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神様2011 神様2011
yama-a/とても不思議なことがまるで何でもないかのように起きている。
bk1 から現物が届くまでこんなに薄っぺらい本だとは知らなかった。短編小説集である。最初に筆者が1993年に書いた『神様』という小説が掲載されている。お弁当を持って熊と一緒に散歩に行くという、とても現実離れした小説である。ちょうど小川洋子の作品のように、とても不思議なことがまるで何でもないかのように起きている。それから、昨年その作品に手を入れた『神様2011』という短編が続いている。「手を入れた」と言っても、ほとんどは元のままで、ほんの何箇所かが書き換えられているだけである。しかし、ほんの何箇所かが書き換えられているだけなのに、熊と散歩に行く半ばファンタジーが、完全に福島の原発事故を扱った小説…  全文読む 評価する

舟を編む 舟を編む
yama-a/ケレン味のない、編むように書かれた小説
僕は三浦しをんのことはあまりよく知らない。何しろ『風が強く吹いている』一作しか読んでいないのだから(まあ、映画で『まほろ駅前多田便利軒』は観たが…)。ただ、その一作から受けた印象は、「設定と筋運びの人」であって、あまり言葉そのものに切れのある人ではなかった。その人が辞書編纂者を扱った小説を書くというのがなんとも面白そうで取り寄せたのである。ただ、読む前に想像したような、言葉や辞書の非常に深い薀蓄に分け入って組み立てた文章ではなく、やはりここでも彼女は設定と筋運びの人だった。主人公は馬締光也という、名前の通り真面目な、しかし、どう見ても冴えない出版社勤務の男である。むしろ変人である。他の作家が書…  全文読む 評価する

メディアと日本人 メディアと日本人
yama-a/短絡的な結論に異を唱えるところから始めたメディア論
著者が社会心理学者として、またBPOの委員として、長年取り組んできた精緻な研究データを素に、それぞれのメディアと日本人のメンタリティを論じている文章である。さすがに社会心理学、統計学の専門家が書いた本である──というのが僕の第一印象であった。ともすれば、たったひとつのアンケート結果から安易に誰もが思いがちな結論に持って行くような本が多い中、この本はまずそういう短絡的な結論に異を唱えるところから始めている。「そういう風に思われがちだが、実はこの調査結果からそういう結論を導くことはできない」というような記述が随所に見られるのである。統計的に見てそれが優位な差であるのかどうか、あるいは擬似相関を示し…  全文読む 評価する

日本のセックス 日本のセックス
yama-a/真正面からの怒涛のポルノ
昔から「ポルノは善か悪か、あるいは必要悪か」とか、そもそも「ここまでは芸術、ここから先はポルノ、みたいにきっちり分けられるものなのか」とかいう議論は幾度となく繰り返されてきただろうが、そんなものは分けられるわけがないし、どっちかが善でどっちかが悪なんてこともない。同じものでもある角度から見れば芸術で別の角度から見たらポルノ、なんてこともなければ、同じものでもあるときは芸術になり、またあるときはポルノになる、なんてこともない。そもそも分明な境界の存在を想起するのが間違いで、ポルノを切り分けることも、それだけを規定することも無意味であると私は思っている。ところが、この小説を読み始めて端的に持った感…  全文読む 評価する

翼
yama-a/そしてやっぱり一途に深い。
この作家を読むのは『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』以来2作目であるが、読みながらまず思ったことは、あれ、こんなに巧い作家であったかな、ということである。いや、それよりも、あまりにトーンが違うので、ひょっとしたら自分は何か勘違いをしているのであって、『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』の著者とは別の作家なのではないかと思ったほどである。この作品では主人公は女性である。それがとてもよく書けている。女性の読者がどう感じるかは分からないが、男性の読者からすれば、ひょっとして書いているのも女性なのではないかと思わせるくらいの出来だと思う。そして文章がとてもスムーズに流れて行く。本当に巧い文章というの…  全文読む 評価する

考える短歌 考える短歌
yama-a/これは短歌をやっている人だけに通じるものではない。例えばポップスの作詞をしている人なんかにも大いに役立つはずだ。
世の中にテクニカルに解決できることは意外に少なくない。挨拶するとか敬語を使うなどというのもつまらない争いを避けるためのテクニックである。それを「人として当然身につけておくべきこと」とか「先輩を敬う気持ち」などと言い始めると途端にややこしくなる。そういうことは表現という行為のなかにもある。「見たまま感じたままを表現せよ」「細部を削ぎ落して本質を描け」などと抽象的なことを言われてもどうすれば良いのか分からない。芸術というものはとかくそんな風に伝承されてきたのだが、そんな中で表現の難しさをテクニカルに解決する術を教えようとする本書は本当に良書であると思う。僕は『サラダ記念日』の頃からの俵万智ファンで…  全文読む 評価する

ゴーストハント ゴーストハント
yama-a/とかくありがちな単純なハッピーエンドに収束させないところがこの作家の力量なのかな
ずっと気になっていた小野不由美を初めて読んでみた。初めて読むのにシリーズ物の第5作とは如何なものかと我ながら思うが、買った時には気づいていなかったのだからしょうがない。で、残念ながらこれは僕が好きなタイプの小説ではなかった。ふーん、京大推理小説研究会出身ですか。その割には設定・進行ともに随分マンガっぽいね。まあ、そのあたりが僕があまり好きではない所以なのだけれど、でも、まあ、そこそこ面白かったのは事実である。多分シリーズ第1作から順序正しく読んできていたら、恐らく読んでいるうちにレギュラーのキャラがしっかり立ってきて、随分楽しみ方も深くなったのではないかと思う。多分毎回そういう構成なのだろうと…  全文読む 評価する

明日のコミュニケーション 明日のコミュニケーション
yama-a/僕らはもう買う前に読んでいるのである
さとなおさんの『明日の広告』に続く本である。よく売れているらしい。この手の本としては初版が25,000部というところからして破格なのに、発売10日ほどでもう増刷が決まったと言う。しかし、そんなことは当たり前なのである。何故なら僕らはもう買う前に読んでいるのだから。僕らは日々 www.さとなお.com で彼の言説と日常に触れ、さまざまなソーシャル・メディアを通じて彼の感じ方を知り考えを学んでいる。僕の場合は twitter や facebook での交流もあり、たまに直メールでのやりとりもあり、講演を聞かせていただいたことも何度かあり、もっと言えば短い時間だが直接お会いして言葉を交わしたこともあ…  全文読む 評価する

ばらばら死体の夜 ばらばら死体の夜
yama-a/物語のほうからこの作家にとって一番得意な領域に入ってきたような気がする。
読み終わって最初に思ったのは、巧いな、ということだった。前から巧かったのかそれとも巧くなったのかは判らない。ただ、少なくとも僕が1冊だけ読んだ『赤朽葉家の伝説』ではこんな巧さは感じられなかったように思う。あれだけ長いスパンの物語になると、どうしても筆が先走りして描写が荒っぽくなっていた印象が強い。今回は、言わば何代にも亘る壮大なサーガを描きたいという野心からから解き放たれて、ほぼ人間の一生に相当するくらいの長さに絞り切れたことによって、そしてこのテーマを選んだことによって、物語のほうからこの作家にとって一番得意な領域に入ってきたような気がする。さて、この小説では冒頭で殺人が描かれる。しかし、最…  全文読む 評価する

歌謡曲名曲名盤ガイド 歌謡曲名曲名盤ガイド
yama-a/マニア垂涎!研究者必携!
知っていたらもっと早く買っていたのですが、出ていることを知らなかったので慌てて買いました。絶版にならないうちに気づいて良かったです。このシリーズ、僕が買ったのはこれが3冊目です。『Hotwax presents 歌謡曲 名曲名盤ガイド 作曲家編 1970s』(これについては書評も投稿して掲載して頂きました)と『1980s』を持っています。『1960s』は時代的に少し面白みに欠けるので買いませんでした。ちなみにこの3冊はすでに一般の書店では手に入らないようです。言わずと知れた、歌謡曲研究者の第一人者・高護先生の編著です。まだ冒頭数ページしか読んでないのですが、いやあ、予想した通りの宝物みたいな本…  全文読む 評価する

もてなしごはんのネタ帖 もてなしごはんのネタ帖
yama-a/よう~し、次はこんな風にもてなしてみるぞ!」という気にさせてくれる。
知人の料理研究家・山脇りこさんの初めての本(電子出版は除く)である。まず、何が素晴らしいって、写真がきれい!──なんて書くと、りこさん、ちょっとがっくりするかもしれない。そう、見た目がきれいでも食べたら大したことない料理って世の中に意外に多いもので、そういうことを考えると、写真ではなくレシピを褒めるべきなのだろう。しかし、入り口としてはこれはとても大事なことなのである。写真がきれいだとまず美味しそうに見えるという利点がある。そして、もうひとつのメリットは作ってみたい気になるということである。本は残念ながら直接食べられないので、本当に美味しいかどうかをすぐに確かめることはできない。そうなると勝負…  全文読む 評価する

恋文の技術 恋文の技術
yama-a/最後に来て初めて、あ、やっぱりこの作家は巧いのだと気づかされるのである。
本屋で見つけて何となく惹かれて買った。文庫が出てから読むのは最近の僕としては珍しいことである。書簡小説の形を採り、恋愛の指南書のように見せかけて、実はいつも通りイカキョーの情けない青春をペーソスたっぷりに描いた小説である。特に何人かの登場人物の書簡を、交互に時系列に並べるのではなく、人ごとにまとめる構成にしたのもアイデアである。そういう意味では非常に森見登美彦的な作品でもあり、いつもの森見を超えた小説でもある。ただ些か遊びすぎの感がなきにしもあらず、なのである。いや、遊ぶのはいつものことで、いくら遊んだって構わないのだが、しかし今回はそれが少し上滑りしてはいないかい?という感じ。面白い読み物に…  全文読む 評価する

東京バンドワゴン 東京バンドワゴン
yama-a/1970年代のテレビのホームドラマのような、少し嘘っぽさを隠すこともなく、人物造形にもやや作り物感があり、しかし、ちょっと小粋なプロットで畳み掛けてくる、楽しい、面白い物語
 そもそもは青山真治監督の映画『東京公園』を観たのがきっかけだった。好きな監督だし、この作品も見事な出来であった。そして、僕はその原作者である小路幸也という小説家を全く知らなかったのだが、そのパンフに、「そもそも小説『東京公園』は担当編集者の『小路さんの<何も起こらない物語>が読みたい』というリクエストから始まりました」と書いてあったのに強く惹かれたのである。 いや、別に何も起こらない話が好きなのではない(嫌いではないが)。ただ、何も起こらないのに面白いということは、書いている作家が突出した文章力、表現力の持ち主であるという証明である。映画がこれだけ面白いのだから、小説もきっと面白いのだろう。…  全文読む 評価する

絶滅寸前季語辞典 絶滅寸前季語辞典
yama-a/おいおい季語がそんなに長くてどうする?おまけになんでそれが日本の短詩の季語なのか解らん?みたいなものも結構ある。
 本屋で衝動買いした本。いや、僕に俳句の心得なんてない。ただ、嫌いではないのも事実。自己流で時々は一句ひねってみたりすることもないではない。しかし、俳句にのめりこむようなことは一度もなかったし、夏井いつきという人が何者なのかも知らなかった。そして、この本が10年前に出た本の文庫化であることも全く知らなかった。 ただ、生来の「言葉好き」に対して、何か訴えかけてくる、いや、微笑みかけてくるものがあった。本屋の書棚から「ねえ、買って」と秋波を送られているような気がした。 で、「絶滅寸前季語」というタイトルに嘘偽りはなく、まあ、ほんとにこれでもかというくらい知らない言葉が出てくる。二十四節気とか七十二…  全文読む 評価する

プリンセス・トヨトミ プリンセス・トヨトミ
yama-a/読み終わったらちょっと空堀商店街とやらを歩いてみとうなる。
 映画を見ようと思ったのだが、原作を先に読んだほうが良いと強く勧められて文庫本を買った。今までに読んだ万城目学は『鴨川ホルモー』1冊だけである。京大卒の京都の人だと思っていたが、生まれ育ちはこの小説の舞台である大阪城周辺で、大阪城にはひとかたならぬ思い入れを持っている人なのだそうである。 全然本を読んでいない人でも、映画の印象的な予告編で大体の内容は知っているのではないだろうか。 会計検査院から3人の調査官が大阪にやってくる。そこで大阪国なる国があることが判り、大阪国大統領である真田幸一の号令一下大阪国民が立ち上がる──なんのことだかわからんが、多くの人が映画の予告編から仕入れたあらすじは、ま…  全文読む 評価する

青春の門 青春の門
yama-a/あの頃読んで胸を熱くした思いが次第に次第に甦ってくる。
 ともかく何年ぶりだろう。第1部<筑豊篇>の連載が始まったのが1969年らしいが、僕らはそれがまず単行本で出て、それから文庫本になって初めて読み、次の編が文庫本になったらまた買い、というのを繰り返していた。<筑豊篇><自立篇><放浪篇>の3部を読んだのが多分1970年代の半ば、そのあと<堕落篇><望郷篇>と続き、最後の<再起篇>を読んだのは恐らく30年近く前だろうと思う。 だから、今さら、と言うか、漸くこの第7部が文庫で発売されているのを見つけて小躍りしながら買ったものの、実はもうほとんど憶えていないのである。信介は一体今どこにいたのか、織江はどこで何をしていたのか、そして他にはどんな登場人物…  全文読む 評価する

日本辺境論 日本辺境論
yama-a/言い得て妙の日本人論
 話題になった本である。帯によると「新書大賞2010」第1位になった本である(そんな賞があることを初めて知ったが)。そして「養老孟司さん絶賛」とあるが、読んでみると著者である内田樹が自ら「これは養老孟司さんからの受け売りです」と何度か書いているところがあり、なるほど、そりゃそうだろうと笑えてくる。例によってインチキ臭くて正しい内田樹の名文である(こんな書き方するとこの書評の評価は下がってしまうんでしょうけどw)。 内田樹の面白さはひっくり返したものの見方である。もっとも内田樹にしてみれば従来の見方のほうがひっくり返っているのだろうが…。それを「あんたたち、逆立ちしてるよ」と指摘してくれる町のご…  全文読む 評価する

オジいサン オジいサン
yama-a/全然面白くないお話がなんでこんなに面白いのかとおかしくなってくる
 これは変な本に手を出してしまった。僕は時代小説をあまり好まないこともあって、京極夏彦の小説を読むのはこれが初めてなのである(京極原作のドラマや映画は何本か観ているが…)。で、初めて読む京極作品がこの小説とは、我ながら「それは違うだろ」という気がする。 江戸時代の話でもなければ怪談でもないし、妖怪も出てこないどころか、出てくるのはほとんど爺さんひとりで、しかも何も起こらないのである。全編を通じて年寄りの繰り言が延々と続く。いや、繰り言ではないかな、世迷い言と言ったほうがぴったり来るか。 いずれにしてもこれは「そんなもん読んでどうする?」と自分で自分にツッコミを入れたくなるような小説である。しか…  全文読む 評価する

八日目の蟬 八日目の蟬
yama-a/「交換可能性」のドラマから「繰り返す」ドラマへ
 角田光代の作品では直木賞受賞作の『対岸の彼女』を読んだ。凝った作りのとても面白い小説だった。にも関わらず、どこか僕好みの範疇に入って来ないところがあって、『情熱大陸』のHP上で展開されたいくつかの短編を除けば、その後1作も読んでいない。 この『対岸の彼女』は WOWOW でドラマ化された。これを観たのも原作が好きだったからではなく、出演者のひとりである多部未華子が見たかったからだ。平山秀幸が監督を務めていて、これまた非常に出来が良かった。 そして、今度は映画『八日目の蝉』の予告編が始まった。これまた好きな永作博美が出ているので観たいと思った。そして、本屋で見て久しぶりに読んでみようか、映画の…  全文読む 評価する

ロングエンゲージメント ロングエンゲージメント
yama-a/広告は変わりつつある。そして広告の担い手も変わりつつある。
 さとなおさんこと佐藤尚之氏が率いるサトナオ・オープン・ラボのメンバーである京井良彦さんによる最新のマーケティング論、いやむしろ脱マーケティング論というべきものの入門書である。しかし、なんでまた「大手広告会社 アカウント・スーパーバイザー」などと社名をぼかしてあるのか不思議である。 で、当然のことながらこれは AIDMA → AISAS → SIPS という、例の大手広告会社の人たち(笑)が書いてきた流れの中に収まる話である。位置的に言っても時系列的に言っても AISAS から離れて SIPS に至るまでのどこかの地点にある書物だと思えば良い。 さて、この本の良いところは何よりも簡単で解りやす…  全文読む 評価する

歌謡曲 歌謡曲
yama-a/断っておくが、これは歌謡曲というジャンルの歌謡曲マニアによる歌謡曲マニアのための分析であり指南書である。
 敬愛して已まない高護(こうまもる)先生による戦後昭和歌謡史である。 高氏は1954年生まれで現在は(株)ウルトラ・ヴァイヴの代表取締役。プロデューサとしてサエキけんぞうや小島麻由美らを手がけ、マニア垂涎の幻の名盤『ソリッドレコード夢のアルバム』を送り出したのもこの人である。しかし、高氏の真骨頂は何と言っても歌謡曲の収集・分析・評論であり、この世界で彼の右に出る者はないと言って良いのではなかろうか。『歌謡曲名曲名盤ガイド』シリーズのような、国宝級のムック本を出したりもしている。 その高氏が物した戦後/昭和歌謡史が本書である。1960年からの30年間を一挙に捉えている。 一見ヒット曲の分析の羅列…  全文読む 評価する

水死 水死
yama-a/結局僕が変わったのか大江健三郎が変わったのか解らない。
 他の人はどうなのか知らないが、軽い本が何冊か続くと、僕は時々途轍もなく重い本を読みたくなる。そんな時に手に取るのが例えば大江健三郎だ。 おしなべて重い。そして難渋する。そもそも重いものを求めて読んでいるのだからそれで良いのだが、それにしても重苦しい。引用される文言や背景にある思想が、僕にとっては馴染みがなく、そしてものすごく高尚で難しい。だから読むのがとてもしんどい。 ──それが僕がこれまでに知っていた大江健三郎像である。ところが、この本は違うのである。もちろん軽くはない。しかし、それほど重くもない。そして、何よりもすらすらと読める。こんなに読み易い大江健三郎は初めてである。一体いつの間に大…  全文読む 評価する

プロトコル プロトコル
yama-a/是非とも『有村ちさとによると世界は』と合せて読んでほしい。
 『有村ちさとによると世界は』を読んで大いに感銘を受けたので、その「本篇」にあたるこの長編に手を出してみた。両者を比較したときの偽らざる感想を書けば、『有村ちさとによると世界は』のほうが遥かに素晴らしい。『有村ちさとによると世界は』がまさに馥郁たる文学作品であるのに対して、こちらは単に「とても面白いライト・ノベル」である。こちらを先に読んでいたら、僕は『有村ちさとによると世界は』を読まなかったかもしれない。 別に「文学作品」のほうが「ライト・ノベル」より偉いなどという論を展開したいわけではない。ただ、僕が究極的に読みたいのは前者であるという、言わば趣味・嗜好の問題である。 ここで扱われているの…  全文読む 評価する

数学の秘密の本棚 数学の秘密の本棚
yama-a/面白いな、と思って、でもすぐまた忘れてしまって、そしたらまた読み返せば良い。これはそういう読み物である。
 数学書である。と言うより、数学パズル、クイズの宝庫である。帯には「この本棚には、数学のスリルと驚きがいっぱい詰まっている!!」と書いてある。中学で習うピタゴラスの定理が載っているかと思えば350年かかってやっと証明されたフェルマーの最終定理も載っている。4色あればどんな地図でも塗り分けられるという四色定理や、『博士の愛した数式』でも取り上げられたオイラーの公式に触れているかと思えば、合コンの席でやったら受けそうなパズルや手品まで披露されている。 帯には続けて「どこから読んでも面白い、最高の数学書」と書いてある。しかし、このどこから読んでも面白いというのが、この本の唯一の弱点であるとも言える。…  全文読む 評価する

Facebook世界を征するソーシャルプラットフォーム Facebook世界を征するソーシャルプラットフォーム
yama-a/今はやりの Facebook の解説本などではなく、人間とメディアの未来を語った本である。
 「在京テレビ局」に勤務する山脇伸介君の初めての著書である。よく知っている人なので忌憚のないところを書くと、「この人こんなにしっかりした人だったっけ?」というのが第一印象である。「ぶうぶの中の人」として、普段は思いっきりお茶目な持ち味を前面に押し出している人物である。無論留学してメディア関係の勉強をしていたことも知っているし、話していると結構熱いものを持っている人であることも分かる。しかし、こんなにまっとうな分析と提言に満ち溢れた本を書くとは思わなかった。これは今はやりの Facebook の解説本などではない。これは人間とメディアの未来を語った本なのである。 もちろん Facebook の入…  全文読む 評価する

日本語語感の辞典 日本語語感の辞典
yama-a/引くのではなく読んでみよう(もちろん引いても良いけど)
 収録語数は約1万語──国語の辞書としては如何にも貧弱である。にも拘わらず僕がこれを買い入れたのは、この辞書を引こうと思ったからではなく、これを読もうと思ったからである。直感的に、これは読んで面白い本だろうという気がしたからである。 言葉というものは、ひたすら実用を追い求めていると実はあまり身につかないものである。必要なときに必要な意味を確かめるのではなく、ただ何の必要もなくそぞろ読むのが多分この本の正しい使い方なのではないかと思ったのである。 果たして現物が届いて座右に置いてみると、思ったよりも引き甲斐のある辞書ではないか。考えて見ればそりゃそうである。一口に1万語と言ってしまうと少ないよう…  全文読む 評価する

原稿零枚日記 原稿零枚日記
yama-a/まるで作家の脳内に入り込んで、作家の見る夢を横から覗いているような小説
 連作短編である。いくつもの話が書かれているが主人公は同じであり、時系列的に繋がっている。それが「日記」と名付けられた所以である。ただし、日記と言っても毎日記されているのではない。冒頭の「九月のある日(金)」から始まって、その後ずっと同じパタンが続く。時々「次の日(○)」という短い後日談が挟まれる。 主人公は作家である。既に名をなした作家ではない。何かを物しようとしてまだろくに書けずにいるので、正確には作家の卵と言うべきなのかもしれない。では、彼女は何で生計を立てているかと言えば、「あらすじ」である。他人の書いた文章をあらすじにまとめたり、そのあらすじを他人に読んで聞かせたりするという、まこと…  全文読む 評価する

街場のメディア論 街場のメディア論
yama-a/外側の人間が外側から書くからこそ見えてくる大きなものがある
 僕が初めて内田樹を読んだのはいつのことだったか。そして、あれから彼の著作を何作読んだことか。 あの頃の彼はまだ一部の読書家が密かに愛好するちょっと変わった物書きにすぎなかった。そして当時彼は自分が如何に貧乏な学者かということを、いや、実際には食うや食わずということでもなかったんだろうけれど、本を書いて手に入れたお金なんてちょっと本を買ったらすぐになくなってしまうということを切々と書き綴っていた記憶がある。 その彼が、ここのところ出す本出す本が悉く評判になり売れるようになって、今はどういう気持ちで書いているのかなと、僕なんぞはついついお節介なことを考えたりするのである。特に今回は、彼個別のケー…  全文読む 評価する

有村ちさとによると世界は 有村ちさとによると世界は
yama-a/そういう作家なら信頼できる──そう閃いてレジに直行し、そしてすっかりファンになってしまった。
 本屋で手に取るまでは全然知らない作家の聞いたこともない小説だった。ただ、このタイトルである。 これは誰が読んでもジョン・アーヴィングの『ガープの世界』(The World According To Garp)を踏まえているのは明らかではないか(もっともアーヴィングを知らない人がそう思う訳もないが)。そういう作家なら信頼できる──そう閃いてレジに直行した。 読んでみたら果たしてなんと達者な書き手であることか。なんと豊かな表現力であることか。すっかりファンになってしまった。 タイトル通り有村ちさとを語り手とする短編連作である。4つのパートには「章」という言葉を宛てずに「ハイパー・プロトコル Ve…  全文読む 評価する

未来型サバイバル音楽論 未来型サバイバル音楽論
yama-a/音楽にとってこれからはいい時代になる
 これは却々の良書である。音楽ビジネスの歴史書としても、現状分析としても、そしてその打開策の提言としても──。何故なら、そういうことがちゃんと解っていて、できる人が書いているからである。 津田大介氏と言えば今や twitter を代表する人物というイメージが強いが、この人は元々音楽系のライターであり、そこから著作権やIT関連にフィールドを広げて行った人である。単なるリスナーとして積み重ねた経験に物書きとしての知見を重ね、音楽については依然として深い造詣を保持している。いや、と言うよりも、この本を読んで改めて「ああ、この人は音楽にこんなに詳しい人だったのか」と気づかされるのである。 そして、牧村…  全文読む 評価する

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