 |
戦争における「人殺し」の心理学
ちくま学芸文庫
|
コメント・書評 |
「殺人と抵抗感の存在−セックスを学ぶ童貞の世界」読みたくなる章題でしょ
PALE FIRE
Nov 10, 2004 11:29:00 PM
|
評価 ( ★マーク )
★★★★★
|
人類の財産ともいうべき書物。 読書が強烈な「経験」に変貌する至福の一冊。 自分の経験を通してしか物を考えることができなければ、窮屈で偏狭な結果にしかたどりつかない。だから人は本を読むのだろう。書物を通して、多様な他人の生涯を、たどりつかない宇宙の果てを、極小の昆虫の巣穴をわれわれは経験する。 この本の著者は「戦場での殺人」という現在の日本では大部分の人が無縁におわる体験を、収集、分類、考察する。そのさまは丹念、フェアで、生理学・心理学を背景に論理性も揺るぎがなく、サイエンス、学問の形を確固としている。のみならず、すぐれた戦記だけがもっている鋭く心を穿つヴィヴィドなケースタディと、戦争詩人たちの美しい一節を添えたエピグラフが読み物として奥行きを与えている。
この本を読んだ後では、もはや以前と同じように「殺人」を見ることはできない。 戦争のイメージの源泉である古代から未来にわたる戦争映画を、悪人を斬殺して町民を救う時代劇を、占星術の予言を成就するために女性を切り刻むミステリーを、もはや薄っぺらな戯言としてしか見ることはできない。 一方、今までのように「市街戦で双方に少人数の死亡を確認」という小さな新聞の記事に痛ましさを感じることなく読みすごすことはできないし、三面記事とされる傷害や殺人という隣人の事件のもつ圧倒的なリアリティに心を震わせることになるだろう。 そして、ついには「暴力」という歴史の駆動力にまつわるすべての言説を懐疑するという知の誘いに抗うことはできなくなる。 発掘して文庫化されたちくま学芸文庫の編集者の慧眼に賛嘆と感謝の言葉をささげたい。この一冊でもって同文庫のファンになった。翻訳もすばらしい。
|
|
|
| 現在の投票
はい:8人(100%)
いいえ:0人(0%) |
|
|
|
|



|