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夜は短し歩けよ乙女

夜は短し歩けよ乙女(角川書店) 森見 登美彦著
税込価格: ¥1,575 (本体 : ¥1,500)
出版 : 角川書店
サイズ : 20cm / 301p
ISBN : 4-04-873744-9
発行年月 : 2006.11
利用対象 : 一般

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内容説明

【山本周五郎賞(第20回)】【大学読書人大賞(2010)】「黒髪の乙女」に片想いしてしまった「先輩」。ふたりを待ち受けるのは、奇々怪々なる面々が起こす珍事件の数々、そして運命の大転回だった…。キュートで奇抜な恋愛小説in京都。『野性時代』掲載を単行本化。

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コメント・書評

流行作の(ちょっと遅めの)楽しみ方
拾得
Nov 19, 2008 11:38:09 PM
評価 ( マーク )
★★★★

 流行作品とよぶには、たいへん時間が経っていましたが、遅まきながら本書を手にとりました。刊行後2年も経ちますと、新聞・雑誌での紹介や著者インタビューをはじめ、オンライン書店でも多くレビューがなされ、はてはマンガにもなってしまうなど、読んでいなくても軽く「読んだ気」になるくらいの情報量にさらされてしまうようです。そうなると、自ずと楽しみ方もかえなくてはなりません。多くの評者によると本作は「一気に読める」そうですが、じっくりと味わうことに楽しみを見出してみましょう。
 本作は、恋いこがれる黒髪の乙女を前に、妄想だけが先走る「先輩」、そしてなんだか怪しげな人物がわんさか出てくる、という奇妙さが強調されてきたような気がします。が、京都での学園生活の一年を背景に、男女のモノローグが交互にそして丁寧に綴られていく小説とも要約できます。男女のモノローグだけを取り出しますと、面白い二人芝居になるかもしれません。
 ただ、こう書いてしまいますと、何やらとても落ち着いた雰囲気にみえますが、そうはなりません。本作のどこか浮き立つような雰囲気は、季節感覚よりもキャンパスの催しのほうが合うのでしょう。サークルの飲み会や歓送迎会、古本市、文化祭といった、学生生活を彩るイベントが舞台となります。先輩の妄想、もしくは、恋される黒髪の乙女の軽快なテンポとともに、読者もそのイベントを追体験できるわけです。とくに文化祭のシーンは圧巻です。神出鬼没の演劇「偏屈王」と「韋駄天炬燵」とをからめて繰り広げられる、二組の男女のすれ違いと出会いは、恋愛小説であると同時に、ミステリーでもあります。世の大学生は、ぜひこの演劇の真似をしてほしいです。
 さて、「先輩」の妄想は全開というよりも、空回りに近いところがあります。本人も「外堀」を埋めているだけではと告白します。ところがよく読むと、気になる女性を、適当な距離をもって見守り、その人が参加するというイベントに自分も気になってつい参加してしまう、という意外にまっとうな、そして奥手な「恋する男」の一人にすぎないようです。ただし、それを阻害する奇妙な者が沢山出てきます。三階建ての電車は何なのでしょう? 実は彼の妄想のなぜるわざなのかもしれません。そして、彼の思いは空回りのあまり、「私は根本的大問題へ挑んだ。・・・正しい恋路を踏み外して「永久外堀埋め立て機関」と堕したのはなぜか。・・・私は、実際のところ、彼女に惚れていないのではないか」(248p)とさえ煩悶しだします。なんだか大正時代の私小説のようですね。
 しかし、そうした昔話とは異なって、この作品がある明るさをもつのは、設定の楽しさと、女性側のモノローグがあるからかもしれません。恋される黒髪の乙女の、恋されていることに気がつかないままに、天真爛漫に京都生活を楽しむさまが丁寧に綴られる点は,読んでいてほっとします。文化祭で、”ある”ぬいぐるみを背負ったまま歩き出すところなど、とても想像力を刺激します。いや、映像で見てみたいです。
 本作は恋愛小説というよりも、恋愛、いや二人が「きちんと出会う」までの迂遠な物語です。この設定は、どこかで見聞きしたことがあるなあと感じますが、「君の名は」のような「すれちがい」とも異なりますし、映画「ワンダーランド駅で」に近いか、などと考えていて思いついたのが、「アメリ」でした。あの映画では外堀を埋める役は女の子のほうでしたが、おなじく「変な」もとい「愉快な」仲間も多かったお話でしたよね。
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