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奇想の江戸挿絵 奇想の江戸挿絵
たむ/奇想というより天才です。
 まずは表紙のイラストをご覧ください。  北斎の手になる読本の挿絵なのですが、初めてこの絵を見た方の多くは、帯に書かれた横尾忠則という名前にも引きずられて、これは現代のデザイナーが北斎の絵を元にコラージュしたものに違いない、と思うのではないでしょうか。  なにせあまりにもパンク。あまりにもぶっ飛んでいます。  わたし自身この表紙を見て、またずいぶんと濃ゆいデザインにしたもんだな、などとノーテンキにも思っていました。  ところが本書161ページを開いて、大げさではなく本当に、思わず「うおっ!」と声が出てしまいました。何しろそこに掲載されている北斎の原画は、表紙のものと寸分違わぬものだったのですか…  全文読む 評価する

グリーン車の子供 グリーン車の子供
たむ/ミステリよりも雅楽の魅力だなんて思っていると、思わぬところでミステリのセンスが発揮されるので油断がなりません
  雅楽全集の第二巻。相変わらずいたずらに複雑すぎてごちゃごちゃしてる感がありますが、本書も後半に行くにしたがって著者も手慣れてきたのか不自然なところもなくなってくるので、第三巻以降が非常に楽しみです。  本書に収録されているのは推理作家協会賞受賞の表題作を初め18編。気に入った作品をいくつか紹介してみます。 「臨時停留所」――バスから降りた青年が、助けを求める老婆を目にしますが、警官を連れて戻ってみると老婆の姿はなく……。ネタバレになるので詳しくは書けませんが、冒頭付近のある登場人物の扱い方に泡坂妻夫を彷彿とさせるものがあって、読んでいて思わず舌を巻きました。タイトルも秀逸。雅楽の…  全文読む 評価する

さらい屋五葉 さらい屋五葉
たむ/これは漫画でしか表現できないと思いました
  “必殺誘拐人”の第二巻です。第一巻で主要な登場人物の顔見せも終わり、いよいよ話が進むのだろうかと思っていました。ところがナンと、政がいきなり病気になって養生してしまいます。開巻早々に話が進みません。何だろうと思ったら、ああなるほど、一味の過去が動き出すのですね。今回は梅の過去の話です。  第一巻ですでに、梅が元盗賊で、五葉のきっかけが娘のお絹にあったというのは明らかになっていましたが、その辺りの事情がもうちょっと詳しく明かされます。  ぶっきらぼうだけど人のよさそうな梅らしいエピソードでした。足抜けがらみの話もシブくてやるせない印象深い犯罪物語でしたが、お絹がらみの話も反対に心が…  全文読む 評価する

ジャン=ジャックの自意識の場合 ジャン=ジャックの自意識の場合
たむ/洗練された悪夢、混沌
  日本SF新人賞受賞作。というだけなら手に取らなかったのですが、日本ファンタジーノベル大賞の落選作と聞き、読んでみました。(深い意味はありません。ただ単にわたしがSFよりも幻想小説が好みだというだけです)。  「女の子のおちんちんは、お腹のなかについてるの」。  ページを開いた途端に飛び込んでくるのがこの文章です。なんて魅力的でインパクトのある書き出しなのだろうかとのっけから引き込まれました。いったいどんな話なのかというと――  ものすごく乱暴に要約するならば、ジャン=ジャック・ルソーの理想に絡め取られたマッド・サイエンティストが夢見た実験の顛末――ということになるでしょうか。  …  全文読む 評価する

イースターエッグに降る雪 イースターエッグに降る雪
たむ/現実ってこういうふうに見ることもできるのだとびっくりしました
  柴田元幸編『紙の空から』で著者のことを知り、慌ててほかの作品も取り寄せました。 冒頭、出産中の夫婦が山賊に押し入られるものの、血塗れの夫の姿を見て山賊どもは逃げ出してしまう、という印象的なシーンから幕を開けます。もうこれだけで本書の面白さは約束されたも同然。 冬の間じゅう二人きりでくっついていたために、身体がくっついてしまった新婚夫婦のエピソードが語られたあたりで、「四代にわたって語り聞かせる彼女たちの人生」という帯の惹句と相まって、“お。これはマジックリアリズム系の作品かな”という手応えを感じました。 でも実のところはマジックリアリズムというよりももっとほかの何か。マジックとし…  全文読む 評価する

ぺし ぺし
たむ/終わってしまいました
  最近流行りの(?)小学生ギャグ漫画の一冊です。小学生ギャグとは言っても、そーいえばあのころのオレらは底抜けのおバカだったなあ、とカラカラ笑ったり、無垢ゆえの天然さにミョーに癒されたり、といったタイプとはちょっと違います。 微妙に噛み合わない人たちが織りなすフツーの小学校生活。シュールというか隙間狙いというか。第1巻第1話、東京からの転校生坂田くんを「ようこそ日本へ」という横断幕で迎える不条理みおちゃんに、引きつるように笑ったのを覚えてます。 そんなフシギな笑いに、鉛筆キープとかじゃんけん代わりのねこじゃらしコチョコチョとかゴクアクな兄弟げんかとか、小学生っぽいアイテムがちらほら入…  全文読む 評価する

山ん中の獅見朋成雄 山ん中の獅見朋成雄
たむ/悪ふざけすれすれだからこそ効果的な青春小説
  微妙に語呂の悪いタイトル――というより初めは読み方もわからなかったこの作品、背中に鬣の生えた少年シミトモナルオが、鬣のコンプレックスから陸上を捨て変人書家に弟子入りし相撲を取り、やがて怪しげな馬や小汚い男たちを追って山奥のコミューンに関わってゆく……と、あらすじだけ書いたところで例のごとく無茶苦茶な内容です。  鬣が生えているゆえに、〈人間的であるとは何なのか?〉を問い続ける成雄。もうひとつ作中で問われる〈人を殺すのは悪いことのか?〉という問いと併せて、そもそも答えの出るような問題ではありません。  こんな哲学的な問いに決着なんてつけられるのか? 著者は驚くような方法で回答しまし…  全文読む 評価する

現代語から古語を引く辞典 現代語から古語を引く辞典
たむ/文章を書く人、歌を詠む人、言葉の好きな人
『古語類語辞典』がタイトルも新たに復刊されました。  旧題からもわかるとおり、本書は「現代語→古語」辞典であると同時に古語の類語辞典でもあります。  例えば「ことば【言葉】」という単語を引くと、そこには「こと[言]・ことのは[言葉]・ごんご[言語]・した[舌]・もじ[文字]」とあります。「した[舌]」というのがピンと来なかったので、古語辞典で確かめると『柳多留』からの用例が載っていました。なるほど江戸時代の用法だったようです。  このように、語義も用例も掲載されていないため、調べた単語を改めて古語辞典で確認する必要があります。そこがちょっと不便ですが、『類語辞典』だと考えれば仕方がない。その分…  全文読む 評価する

島田荘司のミステリー教室 島田荘司のミステリー教室
たむ/ミステリ文章読本? 最新エッセイ集?
あまりにもシンプルな装丁、地の文とは何ですかなどという質問、ひたすら続くQ&A形式の文章。本書を実際に手にしたときにはかなり戸惑いましたが、今現在の著者のミステリ作家としてのスタンスを知るには手っ取り早い一冊といえそうです。  タイトルこそ「ミステリー教室」ですが、ミステリ作家になる気のない人にも、充分にエッセイとして読むことができます。  独特の視点とセンスが切れ味を見せることも明後日の方向を撃ち抜くこともある著者の文章ですが、最近ちらほら言及している「マーロウ=ホームズの息子」説が出色でした。息子といっても血がつながっているとかいう意味ではなく、二者の資質が実は非常に似通っているのだという…  全文読む 評価する

記憶の書 記憶の書
たむ/うってかわってストレートな冒険ファンタジー
『白い果実』の続編です。作品世界も登場人物も時間軸もすべて続き物の、文字通りの続編です。『白い果実』はあれはあれで完結している物語だったので、そこがまず意外でした。続編というよりは飽くまで三部作の第二部ということなのでしょうか。第三部が楽しみです。  何より気になるのは訳者の交代です。はて?と思いながら読み始めると、理由は何となくわからないでもありませんでした。  ウィナウを襲った眠り病を治療するため、再びウェルビルトシティを訪れることになったクロウ。お供になるのが頭のおかしな痩せ犬とよぼよぼの馬。開巻早々、この凸凹トリオの珍道中が始まります。そして無事シティに着いたと思えば、そこには『グレム…  全文読む 評価する

砂時計 砂時計
たむ/架空世界を構築するように、現実世界を構築し直した
この本を読んだときに、たとえばある部分で『虚無への供物』を連想しました。ネタバレにならないように説明すると、運命に逆らおうと現実を改変する妄念と、断片化された世界。あるいは部分的には『ユリシーズ』も思い浮かべました。平凡な日常を、意識の流れと様々な(そして緻密な)語りを駆使して描いた現代文学の金字塔。  本書のもとになっているのは、一通の手紙です。アウシュビッツで消息を絶った著者の父親が、生前に書いた手紙。そこからできあがったのが、この圧倒的な物語です。死者の周辺エピソードを丁寧に拾って歩き、故人の人物像を立体的に浮かび上がらせるようなドキュメント手法を、著者は取りませんでした。著者が取った方…  全文読む 評価する

マリー・アントワネット マリー・アントワネット
たむ/ワイドショーとか嫁姑ドラマとか
たまたまこの時期のフランスについて調べていたので、基本の資料として買ったのですが、意外なことに読み物としてもたいへん面白く、ちょっと得した気分でした。  宮廷でマリー・アントワネットをとりまく周囲のかけひきなどは、嫁姑ドラマみたいで飽きさせません。実質的な権力者である王の愛人と、身分はあれど権力はない王の娘たちの確執に、無邪気な娘が巻き込まれたり。王位を狙う王子たちからやっかまれたり。ただの小娘の気まぐれが、外交をもおびやかしてしまったり。  歴史ものとしてももちろんすぐれた読み物なのですが、ワイドショー的な下世話な楽しみ方もできました。よくもまあこれだけ、と思うほど、エピソードには事欠きませ…  全文読む 評価する

犬坊里美の冒険 犬坊里美の冒険
たむ/27歳児の成長小説
 著者はこれまでさんざん長い時間をかけて、読者に里美アレルギーを引き起こしてきました。そんな里美がついに独り立ち。どうなることやら……というのが正直なところでした。  里美のキャラは相変わらずですが、これがけっこうまともな成長小説でした。この本を書くためだけに、今までわざわざ里美を成長させずにいたのか!?と勘ぐってしまいたくなるほど。  相変わらずやることなすこと非常識で破天荒だし、それを個性と思い込んでいるしで、たまりません。これで27歳という設定なのですから頭が痛くなります。ただ、成長小説である以上、すでに一人前では小説にならないんですよね、きっと。司法試験を通ったという設定である以上は、…  全文読む 評価する

でかした、ジーヴス! でかした、ジーヴス!
たむ/ウッドハウスが現実だった
 ある日テレビを見ていると、「カルチョ・ストーリコ・フィオレンティーノ」という祭りが紹介されていた。イタリアではサッカーの起源だと信じられているのだそうだ。ふうん、と思いながら見ていたのだが、次の瞬間に大笑いしてしまった。誰もがボールそっちのけで、いたるところで取っ組み合いやら殴り合いを始めたのだ。なんだこれは。「タッピーの試練」そのまんまじゃないか。イタリアと英国、サッカーとラグビーという違いはあれど、まさかウッドハウスの世界が実在するとは思わなかった。現実の世界もまだまだ捨てたもんじゃない?  現実といえば、ジーヴスのいわゆる「個々人の心理」のほとんどはけっこういい加減だったりする。お話の…  全文読む 評価する

マンアライヴ マンアライヴ
たむ/チェスタトンの未訳作品が出るたびに感じる微妙な読後感
 訳のことは言うまい。悪訳を読むコツは、流し読みすることである。流し読みだと、あらすじだけが頭に入って細部はことごとく抜け落ちる。相手が悪訳であれ名訳であれこれは変わらない。  そうやって流し読みした本書が、さて面白かったのかと問われると、途端に考え込んでしまうのである。  膨大なチェスタトン作品のうち、日本語化されている小説は(それも現在でも手軽に読める小説は)、幻想小説『木曜の男』と、『ブラウン神父』をはじめとした探偵小説くらいでしかない。  だからどうしても、チェスタトンの未訳作品が紹介されたときには既訳作品と比較して、『ブラウン神父』と比べるとやはりミステリとして弱い、だとか、『木曜の…  全文読む 評価する

イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ
たむ/ねちっこい文章ゆえの傑作と、饒舌な語りゆえの傑作
 古典新訳文庫というわけで期待して読み始めたのですが、すぐに眉をひそめることになりました。「妻が、イワン・イリイチからすると何の理由もなく、つまり彼のいわゆるただの気まぐれから、生活の楽しみと品位を壊し始めたのだった。」とか「この場合、イワン・イリイチが花嫁を愛し、相手の心のうちに自分の人生観に共鳴するものを見つけて結婚したのだというのも、あるいは彼は自分の周りの社交界人士がこの縁組を支持したから結婚したのだというのも、〜」とかいうまどろっこしい文章が頻出するからです。  翻訳が下手なのかな……と思いながら「クロイツェル・ソナタ」を読むと、これはうってかわってたいへん読みやすい文章でした。ほか…  全文読む 評価する

猫とともに去りぬ 猫とともに去りぬ
たむ/大人のファンタジーからナンセンス・ギャグまで
 いかにも人生訓・寓話めいた巻頭の表題作を読んだときは、どう反応すればいいのか戸惑ってしまった。これがユーモアあふれる知的/極上ファンタジー? 人間社会から出ていったおじいちゃんが、猫として暮らしたあとで、また元に戻る話である。ともすればシビアで風刺の強くなりかねない話でも、終始ほんわかまったりとあたたかい。すねたみたいなおじいちゃんが可愛くもある。けど……あまりにも表現方法がストレートで他愛ない。ユーモアというのもいまいちピンとこない。それともこれがウィットではなくユーモアというものなのだろうか。  なぜか自動車の話になってしまった白雪姫のお話「社長と会計係」を読んでみても思いは変わらなかっ…  全文読む 評価する

ユリイカ ユリイカ
たむ/タルホを形にするときっとこんな本になるのだ
 まずは手にとってうっとり。表紙〜表紙裏〜目次ページにまたがってエッセイが掲載されています。収録作一篇をまるまるブックデザインにしてしまったわけです。IとTを組み合わせたレタリングがそのままタイトルバックに。音符のようにもみえる丸と三角(タルホだ!)の組み合わせ。つるつるにコーティングされていないさらさらした手触りの表紙。雑誌どころか愛蔵版といってもよいです。  収録されているのは、足穂に関する資料、『ユリイカ』名物の評論、イラスト&漫画、足穂についての対談・インタビュー、そして新発見作品。何と言っても対談&インタビューと新発見作品が圧巻でした。  内容は、加藤郁乎×松山俊太郎×渡辺一考による…  全文読む 評価する

ららら科學の子 ららら科學の子
たむ/未来の子
 本書のタイトルはもちろん『鉄腕アトム』のテーマ曲の一節。  ほんの数年前までは、21世紀は未来の代名詞だった。「科学の子」という言葉には明るい未来が溢れていた。  21世紀に入ってはや数年。アトムもとうに“生まれて”しまった。 本書の親本は、アトムが〈過去〉になってしまって間もなく刊行された。刊行時すでに、「1968年の『今』から未来世紀の東京へ」と書かれた〈未来〉は過去だった。だが作中時間ではアトムはかろうじて〈未来〉だったはず。すべてが過去になった今、文庫版を読む。しかも作品世界は回想と現在を自在に行き来する。作品は過去と未来を翻弄する。  矢作俊彦は、徹底して“なぜ日本はこんな馬鹿な国…  全文読む 評価する

虹をつかむ男 虹をつかむ男
たむ/3mm浮遊する男
 ジェイムズ・サーバー。ユーモア作家。発想力のずれたとぼけた言動と悪意のない笑いを読んでいると、翻訳家岸本佐知子氏のエッセイを思い出した。現実世界に生きているのに空想の世界に暮らす人たち。日常のなかから騙し討ちのように妄想の拳をお見舞いされる。一見すると普通の人たちである。ところがよく見ると地上から3mmくらい浮いて歩いている。3mmずれた世界に暮らしている。  サーバー作品の主人公たちは、決して「もし〜だったら」とか「〜かもしれない」「〜と思う」とは言わない。「〜であった」と断定する。オバケは“出た”のであり、ダムは“決壊した”のであり、ウォルター・ミティ氏はポケタ・ポケタと“実際に”潜水艦…  全文読む 評価する

九杯目には早すぎる 九杯目には早すぎる
たむ/軽妙な会話×突飛な謎×嫌な後味
 短篇とショート・ショートを交互に配した、連作ではなく純粋な短篇集。デビュー作にしてハードルの高さにチャレンジしたのは評価するけれど、いくつかのハードルは見事に蹴倒してしまっているのも事実でした。  巻頭の「大松鮨の奇妙な客」。寿司屋でのとぼけた会話を読んでいるうちにとんとん話が進んでゆくあたり、泡坂妻夫を思わせます。寿司屋で起こった奇妙な事件も、泡坂作品や参考に挙げられている都筑道夫作品を思わせて好感触。意外性を狙ったがためなのか、真相を凝りすぎというか理屈をこねすぎの感がなくもないが、まずは上々の滑り出し。  ところが「私はこうしてデビューした」になると、持ち味だと思われた軽妙な会話や奇妙…  全文読む 評価する

中井英夫全集 中井英夫全集
たむ/優れた映画コラムニストという意外な顔
 優れた評論に必要なものは、すべてを見通す眼はもちろんのこと、何より誉める技術と貶す技術なのだということを痛感しました。短歌の名伯楽としてはよく知られている中井氏ですが、映画評の才もあったのですね。適確な啖呵が小気味よい。  のっけから、コクトー『詩人の血』について「死んだ少年から盗んだハートのAを天使に奪われ、二度のピストル自殺をとげる詩人を見ながら私は、この映画が三島由紀夫を強くそそのかしたと確信した」などと、ドキッとするようなことを言ってのけます。  テレビを見ては「『地獄の黙示録』はどうでもいいが、『影武者』は気がついてみると馬の映画で、終りに行くほど馬が美しい」と言い放ち、イングリッ…  全文読む 評価する

トリュフとトナカイ トリュフとトナカイ
たむ/ノンシリーズものに光を当てるという点では、大人にも改めて読んでもらいたい泡坂妻夫作品集
 子ども向けの現代ミステリー作品集。泡坂作品から傑作集を編むとすれば、誰が選んでも亜愛一郎シリーズから一篇採るのは間違いのないところなんだけれど、編者は(おそらくは)敢えて亜シリーズを省いています。  結果的に、いかにも泡坂作品らしさを味わえるのは「開橋式次第」一篇となり、「金津の切符」で倒叙もの、「トリュフとトナカイ」で不可能犯罪もの、「蚊取湖殺人事件」で犯人当て、というように、作家の個性よりも作品のバラエティを基準に選んでいるようです。  せっかくだから現在入手不可能な『妖盗S79号』あたりから一篇選んでくれたらよかったのにと思う次第ではありましたが。  さて巻頭の「開橋式次第」は、開橋式…  全文読む 評価する

嘲笑う男 嘲笑う男
たむ/異色作家唯一のC級作家
 異色作家短篇集の作家たちの多くは、「異色」ではあっても「キワモノ」ではなかった。誰もが一流の作家たち。たとえB級と呼ばれるような作家であっても、一流のエンターテイナーであった。  ところがここに一人だけ、異色C級作家が登場する。レイ・ラッセル。これぞパルプ作家。いかに書こうなどという意識はさらさらない。ただただアイデアの向くまま書き飛ばしたかのよう。  巻頭の「サルドニクス」の舞台は十九世紀。語り手の説明に始まる冒頭から怪しげな城館の主人や因縁まで、そっくりそのまままるごと古い怪奇小説である。よく言えば現代に甦った古典怪奇小説、悪く言えば古色蒼然。しかし何はともあれこの作品は、古くさい怪奇小…  全文読む 評価する

SFマガジン SFマガジン
たむ/飛浩隆、ジーン・ウルフ、山本弘ほか
 今月号の特集は「『ベストSF2006』上位作家特集」。『SFが読みたい!』アンケート上位作家の短篇特集だけあって、英米の受賞作特集だった3月号と比べ、日本国内の嗜好に沿った作品が掲載されているように感じました。  『ラギッド・ガール』の飛浩隆による「蜜柑」。長篇作品の一部とはいえ、〈数値海岸〉や〈区界〉といった予備知識がなくても楽しめる。ちょっと手強そうなイメージのある飛作品だが、本篇は小学生の初恋物語として読んでも秀逸。そしてその甘さと酸っぱさが、そのままSF的な甘美さと罪悪感に直結しています。  『デス博士の島その他の物語』のジーン・ウルフ、「迷える巡礼」も力作。記憶を失ったタイム・トラ…  全文読む 評価する

メランコリイの妙薬 メランコリイの妙薬
たむ/アイデアのごった煮。ブラッドベリのホワイトアルバム。
 数あるブラッドベリの作品のなかでも、代表作は『十月はたそがれの国』や『何かが道をやってくる』だと思っている人間からすると、本書にはどうも甘ったるい作品が多かったのが残念。  「誰も降りなかった町」や「すべての夏をこの一日に」などの残酷な寂しさはブラッドベリの独擅場。こうした作品を読むにつけても、甘い話を甘い文体で書かれても甘ったるくなってしまうだけ、苦い話を甘い文体で書かれるからこそブラッドベリは素晴らしいのだ、と思ってしまいます。  自選集『ウは宇宙船のウ』や河出文庫『20世紀SF』にも収録された「初めの終わり」も何度読んでもやはり素晴らしい。宇宙へのロマンや恐れ、息子に対する親としての愛…  全文読む 評価する

わが悲しき娼婦たちの思い出 わが悲しき娼婦たちの思い出
たむ/90にして惑い、91にして惑わず
 川端康成『眠れる美女』に想を得た、とは言うものの、当たり前だけど全然違う。同じなのは老人が処女と添い寝するところぐらい。何しろガルシア=マルケスの方は現実世界の社会性ばりばり。というか九十歳の老人が新聞に寄稿して現役で働いているのである。おいおい。現実に足が着いているのか孤独な老人だけの異世界なのかという以前の問題である。もちろんあっちの方もほぼ現役。さらには少女に恋したという記事が世間の反響を呼んでしまうのである。嫉妬のあまり暴れるし。すごい……。世界と真っ向から対峙してます。  日本だと、九十歳の老人は一人孤独を慰める方がリアルなのかもしれないなあ。社会の問題なのか個人の問題なのかはわか…  全文読む 評価する

陰摩羅鬼の瑕 陰摩羅鬼の瑕
たむ/さまざまな楽しみ方ができるという点ではこれまでとまったく変わらない出来でした
 期待していたわりにイマイチという評判を耳にしつつ文庫化を待って初読。  そんなに悪くない。むしろかなり面白い。少なくともわたしは、ねっとり混沌とした『絡新婦』・『塗仏』よりは好みでした。  たしかにいろいろなことを期待している側からすると、ことごとく拍子抜けの感は否めません。  わたしにとってこのシリーズの楽しみは、妖怪に関する蘊蓄がけっこう大きなウェイトを占めます。ところが本書では、陰摩羅鬼にいたってはほんのひとことと言っていい。ほとんどはウブメに費やされています。それもむしろ林羅山を語るための方便という気がしないでもない。ところがこの林羅山観が面白い。これだけで『Q.E.D』シリーズが一…  全文読む 評価する

飛ぶ教室 飛ぶ教室
たむ/新訳の名に恥じない名訳。こんなに面白い作品だったのかと初めてわかった。
 素晴らしい!  ケストナーというのはわたしにとってどうにも微妙な名前であった。気にはなるのだが、面白さがよくわからないのだ。『エミールと探偵たち』『雪の中の三人男』『飛ぶ教室』……。  しらじらしい。という気もする。ユーモアや道徳がわざとらしい。ような気もする。だけど、それが楽しめない決定的な理由ではないような気もしていた。そんな本ならほかにもいくらでもあるのだから。  『飛ぶ教室』を読むのは今回で三度目(それぞれ違う訳本で)となる。これまでケストナーをいまいち楽しめなかったのは、翻訳が原因だったのか!と胸のつかえがすっきり取れた。  ですます調や直訳調がないだけでもずいぶん違う。テンポがよ…  全文読む 評価する

シャーロック・ホームズのSF大冒険 シャーロック・ホームズのSF大冒険
たむ/ホームズ・ファンのためのSF作品集ではあれどSFファンのためのホームズ譚にはあらず
 ホームズ・パロディ/パスティーシュが発売されたら思わず買ってしまうほどのマニアではない。それでも内容によってはついつい手を出してしまうこともある。そんな中途半端な立場の人間が読んだからなのかどうか、本書の感想はなんともいえない中途半端なものでした。可もなく不可もなく。取り立てて面白くもなく、目くじらを立てるほどつまらなくもなく。  一つには作品内容そのもの。目玉がない。これぞ、というものがいくつか入っていてくれないともの足りません。シャーロキアンでない人間が読んでも楽しめる作品が、圧倒的に少なかった。パロディなんだから、と言ってしまえばそれまでですが、よくできたパロディであればオリジナルを超…  全文読む 評価する

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