|
死の泉
|
|
桐矢/圧倒的な読後感…
|
ページを開くと音楽が聞こえてくる。変声前の澄んだ声を持つカストラート、去勢された男性歌手。美しい双子の姉妹。古城の地下に広がる岩塩の洞窟。それらが、多重に絡まり合って幻想的な物語を紡ぐ。そして、ナチスによって行われた忌まわしい人体実験の記憶。 舞台は、大戦中と、その後のドイツ。激動する運命に翻弄されるマルガレーテ。そして、ナチスの医師クラウスに、美声を愛された少年、エーリヒ。戦争というあまりにも大きな流れの前に良心も善人も悪人も飲み込まれていく。 マルガレーテが、少しずつ狂っていく様子が、哀しい。美しく幻想的な物語でありながら、緻密に構成されている。 惜しむらくは、この物語は、ドイツ人作の小…
|
|
|
ナシスの塔の物語
|
|
桐矢/ただ石を積んで…
|
さらさらと流れる砂の乾いた音が聞こえてくる。ナシスという砂漠の辺境の架空の街が舞台。 昔ながらの職人の家に育ったリュタは、父親の様にりっぱな職人になることを目指して、修行の毎日を送っている。だが、その一方では、より早くより大量のものを魔法のように作り出すことの出来る、ドロスのはぐるまにも、憧れている。 辺境の街は、はぐるまによって、変っていく。馬の代りに車が走り、砂漠を切り開き、新しい家が建ち並ぶようになる。はぐるま…人知の力は、砂漠…不毛の地を楽園に変えることが出来るのだろうか? 愚者として登場するトンビは、最初から最後まで変わらない。街の外、荒れ果てた丘のうえに、ひたすら石を積み、たっ…
|
|
|
詩人の夢
|
|
桐矢/待望の「紫の砂漠」の続編
|
<a href="/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/?aid=&bibid=01937825&volno=0000" target="_blank">「紫の砂漠」の続編。 一生に一度の「真実の恋」によって性別が分かたれる種族が、紫の砂漠を囲んで暮らしている。真実の恋人を亡くした主人公シェプシは、いまだ産む性でも守る性でもないまま、優秀な書記としてのぞまれながらも、詩人になることを選ぶ。 一方、昔、この星に降り立った「神」の言葉が解明され、禁囲区域だった紫の砂漠が開放され、平和だった種族の間に争いがおこる。 「紫の砂漠」よりももっとSF色が強く出ているような気がするが…
|
|
|
水の通う回路
|
|
桐矢/読後感のいいミステリー
|
人気ゲームソフトをプレイした日本中の子供達が「黒いマントを着た男」に襲われる幻影を見た。同時に多発する自殺未遂。そんななか、かぎを握るゲームソフトを開発した責任者は突然姿をくらましてしまう。 面白かった。久しぶりにこれだけ緻密に組み立てられた作品を読んだ。催眠や精神など、わたし好みのディティールに、最後まで分からなかった犯人探しまで一気に読ませる構成。 「水の通う回路」とは、いい得て妙。 日本のディズニー、そう呼ばれるゲームソフト社長、桐生。桐生と全く正反対、俗物であくの強いライバル社の社長、神埼。口数の少ないゲームデザイナー。それぞれ、類型的に流れそうでちゃんと厚みのある個性を持っている。…
|
|
|
イエスの遺伝子
|
|
桐矢/一気読みミステリー
|
面白かった。結構ずっしりと長いが、一気に読んでしまいました。 遺伝子学者である主人公は、不治の病に冒された一人娘を救うために、科学の英知を結集してタブーに挑む。今だかつて最大の奇跡の治療を行った人物、イエス・キリストの遺伝子。その秘密を解明すること。それだけが残された希望なのだ。 イエスの遺伝子を解読できるとしたら…そんな発想の面白さと、主人公を暗殺しようと狙う、狂信的な宗教団体との手に汗握る攻防が本書の長さを感じさせない。 解説にもあるように、本書に出てくる科学技術は、現実にもほんのすこしで手に届きそうな極めて迫真性があるものばかりだ。一つ一つのエピソードにしっかりしたリアリティがある。…
|
|
|
タイムライン
|
|
桐矢/時代冒険活劇
|
時間テーマのエンターティメント巨編。帯によるとすでに映画化が決まっているそうだ。 量子テクノロジーによって開発されたタイムトラベルで、14世紀フランスで行方不明になってしまった教授を探しに、助教授と3人の大学院生が、時空を超えた冒険に旅立つ。 波乱万丈はらはらどきどきで最後まで一気に読んでしまった。読者をぐいぐいひきつけるテクニックはすごい。それより驚くのは、量子テクノロジーがメインテーマではないということだ。十分にメインテーマになりえる、これだけの知識と仕掛けが、中世フランスでの冒険を描くためのただの道具でしかないのだ。だから、科学に興味のない読者でも十分楽しめる。恋あり、友情あり、典型的…
|
|
|
王国記
|
|
桐矢/無垢な神の冷たさを
|
<a href="/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/?aid=&bibid=01584530&volno=0000" target="_blank">「ゲルマニウムの夜」の続編。 主人公、朧(ろう)が前作にもまして魅力的だ。修道院のシスターを妊娠させた朧は、屈託ない笑いを浮かべて言う。 「ぼくが例えば人を殺したとします。それからおんなの人を妊娠させて生命を誕生させたとします。そうしたらぼくの殺人は許されますか? 」「なぜってぼくの殺人のせいで喪った生命を自分の性行為で償ったわけですから」 朧は、修道院に戻る前に人を殺している。それを知らない先生が答えるまでもなく、朧…
|
|
|
ゲルマニウムの夜
|
|
桐矢/神を求めて
|
芥川賞受賞作。 思っていたのと全然違っていた。過激な性描写、暴力描写、そして芥川賞ではなく直木賞のほうが ふさわりかったのではないか…などという話を耳にしていたので、エンターティメント寄りのハードボイルド作品かと思っていた。 見事に期待以上の作品だった。舞台は、久里浜修道院兼救護院。社会の枠から外れてしまった子供達が収容されている檻。その檻の中で、主人公、朧(ろう)は、神に唾を吐く。 全然違う話なのに、遠藤周作の<a href="/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/?aid=&bibid=01342667&volno=0000" target="_blank">「深い…
|
|
|
デミアン
|
|
桐矢/魂を導く本
|
再再読である。はじめて読んだのは中学生だったろうか、高校生だったろうか。その時からデミアンとアプラクサスという名前が私の頭の奥底に住み着いた。 そもそも、私はめったに再読をしない。読むべき、読みたい本がありすぎて、一度読んだ本を又読む時間が惜しいからだ。 去年文庫本で見つけて再読し、感想を書こうとぱらぱらめくっているうちに結局もう一度読んでしまった。私の頭の中に住み着いていたアプラクサス(善悪併せ持つ神の名)は、思っていた以上に、私に影響を及ぼしていたらしい。お恥ずかしいことに、はじめて書いた小説(未刊行)のテーマがこの世は善と悪を併せ持つというものだった。その時は、自分なりのオリジナルな主…
|
|
|
二進法の犬
|
|
桐矢/愛をまっとうすること
|
著者の言葉から 「あなたは愛を全うできるか(中略)心の奥底に隠された深くて暗い闇こそがこの作品のテーマである。これはあなたとわたしの、そして全ての人々の、心の奥底を描いた小説である」 やっぱり花村萬月はすごい作家だった。この作品のエッセンスは上の著者の言葉に集約される。全ての人が抱える闇の奥でうごめく不安、狡さ、狂気を真正面に見据えてどこまでも一緒に落ちて行こうというその潔さに感服する。 主人公鷲津が家庭教師を引き受けた女子高生倫子は、少数精鋭の武道派博徒の組長の娘だった。インテリぶっていても所詮はまっとうな職業に就く事も出来ず、高級住宅街の奥様にパソコンの個人教授の課外授業でお小遣いを貰って…
|
|
|
エリ・エリ
|
|
桐矢/ストレートど真ん中SF
|
第一回小松左京賞受賞作品。小松左京がさまざまな作品で描いてきたテーマ、「人類の未来」「神の存在とは」に真正面から取り組んだ力作。 舞台は21世紀半ば。「神はいない」敬虔なクリスチャンだった友人の最後の一言が、主人公の牧師、榊をアルコールに溺れさせた。極限まで進んだ科学が非論理的な存在を否定する。 その一方で異星人による誘拐・アブダクション事件が続発していた。神を失った人類は、超越者としての異星人を求めるのか。NASAでは、太陽系外の地球型惑星へ宇宙船を飛ばそうというホメロス計画が進行している。 そして、教会の威信をかけて、「科学によって神を証明」するために、バチカンの教皇自らが目をつけたのが…
|
|
|
「超」勉強法
|
|
桐矢/勉強ほど、贅沢で楽しい趣味はないと思う
|
一度読んでみようと思っていた本。今となっては類似本がいろいろ出ているようだが、さすがにいろいろうなずかされることが多かった。 勉強そのものは、教えてもらえても、勉強の仕方は誰も教えてくれない…。それを教えてくれる、優秀な教師であったり、家庭教師だったりするのだろう。 一番、共感した言葉。「これらは投資としての勉強ではなく、消費としての勉強である。何のみかえりも期待せず、勉強することそれ自体を目的とする。これこそが、究極の勉強法であろう」 もう、全くその通り。消費のための勉強は、ほんとうに楽しい。もちろん、この本は、「受験のための」勉強とか、「コミュニケーションのための」英語の勉強とか、「仕事…
|
|
|
でりばりぃAge
|
|
桐矢/少女の仕組み
|
主人公の中学二年生、真名子の家では週に一回は宅配ピザが夕食になる。教育マニアで健康マニアな母親は毎朝腐ったプールの藻のような色の健康ジュースを作り、夜は教育研究サークルに出かけて留守にする。 おとなになりかけの少女の目の前に、理想的なモデルはもうない。古くさい女性像には吐き気がするし、理解ある態度を演じるとりつくろった母親の教育論にもうんざりしている。 そんな時、夏期講習で出会ったロン毛の浪人生と、庭先に真っ白い洗濯物のはためく古ぼけた家。ちょっとだけ寄り道をすることで真名子は自分自身を取り戻していく。 14才の少女の揺れる心は、男性にとっては摩訶不思議でヒステリックにしか写らないのかもしれ…
|
|
|
虚無への供物
|
|
桐矢/暗黒の混沌
|
初めて読んだのは、18才の頃だった。その頃一人暮らしをしていたのを幸いに、ご飯も食べずに、13時間ぶっつづけで読み通した連続最長読書記録を作ったのがこの本である。 題名からして、ぞくぞくしてきませんか? 舞台は、昭和29年の下町、とあるゲイバア(男色酒場)。サロメを踊る少年が観客の男性に、黄色い薔薇を投げる…ところから始まる。 まず、氷沼家の次男が背中に十文字の鞭の跡を残した裸のまま殺される。そしてその一番の容疑者と思われていた叔父が密室の中で殺される。 登場人物たちがそれぞれ独自の推理を順番に披露していくのだが、その合間にもつぎの殺人事件が起こる。交錯する推理ゲーム。五色不動伝説。氷沼家の…
|
|
|
永遠の仔
|
|
桐矢/その先にある救い
|
天童荒太のベストセラー。 物語は1979年と1997年とが同時に進行していく。17年前、霧に煙る霊峰の登山道で起きた事件。それ以来、ずっと別々の道をたどっていた優希と笙一郎と梁平が、運命に導かれるようにして再会する。そして再び事件は起こる。 この作品は自分をアダルトチルドレンだと自覚していてなおかつその事実を消化出来ていない人…は読まないほうがいいかもしれない。辛い描写が多すぎる。 救いを描くために地獄をも描かなくてはならないのは、作家の宿命なのだろうか。残酷なシーンが話題になった同じ作者の<a href="/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/?aid=&bibid=…
|
|
|
火怨
|
|
桐矢/判官びいきのつぼ
|
時は平安時代、東の果てに住む蛮族、蝦夷(エミシ)は、長い闘いの末、征夷大将軍、坂上田村麻呂によって制圧される。そして、最後まで抵抗した頭領、阿弖流為(アテルイ)は都で斬首刑になる。…とここまでは史実として明らかになっているから、歴史物は、読み進んでいて感情移入するほどつらくなる。主人公の行く末が決まってしまっているのだから。 ヤマトタケル、源義経などと同様の、志半ばで散った不遇の英雄への贔屓目…をぬかしても、主人公の阿弖流為(アテルイ)は魅力的だ。冒頭、まだ年若い阿弖流為は、蝦夷の決起を密告しようとして裏切った男を、身を賭してかばい、かけがえのない腹心を得る。読者を落とすつぼが、なんとも上手…
|
|
|
平気でうそをつく人たち
|
|
桐矢/悪を考える
|
この本は、副題にある通り、「虚偽と邪悪の心理学」の本である。「悪」に関しての心理学は、今までほとんど研究されていなかったという。人が生きていく上で、避けて通れない問題であるにもかかわらず。 精神科医である著者が臨床の場で出会った、邪悪な人達についての、具体的な例が挙げられている。うそをつき、人を踏みにじり、己の欲を満たそうとだけする人々は確かに存在する。 著者は、キリスト教信者としての立場を隠そうとしていない。悪が行き過ぎた利己心の行使であるとするならば、自由意志の意義について考えざるをえない。 「私自身の見方にしたがえば、自由意志の問題は、(中略)パラドックスである。一方では自由意志という…
|
|
|
われらのゲーム
|
|
桐矢/孤独な男の慟哭
|
引退して悠々自適の生活を送っていた元英国諜報部員ティムがある日突然追われる身に。元部下でパブリックスクール時代からの旧友ラリーが、ロシア政府から大金を搾取して失踪し、警察はティムも共犯だと疑っているのだ。そして…ティムの愛人のエマも一緒に失踪していた。 諜報部員…スパイ物なのだが、緊迫した機密情報のやり取りや派手な銃撃戦は全く出てこない。物語はラリーとエマを探すティムの一人称で回想をはさみつつ進む。 ラリーは言った。「あんたはおれの人生をぬすんだ。おれはあんたの女を盗んだ。それだけのことじゃないか」 いつも作り物の笑みを顔にはりつけるようにして生きてきたティムの内面の、絞り出すような苦悩が全…
|
|
|
寄り道ビアホール
|
|
桐矢/女のおじさんと、男のおばさん
|
朝日新聞の家庭面に連載していたエッセイ。 さざえさんの時代から、会社帰りにビールを一杯、くだをまいて政治の話をぶつのは、オヤジと決まっている。寄り道カフェテリアではない。あくまでビアホール。 巻末の重松清との対談が面白い。おとこのオバサンの代表、重松と、おんなのオヤジ篠田節子が対照的だ。オバサンの価値観を一言でいうと、「家内安全」。さてオヤジはというと、「大義という幻想」。芸術でも仕事でも我が社の利益でも、大義のために自分を犠牲にすることをいとわない価値観。なるほどなあ…とうなずかされる。 なかでも、そうそうと思わされたのが、異世界の異なる感性の人とお茶を飲もう(ビールでもいいが)という薦め…
|
|
|
弥勒
|
|
桐矢/この世に救いはあるか
|
壮絶な作品だった。物語は贅沢できらびやかなパーティ会場から始まる。 新聞社の事業部員、永岡は、貴重な仏教美術が散逸してしまうことを恐れて、政変のため鎖国状態になってしまったヒマラヤの小国パスキムに単身潜入する。 同じ作者の<a href="/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/?aid=&bibid=01777273&volno=0000" target="_blank">「ゴサインタン」でもそうだったが、現地の描写が迫真を持ってせまってくる。革命政府にとらわれ、銃を構えた兵士に見張られながら、ぼろ小屋で寝起きし、やせた畑を耕す。ヒマラヤの空気、清涼感、飢えと貧しさがく…
|
|
|
わがままな脳
|
|
桐矢/ひざ突き合わせて最新の脳の話を
|
口語体で読みやすいし、面白かった。 脳科学者で認知神経科学専門の著者が、脳と心にまつわる話を「大学生になりたての方や高校生を相手にひざを寄せつつ話す」ような感じ。大学の講義では脱線につぐ脱線ばかりという著者のキャラクターがうかがえて楽しい。 読みやすいが、内容は今最新の研究が取り上げられている。絶対に再生しないといわれていた脳細胞が生後も増えることがあるというのもごく最近分かったことだ。 著者は、自分とはなにものなのかという問いに取りつかれて以来、哲学にその答えがあるものと思って探しつづけた。だが、得た答えは、そんなことは誰にも分からないというニヒリズムの境地だけだった。本人いわく「哲学にず…
|
|
|
絵の言葉
|
|
桐矢/絵は万国共通?ほんとうに?
|
外国語は知らない人には理解できないけれど、絵なら、万国共通。本当にそうだろうか? 日本語の分からない外国人でも、書道を絵としてその形を鑑賞することは出来る。同じようにたとえば日本人が17世紀の西洋の静物画を見るとき、その「意味」を知らずに形だけで鑑賞しているのではないだろうか。 絵にもそれを「読み解くための言葉」がある。絵の言葉、アイコノロジー(イコノロジー)=描かれた図像の意味を研究する学問について、古今東西さまざまな実例をあげながら、軽く読みやすい対談形式で真相に迫る。 たとえば、時間を表現するのに、西洋では左が過去、右が未来になるのに対して、日本では逆だ。 哲学などという抽象的な概念さ…
|
|
|
羽根と翼
|
|
桐矢/不思議な読後感
|
とても不思議な読後感だった。 六十五歳を過ぎた初老の男の一人称で物語は始まる。市役所から送られてきた「高齢者」アンケートに腹立たしさを感じつつも、自分の体と精神に忍び寄る老いのかげを無視できない。退職して二年たつのに、妻と平日の昼間にスーパーに行く気恥ずかしさに慣れることが出来ない。 そんなわたしが、たまたまもと同級生と再会したことから、もう一度過去に向き合わざるを得なくなる。過去をたどって「共産党宣言」を読み返し、55年度卒業生の会に出席し、同級生の消息を訪ね歩く。妻は言う。「思い出ごっこ」にはまるのもいいかげんにしてね、と。 点滴につながれた元同級生の老人は、共産党宣言はメルヘンだったん…
|
|
|
小説を書きたがる人々
|
|
桐矢/あなたはどれ?
|
小説を書きたがり、かつ、小説家になれない典型的な10タイプが、小説仕立てで書かれている。読み物としても充分面白い。 血液型占いに始まってエゴグラムだの何だの、人をタイプ別に分類するのは楽しいものだ。著者は、数々の新人賞の下読み、選考委員をした経験から、本人曰く「こと小説を書きたがる人達の実態について、私は、日本で一番と言わないまでも、現時点で、五本の指に入るくらい詳しい奴だと威張ってもいいのではないだろうか」だから実感がこもっている。 救われるのは、著者が、そういう人々を糾弾するためにではなく、なんとかして、書ける人々になれる手伝いをしたいという人道的な見地で語っているということ。具体的なア…
|
|
|
宇宙消失
|
|
桐矢/驚きのテクノロジー世界へ
|
ばりばりのナノテクと量子論のハードSF。 2934年、地球の夜空から星が消えた。完璧な暗黒の球体が一瞬にして太陽系を包み込んだのだ。球体は「バブル」と呼ばれ、世界各地に恐慌がおこったが、その正体はわからないままいつしか人々は星空のない日常をとりもどしていく。物語は、その33年後にはじまる。元警察官の主人公は、行方不明の女性の捜索依頼を受ける。その女性は幾重にも厳重に警戒された病院から忽然と姿を消していた。 著者が描き出す2068年のテクノロジー世界に驚く。データの送受信が頭の中で出来るだけでなく、手軽に脳を操作して五感を強化したり感情をコントロールしたり出来る。探索用の遺伝子改変「蚊」。紫外…
|
|
|
祈りの海
|
|
桐矢/静かな夜明けのような読後感
|
ヒュ—ゴー賞・ローカス賞受賞の中・短編集。 バックアップ用の宝石を頭の中に持つようになった人類の話、はるか遠くの惑星に暮らす人類の話、仮想現実における人類の可能性の話。多彩な11篇が収録されているが、前半の短編と後半の中編では、カラーが違うように思える。 短編は、奇想天外な設定に頭がぐるぐるするようなアイデア、そしてきっちり落ちが用意されている。それに対し中編は、はっきりした落ちがない。うねるような流れにページをめくっているうちにその世界観にどっぷり漬かってしまう。ずっしりと重量のある長編を読み終えた気分になる。だが長編といっても<a href="/cgi-bin/srch/srch_det…
|
|
|
姑獲鳥の夏
|
|
桐矢/強烈なキャラクターにはまります
|
いきなり持ち込みから出版されただけあって、抜群の面白さ。6時間一気に読んでしまった。31才の若さでこれだけのものを書き上げるとはやはり、ただ者ではない。 雰囲気的には、金田一耕介の、おどろおどろしい推理もの。そういう感じ。旧家に伝わる禍禍しい伝説。岩下志麻が出てきそうな。 京極堂の講釈、聞いていて楽しかった。広い知識と見識の持ち主でありながら独特の偏狭なキャラクター。その外にも個性はみ出るくらいの強烈なキャラクターの面々が楽しい。 今回のトリック(たね?)そのものは、昭和の戦後しばらくという、この設定でなくては、使えないものだが、この設定自体、京極さんによると、妖怪的なものがまだそこらへんに…
|
|
|
塗仏の宴
|
|
桐矢/ぎゅーーっと詰まった怖さ
|
京極堂シリーズ、今回は、この分厚さの上、二冊組ときた。もちろんものすごく、中身がぎゅーっと詰まっているのは今まで以上だ。いっきに読んだが、さすがに一日では読み切れず、一冊目を読み終わって寝る前、夜中にトイレに行くのがちょっと、恐かった。 塗仏とは、聞きなれない名だが、この妖怪の正体が明らかになるにつれて、この事件の性質も明らかになってくる。 いつもの通りの京極堂の「付き物落とし」が、宴のクライマックスになるわけだが、ここにいたるまでの、そうそうたる顔ぶれが豪華だ。前作までを読んでいなくても筋には支障がないが、前の事件の関係者がごろごろ出てくる。それに、京極堂を囲む奇天烈な面々も、今回はそれぞ…
|
|
|
魍魎の匣
|
|
桐矢/とにかく怖い「はこ」
|
京極堂シリーズの中でこれがいちばん恐かった。わたしにとって箱に手足を切って詰められた男(女)というイメージは文句無しに恐い。もっとも、知り合いは、そのイメージに「笑ってしまった」と言っていたから、何が恐いのかは人によってずいぶん違うようだ。 4つの殺人事件が絡み合いながら、複線伏線で、一気に最後まで読ませてしまうパワーはやはりすごい。これだけの話の複雑さは、作者自身書いていて混乱したりしないのだろうか? 今回は、しぶい木田が主人公。もちろんいつもの面々も登場している。占い師と、宗教家と、超能力者の違いについての講釈など、京極堂の話が興味深い。
|
|
|
どすこい(仮)
|
|
桐矢/完璧なパロディ
|
げっぷ…。この厚さで、まるごと「でぶ」のオンパレードにやや食傷。 京極ファンなら驚く、ベストセラー小説のでぶパロディ短編集。題名からして笑える。「パラサイト…デブ」「すべてがデブになる」「リング(土俵)」「脂鬼」…etc。全部通して読むと、きついが、それぞれはばからしくて笑える。 例えば、脂鬼…「ここは今、でぶに包囲されているのよ。村は脂肪に囲まれている!」死者が太って蘇るという「膨れ上がり」。電車の中で読んで吹き出してしまった。 ほとんどの作品に出て来る、美人だがきつい性格の編集の女性がいい感じのキャラだ。脂肪腹をヒールで踏みつけて…。実在するのかなあ…。
|
|