 |
子どもたちは夜と遊ぶ
上
講談社ノベルス
|
コメント・書評 |
心の中の宝物
紫月
Jun 5, 2005 1:17:58 PM
|
評価 ( ★マーク )
★★★★★
|
主だった登場人物はとある大学の学生と学院生。二人の殺人犯の間で繰り広げられる残虐な殺人ゲーム。前作、『冷たい校舎の時は止まる』でメィスト賞を受賞した著者は、なんと1980年生という若さです。 キャンパスもののミステリは特に目新しい設定でもなく、読み始めた時点では最後まで読み続けるのは苦痛かも……などと思っていたのですが、それは一つ一つのシーンが丁寧に描かれているために話の進展が遅く、なかなか物語りに入り込めなかったせい。 ある場所を境に、ページを繰る手が止まらなくなります。 作者の年代を投影しているせいか、登場人物たちがとても魅力的でした。 自分を、他人を大切にして精一杯生きようとして、悩み、傷つく彼ら。 なかでもひときわ魅力的だったのは、冷徹な殺人犯その人です。 ——たすけて。 心で血を流しながら、ゲームを降りられない犯人の苦悩と悲哀。 そして悲しい恋心。 少しのすれ違いで大きな穴に落ち込んでいくその、心。 透明感の溢れる瑞々しい筆致が爽やかです。 若さが感じられる文節がいたるところで弾むよう。 ですが、本書はやはりミステリ。 胸の悪くなるような殺人が繰り返された後、あちこちに張り巡らされた伏線がラストで綺麗に収束されます。これはミステリのお約束ですが、細部まで丁寧に書き込まれ、整合性を保持したストーリー展開は気持ちの良いもの。 とても好感が持てます。 ですが本書で最も心惹かれたのは、それぞれの登場人物が投げかけてくれたメッセージでした。 ——人間には誰でも、大好きで泣かせたくない存在が必要なんだって。 君が生きているというそれだけで、人生を投げずに、生きることに手を抜かずに住む人間が、この世の中のどこかにいるんだよ。不幸にならないで。—— 私の、大切な存在は誰だろう。 間髪入れずに、一人の人を思い浮かべられることは、とても幸せなことなのかもしれません。それでもそうした気持ちに気づき、きちんと向き合うことが出来たのは本書のおかげです。 まるで心の中に宝物を見つけたような気持ちになりました。 読書を通して、私には時おり「心の転機」とも言うべき瞬間が訪れます。 本書もそんな瞬間をくれた一冊でした。 |
|
|
| 現在の投票
はい:3人(100%)
いいえ:0人(0%) |
|
|
|
|



|