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あいどる  角川文庫

あいどる(角川書店) ウィリアム・ギブスン著
浅倉 久志訳
税込価格: ¥800 (本体 : ¥762)
出版 : 角川書店
サイズ : 15cm / 392p
ISBN : 4-04-265904-7
発行年月 : 2000.5
利用対象 : 一般

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コメント・書評

ヴァーチャル・アイドル:才能と魅力の永久機関
於筋 揚羽
Mar 7, 2002 8:07:00 AM
評価 ( マーク )
★★★★★

 物語は、「ゴジラ大震災」なる死者8万6千人を出す天災があった後、何事も無かったかのように瞬く間に再生していく近未来の東京を舞台としている。復興の繁華街は、欧米の国の暗黒街やスラムを装おう、などの相変わらずのコンセプトを繰り返している。
 一方、ネット上では香港の九龍城が復元され、そこで「日本の今日的アナキスト」とでも言うようなオタク達が分散型制御によるコミュニティを築いており、その無法都市と同じ地平で、ヴァーチャルアイドル・投影麗の「新型試作品」がただのお人形から、ネット上で存在する人工生命として育ちつつあった…。

 そこへアメリカのロックグループ「ロー/レズ」(Low Resolution;低解像度の意)のレズが彼女との結婚を表明する。彼等はスターお決まりのファッションは別にしてセックス、ドラッグの乱行を自負するといった、ロックスター的アピールの仕方を一切拒否し、定期的に作品を出し続けるといった繊細さ、賢明さがある。
 それは、投影麗の「スターの平均値から最大公約数的に割り出した」のではない、キャラクターデザインにもまた通じる。ロー/レズは投影麗プロジェクトの出資者であり、麗との結婚は、ネット上の膨大な経験値を吸収し成長を続けて「進行する連続的な創造」を行うヴァーチャル・アイドルと同一になりたいと言う、アーティストとしての願望があるのはやはりどうしても隠せない。

 作中に現れる「結束点」という概念は、いわゆるプロファイル捜査の方式を想像させることだろう。つまり具体的な事柄、状況が自然に積み重なっていく中でそれらが取り巻く意味を知り何らかのかたちを見い出す、その意味・かたちが、プロファイリングにおいては犯人像であり、物語では「結束点」と言い表わされてる(ここでは犯罪に限らず世界のあらゆる事に関わるもの)。
 この結束点を感覚的に探り当てる才能を持つレイニーという人物は、パパラッチとしてしかその力を発揮できずにいる。しかし音楽にしろ小説にしろ芸術の「創造力」とは、多くは「結束点」を捉えたものであると言ってもいいかもしれない。
 レズはハイテクの力で先ずは自己の限界を超えて膨大な蓄積を可能にしようとした。音楽なら一途に音楽の世界の事だけを考えてれば良い表現ができる、と言うものでは決して無い。その対称にあるのは、世界中の音楽データを蓄えたソフトウェアのキャラクター「ミュージック・マスター」である。
 曰く、「彼にできるのは講釈だけだ」と。
 現実でもアーティストが、音楽とは直接関係しない物事にも数多く触れた経験値のバックグラウンドを築いた上で、良質の表現が成り立っているのだ。

 一方で、仮想九龍城の住人の一人である引きこもりでオタクの正彦という少年は、多分その姿を端から見ればまるで非生産的なでくの坊としか判断されない様な人物である。しかし、私にとって正彦はけして嫌いな人物ではない。彼はアメリカから来た可愛い少女チアに対しても、麗に対しても、性的な興味を示さない。大抵の人間は性衝動に若い頃のエネルギーの大半を消耗してしまうものだが、正彦の場合は仮想都市のコミュニティ構築と、まだ家族も知らない心の問題との葛藤に、密かにそのエネルギーは費やされているのだ。
 終盤、チアにも仮想九龍城の住人として一室を与えられ、そこから正彦等と共にレズと麗の「錬金術的結婚」プロジェクトの進展を見守っていく。
 レズが麗について「麗の唯一の現実は、進行する連続的な創造の領域なんだ。純粋なプロセス--」と語っているが、その小さな芽がを正彦やチアの中にも感じさせるラストであった。
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