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こちらあみ子 こちらあみ子
トラキチ/読者の感性を問われる衝撃的な作品。
太宰&三島賞W受賞作品。太宰治さんも三島さんも天国で拍手しているのではないでしょうか。それほど心に痛い物語です。あみ子は一生懸命に周りに合わそうとするのですが、どうしても馴染めずに崩壊への道へと進んでしまうのですが、残酷とも言える内容とは言えどそれを中和させる作者の柔らかい文章のおかげで、読者は痛々しくもあみ子を受け入れてしまい、自然と応援してしまうのですね。あと実母でない母親の存在感も大きいです。 あみ子の三本の歯の代償は大きかったか感じるところの大きな作品で、読者の感性を問われる一作だとも言えます。表題作の「こちらあみ子」、簡単に言えば、あみ子は現在は祖母と一緒に暮らしているのですが、十五…  全文読む 評価する

ワーカーズ・ダイジェスト ワーカーズ・ダイジェスト
トラキチ/働くことの意義を考えさせられる作品。
津村さんお得意のリアルな会社員小説ですが、本作は男性が読んでも女性が読んでも同じぐらい共感できるように、敢えて同じ年で同じ姓の主人公を2人登場させてます。少し字余り的な説得力のある文章は読者にとっても心地良く、読み終えて日頃のイライラが緩和され、辛いのは俺(私)だけじゃないという気にさせてくれること請け合いの一冊です。初出 小説すばる。芥川賞作家である津村さんの作品は『ポトスライムの舟』と『八番筋カウンシル』に次いで本作で3冊目ですが、本作が一番上手く書けてるような気がします。男女の主人公の様子が交互に書かれている本作、働いているといろいろありますよね。ひとことで言えばそういう読者の気持ちを代…  全文読む 評価する

日無坂 日無坂
トラキチ/過去を振り返り悔むよりも、明日を見つめることの大切さを教えてくれる一冊。
初安住作品でしたが、まるで現代ものを読んでるような感覚でスラスラと読めてしまう読みやすさには驚きました。軸は親子愛ですが、私は兄弟愛も凄く印象的に描かれていると感じました。ほとんど男女の恋愛話が描かれてないのですが、読者を飽きささずに一気にラストまで読ませてくれます。思わず自分自身の人生をみつめなおす機会を得ました。作者に感謝です。物語の軸は前述したように“親子愛”です。主人公の伊佐次は江戸の老舗薬種問屋・鳳仙堂の跡取り息子として生まれた元の名は利一郎といいます。でもわけあって今は浅草の賭場を仕切っています。なぜ転落したかと言うと父親である利兵衛との確執ですよね。利兵衛は入り婿で婚家に気を使い…  全文読む 評価する

きことわ きことわ
トラキチ/文章の美しさに陶酔し、そして読者自身の幼少期と現在、そして未来を照らし合わせてみる格好の機会を与えてくれる一冊。
第144回芥川賞受賞作品。芥川賞作品なので短いですが、じっくりと腰を据えて読まなければ少し難解かもしれません。というかこの作品の良さがわかりづらいと思います。なぜなら現実と過去の出来事が25年間の歳月を越えて語られるのですが、どこまでが夢でどこまでが現実がわかりにくいからです。それてにしてもひらがなを多用した文章、作者の気品の高さの表れでしょうか、登場人物も柔らかく感じられます。夢をみる、みないという表現が作中で使われテーマとなっていますが、私的には貴子と永遠子の四半世紀ぶりの再会そのものが夢を叶えたと読むべきだと思います。2人を断ち切ったのも、再会させたのも春子なのでしょうね。内容自体は本当…  全文読む 評価する

漂砂のうたう 漂砂のうたう
トラキチ/人生逃げてたら駄目だよと読者に教えてくれます。 学ぶべき点が多い有益な一冊。
第144回直木賞受賞作品。時代小説と幻想小説を融合したような作品。舞台は明治十年の根津遊郭 。人間って儚いけど力強い生き物なのですね。 臨場感のある描写が見事で作者の筆力の高さを証明しています。主人公である定九郎と龍造との生い立ちの違い、生きざまの違いを対比して読むことによってこの物語の奥行きの深さを味わえると確信しております。 メインテーマはやはり“自由”になるのでしょう。あと女性がたくましいのですね。少し主人公である定九郎に焦点を当てて書きますね。江戸から明治へと時代は変わっているのですが、人間は変わりにくいのですね。ましてや身分が武士から身分を隠して立番として働く身となれば。女性の読者が…  全文読む 評価する

七人の敵がいる 七人の敵がいる
トラキチ/日常ミステリの旗手としてデビューした加納さんのイメージからかけ離れたというか、見事に変身した爽快な読後感のPTA小説。
初出 小説すばる。七編とエピローグからなる連作短編集。初めはずうずうしくて嫌な女性だなと思ってた主人公の陽子ですが、正論を押し進めていく姿に自然と応援してる自分がいます。 見事に作者の術中に嵌ったのですが、世の中やはり遠慮ばかりしてては駄目ですね。作者は七人敵がいても、八人味方を作ればいいという楽観的な考えで厳しい世の中を渡って行こうと読者に処世術を教えてくれています。女性が読まれたら陽子のカッコよさに惹かれること請け合いです。この作品の素晴らしいところは三点あると思います。まずは、凄くリアルに現実社会を描写している点ですね。これは私のように小学生の子供がいない人にとってもリアルだし、現在進行…  全文読む 評価する

誰かが足りない 誰かが足りない
トラキチ/自分自身の“ハライ”を見つけるために手元において何回も読み返したい作品。
地方の駅前のロータリーにあるれんが造りの古い一軒家の人気のレストラン“ハライ”にくしくも同じ日の同じ時間に予約したお客さん6人のそれぞれの来店にいたるまでのエピソードを描いた連作短編集。 思わず自分も7人目のお客さんとして行きたくなるのですが、作者は過去を振り返りつつも未来の重要性を教えてくれます。 レストランって言えばお洒落なイメージなのですが、内容的には総じて少し重いですね。一冊読み終えて最後に心が軽く前向きな気持ちになれます。特に「予約2」は秀逸。初出 “小説推理”を大幅な加筆・修正。宮下さんの最新刊です。これでコンプリートですね。個人的には『よろこびの歌』と同じぐらいベストの評価をした…  全文読む 評価する

純愛モラトリアム 純愛モラトリアム
トラキチ/不器用なるも面白いキャラクターの登場人物が次々登場する読者を飽きさせないラブストーリー
初出 “Feel Love”。8編からなる短編集ですが、それぞれの話の登場人物が次の話に出て来ます。読む進めるうちに次の話は誰が出てくるのだろうという楽しみも芽生え、そしてテンポがよくって楽しい話にめくるページが止められません。すべての人が試行錯誤状態なので、これがタイトルの“モラトリアム=猶予期間”という言葉に起因しているのでしょう。前の話では少し悪人っぽい性格だった人が実はそうではないのですね。人の心理を上手く描き構成された気軽に読める傑作恋愛小説集だと言えると思います。椰月さんの作品は本作で3作目なのですが、いずれも作者の能力の高さを証明するかのごとくバラエティに富んだ作品ですね。一般的…  全文読む 評価する

メロディ・フェア メロディ・フェア
トラキチ/女性の素晴らしさ、そして大変さを認識できる一冊。
初出 asta。主人公の結乃は大学を出て田舎へUターン就職、化粧品カウンターの美容部員として働き始めるのであるが、志望していた赤や白がテーマカラーの会社や外資系の会社を落ちたあげく、ピンクがテーマカラーの会社にやっと引っかかり、なおかつデパートじゃなくって郊外のモール勤務なのです。まあ前途多難な方が、いろんな葛藤があり作者としても書きやすいのでしょうが(笑)そして付け加えると家族との軋轢があるのです。それは母と妹が化粧品の代名詞とでも言える口紅を嫌ってるのです。これは読んでのお楽しみですが、結構深い話が根底にあります。姉妹の確執とあとは、旧友のミズキとのひょんなことからの再会がこの物語の主人公…  全文読む 評価する

おしまいのデート おしまいのデート
トラキチ/「ランクアップ丼」だけでも読んでほしい、瀬尾ワールド炸裂の短編で恩師に対する凄い恩返しが描かれてます。
初出 小説すばる。瀬尾さんの文学って独特の“タッチの文学”だと思います。これは誰もが真似出来ない領域に達していて、“平易な文章で最高の感動”を与えてくれます。簡単に淡々と書かれていますが、結構読者に突き刺さる物が大きくて、かつ心がほっこり温かくなるのですね。そうですね、日頃私たちが忙しさにかまけて忘れがちになっている大切なもの、人と人とのつながりを再認識せざるをえません。本作は5編からなるデートをモチーフとした短編集ですが、デートという意味合いも通常私たちが連想する男女間のそれじゃなくって、人と人との繋がりのためのものって感じですね。男女間の恋人同志のデートは1編もありません、ここが瀬尾さんら…  全文読む 評価する

田舎の紳士服店のモデルの妻 田舎の紳士服店のモデルの妻
トラキチ/作者の温かい眼差しが心に突き刺さる一冊。
初出 別冊文芸春秋。本作は本来女性が読まれて大きな共感を呼ぶ作品なのでしょうが、男性読者の私が読んでも同様の結果を得ることができました。それは女性としてだけでなく、人間として主人公の梨々子が魅力的に成長をした証しだと思います。これから結婚しようと思っている女性にも是非読んでほしいです。結婚してからの良い点と悪い点との両方が巧みに描かれていて良い勉強になるんじゃないでしょうか。宮下さんの作品は本作で5冊目ですがいずれも外れがなく安心して読めます。読者が“ああ、読んでよかった”と必ず満足感を得て本を閉じることができます。私の好きな作家である瀬尾まいこさんが“平易な文章で感動を呼び起こす作家ならば、…  全文読む 評価する

いちばんここに似合う人 いちばんここに似合う人
トラキチ/読者の想像力を掻き立てる作品集。
岸本佐知子訳。16編からなる短編集。フランク・オコナー国際短編賞受賞。作者のミランダ・ジュライは1974年生まれのパフォーマンス・アーティストで、映画監督や脚本家としても活躍しています。読者の想像力を掻き立てる作品集なのですが、やはり女性向きと言えるのでしょう。凄く感性豊かな作家だと思うので、一般的に感受性の強い女性が読まれたら満足できるのでしょうか。そして女性が読まれたら各登場人物に自分の中の似た部分を感じ取り投影出来るでしょう。そうですね、作品中に“自分の物語”を見つけることができる楽しみがあるのでしょう。逆に男性読者の私はちょっと共感できないところがあったのですが、どの編の主人公も自分の…  全文読む 評価する

ノリーのおわらない物語 ノリーのおわらない物語
トラキチ/ぎゅっと抱きしめたくなるような一冊。
<この本の面白さは何よりもまず、九歳という子供と思春期の境目のような微妙な年齢の子供の<声>が、まるですぐ隣にいて、こちらに向かって話しかけてくるようにいきいきと再現されていることだ。>(訳者あとがきより)岸本佐知子訳。岸本さんは個人的にはもっとも安心して読める翻訳家の一人に挙げたいと思います。作家で手に取ったというよりも、岸本さんが訳してはるのだからきっと面白いんだろうという期待感を抱かざるを得ないのですね。作者のニコルソン・ベイカーは1957年生まれのアメリカの男性作家で、本作以外に『もしもし』『中二階』『フェルタマーク』などの作品を発表してるのですが、いずれもユニークな作品みたいですね。…  全文読む 評価する

青い野を歩く 青い野を歩く
トラキチ/すごく評価の分かれる作品集だと思いますので是非ご一読あれ。白水社エクス・リブリスシリーズの一冊。
“粉々になった心を抱き、静かに生きる人々がいる。荒々しい自然と人間の臭み、神話の融合した小説世界は、洗練とは逆を向きながら、ぞっとするほどの、透明な悲哀を抽出する。放心した。すばらしい小説だ”(詩人の小池昌代さんの言葉:帯より引用)8編からなるアイルランド人女性作家の短編集。岩本正恵訳。表題作と「森番の娘」は印象的なのだが、全体を通して同じ訳者でエクス・リブリスシリーズの『ヴァレンタインズ』と比べてしまいどうしても満足感が得られなかった。国境を越えても普遍的なものがあるとわかりながらも、ちょっと理解しづらい点があり、どれだけ訳者が読者に読みやすいように訳しても作者の意図が伝わらないような気がし…  全文読む 評価する

ヴァレンタインズ ヴァレンタインズ
トラキチ/アイスランド人作家によるOヘンリー賞受賞作を含む12編からなる恋愛短編集。特筆すべきなのは、いずれも甘い内容じゃなくって身につまされる内容であるということ。 恋愛をモチーフにして“人生を描いている”っていう感じですね。
“オラフソンの作品を読んでいると、ひんやりとした希薄な空気と透明な光が行間に広がるのを感じます。それは抑制のきいた文章だけでなく、登場人物たちが感情を胸にしまい、行動を慎みがちなところからも生まれています。(中略)この抑制のきいた端正さは、荒涼とした自然のなかに人間が点々と点在しているアイスランドの風土と深く結びついている印象を受けます。”(訳者あとがきより)白水社の《エクス・リブリス》シリーズの一冊、岩本正恵訳。タイトル名の『ヴァレンタインズ』(Valentines)、日本語に訳すと“恋人たち”ということですが、敢えてカタカナとしているところが作品の内容を如実に表しているのですね。そう、この…  全文読む 評価する

うつくしい人 うつくしい人
トラキチ/他の西作品からは想像のつかないと言っていいほどの新境地作品でしょうか。本作は本好きの女性読者が読まれたら必ず共感できるような内容の自己再生作品で、読み終えたあとの清々しさとタイトルの素晴らしさは記憶に残る読書となったと言えるでしょう。
久しぶりに西さんの作品を手に取った。この人の作品の特徴は飾らない文章で飾らない人を描写し、読者に共感を呼ぶ点だと思うのですが、いつも読後に自分自身と向き合わせてくれるところは凄い手腕だなと思います。本作は関西弁じゃなくって標準語バージョンですね(笑)さて本作、ひとことで言えば“自己再生の物語”と言えるのでしょう。主人公は32歳の独身女性・百合。単純なミスがきっかけで会社を辞めて一人旅にでます。その舞台は瀬戸内海の高級リゾートホテル。数日間の滞在ですが主人公はバーテンダーの坂崎とドイツ人マティアスと出会い大切なものをつかみとるのですね。彼ら2人は風変わりな人物ですが、風変わりゆえに主人公にとって…  全文読む 評価する

生きてるだけで、愛。 生きてるだけで、愛。
トラキチ/人間誰しも自分のことをわかってもらいたいと思いますよね。その孤独感を上手く描いた恋愛小説という範疇を超えたニート小説。
劇作家、演出家、女優、声優としても活躍されている本谷有希子さん、初読みです。中年読者の感想として多少の斟酌をお願いしたい。とにかく最初はこのメンヘルの主人公である25歳の寧子にはイライラさせられます。そこから作者の本谷有希子さんの術中にハマっているのでしょうが(笑)、なかなか一筋縄では収まりません。最初は説教をしたくなるようなキャラの主人公が、知らぬうちに必死に生きている様に応援したくなる気分にさせられるのですね。同じぐらい強烈な個性の持ち主である、津奈木の元恋人の登場で話の展開は面白くなります。元恋人がきっかけでイタリアン・レストランでバイトするようになる主人公。このイタリアン・レストランで…  全文読む 評価する

よろこびの歌 よろこびの歌
トラキチ/<女子高生達のひたむきな物語。それぞれの視点でそれぞれの物語が語られますが、自分がどの子に似ているかを想像しながら読める女性読者に嫉妬の気持ちを持って読む進めた男性読者です(笑)若いって本当に希望があっていいですね。いつまでも前向きな気持ちを忘れずに本を閉じれました。作者に感謝ですね。
“世界は六十八億の人数分あって、それと同時に、ひとつしかない。いくら現実逃避したところで、ここで私は生きていくのだ。こんな小さな街にも、クラスメイトたちが住み、先生が住み、そして学校とは関係のない人がそれよりもたくさん住んでいる。ピアノがほしくても与えられなかった子も、ヴァイオリニストを母に持つ傲慢な娘も、ここで生きている。ここで私は生きていくのだ。専門的な勉強をしていなければ通じないのなら、誰のための音楽だろう。”(本文より引用)初出“月刊ジェイ・ノベル”を加筆・修正。お気に入りの宮下さんの昨秋発売された作品。まだ単行本4冊しか上梓していない宮下さんですが、個人的には本作が一番心に響き、そし…  全文読む 評価する

大きな熊が来る前に、おやすみ。 大きな熊が来る前に、おやすみ。
トラキチ/この短篇集は2年後に出版された『君が降る日』のような切ない恋愛模様を描いたものではないが、ある意味もっと身近でリアルでそして奥行きのある問題を読者に提起してくれていてハッとせざるをえない作品集ですね。そして印象的なのは文庫本の解説での名翻訳家の松永美穂さんの言葉です。なんとジュンパ・ラヒリやアリス・マンローなどの名手たちの系譜に連なる資質を備えていると語っている。ファンのひとりとして嬉しい限りです
“喧噪からは遠い、都会の室内劇。似たような場面が、人物の名前を変えてロンドンやニューヨークで繰り広げられているとしてもおかしくない。若い男女の気持ちの接近やすれ違いは普遍的なテーマだし、暴力にるトラウマの問題も、世界共通だろう。静かだけれどとても奥行きのある短編を書いている、アリス・マンローやジュンパ・ラヒリ、ドイツ語圏のユーディット・ヘルマンやインゲボルク・バッハマンなどの、文学の名手たちの名前が浮かんでくる。島本作品も、そんな名手たちの系譜に連なる資質を備えているのではないだろうか。”(文庫本解説より引用)上記引用文は文庫本の解説文ですが、解説を書かれているのがドイツ人著名作家ベルンハルト…  全文読む 評価する

鴨川ホルモー 鴨川ホルモー
トラキチ/京都を舞台に学生たちが恋愛そして青春をファンタジックに演じます。若い時ってくだらないことでも貴重なんですね。正直、ホルモーという架空の小説上の競技に関してはそんなに面白く感じなかったですが、後半に明らかになる恋愛模様が楽しいですね。ああ、青春って感じです。逆にホルモーも楽しめた方はこれ以上の小説はないと感じるのでしょう、そうです本作は“極上いや究極の泣き笑い小説”なのです。
京都旅行にお土産として買ってきた初万城目作品。予想よりもずっと読みやすくって面白い、タイムリーな読書となりました。この作品はやはり自由なイメージの強い“京大の人が書いた京都の良さを最大限に披露した作品”と言えるのでしょう。裏返せば、京都だから許される作品だと断言したいです。さて私はホルモー競技の可笑しさよりも純情な恋愛物語として堪能しました。前半はホルモー競技の内容で読者をひきつけ、後半は友情と恋愛の物語ですね。個人的には前半は少し間延び感は否めなかったのですが、後半はドップリと嵌れます。前半の出来事が結構伏線となっております。京大に二浪の末に入学した主人公の安倍。男性読者には自分自身の分身と…  全文読む 評価する

夫婦一年生 夫婦一年生
トラキチ/幸せ”をお金で買うことは出来ませんが、“幸せ”いや“仕合わせ”をお金でお裾分けしてもらうことは出来ます。それもワンコインちょっとで。テンポのいい文章で読者を惹き付ける朝倉さんは流石ですね。恋愛の延長線上で新婚生活を送っている青葉と朔郎、微笑ましくって嫉妬しちゃいました(笑)
“結婚は、ひと昔前には、永久就職といわれていたらしい。その喩えを聞いたとき、そんなばかなと青葉は思った。永久とはまた大きく出たものだな。就職って、と鼻で笑った覚えがある。ところが、結婚してみたら、永久感は確かにあった。永久をやってやろうじゃないのと思う。”<本文より引用>『田村はまだか』に続き2冊目の朝倉かすみさん。この人の特徴はやはりテンポの良い文章で多くの女性読者の共感を呼ぶところなのでしょうね。ありきたりですが、それ以外に表現の仕様がないです(笑)本作は青葉と朔郎の新婚カップルの1年を描いた作品ですが、北海道在住の作者のホームグラウンドである札幌が舞台となっております。結婚して東京から札…  全文読む 評価する

体の贈り物 体の贈り物
トラキチ/テーマは本当に重いのですが、淡々と語られているが故に読者に対すインパクトが大きいでしょう。柴田氏の素晴らしいシンプルな訳文が作者のいいところを引き出しているのがよくわかります。いつでも読み返せるように手元に置いておきたい作品集ですね。そしてあなたも読書を出来る幸せを実感してください。
原題"The Gifts of the Body"(1994)、柴田元幸訳。ラムダ文学賞、ボストン書評家賞、太平洋岸北西地区書店連合賞受賞作品。文庫本の裏表紙のあらすじを引用させていただきますね。“食べること、歩くこと、泣けること・・・重い病に侵され、日常生活のささやかながら、大切なことさえ困難になってゆくリック、エド、コニー、カーロスら。私はホームケア・ワーカーとして、彼らの身のまわりを世話している。死は逃れようもなく、目前に迫る。失われるものと、それと引き換えのようにして残される、かけがえのない十一の贈り物。熱い共感と静謐な感動を呼ぶ連作小説。”(本文裏表紙より引用)私…  全文読む 評価する

オレンジだけが果物じゃない オレンジだけが果物じゃない
トラキチ/作者の自伝的作品。この物語の一番の読ませどころはやはり自立することの大切さと、そして親子の愛情の尊さを謳っている点でしょう。日本人的な発想で見れば、通常書きにくいことをよく書いたなと思うのですが、作者の才能は陳腐なそういった見方を超越して、読者の心の中にいつまでも根ざすであろう勇気を与えてくれる作品です。さあ、未読の方、とりわけ女性の方是非ご一読あれ。
原題 "ORANGES ARE NOT THE ONLY FRUIT"(1985)、岸本佐知子訳 。国書刊行会の文学の冒険シリーズの一冊。 まず単行本の裏表紙のあらすじを引用させていただきますね。 <たいていの人がそうであるように、わたしもまた長い年月を父と母とともに過ごした。父は格闘技を観るのが好きで、母は格闘するのが好きだった・・・> 熱烈なキリスト教徒の母親から、伝道師になるための厳しい教育を叩き込まれた少女ジャネット。幼いころから聖書に通じ、世界のすべては神の教えに基づいて成りたっていると信じていた彼女だが、ひとりの女性に恋したことからその運命が一転する・・・。 『…  全文読む 評価する

ボート ボート
トラキチ/新潮クレスト・ブックスお得意の移民系作家のデビュー短編集。ただしとっても評価の分かれる作品集だと思いますので覚悟してお読みください(笑)
新潮クレスト・ブックスは過去にジュンパ・ラヒリを筆頭にしてたくさんの新人作家を発掘し紹介して来ました。その多くが短編集であることはご存じの方が多いことでしょうね。作者のナム・リーはベトナムで生まれるものの生後3ヶ月めに両親とともにボートピープルとして国外へ脱出、マレーシアの難民キャンプを経由してオーストラリア・メルボルンで育ったのち、アイオワ大学に学んで作家の道を歩みはじめました。本作がデビュー作品集となります。この作品の評価って正直本当に難しいですね。ラヒリの訳者で有名な小川高義さんが訳しているのですが、たとえばラヒリの訳文のような静謐さも感じないし、そして文章の流暢さも感じないのですね。共…  全文読む 評価する

太陽のパスタ、豆のスープ 太陽のパスタ、豆のスープ
トラキチ/婚約破棄された20代後半のヒロイン・あすわの再生物語ですが、男性が読んでも楽しめるので女性が読まれたら身につまされつつ大いなる共感を持って本を閉じることが出来るでしょう。
初出“青春と読書”を加筆・修正。宮下奈都さんの最新刊です。よく男性を形容する言葉として“誠実な”人と言いますが、宮下さんの文章から類推するに“性別を超えて”誠実な人(女性)なんだなと感じますね。読者として安心して向き合え、そして身を委ねられる作家というのはなかなか邂逅できないのですが、そういった数少ない作家だと言えそうです。彼女の魅力はその文章から醸し出される“温かい眼差し”ですね。本作においてもその温かい眼差しは如何なく発揮されていて、読者は堪能することが出来ます。物語の冒頭で、主人公のあすわは婚約破棄されます。いきなり大きなものを失ってしまい失意のどん底へ落ちちゃいます。読者としたら何かあ…  全文読む 評価する

偶然の音楽 偶然の音楽
トラキチ/著者の代表作である『ムーンパレス』と合わせて読むと余計に効果があがりそうですが、ラストの凄まじさは翻訳作品であるが故の爽やかさを感じたが、それが正しい読み方なのかどうかは少し疑問ではある。
原題 “The Music of Chance” 構成的には前半と後半とでは全然違いますが、いろんな成り行きがあってこそ後半が生きて来るところが素晴らしいですね。あとは、自分自身がナッシュに似てるのかそれともボッツイに似てるのかを常に考えながら読むと凄く付加価値のある作品だと言えます。どちらが人間らしいかを深く考察するだけでも奥行きがあるんですよね。誰しもナッシュのような強い部分とボッツィのような弱い部分が表裏一体となって併せ持っていると思うのですが、この作品に関しては私的にはボッツィに似ている部分が多いと認識している人の方が本作を読んだ価値がよりあると言えそうですね。物語の内容そしてスピード…  全文読む 評価する

僕の明日を照らして 僕の明日を照らして
トラキチ/2年ぶりの新刊は本当の“優しさ”とは何かを問う中学生隼太の成長物語。テーマはDVなのですが重苦しくなくってジーンと来て暖かな気持ちで本を閉じることが出来ます。平易な文章で最大限の感動を呼び起こす“瀬尾ワールド”、これがある限り寡作でもファンはずっと新刊の発売を待ち続けますよね。それにしてもいろんな愛情がありますよね、いい勉強となりました。
『僕は誰にも誓っていない。だけど、病める優ちゃんを誰よりもたくさん知っている。イエス・キリストは愛が大事だって言ってるし、きっとマザーテレサとかリンカーンとか、世の中のすごいって言われているような人も愛が全てだって言ってる。愛が尊いことなのは僕にだってわかる。愛がどういうものなのかはわからない。だけど、もし人を許すことが愛ならば、僕は優ちゃんを誰よりも愛している。アクエリアス1リットルで、トイレに直行してしまう器の小さい僕だけど、その容量の全てを使って、優ちゃんのどんなことでも許してしまえる。』(本文より引用)坪田譲治文学賞を受賞した『戸村飯店青春100連発』以来、約2年ぶりの待望の新刊。従来…  全文読む 評価する

ほかならぬ人へ ほかならぬ人へ
トラキチ/中篇2篇からなる直木賞受賞作。直木賞の“大衆作品”という主旨に基づく側面的な意味合いにおいては読みやすい作品でぴったしの受賞作かもしれませんが、いかんせん主人公に共感が出来なかった。むしろデビュー作『一瞬の光』のインパクトの方がずっと印象的で切ないながらも首尾一貫しているところが個人的には受け入れれたのだけど。テーマ自体は愛で深いのですが、私にはそれほど深遠な作品には感じられなかったのが残念です。
第142回直木賞受賞作品。前作の『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞を受賞、そして本作で直木賞を見事受賞。これで文壇のスターダムへとのし上がった白石さんですが本作を読む限り、果たして直木賞の受賞が妥当だったのかどうか甚だ疑問を感じた私である。過去の直木賞の受賞作を振り返ってみても、なぜこの作品が選ばれたのだろう、なぜあの作家じゃなくてこの作家が選ばれたのだろうともちろんいろんなタイミングが合るのでしょうが。もちろんいろんな作風があってしかりなのであるが、やはり内省的で思慮深いのが白石さんの登場人物への共感が白石さんの一番の魅力なんだなと思ったりするのですね。たとえ少し道をはずれて…  全文読む 評価する

神の子どもたちはみな踊る 神の子どもたちはみな踊る
トラキチ/阪神大震災から15年、節目に読むことによってより感慨深いクオリティの高い作品集だと言えそうです。切ない話ばかりですが、読み終えるとなぜか勇気を少し分けて貰った気がするところが素敵なのでしょう。全6篇でどれもいいのですがなんといっても「蜂蜜パイ」が秀逸。ラストに持ってきたところが心憎くいです。
阪神大震災を題材というか間接的なテーマとした短篇集。1995年という年は阪神大震災と地下鉄サリン事件の両方が勃発します。戦後の日本の歴史を変えたといっても過言ではない1995年。今年で15年となりますが、この作品は読者にとってはまるで阪神大震災のようにいつまでも記憶に残る作品集だと言えそう。そしてこの作品集は日本という国が決して安全ではないという警告を促しているのですね。それは何も震災の当事者だけではありません、なぜなら作品に出てくる地域は神戸以外の地域ばかりなのですから。全6篇からなりますが、それぞれの構成及び内容が素晴らしいと思います。まずは妻が震災後家出をする「UFOが釧路に降りる」から…  全文読む 評価する

赤いカンナではじまる 赤いカンナではじまる
トラキチ/5編からなる書き下ろし短編集。この方の素晴らしいところは平易な文章で読者に大きな感動を与えてくれる所なんでしょうね。現実にもがき続けている人には本当に一服の清涼剤となるでしょう。たまには過去を振り返り自分の原点を見つめなおすのもいいですよね。
「サッカーボーイズ」シリーズが好評のはらだみずきさんの書き下ろし短編集。この方元出版社勤務らしいですね。まるで作者の分身ともいうべき人物=出版社勤務の作本龍太郎全5編中、3編にという人物が登場します。やはり本好きには興味深いですよね。最初の表題作「赤いカンナではじまる」において書店における本の陳列の仕方からまずぐっと興味をそそられます。ここでは急に書店を辞めた女性の淡い恋について語られます。2編目は作者お得意のサッカーを題材とした作品。高校時代のサッカー部のマネージャーとの再会が語られます。何といっても3編目の「美しい丘」が秀逸ですね。作本が北海道の書店に営業で行ったときにお世話になった旭川の…  全文読む 評価する

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