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うぬぼれる脳
NHKブックス
「鏡のなかの顔」と自己意識
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コメント・書評 |
脳のなかの「自分」が薄れるとどうなるかを考えさせられる本。
hamushi
Feb 21, 2007 11:06:05 AM
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評価 ( ★マーク )
★★★★
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副題に「鏡の中の顔と自己認識」とあるのを見て、即購入しました。重度自閉症の息子を持ったことによって、人間の自己認識の問題について頻繁に考えさせられるような状況に遭遇することが増えたからです。 自閉症の子の多くは、自他の区別がどこか弱いと言われています。タイトルに「うぬぼれる脳」とあるように、セルフ・アウエアネスを確立した脳は、自分の成果にプライドを感じ、「オレは偉大だ」と誇示したがります。幼児がささやかな成功に興奮して「見て見て!」と親を呼びつけるのも、セルフ・アウエアネスあってのことですが、自閉症の子供の多くはそのような行動を見せません。本書のなかには、自己愛を測るテストのポイントの高い人は一人称代名詞を使う頻度がとても高いという話がありますが、私の見る限りでは、自閉症児のなかにはナルシストは存在しません。 ある程度言葉を使えるようになっても、他人の手をあたかも自分の道具のように使って目的を達成しようとする「クレーン」と言われる方法にこだわり、「○○してちょうだい」と言葉で頼むということを覚えません。また人見知りをせず、相手が自分をどう思っているかということに思い及ぶ様子もありません。知能の高い子の場合でも、他人の気持ちを推量したりすることが難しいといいます。 本書では人の乳幼児を含め、さまざまな動物が鏡に映った自己像を見てどう反応するかという実験について、多くのページを割いて報告しています。それを読みながら、幼児期の息子の療育のためにと、大きな鏡を買って部屋に設置したときのことを思い出していました。セルフ・アウエアネス(自己覚知)は、自分の思考を他者に帰属させることで、他者の思考を推し量る「心の理論」と深く関係していると、著者はいいます。そのことは自閉症の息子を育てて来た体験上、実感を持って理解することができます。息子は、部屋に現れた大きな鏡に魅入られるようにして長期間過ごし、次第に鏡の中の自己像を観察しながら体を動かしたり、さまざまなかぶり物をして楽しんだりすることを覚えていきました。それと同時に、極めて貧困な状態だった息子の社会的能力に、僅かながら変化が生じてきました。他人と視線が合うようになり、他人の様子をうかがって、その意味することを考える様子も出てきました。他人の手を道具のように使う「クレーン」行動は少しづつ減少し、他人の体をぽんと叩いて誘ったり、拙い言葉でものを頼んだりする行動と入れ替わっていきました。自分と他人が、違う意識を持った存在であるということを体得した結果、そのように成長することができたのでしょう。 本書では鏡を使った実験のほかにも、脳の問題に関連したさまざまなエピソードや実験が紹介されています。チョムスキーの説との関連性など、言語および言語学に関する言及も多く、言葉の問題に興味を持つ者にとっても、楽しめる本だと思います。 また後半で語られている、「身体失認」についての研究の話は、オリヴァー・サックス博士の「左足をとりもどすまで」でも取り上げられていた現象を、より脳医学の成果に即した形で紹介してあります。自閉症者にも「身体失認」の症状をを持つ人がいるらしく(ドナ・ウィリアムスの「自閉症だったわたしへ」の中には、そのことに詳細に触れた部分があります)、うちの息子も、ときおり自分の腕や足を「忘れている」ように見えることがあるため、この問題についても、興味深く読みました。 本書は先天的な知的障害について直接的に取り扱った本ではありませんが、その方面に興味を持つ方にとっては、有意義な読書となる一冊であると思います。 |
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