コメント・書評 |
不安の時代に訪れた、ある一つの終焉
キイスミアキ
Apr 21, 2002 3:02:00 AM
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評価 ( ★マーク )
★★★★
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世界の主要な都市の上空に突如として現れた巨大な銀色の船。その船には、乗員であり、地球に存在するすべての国家を統一すべく統治を行う、オーバーロード(上帝)呼ばれる一人の存在があった。彼は国連事務総長を通して、地球に暮す人類に多大な影響を与え、世界は戦争や犯罪行為などが一掃された理想的な姿を手に入れた。だが、オーバーロードの真意を知るものは、地球上に一人として存在しえなかったのである……。 この作品が出版されたこの年、アメリカは社会不安に満ちていた。1953年当時、アイゼンハウアー大統領が率いるアメリカ合衆国政府は、公務員に対する大々的な思想調査──俗に言う赤狩り──を行っていた。この年の7月には、米軍から3万3千人もの戦死者を出した朝鮮戦争が漸く終結した。そんな不安の時代に、『幼年期の終り』は書かれていることは興味深い。 作中のアメリカ、他の国々と地域を含めた全世界は、宇宙からの来訪者《オーバーロード》という超現実的な存在によって、超然としたこれまでにない形の平和を手に入れる。戦争がなく、争いがなく、軍事費の支出が必要とされなくなった社会は、貧富の格差をも過去の物とした。そして、圧倒的なまでの平穏が永遠に続くものと思われていた。 だが、永遠に続く存在などはこの世にない。表紙に描かれた、細胞の一つ一つが離れて行くかのように身体を失っていく子どものイラストや、タイトルの『幼年期の終り』という言葉が象徴しているように、地球と人類も変化していく、成長していく存在なのだから。 この《だが》が存在するからこそ、SFなのだ。永遠に続くかに思われた一瞬が、どのように終りを告げるのか、本作の興味は章を重ねるごとにこの一点に収束されていく。 この作品でアーサー・C・クラークは、大きな不安を抱えながら構成されている地球人たちが、全知全能とも思われる存在、オーバーロードによって飼育されていく姿を描いている。この飼育こそは、不安を取り除く決定的な手法によってなされた現状の打破であり、本作が上梓された当時の社会不安に対する一つの逆説的な解決法の提案となっている。我ながらくだらない邪推に過ぎないと思ってしまうが、貧富の格差を克服した平等な社会は共産主義の理想が、軍事力を必要としなくなった平和な社会の想像に絶大な力を持ったオーバーロードという抑止力が働いているという事柄からは核の抑止が、それぞれ想像させられる。現代社会の批判を行うことも、SFがSFたる所以だ。 クラークのSF作品は、豊富な科学知識や明晰な論理によって書かれていることが魅力というよりは、詩情豊かでファンタジーとも理解できるような高い物語性を持ちえているという点にあると思われる。SF作品に対して、SFの巨匠に対して、ファンタジーという言葉を使ってしまっては適当でないかもしれないけれど、物語の展開や個々のエピソードには、確かにファンタジーが存在している。 本作では、宇宙からの来訪者が謎となり、彼の姿が明らかとなってからはその来訪と人類の統治が持つ目的が謎となり、一人の人間が生きるには長すぎる時間をかけてゆったりと謎が解かれていく。それこそまるで、親子三代の一生を綴った文芸作品のように。 人類の行く末というシンプルだが力強い謎を魅力の根幹として、クラークならではのファンタジー性が枝葉のエピソードに醸しだされている、素晴らしい作品。 |
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