コメント・書評 |
置き去りの哀しさ
AQUIZ
Sep 11, 2008 1:53:59 PM
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評価 ( ★マーク )
★★★★★
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江戸が舞台の時代物であり、出自通りに人ならぬ妖達が罷り通る和製ファンタジィであり、広義の安楽椅子探偵ものである(実質は、椅子に座るも侭ならぬ病床探偵であるが)。 古典推理小説の様式を雛形とすれば、あらかた規格外揃いとなりそうな近年のミステリの体裁に近い構造となっている。 しかし、当シリーズの本質は「置き去りの哀しさ」ではないのだろうか。 探偵役たる主人公、一太郎は、両親始め、現代社会に置き換えれば大企業である店の一同、揃いも揃っての溺愛が過ぎ、布団に沈んでいるような少年である。 幼時の一太郎は、今と変わらず寝付いてばかりで、家の回りで友だちと遊ぶにも不自由する有様。家族は誰も優しく、その気になれば贅沢三昧もできる裕福さ。しかし、どこへも行けない。大人になれず死ぬのだろうと、もはや絶望も恐怖も薄い。寝床の中に置き去りにされて、明日の無い一太郎。 計らいあって、虚弱ながらも長らえた一太郎は、彼を愛する多勢の妖の助力を得る。 まず、大方の人間に妖の存在は認識されない。 この構図は、事実とは異なるが多重人格者の物語と重なって見えるのだ。 水夫を従え、家業を取り仕切ることができる偉丈夫。 容姿端麗で博学、彼に任せられた店である薬種商を切り盛りできる才覚。 時に人をからかい、皮肉も云えば、良き同居人とも云える派手好みの男。 好き放題に、自由に、転げ回ることのできる身体。 布団に押さえ込まれたまま、一太郎は妖らに逆恨みもしない。自分の一部であるかのように。そうあれば、と思う力や特質が彼らにはあって、しかし、すべてが自分に都合良く運びはしない。 出会いと別れは、自室から離れられない一太郎ばかりが受け身になって起こるように感じられてしまう。置き去りの哀しさ。手足となり、目となり、耳となる妖らは、決して彼の道具ではないが、心の支えでもある。 そして、置き去りが約束されているのは、一太郎では実はない。 いずれ彼が、亡き祖父のように一切を棄てても良いと思えるものに出会い、病も切り抜けて天寿をまっとうしたとして。 彼を取り巻く妖らは、百年も千年も生き続けるのだ。 積み重ねるほどに散らばった時の残骸は広がることを知っているのに、こぞって一太郎との関わりを積んでしまう妖ら。 人外の威力ではない。あっけなく失うことを知り、それでもなお彼を愛そうとした妖らこそが強いのだ。 |
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