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詩羽のいる街
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コメント・書評 |
嫌いじゃないんです。ネット荒らしがテーマっていうのも厭じゃあない。仕掛けもわるくはない。でもねえ、あまりに詩羽が立派過ぎて・・・でも泣けます、はい
みーちゃん
Jul 21, 2009 8:41:41 PM
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評価 ( ★マーク )
★★★★
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徒花スクモの画を見ていると、真鍋博のそれを思いうかべてしまうんですが、それって変でしょうか。きちっとした均一な線、白地に美しい色合い、真鍋の赤と青に対して、徒花の黄色と緑、人口と環境、っていう時代の反映による違いはあるものの、根っこは一つじゃないか、って思うんです。こういう画を見ると、文化的な香りではなく文明を感じるんです、私・・・西村弘美(角川書店装丁室)の仕事も、どっちかっていうとチープで安直。
とはいえ、この本。大変人気があります。山本の小説としては一番じゃないのか、なんて思います。個人的には『アイの物語』の格調をより高く評価しますが、このお話のストレートな訴えに心動かされないほど鈍ではありません。シンプルな正論というものには意味もなく反発を感じることもありますが、山本はそれを上手に避けています。
それはこの物語の中で詩羽の展開する理屈が、世の常識、大人たちが子供たちを押さえつけるときに使うジョーシキではなく、若者たちの多くが疑問に思い、或は心の底でこうあって欲しい、と思う真理に基いているからでしょう。彼女は第一話の中で、編集者好みのマンガが描けずに悩んでいる「僕」にこう言います。
「でも、編集者さんの言うことも説得力あるんです!」僕は弁護した。「現代のヒットマンガは、たいてい何か元ネタがある。言ってみればみんなモノマネだ。読者はオリジナリティなんか求めていない。ワンパターンを求めてる。ヒット作の要素を抜き出して模倣すれば、ヒット間違いなしなんだ――ってのが、その人の持論で」 「それは違う! いや、確かに今のマンガもアニメも小説も、たいてい何か過去に元ネタがあるよ。でもそれがオマージュだろ!? 先行作品に対する作者の愛でしょうが。『まねしたらヒットするから』なんて考え方は、先行作品への冒?だろ!」 (中略) 「あと、ラブシーンがくどいのが嫌でしたね。あそこで話の流れがブチ切れるじゃないですか。こんなのいいから、話先に進めろって」 「原作はあんなじゃないんだよ。主人公はもっとストイックなキャラでさ、お姫様とはぜんぜん恋になんか落ちないの」 「ええ!? あの展開って原作にないんですか? 何で?」 「ラブシーンがないと女性客が呼べないと思ってんだよ、日本の映画関係者は」只野さんは吐き捨てるように言った。「だからイケメン俳優出して、無理にでも恋愛入れるんだよ」
或は交通法規について第三話で詩羽は、俺に
「あたしも抽象的な議論なんて苦手です。でもそんなに難しく考えることないと思うんです――あたし、法律は手段にすぎないと思うんですよ」 「手段!?」 「はい。大切なのは、人間が安全かつ幸福に生きられること。それが目的です。その目的を達成するために考案された手段の一つが法律です。たとえば、みんなが勝手に道路を横断しては危険だから、『赤信号の時には止まらなくてはいけない』という交通法規ができたわけですよ。 でも、深夜で一台の車も通っていない時に、信号が青に変わるのをじっと待ってるのって、意味がないじゃないですか。そんな場合は信号を無視して渡っちゃってもいいんじゃないでしょうか? だって、信号の目的は事故の防止にあるんですから。つまり、『交通事故を起こさないこと』が目的であって、『交通法規を守ること』っていうのはその手段なんです――分かります?」
といいます。戦争についての話、ただ煽って騒ぐだけのブログ荒らしの人間についての思い、どれも真っ当だけれど、説教臭くならないのは、流行のパターンを踏まず、信念をもって目的に邁進する、そういう山本の思いが読者に伝わるからじゃないでしょうか。
それ故でしょう、このお話には甘ったるい男女の恋愛遊戯が登場しません。男と女の話が出てこない、とは言いません。でも、話の本筋を置いて、ベタベタした男の子と女の子の関係に多くの頁を割くということはありません。それでも、このお話は十二分に面白いのです。いや、だからこそ力強く読者に訴えかけてくるのです。
とはいえ、それは最後まで読みとおした人だけが分かるものです。私にしても、第一話を読見終えたときに思ったのは「結局、これは僕と詩羽の恋愛譚なのね」ということでした。それはあっさり、第二話で覆されるのですがそれでも予断は許されません。でも、第三話になると、? と思います。ここまでは、どちらかというと理詰めです。面白いけれど感動はない。でも、第四話で・・・
とりあえず、私は最後に泣いてしまった、とだけ書いておきましょう。
カバー折り返しの言葉は
「あの日まで、僕はこの世に奇跡が存在するな んて信じていなかった」。
マンガ家目指して持ち込みを繰り返すものの いっこうにモノにならない僕。 ある日突然現れた詩羽という女性に一日デート を申し込まれ、街中を引きずり回される。 お金も持たず家もない彼女が、行く先々でする ことは、街の人同士を結びつけることだけ。 しかし、そこで見たことは、僕の人生を変えるに 十分な出来事だったのだ。
――幸せを創造する奇跡の人、詩羽とは。
で、各話の本当に簡単な内容紹介。
第一話 それ自身は変化することなく(僕と詩羽):マンガ家を目指している僕は、自分を評価してくれた編集者を満足させる作品が出来なくて悩んでいる。そんな僕の前に現れた年齢不詳の女性・詩羽は「デートしよう」と言い出して・・・
第二話 ジーン・ケリーのように(あたしと詩羽):大好きなマンガの最終回を読み終えて、日が沈んだ笛糸山で自殺をしようとした私の前に、ダンボールのソリに乗って滑り降りてきた詩羽は・・・
第三話 恐ろしい「ありがとう」俺と詩羽):毎週末になれば、お楽しみの時間がオレを待っている。様々なハンドルネームであちこちのサイイトに投書しては炎上させ、図書館、コンビニ、駐輪場で絶対にバレない悪戯を繰り返す・・・
第四話 今、燃えている炎(私と詩羽):「詩羽? ああ、そりゃ都市伝説ですよ」「うん。もっとはっきり言うと、俺たちが創った伝説」という男と一緒にマンガの舞台・賀来野に向かう私が参加することになったゲームは・・・
個人的には後半が好きです。伏線が見えてはいるんですが、どうまとめる気かな、なんて思ったりもしますが、上手に無理なくまとめていてわざとらしさがありません。で、面白い催し物を企画している方には第四話に登場するゲームがオススメです。実際にあったら、私も熱くなるかな、って思います。
初出ですが 「野生時代」2008年3月号~2008年6月号 となっています。 |
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