コメント・書評 |
透明で、せつない物語
十夜
Jan 5, 2001 12:57:00 PM
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評価 ( ★マーク )
★★★★★
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生まれながらに性別がなく、たった一度の真実の恋によって「守る性」「生む性」の性差が決定するひとびとが住む世界。その世界そのものである〈紫の砂漠〉のはての塩の村に生まれた丸耳のシェプシは、砂漠に詳しい巫女や老人から砂漠の神話・伝説を聞いては、高い岩場に登って紫の砂漠を眺めるのが何よりも好きな風変わりな子どもだった。砂漠を侵すことを禁じた神の戒めを知りながら、なおも憧れてやまない紫色の地平線。砂漠には謎がある。そしてその謎に関わる宝物をシェプシは持っていたのだ。三神のうちの一柱、聞く神がずっと探し続けているとされる光る音響盤。この秘密を抱えて、どうしてじっとしていられるだろう。だがそんなシェプシもまもなく「運命の旅」を迎えようとしていた。 子どもたちは七歳になると生まれ育った町村を離れ、聞く神に仕える書記の町で神の定めるところに従い、運命の親のもとへ授けられる。それから七年間は仕事を覚える期間で、続く七年間を運命の親のために働き、独立する。 運命の親が砂漠を渡る商人だったら、とシェプシは思う。そうでなかったとしても、独立した後に一度でもいいから砂漠のなかを歩いてみたい。だがそれはシェプシには、あまりにも遠く先の出来事のように思われるのだった。 そしてシェプシの運命の旅がはじまる……。 ---------------- 1993年に新潮社よりハードカバーとして刊行された作品の文庫版です。 男女の性差なしに生まれてくる子どもと、その後の性分化システムは解説にあるようにル=グィン『闇の左手』を思い起こさせますが、本書が決定的に違うのはその性差を決定づける「真実の恋」と呼ばれる瞬間が一生にただ一度、ただ一人の相手にのみ起こるということでしょう。これは詩人が歌う真実の恋の歌の数々を知ると、別に不思議でもなんでもないあたりまえのことのように、すとんと腑に落ちます。語られる感情の普遍性に納得してしまえば、むしろ何の不都合もないのでは、とさえ一瞬思えてしまいます。 そして極め付きが「静かに笑いながら生まれてくる赤ん坊」(P261)です。この驚きは忘れられません。物語から見れば枝葉末節の部分ですが……これには理想郷という言葉を強く感じました)
全体を通してみると、とても透明で切なくて痛い物語です。印象的な場面は数多いですが、光る音響盤の「声」は不意打ちでした。いちばんお気に入りのシーンかもしれません。
初出(URL)http://www14.big.or.jp/~touya/books/200010.html#desert_violet |
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