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科学の社会化シンドローム  岩波科学ライブラリー

科学の社会化シンドローム(岩波書店) 石黒 武彦著
税込価格: ¥1,260 (本体 : ¥1,200)
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出版 : 岩波書店
サイズ : 19cm / 122p
ISBN : 978-4-00-007471-1
発行年月 : 2007.5
利用対象 : 一般

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内容説明

論文ねつ造、データ改ざんの疑惑、研究費の不正運用が、世間を騒がし科学システムを脅かす。社会からの要請を前に、科学は病的症状を現すかに見える。科学は今後、どのようにあるべきか。問題の根源から考察する。

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コメント・書評

解決策は「木にぶら下がって」はいない。
銀の皿
Dec 31, 2007 12:22:03 PM
評価 ( マーク )
★★★★★

  「社会化シンドローム」は著者の造語である。世界的規模の論文捏造やデータの改ざん事件、研究費の不正運用などのニュースに見られる「社会との関連が深まる中で生じてきた、科学の病的とも思われる症状」を指している。そういった症状が出現してきた科学の現状を、科学者サイドから分析、考察したのが本書である。

 権威のある科学雑誌にまでも捏造論文が掲載されてしまうのはなぜか。科学論文が認められて出版されるまでの問題点を扱った章がある。科学知識を「知的財産」として「特許」などの形で囲い込むことの問題を扱った章がある。博士の学位をもつ者と就職先の需要供給のアンバランスが書かれた章がある。理科系の高等教育を受けた者、研究職に進もうかと考えたことのある人間には、現状を明確に書いてあることがよくわかる文章である。問題点を洗い出すにはよくまとまっていて読みやすい。
 法人化に伴って大学にも競争原理が導入され、「大学に期待されていた批判精神は、余裕がなくなるにつれ、宿りにくい時代に差し掛かっている。p101」というのは良識的大学人の悲鳴にも聞こえる。しかし「宿りにくい時代に差し掛かっている」ぐらいではまだ悠長だ!といいたくなるのが現状ではないだろうか。著者の指摘する問題点は確かに正しい。しかし、どう解決したらよいのか、についての歯切れは悪い。著者自身、まだよい策が見えていない、と言うことなのかもしれない。あるいは「大学に所属する研究者の気質も変わってゆきそうだp100」という中で、著者自身も状況に適応せざるを得なくなっている、ということだろうか。

 新しい知識の評価について、知識そのものの「無価値性」ゆえ科学者がしばしば価値判断を保留するために「専門家としての適切な答えをだしてくれるであろうという社会の期待に添えないことがしばしば生じる。p81」という指摘がある。そういったことも含めて科学研究の現状をよりよく知ってもらう努力は必要だろう。「サイエンス・カフェ」(大学研究者がお茶を飲みながら一般の人に話をするお茶会)などの試みが例にあげられている。しないよりは確かによいだろう。しかし、一般社会の人が「専門家としての適切な答えをだしてくれるであろうという期待」を持ち、「科学の成果は与えられるもの」という姿勢が変わらないかぎり、根本的な解決にはならないと思えてならない。「理科ばなれを防ぐ」ための学校教育でも、「楽しめる」「わかる」授業の工夫などはいろいろ聞こえてくるが、「与える」ということに変わりはない。よく出来たものを与えれば与えるだけ、「自分で知りたくて考える、やってみる」姿勢を壊しかねない怖れも感じるのだがどうだろうか。
 
 医療や環境問題に顕著に現れているように、良くも悪くも科学・技術の知識は確かに直接的に身近な社会を変える力である。研究者側もそれを理解し、知識を広める方式を考えていくことも必要だろう。しかし、成果を享受する「大衆」側も少し考えを改めることも必要はないだろうか。オルテガは「大衆の反逆」 という有名な著作で「大衆は自動車や冷蔵庫が自然に木になっているかのように考えている」と書いた。大衆はいまや「解決策」までも自然に木にぶら下がってくると思いかけているのかもしれない。そうならない方法こそが、考えなくてはならない問題だと思う。

 病気は薬や外科手術で治すこともできるが、生活態度や免疫力など、病人自身の治癒力がなければ治りはおそい。著者と同様「病気」になぞらえて問題解決を考えれば、そういうことになるのではないだろうか。未知の領域を開拓し続ける、未だ価値付けることができない科学の先端の「中立性」を維持しつつ、生活に密着する裾野の社会とのつながりを広く柔軟に、しっかりと作ること。先端にある科学者側からだけでなく、裾野の側からも努力することが、結果的に健全な科学の発展につながると考えたい。
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