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放送禁止歌  知恵の森文庫

放送禁止歌(光文社) 森 達也著
税込価格: ¥680 (本体 : ¥648)
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出版 : 光文社
サイズ : 16cm / 256p
ISBN : 4-334-78225-6
発行年月 : 2003.6
利用対象 : 一般

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コメント・書評

放送禁止という幽霊ソング
空蝉
Sep 16, 2008 10:35:07 AM
評価 ( マーク )
★★★★★

先日ある若手人気歌手の新曲が‘放送禁止’になり話題を呼んだ。その反響は大きく不満を口にする若者やFAN、逆に当然ととる年配者や保守派など意見は様々で私の母65歳も後者だ。彼女にとって「開放すべき放送禁止歌」は『ヨイトマケのうた』であり、国とか権力に蓋をされた悲劇のヒロイン的存在であって今回のような死を助長する歌(にもとれる)ではないらしい。
しかしヨイトマケは本当に放送禁止歌なのか?そもそも放送禁止って?

簡単に手に入る情報で麻痺した日本人にとって森達也の書はいつも警笛を鳴らしてくれる。本書も見事に根底から思い込みを崩してくれた。
まず放送禁止歌なるものは日本に存在しない。'59民放連が発足させた「要注意歌謡曲一覧」というのが正式名称でA(放送しない)~C(改定すれば放送可)の3ランクに分類されたリストが存在するのみで、放送の是非は各局に委ねられており・・・森自身その事実すら知らなかった。しかもその「一覧」に掲載されていないのに放送禁止歌だと勝手に思い込んでいた歌すら存在することに驚愕する、おそらく多くの読者も驚くだろう。

ただ、それでも実際に放送禁止になった歌は数多く存在する。この矛盾はなんだ?疑問だけが生まれる。そして森は必死に当事者たちへ体当たりの聞き込みを開始するのだが、取材をすればする程行き詰る。
「放送禁止歌」の不可抗力に愕然とし、部落開放同盟というタブーに踏込めば「歌と運動は別や」と一蹴され、改ざんされたと思っていた歌詞は「単に言葉を知らなかった」と腰を折られ、禁止歌を放送した局では無自覚だっただけ。確かに話は核心に迫っているはずなのに、いつまでたっても「放送禁止」の実態が見えてこない。追えば追うほどあやふやに・・・まるで幽霊のようだ。もちろんその当時も今も、放送禁止とされた歌は確かに存在する。日本人お決まりの「臭いものに蓋」に基づく過保護なお達しが存在することも確かだ。そうして禁止された歌を遺恨に思っている当事者(山平和彦)は「僕は誕生間もない子供を殺されたようなもの」と規制された歌を語る。そして今もまだそうした圧力は存在する。事実あのニュースが流れたのだから。ただ、私たちが思い描くような絶対性も、権力も規制も悲劇も、「要注意歌謡曲」には存在しない。あるのは私とあなたと彼ら、人の心の数だけ存在する「放送禁止歌」という奇妙に肥大化された幻想だけなのだ。

メディアの一方的な一報に私達はこうも簡単に踊らされ、勝手に悲劇的幻想を心に肥大化させて伝説をつくろうとしている。笑ってしまう。
「自覚性を持つこと。主語を自分に持つこと。」森氏は常に言い続けている。私たち日本人と日本のメディアに、日本という国そのものに欠落している「主語」「私」だ。

主語も主体も無い幻の権力がメディアを日本を包み込み、部落問題を始め多くの放送禁止を作り出してきたのは事実、またそうして放送禁止になり殺されてしまった子供=歌が存在したのもまた事実。そしてそうして封印されてきた歌の多くがネガティブで悲しみに満ちた苦悩の歌であることも。
しかし思い出して欲しい、本当に辛いとき悲しいとき、本当に心に響くのは同じ苦悩に満ちた歌なのだ。
麻痺したこの日本で、自分で考え、感じ、自分で選べ。森氏はいつも警告している。
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