コメント・書評 |
絶対に勝てない怪物との戦い
suguzr
Sep 1, 2005 5:11:22 AM
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評価 ( ★マーク )
★★★
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「普通の」高校生の<陽介>と<絵理>は、夜な夜な現れる不死身の<チェーンソー男>との戦いに、貴重な青春の時間を浪費し続ける。<絵理>は、<チェーンソー男>が現れるのと同時に人間離れした身体能力を手に入れ、投げナイフで<チェーンソー男>と戦うのだが、<陽介>のほうは何の能力も得ることもなく、それを見ていることしかできない。 ”途中でいろいろ諦めておくのが、一番まっとうな、普通のやり方なのだ。” 「普通」に生活していれば、<チェーンソー男>が現れることはない。では「普通」とは何だ? ……などと考え始めるとヤツが闇の向こうから忍び寄ってくる。 考えてはいけない。ヤツには絶対に勝てない。ヤツに負けない唯一の方法は戦わないことだ。諦めろ。 しかしまた、<絵理>が人間離れした身体能力を手に入れたように、ヤツに出会うことで、何かが変わることも確かだ。<陽介>は何の能力も得ることは無かったが<絵理>のそばにいることができた。<陽介>も望めば能力が手に入ったのかもしれない。ただし、能力を得たなら戦わなくてはならない。”そいつと戦える力が急にあたしに付いちゃったんだから、あたしが戦うのが普通でしょう?” そう、道を選んだなら最後まで行かなくてはならない。そしてその道に最後などない。私たちはそれを出発する前から既に知っている。夥しい数の文字、リアルでない体験、消費するための物語から私たちは学びとってしまった。それゆえに私たちは道を行くことはおろか、道を選ぶことすらできない。そして雨戸を閉め切った狭い部屋に引きこもるのだ。始まらない旅は終わらず、道を行く脚の痛みもない。しかし狭い部屋で動かさない体は生活習慣病を引き起こす。どちらにしても苦しみから逃れることはできない。なんてひどい話だ。”この世は地獄だ。不条理に満ちあふれた永遠の地獄だ。” 私たちは未来を知っている。既知の未来は既に未来ではない。私たちに未来はない。 私たちは孵化することを夢見つつ、変わることを恐れる。不確定なはずの未来におぼろな夢を託しながらも、未来が既に決定している事を確信している。あしたやれば…… あした…… そして何も成すこともなく、あしたは来なくなる。決定した未来から逃れること、それは終わること。私たちは全ての終焉、どこか懐かしい練炭の光に拠って、爆走する鉄塊の咆哮に拠って、スパークするエレキギターの火花に拠って、美しく輝く博物館の標本のように、完成する——すべての呪縛から解き放たれこれ以上何もすることのない、完璧に自由な状態になる——ことを望んでいる。もしも、何処かの誰かが、勝てない怪物に勝てたとき、彼はもうこの世界にはいない。そしてそのとき彼は、この世界の何よりも、絶望的に美しい。 ”ダッシュだ。ジャンプだ。危ない、落とし穴! 逃げろ! ヤツが来る。誰もヤツには勝てやしない。だから逃げるんだ。逃げよう。逃げ出せ。一直線に。” そして彼らは「普通」になった。<チェーンソー男>はもはや現れることもなくなった。 きっとそれが一番マトモで、ジャスティスで、フツーな事なんだろう。 ……。 読書サイト「積書生活」 |
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