彼ははからずも美しい娘と出会い、ただ一度の罪を犯してしまう。なぜ、アドソは、自身が悩みに悶えた過去を、こうも克明に書き記さなければならなかったのであろうか? まるで彫刻のように細部まで再現している。忘れ去ろうとしていないのだ。むしろ、その瞬間を文字に起こし(これも遠くから見下ろせば模様になっているのかもしれない。もしくは記号)、今にも去っていきそうな感覚をつなぎとめようとしている節さえ見られる。本来ならば「俗」に所属する行為が、アドソに「聖」への手がかりをつかませたからかもしれない。あれが完全に「聖」なる儀式だっ…  全文読む 評価する

薔薇の名前 薔薇の名前
こたにりこ/ウンベルト・エーコ、小説家デビュー戦の模様はあまりにも鮮やか、熟練のきわみ。
時は中世。メルクの老いたる僧・アドソが、見習い時代に起きた特異な体験を回想する。それは七日間の物語。「この手記を残そうとしているは、誰のためか分からない」としながらも、アドソはペンをとり、記憶を起こして形あるものにかえた。『薔薇の名前』は、ウンベルト・エーコがアドソの手記をあるルートから入手した、という設定で始まる。だから、この作品に当たるということは、最初から、作品の中の作品を開く行為である。手記の中心は書物に起因する事件なのだから、ここには作品の中の作品の中の作品が見つかることになる。更に、連続殺人は黙示録に沿ったかたちで進行していき、動機も書物の中に存在する。この物語を上から見たら、何か…  全文読む 評価する

七つの人形の恋物語 七つの人形の恋物語
こたにりこ/このベタベタに甘い作品に、一体何度泣かされたか分からない。
好きだというのが気恥ずかしくなるほど。あふれる優しさに思わずうつむいてしまう。打ち明けるにもためらいがちになる……。しかし、このベタベタに甘い作品に、一体何度泣かされたか分からない。お人形が可愛いなんて何歳まで通用すると思ってるんだと聞かれたら、むしろ、大人が開くからこそ溺れてしまう世界だと答えるしかない。主人公のムーシュは、「そんながりがりの痩せっぽっちじゃその気になれない」ということか、ストリップ小屋では売り物にならず、客に愛されることなく追いはらわれてきた娘。ストリップ小屋なんてものが出てくる時点で、この作品に子供向けのレッテルは貼れない、大人が読めということではないのか。そして、全く人…  全文読む 評価する

遠い水平線 遠い水平線
こたにりこ/目のなかに水平線を持っている男。
「私の登場人物も、なにかの魔法で、水平線に到達してくれたことをこころから祈っている。彼もまた、遠い水平線を目のなかにもつ人間だったから。」アントニオ・タブッキは、あとがきでこのように記している。登場の瞬間から、主人公スピーノは、まさに目のなかに水平線を持っている男であった。彼の目のなかにうつっている世界で、水平線は濃くなったり淡くなったり、色合いや厚みをかえたりしながら、スピーノの歩くところどこまでもついてくる。この小説の、唐突とも言える結末で、スピーノは自分のなかにあった水平線にたどりつき、あちら側へと踏み込むのだ。タブッキ、という人の書くものには、言葉に神経の束が通っているみたいなイメージ…  全文読む 評価する

逆さまゲーム 逆さまゲーム
こたにりこ/結末で、まぶたがぐりんと引っくり返される感覚。
「ものごとの、なんのことはない裏側」。 ロートレアモンの言葉が最初に記された短編集。 入口でちょっと手こずった。「なんのことはない裏側」にたどりつくには、ちょっとしたコツがいるらしい。タブッキの文章は、読者が内容に集中しようと力むとすっとそらすような調子があるから、のめりこもうとしてはいけない。かと言って、ぼんやりと眺めるような種類の本でもない。 じゃあ、一体、どうすればいいのだろう。 緊張感を強いる本ではあった。 一ページ一ページ、まるでスキャンするみたいに文字を追っていったら、ある時点から急に、タブッキの味が分かるようになった。それまでは全く良さの分からなかった、手のつけようがなかった本が…  全文読む 評価する

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