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博士の愛した数式  新潮文庫

博士の愛した数式(新潮社) 小川 洋子著
税込価格: ¥460 (本体 : ¥438)
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出版 : 新潮社
サイズ : 16cm / 291p
ISBN : 4-10-121523-5
発行年月 : 2005.12
利用対象 : 一般

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内容説明

【読売文学賞】【本屋大賞(第1回)】

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コメント・書評

偽善小説
yjisan
Jan 5, 2010 1:55:11 AM
評価 ( マーク )
★★

 本書に見える「友愛数」に「完全数」といった知識は、ただそれだけでは「へえ~」というトリビア的なものに終わってしまう。
 それら数字の不思議さへの好奇心を偏愛的なまでに誇張し、美しくロマンチックに表現する。「無味乾燥」という数学への世間的な印象とのギャップを巧みに描いた点に作者の巧妙さがうかがわれる。
 ただし、数学科にいる私の友人は「数学の本質と関係ない」と言っていた(笑)
 高尚な数学と通俗な野球という組み合わせも良い。

 ただ対象選択の希少性(「記憶障害の数学者」)の利用という戦略は安易。障害者の美質を讃えるという偽善的手法は、個人的にはあまり好きにはなれない。こういう狡猾で陰険なぶりっ子的偽善がもてはやされるようでは世も末である。安っぽい感動の押し売りは願い下げだ。

 本作品の「博士」は、事故以前の記憶と直近80分前までの記憶しか保持できない。そのため家政婦である「私」やその息子「ルート」との関係は全く進展していかない。経験が積み上がっていかない、〈未来〉のない、一見不毛な関係である。
 そんな彼らをつなぐものは、普遍的な真・善・美を体現する数学、そしてその背景にある〈優しさ〉や〈思いやり〉〈愛〉といった人間の普遍的な美徳である。
 しかし、この穏やかで幸せな理想的関係は、実は先生の記憶障害を基盤としている。仮に気まずくなっても、「博士」はやがて、そのこと自体を忘れてしまう。80分経ったら関係がリセットされてしまうからこそ、「私」はこの変人と気軽につきあえるのである。
 実際、「私」は「博士」の〈過去〉に通り一遍の興味しか示さない。「博士」が「私」の過去を穿鑿できない以上、それはフェアな態度とも言えるが、意地悪く見れば、「博士」の〈過去〉を背負いたくないともとれよう。

 そのことは「博士」の義姉と比較すれば、より明瞭になる。義姉は今でも「博士」のことを愛しているが、「博士」の〈過去〉を知るが故に、〈現在〉の博士を見るのが辛くて、普段は会おうとしない。そんな義姉からすれば、何も背負わずに〈現在〉の「博士」と楽しく数学談義をする「私」の行為は、〈いいとこどり〉に見えて当然だろう。
 しかしながら、「私」は義姉のそのような気持ちに鈍感であるように思え、その点が私にはひっかかった。おそらく作者自身が上記のような構造にあまり自覚的ではなく、単なる「美談」にしてしまったからだろう。

 義姉の存在をもっとクローズアップ(あくまで「さりげなく」だが)、より深みのある作品になったに違いない。
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