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100KBを追いかけろ
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コメント・書評 |
黒史郎を追いかけろ
仙人掌きのこ
Jul 27, 2008 1:03:52 AM
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評価 ( ★マーク )
★★★★★
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第1回『幽』怪談文学賞・長編部門大賞受賞者、黒史郎の四冊目の単行本である。 受賞作『夜は一緒に散歩しよ』は妻の死をきっかけに綻びをみせる日常を描いたサイコホラー、次の『獣王』は他に類をみない奇妙な愛の物語、そして3作目の『黒水村』は脱出型アドベンチャーゲームを思わせるライトノベル。そして本作では、作者がもっとも興味を持つもののひとつとしてあげている「都市伝説」と、工業地区で育った若者たちの「傷だらけの青春」の組み合わせにチャレンジしている。
物語の舞台は、横浜の鶴見だ。その描写は徹底してリアルで、登場する地名や店名はほとんどが実在のものだ。土地勘のある人ならば、「ああ、あそこのコンビニ」と見当がつくだろう。その空気のざらつきすら感じるような生々しい日常の中に突如として現れるのが、100KBというきわめて非日常的なキャラクターなのである。 ――100KB、100キロババア――有名な都市伝説のひとつで、走行中の車を高速で走って追いかけるという老婆である。100キロでも逃げきれず、追い抜かれた車は事故をおこすともいう。主人公たちは様々な理由からその老婆を追いかける事になる。しかし、「都市伝説」のウワサを追うというのならまだしも、老婆本人を追うと言うのだから、かなり荒唐無稽な話だ。街の描写がリアルなぶん、その非現実的な存在が浮いているように感じるが、読み進むにつれてその違和感は徐々に消えていく。そこには筆者特有の語り口のうまさがある。 黒史郎の使う修辞は独特だ。たとえば冒頭の事件の「ショートケーキ」。そして最初の事故の「卵」。いずれも日常にありふれた食品を用いたたとえで、パッとイメージが頭に浮かぶ。しかし、そこで起きているのは、とても日常的とはいえない惨劇である。一瞬ユーモアすら感じてしまうイメージと現実の情景のズレ、そのふたつが結びついた時、忘れ難いインパクトが読者を襲う。その中で現実と非現実の境界線は曖昧になって、「都市伝説」は生き生きとしたリアリティを獲得する。気がつくと読者は、違和感なく100KBを追いかけているのだ。
本書は350頁ちかい長編である。しかし、その疾走感はただ事ではない。まさに100KBのごとく、物語が進行していく。うっかりすると読者の「謎解き」を追い越すほどのスピードで。 今までの黒史郎の作品のなかでも、バランスの良さは一番だ。三人の若者を中心にした魅力あるキャラクター達、演劇やネット世界にも及ぶ多様なエピソード群、それらがジグソーパズルのピースのように、次々と噛み合わさっていく。ぜひ、まるごと一冊を一気に読みきる快感を体験してほしい。物語を駆け抜けたあと、あなたはランナーズハイのような至福を味わうだろう。
黒史郎は、今作でまたひとつギアをあげたようだ。しかし、まだ間に合う。その背中を見失わないようについていけば、おそらく今まで経験した事のない、優しさと狂気が混在した世界へ連れていってくれるに違いない。 さあ――黒史郎を追いかけろ! |
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