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天地明察 天地明察
はな/天の理と、人のあたたかさ
骨の髄まで文系人間の私は、冒頭付近にある図形で本を閉じそうになったのですが、耐えて読んでよかった。江戸時代初期。不明なことが多い分、今よりもずっと学問が、人の生きる社会に寄り添っていた時代でしょう。日常のあらゆるところに転がっている問いを解き明かすことは、世を照らしていくことであった。そんな中、天を相手取ってその大きな謎を解き明かそうとした強く優しい人たちの物語です。天地明察。なんと美しくすがすがしく大きな言葉でしょう。天と地の間に生きる私たち。常に迷い惑い苦しみ、とても「明察」などとは言えない生を送っています。それは、春海の生きる400年前も、私の生きる今も同じ。たくましく明るく希望を持って…  全文読む 評価する

鷺と雪 鷺と雪
はな/雪と祈り
 昭和初期の物語というのは、どこか重い。どれほど華やかで明るい物語だったとしても、どこかに暗く重い影を感じさせる。それは現代を生きる私たちが、その後、物語の舞台たる日本がどういう道へ進むのかを知っているからか、あるいは、その時代を生きた人たちもどこかでその影を感じていたのか。少なくともこの『鷺と雪』のヒロインである少女は、軍事とも政治とも無縁の世界に身を置きながら、世界のきしみを感じている。 北村薫の「ベッキーさんとわたし」シリーズの3作目。(どうやら完結編のようである) 英明で、切ないほどに強い心をもったベッキーさんと、その導きを受け、素直で柔らかな瞳で世界を見つめる英子嬢の物語は、まさに開…  全文読む 評価する

ロードス島戦記 ロードス島戦記
はな/原点にして、永久の島
 私にとっての読書の原点であり、ファンタジーの原点である作品。のみならず、本邦ファンタジーの礎であり、ライトノベルのメディアミックスのパイオニアである作品だと思います。  数多のメディア展開、続編や番外編が世に出されていますが、作者もあとがきで述べているように基本となるのは、このパーンとディードリットを主役とする『ロードス島戦記』全7巻でしょう。この2人は私にとっての永遠のヒーロー&ヒロインです。  純朴で、無鉄砲で、正義感が強く、やたらお人好し。少年らしい単純さで英雄を夢見て旅立ち、幾多の試練をくぐりぬける中で、真の英雄へと成長していくパーンの姿はいつ見ても胸が熱くなります。可憐で美…  全文読む 評価する

月光 月光
はな/ファンタジー作家・那州雪絵の世界の厳しさと心地よさ
 那州雪絵の代表作は、学園青春コメディの傑作『ここはグリーンウッド』である。それには異論はない。それと同時に私は那州雪絵はファンタジー作家だと思っている。『ここはグリーンウッド』の中の名編『ここは魔王の森』を持ち出すまでもなく、SFファンタジー、ホラーファンタジーの良作を多く書いている。  その那州雪絵の、唯一のファンタジー長編『月光』が待望の文庫化である。  東京から始まった物語は、主人公・藤美が異世界に引きずり込まれるのと同時にその舞台を移す。そこは光の半球と闇の半球に分かれた世界。「理の力」と呼ばれる魔力が世界を満たし、それをコントロールできる王が支配する。300年もの長きにわたり、王と…  全文読む 評価する

あなたがうまれたひ あなたがうまれたひ
はな/よろこびに満ちた日
 悲惨な事件が相次ぐ中、痛みをもってこの本を手にとり、多くの子供たちに読んで聞かせました。小さな子供たちには、イメージや実感を伴って聞くことは難しいでしょうし、絵も色彩が地味なので、食いつきのいい本ではありません。楽しんで聞いた子がどれだけいるのかわからない。それでもどうしても伝えたかった。「あなたがうまれたひ」から始まる文章のくりかえしです。その日、地球はまわり、太陽は輝き、雨は優しく降り、世界中のすべてが、その誕生を喜び祝福した。そのことをただただ伝えるそれだけの絵本。科学的な土台が説得力を生み、やわらかな文章がやさしく届きます。 どうしても子どもたちに伝えたかったこと。自分を大事に想う気…  全文読む 評価する

3びきのかわいいオオカミ 3びきのかわいいオオカミ
はな/心と心をつなぐハッピーエンド
  言わずと知れた『3匹のこぶた』のパロディである。  1ページ目では、頭にカーラーを巻いたお母さんオオカミが、マニキュアを塗りながら、可愛いオオカミたちに、家を出て生活するように話している。 3匹のオオカミは家を出て、レンガのうちをつくる。そう。いきなりレンガのうちをつくってしまうのである。そこへやってきたわるブタ(これがもう本当に人相の悪い憎々しいブタなのである)が、思いっきり吹いたくらいでは壊れないが、なんとこのブタはハンマーを持ってきてレンガの家をぶち壊してしまう。やっとの思いで逃げ出したオオカミたちが今度はコンクリートの家を作ると、これは電気ドリルを持ち出し破壊する。鉄…  全文読む 評価する

フライ,ダディ,フライ フライ,ダディ,フライ
はな/I can fly I can fly I can fly!!
オチコボレ高校生ザ・ゾンビーズと、さえない中年サラリーマンのひと夏の冒険。疾走感にあふれたさわやかな物語。10代のころ、小説や漫画や映画を見ては、すぐに影響されて、走ったり、踊ったり、歌ったり、闘ったりしてました。大人になってくると体が重くなり、頭が固くなり、すぐには動けなくなる。だけど、この作品を読んで、久々にすぐに走り出してみました。こんな年になって、小説や映画に影響されて動き出すのがちょっと恥ずかしかったんだけど、それができる自分が嬉しくもありました。そうさせてくれるだけのエネルギーがザ・ゾンビーズの面々とおっさんにはあります。人は空を飛べない。あまりにも当たり前のことです。それでも空に…  全文読む 評価する

獣の奏者 獣の奏者
はな/希望の物語
  この本が出版されてから1年近くが経ち、その間に多くの人が、私に感想を告げてくれた。中でも、顔を輝かせて、目を潤ませて、本を抱えて私のいる部屋に飛び込んできた中学生の顔は忘れられない。本を読むことの純粋な喜びを教えてくれる本だと思う。 闘蛇編、王獣編の二冊に分かれているが、話の内容は大きく三つに分かれる。母を失い村を追われた主人公エリンが蜂飼いの男に拾われ、育てられていく子ども時代、獣ノ医術師にになるための学校で学ぶ少女時代、王獣と心を通わせるという他の誰もなし得なかったことを成し遂げ、それがゆえに苦しみの中に立たされる終盤。 エリンは知ることへの欲求に取り付かれた少女だ。特に自分…  全文読む 評価する

だいじょうぶだいじょうぶ だいじょうぶだいじょうぶ
はな/世界で一番優しい呪文
  幼い男の子とおじいちゃんはいつもいっしょに散歩しています。たくさんの面白いものきれいなものを見て、おじいちゃんはいろんなことを教えてくれます。それと同時に、世のなかにはこわいものやあぶないものもたくさんあるんです。  犬がおそってきたらどうしよう。  飛行機が落ちてきたらどうしよう。  お友達となかよくできなかったらどうしよう。 そのたびにおじいちゃんはいいます 「だいじょうぶ だいじょうぶ」  今でもそうですが、子供のころは本当に周りにはこわいものが多くて、自分なんか生きていけないのではないかと不安になることがありました。今の子どもは、その思いが、ずっとずっと強いのではないかと…  全文読む 評価する

人魚姫 人魚姫
はな/いちばん美しい童話
人魚姫。  もちろん、子供のころからよく知っている話だったが、幼い自分がどういう感想を持ったのかはあまり覚えていない。かわいそうな話だとその程度の認識しかなかったろうし、子ども心に人魚姫の運命が理不尽なものに感じられていただろう。あまり好きだったとは思えない。 大人になり、人魚姫が、すべてを捨ててでも王子の側にいたいと願った想いや、自分の命と引き換えでも眠る王子を殺すことができなかった想いも、いくらかは共感できるようになり、そうするといっそう人魚姫の結末が哀れで、改めて読み返す気にはならなかった。 そこで出会ったのがこの本だ。 ページを開くとそこに青い海があった。布と糸とビーズで織り上げられた…  全文読む 評価する

天と地の守り人 天と地の守り人
はな/ありがとう愛しい人へ
 『精霊の守り人』を手にとり、初めてバルサとチャグムと出会ったのはもう10年近く前のことです。「おれのことチャグムってよんで。さようならチャグムっていって」弱く懸命だった幼いチャグムと、癒しきれぬ傷を抱いたままチャグムを慈しみ命がけで守ったバルサとの別れのシーンが心に焼きついて消えなくて、それからずっとこの2人を見つめてきました。 守り人シリーズの完結です。 作中でも時は流れ、チャグムはもう幼い子供ではない。それでもそのまっすぐさ、ひたむきさ、優しさは変わりません。国と国のぶつかりあい。この世界サグと異世界ナユグのかかわりから生まれる大災害。その混乱を誰も傷つかず傷つけずに越えたいと、それがど…  全文読む 評価する

ベルカ、吠えないのか? ベルカ、吠えないのか?
はな/「血」と本能
 面白かった。というと私の感想を一言で言い表していない気がする。  すごかった。  第二次世界大戦中の1943年から、冷戦終了の90年代初頭までを描いた物語。軸となるのは徹底して「イヌ」たちである。人間でも世代が移り変わる数十年、当然イヌたちは何代も何代も世代が移っていき、その「血」は世界中に散らばっていく。歴史に記されることはない、けれど確かな足跡を残しながら。  人間の政治、戦争、歴史に弄ばれるようでいて、その実、イヌたちはそれぞれの場所で確固としたアイデンティティを築いている。その様子が丹念に描かれる。  正直に言って、背景となる現代史も、イヌたちの系図も、正確にはほとんど理解できていな…  全文読む 評価する

三四郎はそれから門を出た 三四郎はそれから門を出た
はな/「過剰な自意識」もここまでくれば
 最初に言ってしまうと、私は三浦しをんがあまり好きではありません。何作か読み、どれも面白かったにもかかわらず、です。理由を一言で言ってしまうと、おそらく「過剰な自意識」が鼻につくのです。年も近く同じ女である、同属嫌悪もあるかと思うのですがとにかく。しかしこの本はおもしろかった!どうせ過剰な自意識ならここまでやってしまえ!といった感じ。何よりも本人がそれをよくわかっているというのがおもしろかった。文中にもあります。「問題は『過剰な自意識』だ」と。そこまでわかってるなら、「過剰」を「適当」にすればいいと思うのだけど、彼女はそれができない。なぜなら「思春期」だから。 そんなわけで、20代後半になって…  全文読む 評価する

ハチミツとクローバー ハチミツとクローバー
はな/静かで穏やかな2人のラストシーン
 完結し、読み返してみて思ったことは、私にとってこの物語は、竹本とはぐみの物語だったのだということ。 作中竹本は何度も壁にぶつかりますが、それはどちらかというと「自分探し」につながる自身との葛藤。この物語のメインテーマ(?)である恋愛に関して見れば、主人公の竹本は実に地味です。ただ、静かに穏やかにまっすぐはぐみを思い続け、思いを告げ、それでも何ひとつ起こらない。 はぐみはその想いを感じ続け、けっして応えることはできないけれど、ほとんど無自覚にけれど誠実に受けとめ続ける。 その静かな関係こそが、『ハチミツとクローバー』の芯に存在し、個性的な登場人物たちの個性的かつ強烈な恋愛の中にあって光を放って…  全文読む 評価する

ラヴァーズ・キス ラヴァーズ・キス
はな/大好きだよ、のキス
「BANANA FISH」や「YASHA」とは赴きを殊にした吉田秋生珠玉のラブストーリー。 場所は鎌倉。 湘南の高校生たちを中心に、時期を同じくした三つの物語がオムニバス形式で語られる。1話目「Boy Meets Girl」 日頃、男から男へと渡り歩いている里伽子は、ある朝、海岸でサーフィンをしていた男と出会う。同じ高校のその男藤井朋章は、女がらみで悪い噂の堪えない「ろくでなし」。 恋愛感情が生まれるはずもなかった二人だが、里伽子はなぜか藤井に惹かれていく。2話目「Boy Meets Boy」 鷺沢(男)は先輩である藤井に憧れていて、藤井と急接近していく里伽子に嫉妬心を抱く。鷺沢の後輩の緒方も…  全文読む 評価する

オシムの言葉 オシムの言葉
はな/オシムはなぜあんなにもサッカーと人を愛しているのか
この本の紹介がしたいと、ずいぶん長いこと文章を考えてきましたが結局まとまりません どんな言葉を連ねたところで”オシムの言葉”には絶対にかなわないのですから。 イビツァ・オシム。 日本サッカー史におそらくは長く名前を残すであろう人物。 この本は、オシムの、政治と戦争に翻弄された半生と、JEF UNITED市原・千葉の監督として日本に来てから成し遂げたことを綴った伝記であると同時に、著者の『誇り』『悪者見参』に続く、ユーゴスラビアサッカー三部作の最後を飾る作品です。 オシムがJEF UNITED市原・千葉の監督になってまもなくして、インタビューや記者会見でのオシムの発言が注目されるようになりました…  全文読む 評価する

夕凪の街 桜の国 夕凪の街 桜の国
はな/この国で生きるということ
 昭和20年、原爆が落とされたときから、広島は「ヒロシマ」となり、世界でただひとつの街になりました。その街には、それでも普通に生きる人々がいて、彼らは悲劇を日常とともに背負って、生きて、苦しみ、死んでいきます。  「夕凪の街」は原爆投下から十年後の広島が舞台。被爆した女性がひっそりと命を終えるまでが描かれています。わずか35ページの物語。読み終わった時、しばらくの間、ページを閉じることができませんでした。  「桜の国」はその数十年後。もう誰もが原爆のことなど忘れたかのような世界で、それでも残る傷をこれも静かに描いています。  ヒロシマには二度行ったことがあります。二度とも、平和祈念式典に参加し…  全文読む 評価する

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