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ジャッカルの日
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SlowBird/全身全霊
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今さら言うまでもない超有名作品だし、名に恥じない傑作、超弩級サスペンス。アルジェリアに対して融和的だったドゴールを暗殺しようとする極右組織が、暗殺のプロを雇う。1960年代ともなれば治安は安定し、なまじ乱暴なことなど簡単には出来ないし、怪しい人間がうろうろなどできない、その上組織は当局にマークされている。そこでフリーの暗殺者に高額で依頼するのだが、彼はこの不可能事をやり遂げると言う。オーストリア、ベルギー、イタリアと準備に転々とし、遂にフランスに入国して、そしてパリへと、着々と計画の成功に近づいていく。対するは、極秘裏に暗殺者を突き止める任務を与えられた一人の刑事。これがまた、正体のまったく分…
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大氷結
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SlowBird/破滅の予感だけで終わらせず
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「日本沈没」以来、破滅もの、パニックものというのは流行った気がする。以前から天変地異や、核戦争、公害などテクノロジーの暴走、異星人の侵略といったテーマの破滅ものは書かれていたし、次の氷河期が来るといったことも当時巷間でよく言われていた。「日本」の沈没というのは、プレートテクトニクス理論を用いたことと、世界の破滅といった大掛かりのものより少しだけスケールダウンしたところにリアリティがあったかもしれないーー無論小松左京の筆力によるところが大きいのだが。小松左京には細菌による破滅「復活の日」もある。この「大氷結」も地球寒冷化をテーマにした作品。世界各国が寒冷化する中で、日本も関東を含む東半分が数メー…
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老ヴォールの惑星
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SlowBird/弛緩したようで鋭い感性
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「漂った男」がいい。全表面が海である惑星に不時着した男。生存に支障は無いが救難は来ない。一人延々と海面を漂流することになる、ただそれだけの物語なのに迫力がある。超空間通信おかげで文明世界との交信は保たれるが、電波のように発信源が探知できないという設定が秀逸だし、宇宙の果てで人間一人を探索するコストを維持できないという事情も悲しい。そして漂流する時間の長さが、彼の精神が幾度にも渡って変容していくことによって表現されていて、じわじわと怖さが拡大しつつ、臨場感が伝わって来る。未来版ロビンソン・クルーソーとも言える話だが、いくらかのオーバーテクノロジーを加えることで人間の肉体に限定したミクロな世界を生…
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此岸の家
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SlowBird/幻視の絆
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読み進めると、なんて気持ちの悪い男かと思う。記者として単身赴任したソウル駐在の間に知り合った女性と、日本に帰国後に結婚するという顛末についての4篇。妻が知人もいない日本に渡って来て、不安と孤独に苛まされていく様子を描いているが、その妻に対して救いの手を差し伸べるようでもなく、身内のことを書いているようで実は赤の他人を客観的に書いただけのようだ。彼にとっての妻は、仔細を観察できる他人でしかない。彼の関心事は、彼の考える妻としての義務を果たしているかどうかと、小説の題材として利用するということだけだ。少なくとも小説としてはそういう体裁になっている。前妻と別れたのにも相当な軋轢があったと思うのだが、…
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流刑の神々 精霊物語
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SlowBird/詩人は抗議する
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民間伝承は人のイマジネーションの宝庫であるし、魂の寄りどころでもある。それは時間とともに、また伝えられるとともに融通無碍に変化していくものでもあり、人々の心の変化を映す鏡でもある。ギリシャ神話であり、北欧神話、ケルト神話であり、それらの元になった土着の伝承があり、神話が流布した先でもまた変形していく。神話や伝承が宗教と名を変えると、権力となり、巨大化し、体系化され、群小の神々や妖精達は異端として排除されていく。しかしその排除されていく中にも、人々の夢や希望や哀しみが詰まっている。多くの芸術作品がそこにある美を描き、共感を謳った事実は変わらずに残っている。中世から近代にかけて喪失されていったそれ…
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猫魔岳伝奇
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SlowBird/にゃんにゃん伝奇
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「猫魔岳伝奇」ですよ、えっ、えっ。猫、魔、岳。どこにあるんでしょう。凄い秘密が隠されてるんでしょうね。時は江戸時代、犬公方と呼ばれた将軍綱吉の世。生類憐れみの令の御威光で犬や猫はうっかりすると人間以上に大事にされ、野良犬、野良猫のための巨大な収容施設まである。そのご時世に一匹の大きなむく犬が女の首を加えて浅草寺を疾駆する。冒頭から異様な展開。庶民には手を出すことも出来ず、ただ不気味なだけ。首は誰のものか、むく犬はどこから来たのか。謎は謎を呼び、古き時代より山奥に隠れ住んでいた、猫一族の恐ろしい陰謀が徐々に明らかになる。猫一族。人間ですけどね。猫使いみたいな感じ? 幕府の腐敗につけ込んで代々の念…
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さかしま
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SlowBird/俺たちゃ畸形思想なのさ
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滅びゆく貴族の血筋であるデ・ゼッサントという人物が、その美意識の中にまさに朽ちていこうとする。自分なりの生き方を貫こうとしてはいるのだが、それは誰の目にも世の中に世を向けて破滅へと向かう道でしかなかった。パリを捨て、俗物どもとの交流を絶って、田舎の屋敷に籠って、装飾やら文学やらお気に入りのものばかりを集め、その快楽に耽け続けることを夢見る。かつては散々放蕩したものの、そうして今や彼の生活自体はさして深く語るほどのものは少なく、その思想、審美眼に基づく古今の芸術作品への思いが強く押し出されている。絵画では例えばギュスターブ・モローや、ルドンを絶賛する。そこには神秘と幻想とエロスへの、執拗でありま…
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戦う操縦士
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SlowBird/機上の思想
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フランスがナチス・ドイツの侵攻を受けて大敗を喫した時、サン=テグジェペリは偵察飛行隊に属していた。戦線が後退していく中で出撃を命じられるのだが、味方の支援も無い中で圧倒的な敵の支配地上空を飛ぶことの無謀さは分かっている。偵察の成果を活かせるほどにフランス軍は統制も取れておらず、作戦能力も失われていることも分かっている。それでも出撃するのは愛国心の発露だと彼は考える。一方で実りの無いことが判然としている作戦を立て、部隊を動かし、犠牲を増やし国民を疲弊させるためだけに行動する軍の組織原理とは何かと考える。彼は操縦士として、観測士官と射手とともに出撃する。フランスがこうまで蹂躙される弱き存在になって…
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飢餓海峡
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SlowBird/近代日本の残照
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戦後の大きな悲劇である洞爺丸の沈没事故、それをモデルにしたというのが一番キャッチーな紹介だろうが、それは端緒に過ぎず、北の果ての海と大地に生きた人々の墓銘碑として描かれた大作だ。明治開拓期以来、戦争の苦闘を経て生きてきて、立ちはだかる困難と貧困の現実。当時の日本で北海道だけのことではない。丹波山地奥で細々と農業を営む小さな集落、下北半島で林業の僅かな仕事に従事する人々、鉱山が閉鎖されて糧を得る道を失った開拓団の人々。それから終戦直後に微かな活力を振り絞る焼け野原となった東京。昭和22年、函館を出港したばかりで沈没した連絡船層雲丸は、水死者の死体もすべて引き上げることが出来たが、乗船名簿に無い二…
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垰
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SlowBird/旅の仲間
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妻を亡くし、それから一人娘を亡くした男。娘は「垰=峠」という存在に心惹かれ、各地を旅して「峠」を訪ね歩き、その記録を出版しようとしていた途上で事故死した。こういう状態を怖いもの無しと言う。自暴自棄とも言う。その最後の段階に至る一歩手前のところ、男はジープを駆って、娘の旅の跡を辿ってみる。「峠」は山道である。古くから人が行き来し、歴史が刻まれて来た。その多くは庶民の苦難の歴史だ。そこを旅することは、歴史に思いを寄せ、人々の悲しみに寄り添うことだ。西村寿行の「人間の十字路」では、人が人と出会う場所、時に異界のものと出会う場所が十字路とされていたが、「峠」は行って帰るだけの道であるとも言えるし、時に…
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西洋中世奇譚集成皇帝の閑暇
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SlowBird/中世と現代を結ぶ
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中世は12世紀、イギリスのある学者が、ヨーロッパ各地で収集した奇妙な話を国王に献上したということ。学者というのは、当時にあっては聖職者、司教であり、民間の迷信や伝説を調べて、それを公式な文書とするという思惑はどういったものだったろう。彼が当時の学説で説明できないことを堂々と事実として述べているのは、つまりそれらは奇跡であり、人間の論理で理解できない奇跡のあることこそ神の存在を証明するのだという。本気でそう思っていたのか、とにかく記録の保存のための方便だったのか。後者の方と想像する方が面白い。そして作者の思惑がどうあれ、本書の解説に曰く「欧米の中世史家のあいだでは、現在人気急上昇中の作品である」…
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詩人と狂人たち
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SlowBird/僕らの狂気が生き延びる道を教えよ
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どこがどう繋がっているのか分かりにくい連作短篇だが、事件の起きた場所に唐突に現れる、ある詩人であり狂人である一人の青年の彷徨と成長の物語であったと気づく。その構成自体が作品の目論みというわけではなかろうが、そこから遡ってみることで、主人公の狂気のある場所が見えて来るようでもある。主人公は細かな観察力で事件を解決するのだが、彼が発見するのは事件の証拠というよりも、犯人あるいは当事者の動機についてで、つまりそこでいったい何が起きたのかという筋道の再構成に他ならない。人は誰しも人間の心の中には、些細ではあるが譲れないこだわりが隠されている。普段は日常の隅に隠れているけれど、ひとたび社会と背反してのっ…
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獅子は死なず
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SlowBird/過ぎ去る歴史の中の思いを
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元の題が「わが集外集」ということで、単行本への収録が漏れていた作品を集めた一冊だということ。書かれた時期も分野もまったくバラバラなのだが、それでも通して読むと作者の特質が伝わって来る気もする。それは中国の歴史ものでも近代ものでも、小さな事実の断片を集めながら、そこに生きた人たちの熱い気持ちを感じ取るところにある。推理小説の体裁だとしても、動機やアリバイよりも、その生きた道筋をまず大切に思い、そこに入った一本の切れ目も過去の一コマでしかない。もっとも熱さを持っている作品が「獅子は死なず」で、インド独立の闘士チャンドラ・ボースの生涯に光を当てたものだ。英国政府に追われてインドを脱出してから、ドイツ…
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ハックスレー短編集
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SlowBird/インテリなんてぶっ飛ばせ
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「ジョコンダの微笑」女の嫉妬、あるいは欲望というものに対するかなり直截的な皮肉ということか。それでいて見抜けず、逆らえず、振り回される男たちもまた現実の姿だ。女性の権利主張が強まった時代にこれが書かれたというのは、つまりどっちもどっちという皮肉か。インテリに見える女性でもそういった欲望があるのだというのも(当たり前のことではあるが)、当時への警鐘だろうか。誰もが狂気を持ちうるし、誰もが軽佻浮薄でありうることへの不安の噴出のようでもある。「肖像画」いわゆる田舎成金な人物が見栄のためばかりに絵を買おうとするところに、画商がつけ込んでひと儲けしようという話。ちょっとした落語みたいな気の利いた構成で、…
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ダールグレン
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SlowBird/20世紀に溢れ出したもう一つの世界
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その舞台(アメリカ中部の架空の都市ベローナ)も時代(1970年代)も、人物も、生き生きと描かれているのに、一体全体何が書いてあるのか分からない。それは作者にとってあまりにも真実が書かれ過ぎているからだと僕は断言しよう。様々なメタフィクション的手法、言語実験的手法が散りばめられているが、その語り手の姿は迷宮の奥にどこまでも遠ざかる。それは作者自身が物語と切り離されようとしているからだと。自伝的作品と評されているし、多少の作者の経歴を知っていれば、いくらかなりともそれに重ねて見ることが出来る。でもそれだけじゃなく、これだけの質感のある描写をしながら、根こそぎ宙に放り投げるような拒否感は、慚愧と悲し…
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快傑ゾロ
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SlowBird/痛快で悪いか
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普段は気弱で温厚な芸術好きな青年、マスクを被れば情熱的で野性味溢れる剣の名手。権力者や軍人の横暴に立ち向かい、虐げられた人々を助ける庶民の英雄、だがその正体を知る者はいない。仮面もの、義賊ものの歴史という中での位置付けを承知していないが、まずは定番の設定。舞台は移民初期のカリフォルニアで、初期の移民団の人々と、後から来た政府機関や軍の感情的な対立の中でのゾロの活躍がある。読者だけが知っているマスクの秘密が敵にばれるかどうかのスリルも愉しいが、もう一つのドキドキは、彼(ら)の恋の行方。演じ分けられた二つの人格のそれぞれが、一人の娘に求愛するのだ。彼女がいったいどちらを選ぶのかも気になるが、それよ…
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グアテマラ伝説集
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SlowBird/神の土地の幻想に生きて、書く
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冒頭の短篇「グアテマラ」では、この土地に人々と神が棲みついてからの、その歴史を語る。人と神はいつも共にあって、その地層に幻想を重ねて来た。そこではマヤ文明と、征服者の幻想が二重写しであり、躍動的で、蠱惑的で、力強く、生命力に溢れている。作者自身(あるいはグアテマラのすべての人々)にとっての肉体であり精神の一部であり、罪と罰である。それから数編の伝説集。山や川や空、植物や動物が神であり精霊であり人だった。修道女が生み出した怪物。樹木であり人である博士の破滅。戦争を予告し、結末を予言し、世界を終末に導く「火山」。魚たち、獣たち、鳥たち。後世に語られる神話というものが、神や権力の正当性のために論理的…
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キプリング短篇集
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SlowBird/グローバル作家登場
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インドと英国で生活をしたとはいえ、インド人になりきれたわけではない。理解しきれないまでも現地との交流を生じることは出来て、そこで苦い経験を重ねる。そういう人物造型で、路地裏の娘のところに通う青年や、砂漠の底の村に追い立てられて暮らす人々の中に落ち込んだ男を描く。彼らは決してインドの地に埋もれるわけではない。大英帝国の支配下にありながら、決して同一化できないままで時を過ごしていく大陸の前で、恐れおののき、静かに英国人としての暮らしにもどっていくだけだ。それは大英帝国の価値観を堅持しているとは言えないし、それが世界にとって絶対的なものではないことを間違いなく知っているだろう。そうは言ってもキプリン…
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聖者の島
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SlowBird/人類文明の限界が冷ややかにテストされる
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離島や山奥の隠れ里は寿行が舞台に選ぶことの多い場所だ。そういう空間的にも、人間関係にも閉ざされた場所では、人間の欲望が凝縮された極限状況が生み出しやすいとか。自由と平和だけを理念として、選ばれた100組の家族が無人島で疑似国家を形成するが、理想社会を作ることができるのか、国家として機能するのか、そういう思考実験のようでもある。空間的な凝縮は、歪んだ人間の存在を大きなものにしてしまう。それに加えて、歪みを拡大し、スピードアップさせる時間的な凝縮も舞台装置に組み込まれている。一つはポリネシア、メラネシア、ミクロネシアを一つに統一しようという理想のための、国家レベルの駆け引きと裏工作。そして旧日本軍…
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無月物語
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SlowBird/このスピードに情感に戦慄(ぞっくぞく)するのだ
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あう、久生十蘭を読むのであれば、現在国書刊行会から刊行中の全集全11巻12冊を読むのは大変にしても、岩波文庫と河出文庫で出ている短編集があります。なんか手元に教養文庫版の傑作選5巻のうち、この「無月物語」があったので読みました。この巻は時代小説集なのだけど、十蘭の短篇作品の中で代表的と言われる「湖畔」「無月物語」「鈴木主水」「玉取物語」「うすゆき抄」「無惨やな」なども含まれている。これらはいずれも身震いするような傑作。「湖畔」は酷薄な男、封建制度に守られて生きて来た男の、それゆえに訪れる悲痛な愛。「無月物語」平安時代、妻子に無体を働く中納言、ただそれだけ、残酷で悲惨であるだけの境遇の中での、わ…
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静かなノモンハン
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SlowBird/悲劇の激戦が残したもの、残された者
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伊藤桂一の戦争小説(戦場小説)はたぶん複雑に出来ている。ああ俺は死ぬんだなと思いながら幸運に生き延びた人の記録である。戦場の矛盾を声高に訴えるような言葉は使わない。前戦では将校も下士官も兵士も、そういう言葉を持ち得なかった。戦後になって出来事を語る段においては、自分を巻き込んだ巨大な矛盾についての説明を得てはいる。だがそれと自分の体験を結びつけることが誠実であると、自信を持つのは凡人には難しいようにも感じられる。それから本書の巻末で、作者と司馬遼太郎の対談がある。司馬も伊藤も、戦史をなぞる過程において、戦争の実態に大きな怒りを感じてしまうという。ゆえに司馬はノモンハンについては書かないと言い、…
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ガルガンチュアとパンタグリュエル
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SlowBird/結婚は人生の大喜利か
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ガルガンチュアとパンタグリュエルのシリーズも好評に付き第三弾ということなのだが、すでに序文で「第七八の書」云々などと調子こいたことを言っていて、これは半分は笑いとしても、前二冊の好調から気が大きくなっていたのであろうドヤ顔が目に浮かぶようだ。今回の主役はパンタグリュエルの腹心にして親友、そしてもう一つの自我でもあるパニュルジュであり、気宇壮大でありながら小心者というキャラ立ち具合は愛すべきものだ。パンタグリュエルが父ガルガンチュアを救い出した戦争での功績により小領主の地位に収まったパニュルジュは、いっぱしの王気取りで散財するが、それを咎められると経済活性化のための財政出動であるうそぶく。なるほ…
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女の警察
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SlowBird/男の弱みは常に女か
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女の警察と渾名される主人公は、あるキャバレーのチェーン店の保安部長という肩書きが付いているが、要するに借金を踏み倒して逃げたホステスを探し出すのが仕事。それが学生時代の友人である雑誌記者が不審な死を遂げたことに好奇心をそそられて、引き寄せられるようにその原因に近づいて行く。東海道新幹線用地買収に絡む汚職事件を題材にした「夢の超特急」に続いて、今度は山陽新幹線での疑獄が背景に隠されている。それと平行して、様々な新興資本が業界に参入し、大勢のホステスを抱えて趣向を凝らした支店を拡げていくというチェーン店方式が勃興していく過程が重なっている。つまり金に絡む線はどこかで繋がっているのか。ホステスの失踪…
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悪童日記
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SlowBird/決して癒えない傷が書かせる物語
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戦争において子供達が被る被害は理不尽なものだろう。もっとも、その理不尽さなど問題にせず、もっとも早く状況に適応するのも子供かもしれない。もちろんそんな適応がいいこととは言えず、人格の奥底に暗い記憶として残り、消えない怨嗟の連環を生み出すのではないだろうか。ナチス占領下にあったハンガリーと思しき舞台で、祖母の元に疎開させられてくる双子の少年。直接戦火を受けるわけではないが、それまでの暮らしから一転する物資の不足、弱者にいっそう辛くあたる人々、その背景にある思想統制が、子供達を圧迫する。それでも子供達は表面上は元気を失わずに成長するのだが、大人になってみて消しがたい人間不信か硬直性かなにか、自分の…
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わが国おんな三割安
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SlowBird/こんなにやさしくてかわいい女達
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新宿の場末の芸能会社を仕切ってる女が、金を持ち逃げした踊り子を捉まえに大阪まで出かけるところから始まる。そこでは寮と称する壊れそうな倉庫に、幾人もの女達が住んでいた。そこで知った一人の薄ぼんやりした美少女を拾って連れて帰るのを手始めにした連作短編集。芸能会社というのはつまり出張ホステスやストリッパーの斡旋業で、そこにいる女達は様々な過去を持って流れて来て、そしてこの境遇から抜け出せないでいる。別に高貴な魂の持ち主だの、ひと際優しい性格なんて人はいない。それぞれに個性があるが、おおまかに指を折れば欠点、弱さの方が多く数えられるような人たち。なにかと男に騙され、世間に喰いものにされる。つまらない男…
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プークが丘の妖精パック
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SlowBird/トネリコの魔法に語らしめよ
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キプリングという人は、インドで生まれ育ち、作家としての地位を得てからイギリスに戻った人だ。少年時代の一時期にイングランドで教育も受けている。大英帝国を外から、散文的な感覚で眺めた経験がある人とみなしたい。インドを舞台にした作品も素晴らしいが、イングランドの歴史を題材にした本作も、愛郷心とコスモポリタンとしての視線が混交して、子供向けファンタジーの域を越えた悲哀を奏でている。オークとトネリコとサンザシの森の繁る、キプリング自身が家族と住んだサセックスの地。その森で二人の子供達が一人の妖精に出会う。シェークスピアにも登場するパックであり、彼の言うところでは古くからその土地をずっと見て来たのだという…
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忘却の河
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SlowBird/傷痕を重ねる意味
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かつて南方の戦線で生死の境を彷徨い、戦友達とともに魂をそこへ置き去りにして来た者がいる。そう言われてしまえばなんでもありになってしまう。やがて社会的地位も得た末に、通りすがりの若い女を介抱して、愛人関係となる。妻は病気で臥せったきり。そんな調子のいい展開も、無理矢理納得させられる。とはいえ裸電球の下での愛人との束の間の生活は、なぜ自分がこのような人間に成り果てたのか、どうやって現在まで辿り着いたのかを確認していく時間でもあった。彼の家族は、年頃の娘が二人。それぞれに両親の虚無を受け継いでいるかのような恋愛をする。家族四人の個々の物語の中で、彼らはみな孤独を癒す方図を求めるが、それは過去をひた隠…
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永遠なる序章
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SlowBird/どん底から見た空
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すっきりとした気分のいい死に方なんてのが本当にあるとは思えないが、それも一つのファンタジーだろう。そういう心持ちになれるような精神状態なんて想到できなない。だが貧しさと孤独に身を埋めて来た者には、そういう夢を与えられていい。そんなスペシャルな夢のためには、労苦の半生と戦後の混乱だけでは足りないとして、なにを足せばいいだろう。例えばイデオロギーでは場違い感を拭えないが、それに伴う労働者コミュニティの連帯感のようなものがあれば、かなり近づきそう。突如医者に余命を宣告された青年に訪れたのは、それらの条件に加えて、何も背負うものがない孤独から来る諦念か。これまでの人生に満足して、それが未来の社会にもた…
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ガルガンチュアとパンタグリュエル
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SlowBird/ファルスの脈動
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坂口安吾の言うファルスの文学というのがなかなかピンと来なかったのだけど、考えてみたらラブレーがぴったりと来る。とはいえ安吾がアテネフランセに通っていた頃はまだ渡辺一夫訳も出てないし、安吾がラブレーを愛読したということはなさそうだが、フランス語が古くて読みこなすには至らなかったが大意は得たのか、その後継者たちの作品で着想を得たか。ヴォルテール「カンディード」のゆるーい笑いなどもその一つだろう。いつのどことも知れぬ架空の舞台のようで、まあ16世紀初のフランスのどこかであり、当時の地名や人物もふんだんに出てくる。ある小さな領土の領主であるガルガンチュア王の息子のパンタグリュエルは、父と同じように巨躯…
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人間の運命
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SlowBird/悲劇を打ち越えて生きてゆくこと
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農地と森が広がり清流の豊かなロシアの大地で生きる人々を、現代史では2回の大きな嵐が襲った。一つは共産革命で、もう一つは大祖国戦争、すなわち第二次世界大戦だ。この二つが人々を引き裂いた。村落共同体のゆったりとした暮らしを、素朴な家族の結びつきを。帝政のコサックあるいは保守派と、赤軍あるいは労働者組織にと、軍事的、イデオロギー的な分裂による闘争に飲み込まれた。独軍の侵攻に立ち向かう兵士と、それを待つ家族とに引き裂かれた。一進一退を繰り返した内戦で、どちらの側に付くかで旧知の友人も家族も敵対し、革命によって集団農場、機械化農業といったものが、イデオロギーを携えて農村にやってくる。それを迎え入れる、新…
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