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海の底
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有川 浩著
税込価格:
¥1,680
(本体 : ¥1,600)
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出版 : メディアワークス
発売 : 角川書店
サイズ : 20cm / 451p
ISBN : 4-8402-3092-7
発行年月 : 2005.6
利用対象 : 一般
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コメント・書評 |
政治・人間・恋愛・そして巨大ザリガニ
テオ・カロア
Jun 11, 2008 5:34:43 PM
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評価 ( ★マーク )
★★★★
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一説には『塩の街』『空の中』そしてこの『海の底』で自衛隊三部作とも呼ばれる有川浩作品の海自編です。
今更言うまでも無くその完成度に定評のある有川浩という作家の作品、さすがの文章力である。 相当細かい設定が織り込まれているし、登場人物もかなり多数なのにしっかり物語が波打ちながら流れていく。お見事。
物語は、横須賀の海から人を食らう巨大ザリガニの群れが上陸したことで巻き起こるパニックが主軸である。 もっともここは怪獣が居て当たり前の世界では無い。当然、想定外の化け物の来襲に人々は騒然となる。犠牲者も大勢出る。 その描写は襲われるとか殺されるとかいう生易しいものではない。文字通り「食われる」のだ。 この辺り、人によっては嫌悪感で読めなくなる人も多いと思われるので先に注意しておく。生々しい描写があるので苦手な人は覚悟が必要だろう。
しかし、そういった事が苦手な人も最初の山を乗り越えれば大丈夫。 話の大半は有川浩お得意の政治と人間描写だからだ。 何故なら、この非常識な事態に直面しているのは極めて常識的な面々であり組織なのである。 怪獣が出ました。じゃあ戦車出して戦闘機出して戦艦と一緒にバンバン撃ちまくりましょう……なんて事には到底なり得ない。 ウルトラ警備隊なんかいない常識的な日本を舞台に、従来の常識で非常識な敵に立ち向かわされるのは――果たして警察であった。
本来人間相手に運用されるために組織された警察機動隊を、人を食う化け物相手に無理やり相手させればどうなるか……これが悲劇となる。 逆に言えば、何かあった時、現代日本において極めて慎重に運用されている自衛隊をいかに持ち出すか、が秘められた課題なのだろう。 実際、某全国紙で政治的観点から評価されたこともあるという。 ライトノベルと侮るべからず。この作品は真面目に現在の情勢を問いかけている。
また、作品を読んだ印象として、全体から大人の姿が匂ってくるのが魅力のひとつ。 他作でもその傾向があることから見て有川浩のポリシーなのだろう。 ここに出てくる海自隊員も警察官も陸自隊員も、職務に忠実で現実の難しさと戦う大人たちだ。如何にして事態を乗り越えていくか、自分の置かれた立場で苦闘する大人たちの姿が見られる作品である。 そんな追い詰められた状況から、痛快なひと言や打開策が飛び出してくる辺り、爽快だ。 これが、有川浩の作品が幅広い層に受け入れられている秘訣なのかもしれない。
ただ……難点がひとつ。 艦内での人間関係をひっかきまわしトラブルメーカーとなる中学3年の少年については…………年齢設定が少々辛いと思ってしまった。
いっくらなんでも中学3年を子どもに描きすぎである。 思春期と成長期の真っ只中である15歳の少年はここまで幼く母親に依存していない。ごく普通の中学生の自我がこの程度で収まるわけがない。 彼のとりまきである少年達も身近すぎる生活範囲から抜け出せていない事から、この設定だけが残念である。 恐らく閉鎖された人間関係から来る歪みを描きたかったと推察されるのだが……小学生ならまだしも、中学生にもなれば部活や趣味などで世界が広がり、その行動範囲は「クラスや団地のグループ」なんて枠には収まるものではない。 たぶん、これが小学6年辺りだったらしっくりしていただろうな、と思う。私は途中から勝手に「この子は小学生」と思って読んでいた。 だからこの点だけが残念で仕方ない。
それ以外では違和感も無く、有川浩の文章世界に引き込まれた。 作者の他の作品と比べて残酷なシーンがあるので少々面食らうかもしれないが、まぎれもなくこれは有川浩の実力作である。
なお、この『海の底』の番外編みたいな短編が『クジラの彼』に収録されている。登場人物の幅に惹かれた方はそちらも読んでみてはいかがだろうか。
『海の底』は大きく広げた風呂敷をしっかり包む、有川浩の筆力が遺憾なく発揮された作品である。 一読の価値があると言えるだろう。
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