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海炭市叙景 海炭市叙景
けんいち/生きること・生きる力
すでに、映画・原作ともに話題になっており、世評も高いので改めていうこともないという気もするのですけれど、これは文句なしに双方ともに傑作です。今日のコマーシャリズムをものともせず、海炭市という架空の町で精一杯生きる人々を見つめ、温かく見守り、その「生」を力強く肯定する。これは、苦境にあって生きる、過去・現在の人々への、力強いエールである。飾らない文体、行き詰まるような切迫感、人生の哀歓、それらにすべてが、作品に凝縮されている。もちろん、今に言う「負け組」の群像を描いた作品であり、決してシンプルに楽しいといえるものではない。それでも、ここには、生きること・生きる力を与えてくれる、人間への信頼がある…  全文読む 評価する

岸田國士の世界 岸田國士の世界
けんいち/日本近代演劇のパイオニア
岸田國士さんは、とても偉い人である。なんといっても、その名前が、岸田國士戯曲賞として残っている。もちろん、それは、ネームバリューだけの話ではない。岸田さんは、日本近代/日本近代演劇が生んだ、コスモポリタンである。だから、ヨーロッパの演劇を勉強した。そして、ヨーロッパの演劇のような、戯曲も書いた。それ以外にも、演劇のため、國のため、いろいろとご努力・ご苦労なさった。もちろん、演劇(界)への貢献は計り知れない。演劇というジャンルの広報/宣伝。劇団というもののありかたへの思索と実践。そして、何より、近代演劇の言葉をつくった。それにともなって、近代演劇の、新たな領域を開拓した。しかもそれは、単に当時新…  全文読む 評価する

鹿男あをによし 鹿男あをによし
けんいち/ユニークな痛快さ
すでに、玉木宏のTVドラマを見た人も多いと思うのだけれど、そして私もそうした組なのだけれど、ともかくもこれは小説として読むことをおすすめします。小説として、とてもよく書けているし、何と言っても、ユニークさにおいては、今日、他の追随を許さない。いわゆるミステリー仕立てといえばそうなのだけれど、そしてそこに奈良の歴史に関わる、マニア好みの細部が盛り込まれては行くのだけれど、主人公にとってそうであるように、あるいはそれ以上に、予想もしなかったことが、この小説では次々と起こる。そして、そのユニーク過ぎるアイディアの数々が、マキメ氏の文体によって、いかにリアルに見えることか。もはや、驚くしかない。今や、…  全文読む 評価する

村上春樹『1Q84』をどう読むか 村上春樹『1Q84』をどう読むか
けんいち/格好の入門書にして深い読解への手がかり
昨2009年は、村上春樹『1Q84』に沸いた1年だったと言っていいだろう。それは、狭義の読書界にとどまらず、もはや社会現象とまで呼ぶべきスケールで展開された。すでに第三巻の予約も始まっており、まだまだ村上春樹『1Q84』旋風はおさまることなく続いていきそうである。もちろん、そこには、世界的に話題になったエルサレム賞受賞や、品切れが続出するという販売戦略(?)もあったはずだけれど、やはりここまで『1Q84』が売れ、騒がれ、読まれ、語られているということの根因は、小説それ自体の「力」によるものだといえよう。エンターテイメントとして面白いばかりでなく、様々な歴史・宗教・サブカルチャーが取り込まれつつ…  全文読む 評価する

決壊 決壊
けんいち/戦慄の現代文学
本作は、とある、ごく非人道的な殺人事件を扱った小説であるが、その私リアリティ、迫力に圧倒される、素晴らしい文章で書かれた傑作である。だから、戦慄するのはそのストーリーばかりでなく、こうしたすぐれた文学作品が現代に書かれること自体にも戦慄せざるをえない。ともかくも、まずは細部がたいへんリアルに書き込まれている。文体それ自体は「重い」といっていいようなものなのだけれど、視点を軽やかに変えながら、すぐれて多面的に登場人物/この社会を描き出しており、もはや現実世界の出来事のように思われてくる。それでも本書は、やはり「文学」なのであり、それゆえのフィクションやデフォルメがなされつつ、それでも絵空事のよう…  全文読む 評価する

心と響き合う読書案内 心と響き合う読書案内
けんいち/小説家の読み方
小川洋子さんは、もはや押しも押されもせぬ「人気・現役・女性・作家」である。小説を書く人、しかもすぐれた作品を書いて、多くの読者に読まれるような小説家とは、逆にどのように小説を読んでいるのか、というのは、一読者にとっては興味深いポイントである。その意味で、本書は、小川洋子さんの小説の読み方を、包み隠すことなく示したハンディな本として、まずは興味深い。もちろん、これまでにも、エッセイの中でそうした片鱗を示してはきた小川洋子さんであるけれど、これほど、多くの小説を、その読み方とともに示した小説はなかったのではないか。しかも、すぐれた小説家として当然といえばそうなのですが、読書案内でもある本書の文章が…  全文読む 評価する

妖精が舞い下りる夜 妖精が舞い下りる夜
けんいち/やわらかな作戦
作家の多くは、小説以外の文章も書く。それが、エッセイの人もいれば、いわゆる批評めいたことを書く人もいる。あるいは、小説だけの人もいるかもしれない。小川洋子さんは、最近でこそちくまプリマー新書のようなものにもお書きになっているが、初期作品からまばらに読み続けてきた読者としては、「小説とエッセイを書く人」というような印象が強かった。それが、本章のようなものも書くと知って、驚きもし、また納得もした。というのも、厳密に言えば、本書は小川文学の方法論についての理論書に他ならないからだ。もちろん、全編そうだというのではないし、難いことが堅苦しく書かれているのではない。それでも、そうしたタイプの文章には違い…  全文読む 評価する

未完の小島信夫 未完の小島信夫
けんいち/「未完」という名の可能性
小島信夫をめぐる、エッセイ・対談・批評によって構成された本書は、小島信夫という主題に向けて、編著者の千石英世/中村邦生が投げかけた、読み/思考の混成体そのもので、おそらくは良い意味で「未完」であり、その様態は混沌としている。もちろん、きっちり証拠を出しながら論理が進められていく議論がないわけではない。しかし、小島信夫に魅せられた2人のこと、さらには「話し言葉」の部分が多いこともあいまって、ともすれば散漫な印象すら与えかねない言葉が、饒舌に書き綴られているのが本書だが、そおらくはそこにこそ、本書の/小島信夫の「未完」を解き拓く鍵があるはずだ。理詰めで考えられるなら、小島信夫の小説など、不要である…  全文読む 評価する

太宰治『人間失格』を読み直す 太宰治『人間失格』を読み直す
けんいち/太宰治『人間失格』(再)入門のために!
生誕100年を迎えたという太宰治が話題を集めている。中でも、代表的長篇小説『人間失格』への注目はここ数年つづいており、ついには生田斗真主演で映画にまでなるという。本書は、そんな「太宰治『人間失格』を読み直す」ための、いわば恰好の(再)入門書である。聞いたことはあるもののしっかり読んだことのない人も、読んだことはあるものの好きになれなかった人も、あるいはよく読み込んでいる人も、さまざまな角度から『人間失格』に関する情報・批評が繰り広げられる本書から、大きなヒントを受けるはずだ。「序章『人間失格』をめぐる太宰治の現在」では、奥野健男/綿矢りさら、新/旧の愛読者の発言などをとりあげ分析することで、近…  全文読む 評価する

和本の海へ 和本の海へ
けんいち/「海」へ
「和本」は、著者がていねいに説明するように、明治になるまで日本で蓄積されたあらゆるジャンルの「知」を集積してきたメディアである。それは、単に古いものというだけではなく、今やわれわれから遥か遠ざかってしまっており、そのことを著者も嘆いている。そのポイントを、著者は「和本リテラシー」と呼んでいる。要するに、昔の人が、筆で書いた文字を読めるかどうか、ということである。その力が、今やなくなってしまっただけでなく、そのことが惜しいとすら思われなくなってしまったという。具体的にいえば、確かに「字」を読めるかどうか「だけ」なのだけれど、それは正確ではない。その「字」を書き/読む、ということは、明治以前の「知…  全文読む 評価する

舞い落ちる村 舞い落ちる村
けんいち/村上春樹『1Q84』内の小説?
結論から言ってしまう。本作は、村上春樹の最新作『1Q84』にでてくる、「ふかえり」の書く小説内小説に、似ている、と思う。谷崎由依さんの小説は、評価はもちろん、興味すらわれる作品ではあると思う。それでも、言語への深い洞察から紡ぎ出される、舌足らずなようでして、確かなリアリティをもった描写/世界観は、じつにすぐれたものであるし、小説家としての確かな実力を感じさせもする。だから、もちろん、村上春樹云々を知らずにも読めるし、それで十分読書の味わいを感じることはできる。ただ、村上春樹の小説を読んで、関連CDまで売れているという現在、他ジャンルに行く前に、すぐれた同時代作家のすぐれた小説にふれてみるのも悪…  全文読む 評価する

中国という世界 中国という世界
けんいち/知りたかったこと
ポストコロニアリズムをうけて、東アジアへの関心は今なお高い。本書も、そうした流れをうけての企画・出版だったのかもしれないが、残念ながら、そうしたアクチュアルな問題・関心は伝わってこなかった。とはいえ、タイトル・サブタイトル通りのことはかかれているので、こちらが勝手に期待し、勝手に裏切られたと言うだけかもしれない。それでももちろん、中国に関して、ちょっと変わったアプローチからいろんなことがわかるのは確かである。逆に、この本を読んで、読み手である私が、中国についてどのようなことを知りたかったのか、自分の興味を照らし出されるようで、面白かった。  全文読む 評価する

1Q84 1Q84
けんいち/混沌とした現代社会の闇と救い
村上春樹、待望の新作は『ノルウェイの森』を彷彿とさせる1980年代を舞台とした小説なのだけれど、それは単なるノスタルジックな物語というわけではない。これまでの、村上春樹のキャリア(作品)と社会的関心を十全に活かし、それでいて小説としてよく練り上げられた傑作と呼ぶにふさわしい。入り組んだストーリー/世界(観)をもった本作前半に関しては、いくつかのキーワードをあげることができる。モチーフとしては暴力や性といったこれまでも繰り返されてきたものに加え、宗教といったもがせり出してきたが、特に前半で注目されるのは、「小説」それ自体であるだろう。この作品の中では、「物語」と「小説」がていねいに腑分けされなが…  全文読む 評価する

昭和十年前後の太宰治 昭和十年前後の太宰治
けんいち/太宰治、デビュー
本書は、生誕100周年を迎えた太宰治に関する研究書なのである。生誕100年というのだから、それは太宰治(本名は津島修治)という人が生まれてから100年がたったということで、逆にいえば、「太宰治という作家」が生まれてからはまだ100年たっていない。本書がクローズアップするのは、「太宰治という作家」が生まれたころのことである。「こと」と漠然といったのは、そのころの太宰治の人生や思想、あるいは作品について論じられてはいるものの、それだけではないからなのである。わかりやすく、作品からいえば「太宰治という作家」が生まれたころ発表された小説は、『晩年』(「思ひ出」「道化の華」etc)や『虚構の彷徨』(「二…  全文読む 評価する

告白 告白
けんいち/語り切る才能、読み進む快楽
文句なしの傑作である。何がかといえば、読ませる。引き込むように読ませる。まず、冒頭がいい。余計なお喋りのように語り出した話者は、気づけばこの上なく残酷な加虐/被虐を語り出している。もう、一読者の力では逃れられない。場面が展開し、話者が変わっても、この緊張感は作品のトーンとして最後までつづいていく。また、結末が素晴らしい。「素晴らしい」という賛辞が不謹慎に感じられる程度にはスリリングで後味悪くもあるのだが、その印象の強さはやはり波の筆致ではない。冒頭と同じ話者が語り終える最後のページをめくると、もはや何も考えられない。しばしは、その圧倒的な物語世界、その語りに眩暈さえしそうなくらいだ。──これを…  全文読む 評価する

窓の灯 窓の灯
けんいち/そして人は大人になる
『ひとり日和』で、ゆったりとした、「自己」の再確認/再スタートを描いて芥川賞を射止めた青山七恵さんは、そのデビュー作にもまたすぐれたひとりの女性の姿を描いていた。何気なく手に取った文庫本で、ずいぶんと『ひとり日和』のことや作家・青山七恵さんのことがわかったような気がして、お得な感じなのである。しかもそこに描かれたのもまた、一見平凡な「若い女性」の、「自己」の再確認/再スタートであった。ゆったり感や作品としての完成度でいえば『ひとり日和』に軍配は上がるかも知れないけれど、テーマにあったみずみずしさという意味では、この「窓の灯」もまったくひけをとらない佳作なのであった。登場人物は、ごくごく限られて…  全文読む 評価する

袋小路の男 袋小路の男
けんいち/ねじれた関係の切なさを描く文体
絲山さんは、その独特の文体で、すでにすぐれた小説をたくさん書いている。だから、本書もそうした絲山さんによるすぐれた小説の1つだといえば、それはそうには違いないのだけれど、それだけでは収まらない何かがそれぞれにあって、もちろん『袋小路の男』にもある。独特といったのは、作品世界の世界観やモチーフ/主題に関わるものなのだけれど、すぐれた作家らしく、絲山さんの場合、そうしたことごとは「文体」に集約される。絲山さんの「文体」は、この小説に関していえば、「距離」をかなり細かい陰翳をつけながら描ける、ということに尽きる。『袋小路の男』については、すでに概要は広く知られていることと思うけれど、そこに描かれた男…  全文読む 評価する

『白鯨』アメリカン・スタディーズ 『白鯨』アメリカン・スタディーズ
けんいち/くじらのふかさ
『白鯨』という小説があることは知っていた。かつて、岩波文庫で読んだこともあった。長かった。それが名作らしいということも知っていた。しかも、それが世界スケールでの名作らしいということも。それでも、長かったせいか、あまり印象に残らなかった。それが、ひょんなことから本書を手にとって、改めて読みたくなった。というのも、『白鯨』は単にくじらの話でないことがわかったからだ。かといって、エイハブ船長の話でもなければ復讐譚でもない。もちろん、それぞれでもあるのだが、その全てがあるのだ。もっといえば、『白鯨』にはアメリカが描かれているというのだ。さらにいおうか、『白鯨』には世界の全てが描かれているというのだ。そ…  全文読む 評価する

9・11/夢見る国のナイトメア 9・11/夢見る国のナイトメア
けんいち/アメリカ・文学・戦争
「アメリカは新しい国である」、というの云い方が歴史的な事実確認ではなくなってずいぶんになる。少し前には、アメリカこそが〈帝国〉なのだ、という云い方が、多様な文脈から盛んに行われたが、オバマ政権となった今日においてもなお言えることがあるとすれば、やはり「アメリカは新しい国である」ということくらいだろう。ここにいう「新しい」とは、そのまま「理解不能」と同義である。「アメリカはわからない国である」。アメリカが新しくもわからない国であるとすれば、そのポイントは「文学」にある。それは、そのポイントは「戦争」にある、というのと同義であることを看破したのが、本書である。その意味で、本書はきわめてシャープな政…  全文読む 評価する

未来形の読書術 未来形の読書術
けんいち/たのしい読書のために
本書は、「読書」という営みそれ自体を、ていねい、かつ、わかりやすく語ったものである。もちろん、われわれの多くは、誰に教わるともなく、いつしか本を読めるようになっており、何の気なしに本を読んでいる。もちろん、試験や研究など、特定の課題を想定すれば別だが、日常生活の中での読書に「困る」ということは、さほどないだろう。でも、もっと読書はたのしくなる。あるいは、豊かになる。本書が導いてくれるのは、そうした可能性としての、新しい「読書」の仕方だ。とはいえ、それはことさらに難しいものではない。ざっくりいってしまえば、われわれがふだんから行っていることを、少し意識してみる、という程度のことなのだ。石原さんは…  全文読む 評価する

宿屋めぐり 宿屋めぐり
けんいち/小説とはウソ=字なのだ!
「小説とはウソ=なのだ!」と叫びたくなるような傑作、それがこの『宿屋めぐり』を読み終えての、快哉にも似た感動である。もちろん、町田康一流の語りは冴えている、こと、短文で投げすてるような文末の光彩はまぶしいほどだ。ストーリーもキャラクターも、いきいきとしてよどみなく、魅力溢れるものだといってよい。野間文芸賞という、大きな賞をもらったということもうなずける。しかし、こうしたことごとをいくら積み重ねても、『宿屋めぐり』の豊饒で乱暴な魅力にはたどりつくまい。小説とはそもそも、ウソである。しかもそれは、そこに描かれたことが、現実/真実そのものではなく、何かしらのデフォルメを通している、といった良識的な判…  全文読む 評価する

ポトスライムの舟 ポトスライムの舟
けんいち/あぁ、社会の中の、とても大事な私
『ミュージック・ブレスー・ユー!!』での野間文芸新人賞受賞に続いて、芥川賞をとった津村記久子さんは、いまのりにのった若手作家の一人と見て間違いないだろう。受賞作は、手放しで「明るい」といえるような作品ではないし、癒されたり、和んだりすることは(たぶん)あまりない。それでも、とても力強い。その力強さのエッセンスは、(たぶん)「私(自分)の肯定」にある。では、いわゆる「自分探し」や、単なる「自己顕示(欲)」とは違う、津村さんの書く力強さは何によるものなのだろう?それは、社会が描かれているからだ。ただ社会が書かれているからというわけではなく、私と関わりを持つ社会が書かれているのだ。もう少し正確を期し…  全文読む 評価する

国語審議会 国語審議会
けんいち/「国語」が自由であるために
本書は、タイトルに掲げられたように「国語審議会」について書かれた本には違いない。ただし、筆者自ら述べているように、「国語審議会」は必ずしもよく知られたものではないし、我々の日常に身近なものでもない。だから、そういう本だと思って素通りしてしまいがちであろう。だが、その審議会が議論してきたのは、他ならぬこの「国語(日本語)」なのである。そうなれば、一挙に問題は身近なものになるはずだ。このレビュー自体、日本語で書かれているのだし、これを読む人(読める人)は日本語を理解している人であるのだから。とはいうものの、一方で、「国語(日本語)」はここしばらくブームであるとも言える。サイトウ某の本は相変わらず売…  全文読む 評価する

ミュージック・ブレス・ユー!! ミュージック・ブレス・ユー!!
けんいち/みずみずしい、音楽への思い
すでに、芥川賞作家として、テレビ・新聞報道でその名が全国区になった感のある津村記久子さんだが、いささか社会色が濃く、微かな希望を携えつつも、やはり暗い世相を想起させがちな芥川賞受賞作『ポトスライムの舟』にくらべて、こちらの『ミュージック・ブレス・ユー!!』は生き生きとしていて、明るい印象が強い。あまり知られていないかも知れないが、この作品だって、野間文芸新人賞という、村上龍や村上春樹がとった、大きな賞をすでにとっているのだ。津村さんらしさというのは、これから作品が書き継がれていく内にいよいよ明らかになっていくのだろうけれど、さしあたりポジティブな側面は、本作で堪能できるように思う。また、現代に…  全文読む 評価する

〈性〉と日本語 〈性〉と日本語
けんいち/身近な日本語を、ていねいに考える
『「女ことば」はつくられる』の著者中村桃子さんによる本書は、ご自身が「あとがき」でその新しさを4点もあげているように、実に軽やかな発想から生み出された、斬新な切り口がなんといっても魅力的である。ここに列挙してみるならば、「日本語をセクシュアリティの側面から見た」・「日本語を消費社会の側面から見た」・「日本語には、特定の集団に特権を与えているイデオロギーの側面がある」・「『イデオロギーとしての日本語』という考え方から、『正しい日本語』に縛られた息苦しい状況を打開する方策を導き出した」、以上4点が、本書の問題意識を端的に物語りながら、清新な成果を指し示してもいる。もちろん、最大の主題は、タイトルに…  全文読む 評価する

平成マシンガンズ 平成マシンガンズ
けんいち/日常というバトル・フィールド
『平成マシンガンズ』、この本は、タイトルも小気味よいし、装幀もカッコいいのだけれど、やはり文芸賞とか受賞年齢とかに関係なく、何よりひたすらに小説として素晴らしい。言葉が、カユイところを見事に掻いていく。古き良き(あるいは、悪しき)文学に比べれば、『平成マシンガンズ』の文章は「軽い」し「薄い」よみに見えもするだろう。だけれども、かつてと書くべき事柄や、それらに対する「感性」が多き変わっていることを忘れてはならない。何より、この主人公にとっては、学校や家庭といった日常を形作る環境それ自体が、大げさな言い方でも比喩としてでもなく、ただしくバトル・フィールドなのだ。そこで、何を感じ、どう振る舞い、何を…  全文読む 評価する

風花 風花
けんいち/凡庸な物語から非凡な現代小説へ
この小説は、「結婚小説」であるとか「浮気(される)小説」であるとかいわれていて、実際にそれは外れていないのだけれど、あらすじを含めて、その内容を知ることには、あんまり意味がないと思う。もちろん、それはこの小説に必要な「部分」ではあるのだけれど、味わうべき「核」ではない。なんといっても、小説が始まってまもなく、夫の浮気による夫婦の危機は明らかになるのだし、驚くべきことに次のような自覚が登場人物のそれとして書かれてもいるのだから。《「出来の悪いドラマみたいだったよ、マコちゃん」最初に真人に事情を説明したとき、のゆりは言ったものだった。》不倫を描いた小説の大半は、「出来の悪いドラマみたい」なあらすじ…  全文読む 評価する

初心者のための「文学」 初心者のための「文学」
けんいち/「文学」への真摯な招待状
本書は、「初心者のための」と題されているけれど、その内容はとても初心者向きとは思えないほどに高度である。ただし、難解というのではなく、わかりやすく、しかし「文学」に関して見過ごされがちな2つのことを同時に展開することを要求される。とはいえ、この要求は実にまっとうなもので、しかも本書ではそれが平易かつ説得的に書かれている。1つは、「文学」を、奇妙な先入観抜きに読む作業である。ともするとわれわれは、「文学」をなにやら高尚なものと思いこんでいたり、著名な作家の作品を、作家イメージから読んでいたりする。そうではなく、書かれた言葉をきっちり読みましょう、それで分からなければ、当の「文学」が書かれた時代に…  全文読む 評価する

いとしい いとしい
けんいち/不可思議なこいもよう
『いとしい』は、限られた人数の登場人物が織りなすにしては、実に色彩豊かな、奥行きのある小説となっている。そこには、川上弘美一流の、あいまいでもうろうとした登場人物の輪郭や関係の不可思議さがあるのはもちろんとして、ともすると、それだけではバラバラになってしまいそうな『いとしい』には、しかしこのゆるやかでいながらほぐれることのない関係の網目に託されたマジックがある。それは、『いとしい』において突如現れたものではない。ここで、川上弘美の初期短篇「離さない」に明確に描き出された、「人を惹きつける人魚」というキャラクター/役割が印象深く登場していたことを思い出してみよう。この人魚は、人を惹きつけるばかり…  全文読む 評価する

戦争の日本近現代史 戦争の日本近現代史
けんいち/プロセスとしての戦争、思考としての問い
本書は、近年の戦争論をリードしてきた感のある著者による、大学生に向けた講義の体裁を採った、新書本来の新書らしい内容の書物である。そのポイントは、戦争をめぐる過去の歴史を、点として捉え、考えることの不毛と限界を指摘した上で、いかにして(不幸と分かっている)戦争を始めるための諸条件が整っていったのか、そプロセス自体を改めて問い返していくというスタンスに、まずはある。さらには、「東大式」という副題に託された意味もある。それは、戦争をめぐる過去の歴史を、既定のそれとして受け容れてしまうことへの知的な抵抗、その重要性を再三にわたり説くところにある。既定と思われている事象を疑うこと、そのために、歴史記述に…  全文読む 評価する

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