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ctの深い川の町
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コメント・書評 |
こんな運転手がいるタクシー会社が町にあったらなあ、って思います。ま、その人が学校の同級生、っていうのはいいかどうかは分かりませんけど。
みーちゃん
Jul 31, 2009 8:00:46 PM
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評価 ( ★マーク )
★★★★
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好きなデザインの本です。チョッと見にYA本ではないか、と思わせる頁数と愛らしい装画。カバー色は粘土色なんですが、どちらかと言えば輝きをなくしたゴールド、っていったほうが正しい気がします。色といえば、その地色と装画の線の色 黒、そして書名などの白という三色、いたってシンプル。でもそれが何ともシャレています。そんな装丁は、おなじみのコンビ、坂川栄治+田中久子(坂川事務所)、装画は中村純司です。
初出誌は「群像」2008年6月号で、ctの深い川の町、とタイトルも変わっていません。ちなみに、ctって何でしょう、タクシーを意味する、っていう人もいますが「タクシーの深い川の町」ってなると全く意味不明です。車種のセンチュリーからとったかな、とも思いもしますが、同じく意味不明なので全く別の解釈があるのでしょう。それはともかく、カバーでは「ct」が案外、見難いんです。『深い川の町』って読んで、私は手を伸ばしました。なんか、違うな、って思います。
それはともかく、予想以上に面白い小説でした。話は極めて淡々としたものです。そういう意味で展開の面白さというよりは人間関係を楽しむ話ではあります。まず主人公であるわたし、ナカダがいます。美作高等数学研究所のある故郷に戻り、〈ノーブル交通〉に勤務するタクシー運転手として新しい暮らしをはじめたばかりの40男です。最初の語り口から、ウジウジしたいやな奴風の印象を受けますが、それは冒頭だけのこと、決してそれだけの人間ではありません。
都会で挫折して故郷に戻った、というとやけに悲惨だったり、負け犬ふうなところが出てしまうし、そういうところが皆無とはいえませんが、そんな男を雇うことになるのが主人公の中学で同級だった男、伊佐山です。ずっとこの町に暮らし、自宅も中学の時と変わっていない同じ40男で、ナカダが働くことになる〈ノーブル交通〉での面接を行いました。ただし、その場面で「おー、お前」とかいった感激の再開があったかといえば、そうではありません。そこらへんは40男です。
ついでに同僚のことを書いてしまえば、五十円玉のような風変わりな男、勝俣がいます。発明マニア?で、“愛取外し機械”を主人公に使ってしまう、小説中もっとも奇妙な男です。伊佐山もちょっと変わっていますが、勝俣ほどではない、それは言えそうです。
で、彼らが働く〈ノーブル交通〉のモットーは
客人の有無にかかわらず、われわれはスピードを出さずに走る(気難しくて壊れやすいハンプティ・ダンプティを乗せているのだと思え――研修の担当者は、古着に袖を通すかのような、くたびれた口調でそう言った)。われわれは、客人が出現すればかならず止まる。そして客人が乗降する際には、運転手が手でドアを開閉する。われわれは、客人の行きたいところまで、われわれのスタイルで連れてゆく――それは同時に、たいてい客人の望むスタイルでもある。幸いなことに。
とあり、フリルの“召使い”が運転する自動車(センチュリー)が街中をゆったりと走っています。その独特の衣裳ゆえでしょう、彼らがレストランで食事をしていても、声をかけてきて客となる人もいます。まして、ナカダはこの町の出身者です、彼のことを知っている人間が客として乗ってくることもあります。
昔、彼とファーストキスをした、といって主人公を混乱させるのが、ナカダの同級生で、二児の母。離婚して故郷の町に帰ってきている青山由美です。私にとって、最も印象的だったのは彼女、由美だったといっても過言ではありません。ここに描かれるのは、小さな町の人々の情景ですが、それは決して農村のがんじがらめの人間関係ではなく、「急行で40分のビミョーな郊外」というどこか箍の外れた面白おかしいものです。また読みたい、映画になっても観てみたい、そういうお話です。
長編ですが、最後に章のタイトルを書いておきます。
1 六行の床板 3 2 セクシーなひよこのギャラリー 6 3 愛取外し機械 13 4 新しい地平線の育児 29 5 抜け目がなくおかしいゲーム 36 6 死んだ男の歩く検討 43 7 大物の頭部の叙情詩 61 8 優性な花の不完全な形 82 9 車線の劇場 96
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