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吉本隆明のDNA

吉本隆明のDNA(朝日新聞出版) 藤生 京子著
姜 尚中ほかインタビュイー
税込価格: ¥1,995 (本体 : ¥1,900)
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出版 : 朝日新聞出版
サイズ : 19cm / 299p
ISBN : 978-4-02-250584-2
発行年月 : 2009.7
利用対象 : 一般

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内容説明

吉本隆明の作品世界にふれた人たちは、人生のどんな局面で「吉本」に出会ったのか。その思想は、彼らの世界観や人間観、その後の人生にどのような影響を与えたのか。6人の論客がそれぞれの吉本体験と吉本論を展開する。

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コメント・書評

6名の思想の根本が書いてあるキチョーな吉本本? 6名それぞれのファンにもオススメ!
T.コージ
Mar 19, 2010 2:29:24 PM
評価 ( マーク )
★★★★★

 6名へのインタビューは各人の思想の根源まで到達するもので、吉本だけではなくそれぞれのファンや読者にとっても貴重な内容になっている。現在の若い世代に続く内容と説得力がある。取材の最後まで不機嫌だったという上野の言葉も印象的だ。

 「ほかの人たちはみんな吉本体験を、そんなぺらぺらしゃべるの?」

 上野をはじめ全員が吉本をネタ?に自らの思想の原点までもしゃべらされてしまっている。著者の執拗?な取材の成果でもあるだろうが、いままで黙ってきたが本当はしゃべりたかったんだ…とばかりに各人が語り出す姿は不思議?でもあり微笑ましくもある。各人の言葉には、照れながら昔の恋人のことを想い語りしているような雰囲気がある。はじめて吉本との関係?を明かす姜のようなものから、とことん思想的理論的に突き詰めようとした宮台、いまこそ吉本に可能性を見出している中沢…とバリエーションも豊かだ。

・姜尚中「…彼の全体をつかまえようとする原理論は、僕にとっては必要なプロセスだった。」(P66)

 偏狭な民族主義に囚われることがなかったのは吉本の思想のおかげだという姜の自覚は貴重。吉本やマルクスはより抽象的で普遍性のある(つまり全体を包含できる)観点の方に移動していく…という明解な答えをもっている。民族より<全体をつかまえようとする原理論>を選んだ姜の勇気と困難は、誰もが経験する困難であり根本的な問題だろう。

・上野千鶴子「『対』という概念を出したのは、彼だけ。しかもそれを思想の対象として概念化した人はいない。」(P83)男性の多くの思索者らの吉本論からは、対幻想論は「すっぽり抜けおちている。」(P84)

 ズバリの指摘だが、正確には<抜けおちている>のではなく<理解できないだけ>なのだろう(対幻想論を抽象化(学者の仕事だ)したアカデミシャンは橋爪大三郎くらいしかいない。在野でも皆無)。『構造と力』などは<対>に対して<エディプス△>を突きつけたがその後の展開がない…。

・宮台真司「吉本の立ち位置――<大衆の原像を繰り込め>――は一貫しているでしょう。大衆がもっているものを批判してはいけない、大衆がおかれている関係の絶対性がすべての出発点だ、と。むしろ六〇年代の延長線上で議論が一貫しているがゆえに、時代遅れになったんです。僕はそのアナクロニズムに仰天したというわけです」(P135)

 宮台はあの「コム・デ・ギャルソン論争」で吉本のアナクロニズムに仰天したという。吉本の大衆の原像論そのものへのありがちな誤読にとらわれているようだが、宮台の『権力の予期理論』や東欧のファシズム論の根本で発揮されていた観念(2名以上の人間関係による権力の萌芽)による自縛を前提とした認識が対幻想論の基本と近似であることは興味深い。そもそも吉本は大衆の味方というより大衆の自在な変化に注目し、それが資本主義(時代)と個人の心性のマトリックスであることを指摘し続けているのだ。それが全領域にわたって展開されているのがハイ・イメージ論だろう。

・茂木健一郎
 茂木は吉本理論を理解している訳ではなく、吉本のポリシーやスタンスに衝撃を受け、感動している。思想として当然そういうものもアリなのだ。

 「アハ!体験」ともいわれるクオリアは対象認識がある意味で亢進している状態で、認識構造における<対象の時空間性>に対して<認識の時空間性>が影響を与え、対象そのものに意味や価値を感じてしまう事態をさしている。<指示表出>に対して<自己表出>が影響を与えてしまった場合ともいえる。根本には認識が結論(答え、応え)を出さず(出せず)に認識し続けようとする…亢進し続ける状態がある。それが<感情>だ。心的現象論の根本にあるのはこの<感情>で、特に<中性の感情>は<純粋疎外>の具現化したものとして心的現象の動因そのものである。(例によって、この吉本理論の根幹をなす<感情>についての言及はどこからも無いが…)

・中沢新一「フランス現代思想の記号論とか、若いときは僕もやったけれども、だめでしたね。あれでは本質は追究できない」(P220)中沢はいま、『吉本隆明の経済学』(仮題)という本を執筆中だ。(P230)

 吉本は現代を<欠如は知っているが、過剰を知らない>と指摘し、その認識を共有する中沢は知が商品であることを証明したニューアカというムーブメントの代表であると同時にその限界を突破しようと宗教の現場へ向かい探究し続けた。ただ宗教だろうがアートだろうが資本主義だろうがその現場でしか探究できないというようなスタンスは吉本がもっとも拒絶するものだ。出家しなければ悟れないなどというワク組はあらかじめ宗教者の立場を保身するためのものでしかないからだ。中沢はその一点での齟齬をほぐしながら、吉本が『アフリカ的段階』などで示した宗教と権力と個人の心性が渾然一体となった状況からの展開こそが自分が求めていたものであることを確認している。

・糸井重里「信者の中に僕、入れてもらえないと思いますよ。」(P246)

 この糸井の言葉を痛烈な皮肉ととるか、みんなの中でいつも浮いている子どもだけが持つちょっとイジケタ思いととるか、面白いところだろう。

 糸井重里にインタビューした最終章の最後の文が吉本の現在を象徴している。糸井の「ほぼ日」の読者をメインとしたらしい2008年の吉本講演会の来場者について…「中心は、団塊世代の男性たちではなかった」「二十代、三十代の若者たちだった」「筆者も、華やかなファッションに身を包んだ若い女性たちの姿が多かったことに驚いた…」…と書かれている。若い世代への吉本紹介はいまここからスタートしたばかりだともいえるかもしれない。糸井の<吉本「リナックス化」計画>の今後の展開が楽しみだ。

 吉本が初めて角川で文庫化されるときにそれを「危険だ」と批判した坂本龍一や、雑誌『SIGHT』で吉本を連載している渋谷陽一。あるいは吉本の著作を中学生レベルの国語の問題として「わからない」と評し、吉本は何も残っていないとその後も指摘している浅田彰のような人間に尋ねてみるのも面白かったのではないか? また宮崎哲弥のように吉本と対談しながらも吉本の発言が全く理解できずに対談が出版されなかったケースもある。だが宮崎は書評では吉本への偏りがない良質な紹介文を書いている。このギャップも面白い。『だいたいで、いいじゃない。』で吉本と息の合ったところとスルドサを見せた大塚英志の一言もほしかった。個人的には、考えるほど続編を期待したくなる本だ。
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