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日記
「ヘブン・アンド・アース」中国滞在録
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コメント・書評 |
「資金面、人材面を含む各国間のコラボレーション」「極寒の大陸で800日以上のライブロケ」の実態は?
星落秋風五丈原
Jul 13, 2004 1:18:00 AM
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評価 ( ★マーク )
★★★★★
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映画雑誌には、よくまあネタが尽きないものだと感心するほど、製作中の映画情報が掲載されている。中には競作による裁判沙汰、主演俳優の交替、監督のすげ替え等々、いくつかの変更事項が目につく。スタートした時と同じキャストやスタッフで製作を終えるのは、利害が絡めば絡むほど難しく、最悪の場合は映画自体の中止に至る。テリー・ギリアムの映画『ドン・キホーテを殺した男』製作頓挫の経緯を題材にした『ロスト・イン・ラ・マンチャ』がその詳細を克明に描いており、『ロスト…』は2003年日本でも公開された。そんな中で、『ヘブン・アンド・アース』は2004年に全国ロードショー公開されたのだから、無事に済んだ例だ。しかし、この作品にただ一人日本人俳優として参加した中井貴一氏の日記である本書を読むと、その認識は変わる。一歩間違えれば、この映画も『ロスト・イン・ラ・マンチャ』になりかねなかった。
いきなり仕事で行くのでなく、最初は旅行で何度か訪れて、中国に慣れてから話を受けていれば少しは印象も違ったかもしれない。しかし、中国映画の現場(それも特殊な)と中国の洗礼を同時に受ける事になった中井氏は、その書きぶりからも、相当なカルチャーショックを受けた事が察せられる。奥地へ行けば行くほど酷くなるトイレ事情、昼と夜の信じられない位の温度差。そして何より氏を苛立たせたのは、予定が見えずに「待ち」「変更」だけが多くなる現場。映画とは全く別世界に身を置く身から見ても、「もったいない時間と金の使い方をしているな」と思えるのだから、その場にいた氏の不満や不安は、たまったものではない。ともすれば挫けそうになる心を、「ポジティブに」と自らを鼓舞して完遂した氏の精神力と根性には脱帽する。
但し、日記には書かれていない補足を入れさせて頂くと、この映画の監督ホー・ピン(何平)は長い間映画を撮れなかった状態にあった。それが今回ソニーの資本でやっと映画が撮れ、周囲は大いに同情し、遠慮していたのではないか。また、ヂアン・ウェン(姜文)も、『鬼が来た!』をカンヌに出品した事で現在映画が撮れない状態で、似た境遇にあった二人はシンパシーを感じていたと思われる。ヂアン・ウェンの方が現在評価が高いのも事実だが、監督は同病相憐れむ気持ちもあってウェンの撮り直し要請に応じたのではないか。しかしそういう裏事情は表には出てこない。この日記に書かれている現実の苦労が、映画からは決して読み取れないのと同じだ。でも、それは当然の事だ。観客はいちいちシーン毎に撮影の苦労を考慮しながら見る事はしないし、苦労話を聞いて評価に下駄を履かせる事もない。画面上に映るものだけをシビアに評価する。だから氏が死ぬ思いで崖っぷちまで馬を進めていた画面が、「崖の上から敵であるはずの李を見つめる来栖の視線がエモーショナルな感情を生み出す」と好意的に捉えられる事もあれば、取りこぼした多くの画面の影響が、2度唐突に出てくるCGや各々の感情描写がいま一つわかりにくいというマイナス評価も生み出す。でも役者は、完成後の評価にはもう手出しできない。後は、その映画に携わった事を貴重な経験として成長していくだけだ。
失敗からでも必ず何か学ぶ事がある。おそらくこの日記を愚痴と悪口の羅列で埋めなかった彼は、全てを切り捨ててしまうなどという勿体無い事はしない。映画で得た経験や出逢いが、きっと彼を、人間として、役者として一回り大きくするはずだ。まずは次に演じる源頼朝が、さぞや凄みを増した悪役になっているだろう事を期待して、来年の大河を待ちたい。
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