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私の男

私の男(文藝春秋) 桜庭 一樹著
税込価格: ¥1,550 (本体 : ¥1,476)
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出版 : 文藝春秋
サイズ : 20cm / 381p
ISBN : 978-4-16-326430-1
発行年月 : 2007.10
利用対象 : 一般

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内容説明

【直木賞(138(2007下半期))】優雅だが、どこかうらぶれた男。一見、おとなしそうな若い女。アパートの押入れから漂う、罪の異臭。家族の愛とはなにか。この世の裂け目に堕ちた父娘の過去を圧倒的な筆致で抉りだす。『別册文藝春秋』連載を単行本化。

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コメント・書評

すさまじい近親相姦
kumataro
Apr 27, 2008 9:57:21 AM
評価 ( マーク )
★★★★

私の男 桜庭一樹(さくらばかずき女性) 文藝春秋

 読んでいて、ひとことで言うと「気持ち悪い」が感想です。腐野花(くさの? ふの? みょうじの読み方がいまだにわかりません。)、そしてその養父腐野淳悟氏が主人公です。ふたりの年齢差は15歳ぐらいです。物語の最初では花さんが24歳、それから過去へさかのぼり、21歳、16歳、12歳、9歳でお話が終わります。花さんの男の名前は腐野淳悟氏で、彼女が結婚した相手は尾崎美郎さんです。ところで、作者は女性なのにどうして男性の名前なのだろう。不可解です。
 時間が後退していくストーリ展開はわたしにとっては新鮮です。同時期に読んでいた「乳と卵」川上未映子著の主人公緑ちゃん10歳とこの物語の主人公花ちゃん9歳が重なりました。緑と花ですので縁がありそうです。
 動作に関する細かい性描写は、そこまでしなくてもと身を引く思いでした。花ちゃんは震災孤児なのですが、わたしは読み始めて長いこと「阪神・淡路大震災(平成7年1月17日)」と勘違いをしていました。「北海道奥尻島(平成5年7月12日)」でした。だから文中で「キタにいた。」という記述は「ミナミ」じゃないの? と間抜けなつっこみをしていました。
 15ページまで読んで雰囲気が暗い。阪神・淡路大震災を扱った出だしとして「幻夜」東野圭吾著パターンになるのだろうか。花さんと結婚する美郎さんはあまりにも愚か者だ。ふつうは花さんの挙動がおかしいと気づくだろうに。このふたりの場合の結婚設定は現実にはありえない。花さんも花さんで淳悟氏と生活が継続できるわけがない。通常中学か高校を卒業して就職と同時に花さんは家を出るでしょう。
 21ページまできて、これはこれでいいと思えるようになりました。養父腐野淳悟24歳、養女花9歳で進む。しょせん遠縁とはいえ他人同士の男女関係です。養親子関係がなければ普通の男女の恋愛です。1ページ目から読み手の推察する筋書き通りの展開です。
 養父と養女は何の罪を犯したというのだろう。語り手を花さん、尾崎美郎君と変えながら自問自答が延々と続くことに嫌気がさしてきました。文脈で、尾崎君の上司安田玲子さんは男性になってしまっています。逆に尾崎美郎君は女性になってしまっています。76ページ、何のために尾崎美郎君とその恋人菜穂子さんとの記述がここにあるのかとても気になりました。考える、考える。そして、作者はずいぶんむずかしい記述手法に挑んでいると感心しました。ふたりの過去を知る田岡刑事。淳悟氏は、犯罪者でキタで収監されていたのだろうか。彼はどうも警官だったようだ。162ページ、性描写を読み疲れました。気持ち悪い。カメラは凶器に変わりうる力をもっている。花さんと淳悟氏、ふたりの関係は野坂昭如(あきゆき)著「火垂るの墓(ほたる)」に出てくる兄と妹のようです。215ページ、養父淳悟と養女花は、実の兄と妹だろう、そうだ、そうに違いない! この作品の秘密をつかんだ。しかし、その数ページあとに「親子」とある。そんなことはない。「兄妹」です。作者に説得されたくない。作者の言いなりになりたくない。自分の解釈で読みたい。しかしその後の経過で説得されてしまいました。
 第5章、淳悟氏の恋人だった小町さんの語り。この部分が、この本ではいちばん普通の記述で読みやすい。第6章、なぜ花さんだけが津波から助かったのか。1985年8月12日、御巣鷹山の尾根に墜落した航空機事故を思い出しました。確かあのとき小学生女児が生き残った。それから2004年12月26日のスマトラ沖地震・津波のときにも男の子がひとり生き残った。家族が死んでこどもがひとり残るという設定は「深紅(しんく)」野沢尚著が思い浮かぶ。最近のニュースでは、父親が母親を刃物で殺傷し、小学生のこどもが生き残ったと告げていました。父親は収監されるでしょう。そこでも、こどもがひとり置き去りにされる。いくつもの物語や出来事を頭の中で組み合わせて、この世には無いわたしだけの本を空想することがわたしの楽しみです。この本を発展させて、父と息子という設定ではどうだろうか。実の親子が養父と養子になる。明るくも暗くもいかようにも展開できる物語になります。この本の暗さは、作者の疑似体験からきていると推測します。花さんについていえば、津波で家族が死ななかったとしても、淳悟氏と暮らしたとしてもその人生は哀しい。
 352ページ、「写真」の伏線が張ってありました。写真が物語を引っ張っていました。「恋愛写真」市川拓司著の悲恋を思い出しました。淳悟氏は何を怖れているのか。おかあさんに甘える。車椅子の女性は淳悟氏の実母ではなかったとわたしは解釈しました。

*本を読み終えて6日後、わたしはひらめきました。車椅子の女性は淳悟氏の母親だったのです。そして、花さんは、母親と淳悟氏との間のこどもだったのです。だから、淳悟氏にとって花さんはおかあさんの化身なのです。さすれば、わたしが感じた「淳悟と花は兄妹」という関係が成り立つのです。なんとすさまじい近親相姦でしょう。おぞましくて恐ろしい本を読んでしまいました。
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