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悪人列伝  近世篇  新装版  文春文庫

悪人列伝(文藝春秋) 海音寺 潮五郎著
税込価格: ¥570 (本体 : ¥543)
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出版 : 文藝春秋
サイズ : 16cm / 285p
ISBN : 978-4-16-713550-8
発行年月 : 2007.1
利用対象 : 一般

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コメント・書評

松平忠直、これほどの悪人はいない
ドン・キホーテ
Sep 27, 2009 9:26:28 PM
評価 ( マーク )
★★★★

 海音寺潮五郎が日本史上で悪人を選び、史伝を試みるシリーズの近世編である。近世とはいっても、時代は室町時代から江戸時代までの幅がある。時代が現代に近付くにつれて悪人の所業も生々しくなってくる。ここで登場する悪人たちは以下のとおりである。
・日野富子
・松永久秀
・陶 晴賢
・宇喜多直家
・松平忠直
・徳川綱吉
 以上6名である。

 日野富子などはその専横ぶりが有名で、民や社会を顧みない結果、応仁の乱をおこした張本人だという点で、悪人であるという納得がいく。松永久秀、陶晴賢、宇喜多直家等は武将として著名であるが、どこが悪人なのかは読むまでは分からなかった。

 綱吉は生類憐みの令で決まりであろう。そして、松平忠直は呆れてしまうほどの残虐非道ぶりが悪人たる所以であろう。弁護するわけではないのだが、いずれも悪人とはいえ、本人だけが悪かったわけではなさそうである。周囲にいる人々は何をしていたかと批判したくはなるのだが、封建時代に領主に楯突くわけにもいかなかったことを考えると、時代の所産であるとも言えよう。

 日野富子の項で海音寺は室町時代を次のように表現している。「日本史上空前の無道徳の時代だった」と。この時代に匹敵する時代を探せば、それは現代であるとも言っている。たしかに、現代の道徳観念のなさは危険域に入りつつある。

 室町幕府の八代将軍であった足利義政であるが、将軍としての実権はとうに失われてしまい、肝腎の本人が将軍として国を治める意欲もなく、救いようのない時代に、その正夫人として日野富子がいたわけである。管領格の守護大名を中心に権力闘争を繰り返し、その間を縫うようにして将軍正夫人の権威をふるって思うがままに政を壟断していた。

 松平忠直は、家康の二男である秀康の息であった。秀康は二代将軍秀忠の兄である。一時結城姓を名乗らされていたが、越前藩の藩主となった。この秀康の家督を継いだのが忠直であった。狂暴性と大酒、荒淫のために罪人の処刑を見ることを楽しみとし、ついにその犠牲は1万人を越えたという。異常な行状を諫言する家臣がなかったのだ。そう言えば、海音寺の文庫本の中で『豪傑伝』というものがあったが、この中にも「松平忠直卿行状記」というものがあり、そこで読んだ記憶が甦ってきた。

 綱吉は犬公方として史上名が知られているが、将軍としての力量は凡庸であった。優れたものを後継者にすることが、体制維持の第一条件のはずであるが、このころの徳川幕府はすでにその条件をどこかに置き忘れてしまったようだ。後継者の選択を誤ると、この綱吉の時代のように世は乱れる。しかも、その乱れようが誰が見てもおかしいと感ずる。この時代の民、社会では民は為政者に虐げられる存在であることがよく分かる。

 悪人の悪人たる所業もさまざまである。近世編の悪人はそれぞれ違いがあるのだが、そもそも為政者になる資格のないものである。民主主義とは言っても完全無欠な制度ではない。誤った為政者を選択しないようにしないことがその要諦であることに気付かされる。
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