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テルマエ・ロマエ テルマエ・ロマエ
コーチャン/ローマ人の目から見た日本の風呂文化
 古代ローマの浴場技師ルシウスは、現代の日本に幾度もタイムスリップして、そのつど「平たい顔族」つまり日本人の風呂文化に大きな感銘をうけ、それらの知識をたずさえてローマにもどってゆく。古代ローマ人と日本人という、ともに風呂を愛し、風呂の文化においては卓越したものを残した国民同士が遠い時空をこえてつながるという荒唐無稽ながらも、実に愉快なストーリーである。塩野七生の『ローマ人の物語』を読んで以来、ローマ人の偉大さに惚れこんだ私にとって、日本人がローマ人の尊敬の的となるという設定は小気味よいものがある。 ルシウスが驚愕をし、学ぶものは、ほとんどが近代文明の産物であって、うがった見方をすれば、単に古代…  全文読む 評価する

十字軍物語 十字軍物語
コーチャン/クリスマスに思う、宗教的寛容について
 『十字軍物語』完結篇の本巻では、英国王リチャード1世に率いられた第三次十字軍による聖都奪還から描かれる。 リチャードの果敢な戦いぶりには敵方のイスラム教徒さえも舌を巻き、彼らはこの勇猛な王を「獅子心王」と名づけた。かつてその武勇と知略とでイェルサレムを陥落させたアユーブ朝のスルタン、サラディンもほとほと手を焼き、ついにイェルサレムにおけるキリスト教巡礼者の安全を保証することで講和にもちこむ。その後、サラディンの弟アラディールによって二人の結んだ協定は更新されつづけ、四半世紀ものあいだ巡礼者の安全は守られた。 巡礼者の安全を確保するのが目的の十字軍であるから、これは大きな前進にはちがいなかった…  全文読む 評価する

道徳形而上学原論 道徳形而上学原論
コーチャン/内なる道徳律―人間存在の神秘
 カントは、道徳的な価値を行為の結果にではなく、その動機に認める。それも、肉体的欲望、その他の自己保存や幸福を目指すさまざまな目論見など、人間の自然にもとづく経験的な動機は、真に道徳的な価値のある動機ではないという。人に優しくしようという思いさえも、「感情」という心のうちに自然に湧き上がるものであるかぎり、経験的なものにすぎず、そこに道徳的価値はない。 カントによれば、真に道徳的な価値をもつのは、理性の命令にしたがう行為である。そしてその命令とは、「~ならば、~せよ」という条件つきの命令(仮言命法)ではなく、どんな場合にも無条件で「~せよ」と命じる普遍的な命令(定言命法)というかたちをとる。「…  全文読む 評価する

ジョン・レノンに恋して ジョン・レノンに恋して
コーチャン/ジョンを愛した女心の不可解さ
 ジョン・レノンの前妻、シンシア・レノンがジョンとの思い出を中心につづった自叙伝。シンシアは美術学校時代のジョンの同級生であった。おとなしい彼女と不良っぽいジョンは、正反対の性格だったが、互いに片親を亡くしていることなどから惹かれあうようになる。学期末に行われたパーティーの夜、二人は初めて愛を交わす。その後彼女は終電に間に合うよう大急ぎで駅へと急ぐ... ―駅に着くと、列車に飛び乗る前に、なんとかあわただしくさよならのキスをした。わたしが窓から手を振ると、「明日の予定は?次の日は?その次の日は?」とジョンが叫んだ。「あなたに会うの」。わたしも叫び返した。― 学生の二人にはお金がなかったので、映…  全文読む 評価する

現代社会主義を考える 現代社会主義を考える
コーチャン/「社会主義没落は歴史の必然」というところまでは...
 個人的な話であるが、著者の渓内譲先生とはずっと昔に知遇を得、食事もご一緒させていただいたことがある。その立派な業績や名声にもかかわらず、当時学生だった私に対しても実に腰が低く、人懐っこく温かみのある態度で接してくださった。短いおつきあいながら、先生は私の中で、最も尊敬できる人物の一人として記憶されている。 そんな心の恩師の著書としてずいぶん前に購入したこの『現代社会主義を考える』を、最近になってはじめて読んでみた。反共という私の基本的な立場からすると、社会主義礼讃のような本を読むことには、やや複雑な思いもあったが、それでもさすがはロシア革命史、ソ連史研究の第一人者、多くの刺激と啓発を受けるこ…  全文読む 評価する

新・堕落論 新・堕落論
コーチャン/核武装についての勇気ある提言
 今回の大震災を日本国民に対する天罰と呼び、物議をかもし出した東京都の石原知事の本音が今明かされる。それにしても、この人くらい何を言っても政治的な責任を取らされることのない人間もないのではないか。先ごろある大臣は、福島第1原発周辺の町を訪れありのままの情景を述べただけで、非難を受け、何の抗弁もすることなく自ら職を辞した。一方、この石原慎太郎という男は、これまでもさまざまな放言でマスコミから叩かれつつも、一度もそのために職を解かれることなく都政を担い、現在知事4期目にある。政治家にとってバッシングをものともしない強い意志がいかに大切かを示す好例である。 本書の第一章は、政治外交に関する示唆に富ん…  全文読む 評価する

謎解き「張作霖爆殺事件」 謎解き「張作霖爆殺事件」
コーチャン/また一つ昭和史の修正が必要に
 奉天軍閥の首領、張作霖が北伐軍に破れ、奉天に逃げ帰る際、彼の乗った列車ごと爆殺された、昭和3(1928)年7月の、いわゆる奉天事件は、事件直後から現在にいたるまで、大陸に進駐していた日本の関東軍の仕業とされてきた。その実行犯が河本大作という関東軍高級参謀であることも、主に他人の証言にもとづいて、一つの揺るがぬ史実として伝えられている。 明白とされていた定説を揺るがせた最初の衝撃が、2006年に出版されたユン・チアン著の『マオ』で、毛沢東の真実を暴いたこの書に、張作霖事件の首謀者がソ連の情報組織グルーシカであると、記されていたのだ。さらに、ソ連を黒幕と位置づけ、関東軍犯行説を否定する報告が、英…  全文読む 評価する

賭博者 賭博者
コーチャン/“Isn’t he a bit like you and me?” ―「ひとりぼっちのあいつ」(ビートルズ)
 ドストエフスキーが20歳も年下の女性との泥沼のような恋愛劇と賭博に明け暮れる日々の中でつづった一種の私小説、悪辣な出版人との契約履行のため、大急ぎで書き上げた作品...などと書かれた巻末の解説を見ながら、なるほどその程度の小説であると最初は思いながら読んでいたが、最後には、さすが文豪の作品と唸らされた。 実際、賭博が駆り立てる自己破壊的な衝動をこれほどまでにうまく表現した文学作品を私は他に知らない。賭博には、まず正常な理性が明白に認識できる事態を見る目をその人間から奪い去る魅力があるということ。ここに登場する大富豪の老女は、異常な目をしてルーレットの前に座る青年を見て、その破滅的行為をののし…  全文読む 評価する

白衣の女 白衣の女
コーチャン/ホームズよりも昔のミステリだが...
 現在放映中のフジテレビ系ドラマ『霧に棲む悪魔』の原作ということで読んでみた。まずこれが、あのシャーロックホームズよりも前に書かれたということに驚いた。たしかにミステリというジャンルが確立されていない時代のこの作品には、後世のミステリ小説に見られるトリック、緻密な推理や分析はない。(ヒロインと瓜二つの女性と彼女らが巻き込まれた犯罪のからくりもおそらく誰もが想像する通りのもので、トリックと言うほどのものでもない。)犯人を探し当てる要素もほとんどなく、物語の半ばには、悪人と善人とがはっきりしてしまう。 だが問題は、だれがどのようにしてその悪人をやっつけるかであり、そこからがこの小説の真骨頂という気…  全文読む 評価する

十字軍物語 十字軍物語
コーチャン/これぞ騎士道精神!
 第一次十字軍により聖地に建てたイェルサレム王国は、恒常的な兵力不足のもと、周囲のイスラム勢力から、いかに王国を守るかという問題に直面する。『十字軍物語』第2巻では、守勢に入った十字軍国家が奮闘しつつも、結局はイスラム教徒に敗れ、サラディンのアイユーブ朝によりイェルサレムを奪われる1187年までの様子が描かれる。 本書には数々の魅力的な人物が登場するが、中でも印象的なのが、イスラム側の英雄サラディン、そしてイェルサレム王国を最後まで守ったキリスト教徒の武将バリアーノ・イベリンである。敵同士の彼らが交わした一連のやりとりは、人間の偉大さ、魂の気高さというものが宗教とは関係がないこと、またそのよう…  全文読む 評価する

偽善エコロジー 偽善エコロジー
コーチャン/人類にとって本当に大切なことを考え直すきっかけに
 著者の武田邦彦氏は最近、福島第一原発の事故に関しても忌憚なき意見を述べ、今なお話題にのぼる人物である。風評やマスコミの報道により誤って形成されたデマの正体を、科学者の立場から明らかにしているその態度は、2008年発売の本書においてもうかがわれる。 およそ現在エコロジーと称して国民に課せられた数々の法的、道義的規制のほとんどが、武田氏によれば偽善であり、多くの場合その努力は有害でさえあるという。 曰く、レジ袋の不使用を勧めるのは企業がエコバッグという商品を購入させるために生み出したデマにすぎず、石油資源の有効利用のためには、むしろレジ袋をどんどん使うべきである。同様に、割り箸も遠慮せずどんどん…  全文読む 評価する

ザ・ビートルズ・サウンド最後の真実 ザ・ビートルズ・サウンド最後の真実
コーチャン/まずはビートルズありき
 ジェフ・エメリックは、15歳のときサウンド・エンジニアとしてイギリスのレコード会社EMIに入社し、幸運にも初出勤の翌日、ビートルズの初レコーディングに立ち会う。その後も、彼らのいくつかのアルバムのレコーディングに参加し、「リボルバー」からは専属のエンジニアとして、「サージェント・ペパー」、「アビーロード」など傑作アルバム制作のかげの功労者となる。 本書は、そんなエメリック自身によるビートルズやプロデューサーのジョージ・マーティンらとの共同作業についての回想録である。内容の中心は、もちろん音楽・サウンドだが、まず興味をひかれたのはエンジニアの技術的な話題よりもビートルズの人間関係についてであっ…  全文読む 評価する

蓼喰う虫 蓼喰う虫
コーチャン/多彩な刺激をもった小説
 妻は夫が公認した愛人をもち、夫は売春宿に通う―そんな冷え切った関係でありながら、あえて離婚にふみきることもできず、だらだらと同居を続ける要と美佐子というセックスレス・カップルが主人公の物語。 だが彼らは、必ずしも愛のない絶望的な夫婦ではなく、むしろ何気ない二人の会話や行動からは、たがいに対するいたわりや、思いやりも垣間見えている。たとえば、時計でも財布でも「あれ」というだけで直ぐ一揃えを用意してくれる美佐子に、要は彼女こそが自分のことを最もよく理解している人間であると実感する。 思うに、このように静かな信頼を寄せ合う夫婦のありようを描くことこそが作者の意図ではないか?「蓼食う虫も好きずき」と…  全文読む 評価する

半身 半身
コーチャン/特殊な世界の謎めいた物語
 予想はできたが、やはりショッキングな結末だった。 訳者のあとがきには、「これはどんな本なのだろう―読み進む間、それがずっと不思議だった。歴史小説だろうか。ラブストーリーだろうか。ゴシックホラーだろうか。ミステリだろうか」と書かれてある。 たしかにこれは、19世紀のイギリス社会を舞台にした歴史小説のようでもあるし、ラブストーリー―それも特殊な愛の物語―のようでもあるし、オカルト小説のようでもある。また同時に、読者はこれがミステリなら、きっとタネがあり、真犯人がどこかにいるはずだと思いつつも、実はそういうジャンルの作品ではないのかもしれない、と不思議な気分で読み進むことだろう。 物語は、シライナ…  全文読む 評価する

チェーホフを楽しむために チェーホフを楽しむために
コーチャン/ふたたび興味をかきたてられる文豪の世界
 チェーホフは好きな作家である。『かわいい女』、『かもめ』、『桜の園』などに描かれた淡い人間模様や情景にはいつでも、ほのぼの、しみじみした感動をおぼえる。彼の戯曲をもとにしたニキータ=ミハルコフ監督の『機械じかけのピアノのための未完成の戯曲』も独特のユーモアとペーソスにあふれ、お気に入りの映画である。 しかし、チェーホフについては、上にあげたような名作以外はほとんど読んでいない。これでファンを名乗るとはおこがましい限りだが、短編ばかりのチェーホフ作品のどれから読めばいいのか見当がつかないこと、片っ端から読めばいいのだろうが、一般に登場人物が多く、一人の人物をいくつもの名で呼ぶロシア文学を、一作…  全文読む 評価する

禁煙セラピー 禁煙セラピー
コーチャン/不思議な本である。
 タバコを吸ったことのない自分には、そもそもタバコを嗜好し、ましてやその中毒になる人の心情が理解できない。健康へのリスク、経済的負担にもかかわらず、多くの人がタバコを吸い続けることは、私にとっていまだに謎であり続けている。 そんな私にとってやはり不可解なのが、この『禁煙セラピー』という本の効用である。親戚の一人がこの本を読んでタバコをやめたというのを聞いたとき、正直驚いた。ヘビースモーカーだった彼は、この本を、タバコを吸いながら読み続け、終わりに近づいた頃、「ああ、これが人生最後の一本になるのだな」と思い、ついに読み終えた瞬間、タバコの火をもみ消し、それ以来吸っていないし、吸いたいとも思わない…  全文読む 評価する

十字軍物語 十字軍物語
コーチャン/ある国の現状が思い起こされる
 塩野七生待望の最新作のテーマは十字軍。中世ヨーロッパの主人公である騎士が、聖都イェルサレムをイスラムの支配からキリスト教徒の手に取り戻すべく、結成された軍隊の物語である。 この第1巻では、教皇ウルバヌス2世によるクレルモン宗教会議の召集から、西ヨーロッパ各地の諸侯による第1回十字軍のイェルサレム攻略までの過程が描かれる。互いの利害や野心から反目しあう諸侯たちは、最初から足並みも揃わない状態であったが、それでも共通の目的のために重要な場面では一致団結をしてイスラム教徒を次々と打ち負かし、出発から3年後の1099年、ついに聖地奪還を果たす。 律儀で温厚な性格から、騎士たちの間で自然と総大将と目さ…  全文読む 評価する

「次の首相」はこうして決まる 「次の首相」はこうして決まる
コーチャン/新たなタイプの実力者に期待!
 近年特徴的となった日本の首相の選ばれ方がある。それは、一言でいえば「世論調査によって」である。といってもこれは、世の声に虚心に耳を傾けるというような殊勝な心構えからではなく、「誰が首相として集票力があるか」という打算にもとづくものである。 かつて自民党では、党内の派閥とその力関係が政治の動向を決めていた。中選挙区制のもとで、自民党は通常一つの選挙区に複数の候補者を立てていたが、これは、同じ党内でのライバルを生むことを意味した。候補者は、選挙区における自分の立場を有利にするために派閥に属し、また派閥に入ることで、党や政府内でのポストも約束された。 派閥が幅を利かせていたのは、このような議員の側…  全文読む 評価する

二大政党制批判論 二大政党制批判論
コーチャン/はたして理想の政治体制か?
 いつの頃からか日本人のあいだには、自民党の一党支配ではいけない、アメリカやイギリスのような二大政党制を確立しなければ真の民主国家たりえない、という風潮がうまれた。そして、そのような風潮が肥大して結果的に民主党への支持を強め、民主党政権の誕生の大きな要因となった。民主主義の先進国で発達した制度だからきっといいのだろうという漠然とした気分から、自民党と民主党の二大政党制を、日本における民主主義の進歩ととらえている人は、この本を読むとよい。二大政党制がいかに多くの問題をはらんでいるかを、殊に日本という政治的土壌のもとでは、むしろそれがマイナスに働きうるということを、これは教えてくれるから。 二大政…  全文読む 評価する

ゲゲゲの女房 ゲゲゲの女房
コーチャン/生きる力
 『ゲゲゲの鬼太郎』の作者水木しげる(本名武良茂)の妻、武良布枝が自分と夫のこれまでの人生をふり返った自伝的エッセイ。いうまでもなく、現在放映中のNHKの朝ドラ『ゲゲゲの女房』の原作である。これを読むと、ドラマが大体において原作に忠実であることに気づかされ、ドラマの感動があながちフィクションでないことに喜びを覚えた。 島根県安来町に生まれ育った引っ込み思案な女性が、30近くになって嫁いだ先は東京の調布に住む漫画家であった。お見合い後わずか5日で結婚をし、そのまま東京にやって来た彼女を待っていたのは、想像だにしなかった極貧生活であった。 夫の茂は当時、貸本漫画で生計を立てていたが、斜陽だったこの…  全文読む 評価する

印象派の誕生 印象派の誕生
コーチャン/リアリズムの画家、マネ
 今春開館した丸の内の三菱一号館美術館でおこなわれた「マネとモダン・パリ展」に行った。マネ作品を中心とした展覧会は初めてで、この画家についてもモネ、ルノワールらとともに初期印象派の一人という程度の知識しかなかったが、人物、風景、静物と、マネの作品群は、どれも静かな雰囲気を漂わせ、そこでは悲惨な死さえもおだやかに描かれているのに感銘をうけた。そしてそれらを眺め歩くうち、おだやかな気分になるのを感じた。『印象派の誕生』を読んだのは、マネとのこのような出会いの直後だった。 本書は主としてマネとモネの足跡をたどっているが、これを読んで、マネという作家が真の意味で印象派の創始者の名というにふさわしい画家…  全文読む 評価する

習近平の正体 習近平の正体
コーチャン/立派な人のようだが...
 習近平-昨年11月、宮内省のいわゆる「1か月ルール」を破るかたちで天皇陛下との会見をおこない、多くの日本人のひんしゅくをかった中国要人である。巨大な体躯で、陛下を見下ろすような不遜な態度は、それより少し前に陛下と会見したオバマ米大統領が深々とお辞儀をしたのとは対照的で、私もひどく不快感をおぼえたものである。そんな男の「正体」というタイトルに惹かれてとってみたのが、この本だった。 しかしこれを読むと、不遜で傲慢という印象からはほど遠い人物像がうかびあがってきた。まず習近平は、少年時代からたいへんな苦労をした男である。父の習仲勲は中国共産党の幹部であったが、文化大革命のさなか讒言に遭い失脚し、そ…  全文読む 評価する

生命とは何か 生命とは何か
コーチャン/何かのために存在するということ
 福岡伸一著『生物と無生物のあいだ』で紹介されていたのに興味をもち、手にとったこの書、分子生物学の黎明期である1944年代に出された生命の本質を論じた名著である。もともと本書は、一般向けの講演をもとに書かれたもので、しかも著者のシュレーディンガー自身は、生物学者ではなく物理学者である。だから、さほど難解ではあるまいと高をくくっていたが、実際に読んでみると、興味深くもなかなかに手ごわい内容で、少しでも専門的な話題になると飛ばしながら読んでしまった。 本書ではまず、エントロピーという概念が説明される。煙を密室内に、あるいは色のついた液体を水中に放置すると、やがてそれらは部屋や水槽中に充満する。これ…  全文読む 評価する

虞美人草 虞美人草
コーチャン/漱石文学初期の主人公
 甲野欽吾は、亡くなった父の遺産を、継母が実の娘の藤尾にやりたがっていることを知っている。彼は、遺産をみな藤尾にやり、自分は一人で暮らしたいと言うが、世間体を気にする継母は、甲野の家督にこだわり、これを認ようとしない。 一方、明るく豪胆な甲野の親友、宗近は、藤尾に好意をいだき、甲野も妹が彼といっしょになることを望む。しかし、気位が高くわがままな藤尾は、宗近よりもむしろ自分の自由になり、社会的地位も教養もある男、小野清三に近寄る。小野も彼女の財産に目がくらみ、許婚となっていた恩師の娘、小夜子を捨てようとする。小野があやういところで、良心をとりもどして、小夜子のもとへ戻るのに対し、最後まで我を通し…  全文読む 評価する

草原の記 草原の記
コーチャン/少しばかり司馬批判を...
 大阪外大のモンゴル語科を卒業し、モンゴルの大地に遥かなる憧れとロマンを抱きつづけた作家司馬遼太郎が、モンゴル訪問中に知り合った現地人女性ツェベクマさんとのやりとりを中心に綴ったエッセイである。 司馬らしい好奇心のおもむくままに書かれた文章は、本書のテーマであるモンゴルの空と草原がもつ解放感を反映してか、より生き生きしている。ときに騎馬民族の歴史をたどり、ときに日本の大陸支配を論じながら、あくまでこの物語風エッセイのヒロインは、ツェベクマさんである。少女時代にソ連から日本の支配する満州国に移住した彼女は、戦後、中国の支配を受けるも、文化大革命の嵐の中、夫を置いて娘と二人で中国を脱出しモンゴルに…  全文読む 評価する

わらの女 わらの女
コーチャン/こんな結末だったっけ?!
 戦争で家族を失った女性、ヒルデガルデは、新聞の求縁広告で玉の輿を探す日々を送っていた。そのような広告を通じて知り合った男アントン・コルフ。彼女は彼と共謀して、億万長者カール・リッチモンドの妻になる計画を立てる。やがて目的は達せられ、彼女は彼と結婚するが...。 古典的ミステリー小説『わらの女』の原作を私は読んだことがなかったが、ショーン・コネリー主演の映画、あるいは昔のNHKドラマを通じて、そのストーリーは知っているつもりだった。だから、さしたる興味もなく本屋でこの本を手に取り最後の数ページに目を通したとき、おやっと思った。結末が違うぞ! かくして、腰をすえて原作を始めから読んだ私は、その後…  全文読む 評価する

新脱亜論 新脱亜論
コーチャン/歴史を学ぶ意義を感じさせてくれる一冊
 日本の近代化は、東アジアの植民地化をたくらむ欧米列強の脅威によりひきおこされたといっても過言ではない。封建社会を脱却し、近代国家へと跳躍をおこなわねば国家の独立は保てない―幕末人のこのような危機意識こそが、国内諸勢力の対立を乗り越え、明治維新といういわばアジア初の市民革命を実現させた。 だが、日本だけが近代化し、独立を保とうとも、それだけで列強の脅威が消えるわけではない。近隣諸国もそれにならい、東アジア全域がそれぞれ近代国家として独立をしないかぎり、日本の安全はありえない。近隣諸国を侵略した列強がそこを足がかりにして、わが国にも牙をむいて襲いかかるのは必定だからである。これは隣国への博愛主義…  全文読む 評価する

マキアヴェッリ語録 マキアヴェッリ語録
コーチャン/拝啓、塩野七生様
『マキアヴェッリ語録』拝読いたしました。 「語録」というと、引用された言葉だけでなく、それを抄出した理由、それについての解説が付されているのが普通で、この本もそのような体裁をとり、ゆえに貴方の作家としてのオリジナリティをもった作品であろうと想像しておりました。 その予想はうらぎられました。貴方の書かれたのは、ルネサンス期の政治思想家マキアヴェッリの著作からご自身の恣意で選んだ名言をまとめ、それに短いはしがきを付した一冊の本でした。私は最初、大昔の作家の書いたものを写して、自分の本として出版するなんて、なんと楽な仕事かと思いました。(いや、翻訳も貴方がされたのですから、楽だなんてそもそもたいへん…  全文読む 評価する

藤子・F・不二雄大全集 藤子・F・不二雄大全集
コーチャン/真の国民的キャラクターに!
 「いいたかないけどめんどうみたよ」―正太少年が野原で見つけたタマゴから出てきたQ太郎が、窮地に陥った正太を助けるたびに言うことばだ。(第1巻第1話)この恩着せがましいオバケが正太の家に居候することによってひきおこされる騒動の数々。私自身少年時代に熱狂したあの『オバケのQ太郎』が、藤子・F・不二雄大全集の一部として、全5巻本になってよみがえった。 熱狂したとはいえ、なにぶん幼少の時分だったのと、当時見ていたのが主にテレビアニメだったため、自分にとってQちゃんのオリジナル漫画は懐かしいというより、新たな発見にちかく、こんなにも夢のある楽しい漫画だったのか!と正直感動した。 今回特に心に残ったのは…  全文読む 評価する

「南京事件」日本人48人の証言 「南京事件」日本人48人の証言
コーチャン/生き証人による貴重な証言
 日中戦争のさなかの1937年12月、南京が日本軍に占領される。そのとき陸軍の軍人らが市内で大量の中国市民を暴行し、虐殺したとされているいわゆる「南京事件」。その50年後の1987年に出版された本書は、このような事件が本当にあったかどうかを、当時南京に滞在し、市内の様子を目撃した人たちに尋ね、その証言をつづったものである。証言者は48人。37人は筆者が直接会って話を聞き、11人は書簡や電話を通じて証言を得た人々である。彼らは職業別に、新聞記者、従軍カメラマンや画家、軍人、外交官と分類されている。 ほとんどが80歳をこえた高齢者の彼らの言葉はどれも明晰・明瞭で、記述内容や論理に矛盾がない。また知…  全文読む 評価する

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