コメント・書評 |
今でも色あせず伝わる小塚老人のことば
ゲレゲレ
Mar 16, 2004 11:08:00 AM
|
評価 ( ★マーク )
★★★★★
|
私は株をやっています。原作は株をやってない人もおもしろいと思うけど、やっているとすごく感情移入できる著作です。
舞台はドン底の不況下にある東京の下町、荒川区町屋。マーケットに精通した小塚老人が、パチンコしか生きる術のない大学出たての青年を、社員として雇うところから物語は始まる。 老人が一見取り柄のないその青年になぜ声をかけ、社員にしたかを語る一説が印象的だ。 「(前略)ロシアの小説家がこんなことを言っている。『ほんとうに貧しい人というのは、みんなと一緒に貧しい人のことだ。ひとりきり孤独に貧しい者は、まだ金をつくっていない金持ちにすぎない』。大勢の野次馬のなかにぽつりと浮かんで、きみはまさにそんな風に見えた」。 この時から青年の生活は180度変わる。青年を老人にどんな風に仕込んでいくのかがひとつの興味ポイントだ。
物語では、長銀株を売るシーンが出てくる。株の世界では「安く買って高く売る」を目標とする「現物取引」がオーソドックス。だが、その他に「信用取引」というものがある。信用取引では「売り」から始めて、安い値段で買い戻すことで利益を得られる。不況下で株価が下落していく状況でも、この「信用売り(いわゆる、空売り)」が有効だ。 老人はこの空売りにより下落する長銀株で利益を得る。この物語が書かれた時代から数年がたち、現在では長銀は新生銀行に生まれ変わった。ただ、老人が語ったことばは今でも古びていない。
「日本人は金をうしろ暗いもの、汚いものと考える傾向がある。(中略)欧米諸国では最優秀の人材を投入して、熱心に殖産に励んでいる。(中略)(日本人が)巨額の資金をもって怯えているのでは、世界中の金融機関からねらい打ちにされるのがおちだろう」
小塚老人のことばどおり、現実でも新生銀行を買ったのはアメリカの投資会社リップルウッドだった。大量の日本の税金投入→銀行再生→米投資会社が利益を得たわけだ。最近の株式市場では株式公開買付(TOB)が話題で、アメリカの投資会社はますます日本の資産に注目している。
この物語が原作となったテレビドラマ『ビッグマネー』を見たのが同書を読んだきっかけ。テレビの方は、全体的には値動きとかハラハラさせられたりして、エンターテイメントとしておもしろい。ただ、『ビッグマネー』では、物語全体を通して「本当はお金よりも心が大切だよ」みたいなメッセージを感じる点が、原作で語られているテーマとは、表面的には少し、実際には大きくずれていた。
「本当に大切なのは人の心、だからお金なんか気にしちゃしけない」。なんだか短絡的すぎ。原作が語るのは、 「本当に大切なのは人の心。それを守る手段として、お金と真剣につきあうべき」だということだ。テレビ化された時点で、著者のメッセージが歪曲された点がちょっと残念だった。
同書に戻り、もうひとつ印象に残った老人のことばがある。株だけでなく、すべての出来事には波があるという話だ。もちろん人生にも波がある。今、自分の人生の波はどんな風に動いているのか、そして、今、自分はどんな波の中にいるのか? 老人のことばのおかげで、私自身もおもしろい視点で自分を見直してみることができた。 |
|
|
| 現在の投票
はい:5人(100%)
いいえ:0人(0%) |
|
|
|