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能力構築競争  中公新書
日本の自動車産業はなぜ強いのか

能力構築競争(中央公論新社) 藤本 隆宏著
税込価格: ¥1,008 (本体 : ¥960)
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出版 : 中央公論新社
サイズ : 18cm / 406p
ISBN : 4-12-101700-5
発行年月 : 2003.6
利用対象 : 一般

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コメント・書評

私が生きていくための良質の経営学入門
田中武人
Aug 23, 2003 7:24:00 PM
評価 ( マーク )
★★★★

題名からは自動車産業のドキュメント本(Project X本といっても良いかもしれない)に思われるかもしれない。無論、そうとしても読むことができるが、むしろ、日本発の経営理論を駆使した実践的なテキスト、良質な経営学入門としてお勧めしたい。

本書では、日本の産業で特に世界的に優勢である(2003年の現在の話である)自動車産業を取り上げ、自動車産業の歴史を追い、日本発の経営理論である知識創造プロセスなどの概念をふんだんに散りばめながら、日本のこれらの産業がなぜ競争優位を保っているのか、(著者はそれをある種の「粘り強さ」と「しぶとさ」に帰着させる)を経営学の理論で解き明かしていく。その語り口はドキュメントとしても面白く、新書としては、かなり厚い400頁強を濃い内容にも関わらず一息に読みきることができた。

日本的な題材を日本の専門家が記述しているにも関わらず、本書で用いられる概念や分析、そして文書の印象も、雑誌「ハーバードビジネスレビュー」などで見られる米国経営学の一般向け論文などに近いように思える。実践的な事例分析であるため、経営「学」の門外漢でも十分に理解可能で、非常に良質なテキストになると思える。

経営学は、経済学やもちろん科学とも異なり、反証可能性をあまり持たない、つまり事後の検証が十分にできない、という制約がある。特定の産業、企業に関して何か面白いことを語ろうとすると、サンプルの量からいって統計学的な処理/根拠付けができない場合が多い。従って、本書でも冒頭で指摘しているが、「勝ったものが強かったのだ」というような、後追いの説明、単なる現状追認になる可能性を秘めている。
そのような観点から本書を眺めると、定量不能な「深層の競争」概念への帰着のさせ方や、進化論/ダーウィン主義への安易なシンパシー、など危うい面もある。著者の語り口に乗せられて納得してしまうかもしれないが、これらはあくまでもきれいに説明するため仮説であり、科学的根拠や統計学的根拠は希薄で、ひょっとすると、将来(もしかすると血液型占いのように)非科学的だと斬って捨てられるかもしれないのだ。

とはいえ、経済学が示す「大数の法則」に従う冷酷な現実分析は、いざ「私が生きていくために」役に立たないことの方が多いのだ。なるほど全員が勝者になることはできず、統計的に一定の割合は、敗者になるのかもしれない。しかし、それでも「私」は負けないために何をすればよいのかを求めているのである。本書は多くの人にとって妥当な仮説としてそれに応えてくれる。何より、本書の仮説が正しいことは、多数の人にとって福音になるであろう、少なくとも、アメリカ流の新資本主義よりは。

自動車産業、製造業のみならず、IT業界(特にソフトウェア開発)、サービス業など、組織の「力」を必要とするすべての「私」に本書を推薦する。
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